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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2003.10314
Armstrong et al. (2020)
A remnant planetary core in the hot Neptunian desert
(高温の海王星砂漠の中の惑星の残骸コア)
希少な進化経路をたどっている系外惑星は,惑星内部を理解するための新しい道を与えてくれる.
ここでは,TOI-849b の発見を報告する.この天体は巨大惑星の残骸のコアと考えられ,半径は海王星より小さいが,質量は 40.8 地球質量と異常に大きく,密度は 5.5 g cm-3 と地球に類似した値である.
内部構造モデルからは,この惑星が持つ純粋な水素・ヘリウムからなるガスのエンベロープは,惑星全体の質量の 3.9% を超えないと推定される.
この惑星は晩期 G 型星を 18.4 時間で公転しており,平衡温度は 1800 K である.
この惑星の質量は,暴走ガス降着を起こしうる理論的なしきい値よりも重い.そのため,惑星は巨大ガス惑星として形成され,熱的自己破壊や巨大惑星衝突による極端な質量放出を経験したか,もしくはギャップ形成や後期形成などにより大きなガス降着を回避したかのどちらかで現在の姿になったものと予想される.
この惑星に予想される大気の光蒸発率では,木星のようなガス惑星のエンベロープを減らすのに十分な量の質量放出を起こすことはできないが,数十億年のタイムスケールで数地球質量分の水素・ヘリウムエンベロープを取り除くことは可能である.このことは,現在残っている大気は惑星内部からの水やその他の揮発性物質が濃集している可能性を示唆している.
測光観測では,その他の惑星が存在することを示すシグナルや,恒星活動のシグナルは検出されなかった.HARPS での追加観測では大きな視線速度シグナルが検出され,トランジットを起こしていたのが惑星であることが確認された.
公転周期 0.7655240 ± 0.0000027 日という 1 日未満の軌道を持っており,超短周期惑星に分類される.また海王星サイズで超短周期惑星である惑星としては 2 例目の発見である.
軌道離心率の上限値は 0.08 である.
TOI-849b の半径,質量,軌道周期は,海王星砂漠の中間に位置している.海王星砂漠とは,光蒸発と潮汐破壊により惑星が特に欠乏しているパラメータ領域を指す.
中心星 TOI-849 は G 型主系列星で,0.929 太陽質量,0.919 太陽半径,年齢は 67 億年である.惑星が中心星に非常に近いため,惑星の平衡温度は 1800 K と予想される (惑星のアルベドとして 0.3 を仮定).
惑星の内部構造モデル (Dorn et al. 2017) を改良して構造の推定を行った.[Fe/Si] の値を中心星と同じ値にし,惑星が層構造を持つことを仮定した.その上で,コアとマントルと水による寄与を最小化することによって,惑星が持つエンベロープの最大割合を推定した.
その結果,エンベロープ質量は最大で惑星質量の 3.9% であると推定された.
最近海王星砂漠内に発見された別の惑星を含め,類似の特徴を持つ天体との比較を行った.
NGTS-4b (West et al. 2019) は,軌道周期が 1.34 日,20.6 地球質量,3.18 地球半径である.この惑星は質量-半径パラメータ空間上では純粋な水組成のトラックに乗り,性質は TOI-849b と似ているが,質量は軽い.
LTT9779b (Jenkins et el. submitted) は,海王星サイズの超短周期惑星のこれまでで唯一の例 (今回発見された TOI-849b を除いて) であり,軌道周期 0.79 日,29.3 地球質量,4.59 地球半径である.
TOI-849b はこれら 2 つの惑星より重く高密度であり,海王星砂漠に位置する惑星の中でも極端な例である可能性がある.
原始惑星系円盤内で,原始惑星が暴走ガス降着を起こす臨界質量は,10-20 地球質量以上と予想される (Mizuno et al. 1978など).それではなぜこの惑星は重いガスエンベロープを持たないのだろうか?一見すると,コアが暴走降着を回避したか,もしくはかつてガス惑星であったが何らかの原因でエンベロープを失ったかである可能性がある.
暴走降着が進行して巨大惑星が形成された場合,現在の TOI-849b の状態になるためには元々の質量の大部分を失う必要がある.HD 149026b (Sato et al. 2005) は 121 地球質量の巨大惑星で,~50 地球質量の固体コアを持つと推定されており (Fortney et al. 2006,Ikoma et al. 2006),このコア質量は TOI-849b のものと近い.
HD 149026b が初期状態だとすると,質量の 60-70% を失う必要がある.TOI-849b は中心星に近いため光蒸発で質量を失う可能性はあるが,木星に類似した惑星が一生の間に失える質量はわずか数%であり,TOI-849b の状態に到達するために必要な質量放出量よりもずっと小さい.
なお,HD 149026b のような惑星の詳細な状況は明確には分かっておらず,また系の寿命の間に失える質量は仮定に大きく依存する点に注意が必要である.
この場合,典型的には破壊後にはコアを残さないと思われることや,そのようなコアは短寿命であると思われるが (Winn et al. 2017),この惑星はコアが残る希少なケースだった可能性は考えられる.この惑星の位置を考えると,惑星が木星質量でサイズが 1.5 木星半径より大きい場合,潮汐破壊が発生することが期待される.
しかしどちらのケースでも,40 地球質量の残骸を残すほど十分なコアを持つかどうかは不明瞭である.これは,数地球質量のコアを取り囲むガスエンベロープは,降着してくる微惑星をエンベロープ内で溶解させるからである.そのため大きなコアを生成するためには,エンベロープ内で溶解した固体成分がその後に rain out してコアに降り注ぐ必要がある.
種族合成モデルでは,この惑星に似た質量と軌道長半径を持つ惑星が少量形成されることが予測される (Mordasini 2018).そのモデルでは,そのような惑星は惑星移動時期の終わりに巨大惑星衝突によって形成され,惑星エンベロープを放出し,さらなるガスを降着する時間は残されていない.このようなシナリオでは,中心星に近い位置に高密度の惑星コアを残しうる.
原始惑星系円盤にギャップを開けるのに必要な惑星質量は円盤のスケールハイトの値に敏感であり,中心星に近いと円盤のスケールハイトは小さいため,中心星に近い惑星は深いギャップを形成しやすい.例として,0.1 AU にある 40 地球質量の惑星は円盤の面密度を 10 倍程度下げうる.
このシナリオの場合,惑星の軌道軸は恒星の自転軸と揃っているはずである.この軸の角度はロシター効果で測定できるため,形成シナリオの識別に役立つだろう.
惑星の平衡温度が高いため,氷を蒸発させて水やその他の揮発性物質を含む濃縮された二次大気が形成されることが予想される.この場合,始原的な惑星コアの組成が大気の組成を観測することによって研究できるという独特な観測対象となる可能性がある.
arXiv:2003.10314
Armstrong et al. (2020)
A remnant planetary core in the hot Neptunian desert
(高温の海王星砂漠の中の惑星の残骸コア)
概要
巨大惑星の内部はあまり分かっていない.太陽系内の惑星であっても,観測の困難さのため惑星コアの特性の推定には大きな不定性がある.希少な進化経路をたどっている系外惑星は,惑星内部を理解するための新しい道を与えてくれる.
ここでは,TOI-849b の発見を報告する.この天体は巨大惑星の残骸のコアと考えられ,半径は海王星より小さいが,質量は 40.8 地球質量と異常に大きく,密度は 5.5 g cm-3 と地球に類似した値である.
内部構造モデルからは,この惑星が持つ純粋な水素・ヘリウムからなるガスのエンベロープは,惑星全体の質量の 3.9% を超えないと推定される.
この惑星は晩期 G 型星を 18.4 時間で公転しており,平衡温度は 1800 K である.
この惑星の質量は,暴走ガス降着を起こしうる理論的なしきい値よりも重い.そのため,惑星は巨大ガス惑星として形成され,熱的自己破壊や巨大惑星衝突による極端な質量放出を経験したか,もしくはギャップ形成や後期形成などにより大きなガス降着を回避したかのどちらかで現在の姿になったものと予想される.
この惑星に予想される大気の光蒸発率では,木星のようなガス惑星のエンベロープを減らすのに十分な量の質量放出を起こすことはできないが,数十億年のタイムスケールで数地球質量分の水素・ヘリウムエンベロープを取り除くことは可能である.このことは,現在残っている大気は惑星内部からの水やその他の揮発性物質が濃集している可能性を示唆している.
観測
TESS ミッションによるトランジット観測から検出された.中心星の名称は TOI-849,もしくは TIC33595516 である.測光観測では,その他の惑星が存在することを示すシグナルや,恒星活動のシグナルは検出されなかった.HARPS での追加観測では大きな視線速度シグナルが検出され,トランジットを起こしていたのが惑星であることが確認された.
TOI-849 系の特性
TOI-849b は 40.8 (+2.4, -2.5) 地球質量で,土星のほぼ半分の質量である.半径は 3.45 地球半径で,平均密度 5.5 ± 0.8 g cm-3 と.これまでに発見された海王星サイズの惑星の中では最も高密度である.公転周期 0.7655240 ± 0.0000027 日という 1 日未満の軌道を持っており,超短周期惑星に分類される.また海王星サイズで超短周期惑星である惑星としては 2 例目の発見である.
軌道離心率の上限値は 0.08 である.
TOI-849b の半径,質量,軌道周期は,海王星砂漠の中間に位置している.海王星砂漠とは,光蒸発と潮汐破壊により惑星が特に欠乏しているパラメータ領域を指す.
中心星 TOI-849 は G 型主系列星で,0.929 太陽質量,0.919 太陽半径,年齢は 67 億年である.惑星が中心星に非常に近いため,惑星の平衡温度は 1800 K と予想される (惑星のアルベドとして 0.3 を仮定).
惑星の内部構造モデル (Dorn et al. 2017) を改良して構造の推定を行った.[Fe/Si] の値を中心星と同じ値にし,惑星が層構造を持つことを仮定した.その上で,コアとマントルと水による寄与を最小化することによって,惑星が持つエンベロープの最大割合を推定した.
その結果,エンベロープ質量は最大で惑星質量の 3.9% であると推定された.
最近海王星砂漠内に発見された別の惑星を含め,類似の特徴を持つ天体との比較を行った.
NGTS-4b (West et al. 2019) は,軌道周期が 1.34 日,20.6 地球質量,3.18 地球半径である.この惑星は質量-半径パラメータ空間上では純粋な水組成のトラックに乗り,性質は TOI-849b と似ているが,質量は軽い.
LTT9779b (Jenkins et el. submitted) は,海王星サイズの超短周期惑星のこれまでで唯一の例 (今回発見された TOI-849b を除いて) であり,軌道周期 0.79 日,29.3 地球質量,4.59 地球半径である.
TOI-849b はこれら 2 つの惑星より重く高密度であり,海王星砂漠に位置する惑星の中でも極端な例である可能性がある.
形成過程
この惑星のコア質量が大きくエンベロープ質量が小さいことは,コア降着を介した従来の惑星形成の見方とは食い違う.原始惑星系円盤内で,原始惑星が暴走ガス降着を起こす臨界質量は,10-20 地球質量以上と予想される (Mizuno et al. 1978など).それではなぜこの惑星は重いガスエンベロープを持たないのだろうか?一見すると,コアが暴走降着を回避したか,もしくはかつてガス惑星であったが何らかの原因でエンベロープを失ったかである可能性がある.
暴走降着が進行して巨大惑星が形成された場合,現在の TOI-849b の状態になるためには元々の質量の大部分を失う必要がある.HD 149026b (Sato et al. 2005) は 121 地球質量の巨大惑星で,~50 地球質量の固体コアを持つと推定されており (Fortney et al. 2006,Ikoma et al. 2006),このコア質量は TOI-849b のものと近い.
HD 149026b が初期状態だとすると,質量の 60-70% を失う必要がある.TOI-849b は中心星に近いため光蒸発で質量を失う可能性はあるが,木星に類似した惑星が一生の間に失える質量はわずか数%であり,TOI-849b の状態に到達するために必要な質量放出量よりもずっと小さい.
なお,HD 149026b のような惑星の詳細な状況は明確には分かっておらず,また系の寿命の間に失える質量は仮定に大きく依存する点に注意が必要である.
潮汐破壊
惑星の潮汐破壊は,初期質量から 1-2 桁質量を下げられる可能性がある.ホットジュピターの多くは潮汐破壊半径の近くに位置していることや,ホットジュピターは若い恒星の周りで多く発見されるという事実から (Collier Cameron & Jardine 2018; Hamer & Schlaufman 2019),ホットジュピターの潮汐破壊現象は一般的であると思われる.この場合,典型的には破壊後にはコアを残さないと思われることや,そのようなコアは短寿命であると思われるが (Winn et al. 2017),この惑星はコアが残る希少なケースだった可能性は考えられる.この惑星の位置を考えると,惑星が木星質量でサイズが 1.5 木星半径より大きい場合,潮汐破壊が発生することが期待される.
潮汐熱化
別の可能性としては,潮汐熱化イベントを介したエンベロープ散逸が挙げられる.この現象も 1-2 桁質量を減らしうる.もしこの惑星が,現在の近接軌道に他の惑星による高離心率散乱で到達した場合,潮汐円軌道化の最中に惑星内部の f モードのエネルギー生成は惑星内部の束縛エネルギーの大きな割合に到達し,熱化イベントを引き起こしうる (Vick et al. 2019; Veras & Fuller 2019).これにより惑星のエンベロープ層を取り除きうる.しかしどちらのケースでも,40 地球質量の残骸を残すほど十分なコアを持つかどうかは不明瞭である.これは,数地球質量のコアを取り囲むガスエンベロープは,降着してくる微惑星をエンベロープ内で溶解させるからである.そのため大きなコアを生成するためには,エンベロープ内で溶解した固体成分がその後に rain out してコアに降り注ぐ必要がある.
巨大惑星同士の衝突
巨大惑星の衝突は,TOI-849b のような惑星を形成する別の中間的な経路となる可能性がある.種族合成モデルでは,この惑星に似た質量と軌道長半径を持つ惑星が少量形成されることが予測される (Mordasini 2018).そのモデルでは,そのような惑星は惑星移動時期の終わりに巨大惑星衝突によって形成され,惑星エンベロープを放出し,さらなるガスを降着する時間は残されていない.このようなシナリオでは,中心星に近い位置に高密度の惑星コアを残しうる.
ガス降着の回避
別の可能性としては,ガスの暴走降着の回避が挙げられる.原始惑星が原始惑星系円盤にギャップを開け,コアが大量のエンベロープ質量を降着する前に円盤のガスが枯渇するというものである.原始惑星系円盤にギャップを開けるのに必要な惑星質量は円盤のスケールハイトの値に敏感であり,中心星に近いと円盤のスケールハイトは小さいため,中心星に近い惑星は深いギャップを形成しやすい.例として,0.1 AU にある 40 地球質量の惑星は円盤の面密度を 10 倍程度下げうる.
このシナリオの場合,惑星の軌道軸は恒星の自転軸と揃っているはずである.この軸の角度はロシター効果で測定できるため,形成シナリオの識別に役立つだろう.
軽いエンベロープの起源
いずれのシナリオでも,水素・ヘリウムエンベロープが数%残っていても,この惑星が中心星に近接した軌道を公転していることを考えると,光蒸発で数十億年にわたって質量が取り除かれうる.現在の質量放出率は 9.5 × 10-10 地球質量/年と推定され,数十億年の間にエンベロープ質量の ~4% を失う計算となる.この場合,この惑星の軽いエンベロープはどこから来たのかという疑問が生じる.惑星の平衡温度が高いため,氷を蒸発させて水やその他の揮発性物質を含む濃縮された二次大気が形成されることが予想される.この場合,始原的な惑星コアの組成が大気の組成を観測することによって研究できるという独特な観測対象となる可能性がある.
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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2003.07922
Hashimoto et al. (2020)
Accretion Properties of PDS 70b with MUSE
(MUSE による PDS 70b の降着特性)
過去の Haffert et al. (2019),Aoyama & Ikoma (2019) での報告との主要な違いは,惑星への降着率である.Hα 線や Hβ 線のような複数のスペクトル線の同時観測により,降着する惑星の物理特性をより良く制約可能である.
PDS 70b からは明確に Hα の放射が検出されたが,Hβ は検出されなかった.Hβ のスペクトル線のフラックスを 3σ の上限で 2.3 × 10-16 erg s-1 cm-2 と推定し,\(F_{\rm{H}\beta}/F_{\rm{H}\alpha}\) のフラックス比は 0.28 未満であった.
Aoyama et al. (2018) の数値的な調査からは,励起が無視できるのであれば \(F_{\rm{H}\beta}/F_{\rm{H}\alpha}\) は 1 に近くなることが示唆される.フラックス比の減少の理由は減光にあると考え,PDS 70b での Hα の減光は 2.0 mag より大きいと推定した.
Hα の線幅と Hα の dereddening line luminosity から,降着率は ≳5 × 107 木星質量/年 と推定した.この降着率は,PDS 70 の降着率よりも一桁大きい.充填率 (Hα を放射している惑星表面の面積の割合) は ≳0.01 であり,典型的な恒星の値に似ていることを見出した.この小さな値は,Hα を放射する領域は PDS 70b の表面で局所化されていることを示唆している.
arXiv:2003.07922
Hashimoto et al. (2020)
Accretion Properties of PDS 70b with MUSE
(MUSE による PDS 70b の降着特性)
概要
VLT/MUSE の観測に基づく PDS 70b の降着特性の新しい評価について報告する.過去の Haffert et al. (2019),Aoyama & Ikoma (2019) での報告との主要な違いは,惑星への降着率である.Hα 線や Hβ 線のような複数のスペクトル線の同時観測により,降着する惑星の物理特性をより良く制約可能である.
PDS 70b からは明確に Hα の放射が検出されたが,Hβ は検出されなかった.Hβ のスペクトル線のフラックスを 3σ の上限で 2.3 × 10-16 erg s-1 cm-2 と推定し,\(F_{\rm{H}\beta}/F_{\rm{H}\alpha}\) のフラックス比は 0.28 未満であった.
Aoyama et al. (2018) の数値的な調査からは,励起が無視できるのであれば \(F_{\rm{H}\beta}/F_{\rm{H}\alpha}\) は 1 に近くなることが示唆される.フラックス比の減少の理由は減光にあると考え,PDS 70b での Hα の減光は 2.0 mag より大きいと推定した.
Hα の線幅と Hα の dereddening line luminosity から,降着率は ≳5 × 107 木星質量/年 と推定した.この降着率は,PDS 70 の降着率よりも一桁大きい.充填率 (Hα を放射している惑星表面の面積の割合) は ≳0.01 であり,典型的な恒星の値に似ていることを見出した.この小さな値は,Hα を放射する領域は PDS 70b の表面で局所化されていることを示唆している.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2003.06522
Li et al. (2020)
Planet-induced Vortices with Dust Coagulation in Protoplanetary Disks
(原始惑星系円盤におけるダストの凝集を伴った惑星が誘起する渦)
渦の中ではガスの面密度が大きく圧力勾配が急であるため,ダストの凝集と破壊,および渦中心に向かう移動は全て非常に効率的であり,マイクロメートルから 1 cm の範囲の粒子が形成され,また全体として高いダストガス比 (1 以上) が実現される.さらに,渦の中ではダストのサイズ分布も非常に非一様になり,渦中心での質量で重み付けした平均ダストサイズは ~4.0 mm と,他の渦領域よりも 10 倍近く大きいものになる.
渦の中のガスの運動に対しては,~mm サイズの大きい粒子も 10 µm 程度の小さい粒子のどちらも強い影響を与える.したがってダストの凝集の効果を含めることで,渦の寿命に大きな影響があることを見出し,渦の典型的な寿命はおよそ 1000 周であることが判明した.
初期に存在したガスの渦が破壊された後,渦内のダストはリング状に広がり,いくつかの小さいガスの渦が残る.ダストの濃集度は高く,またダストの最大サイズは ~mm と大きい.
進化の後期には,凝集を考慮した場合でのダスト連続波の合成画像は,1.33 mm バンドではいくつかのホットスポットが埋め込まれたリングとして見えるが,7.0 mm では明確なホットスポットのみが残って見える.
円盤全体が進化する間のダストのサイズ進化は,大局的な 2 次元円盤モデルで最近になって調べ始められたばかりであり,これまでの多数の研究ではダストのサイズ進化は考慮されていない.
ダスト・ガス比が 1 近くになると,ダストからガスへのフィードバックが重要となる.半径方向のダストの移動と収集過程により,渦領域ではダストガス比が時間とともに増加する.これらのプロセスは,ストークス数が大きい場合,あるいはストークス数が小さくダストサイズが大きい時に早くなるが,ダストの収集過程は動径方向移動よりもずっと速い.そのため,ダストのサイズ成長をコントロールする凝縮は,ダストのフィードバックの効率を左右する重要な役割を果たす.
しかしダストの破壊により,表面密度は大きな粒子から小さい粒子へと分布するようになるため,ダストガス比の増加は単一粒子モデルと比較するとそこまで効率的にはならない.ダストのフィードバックの効率,そして大規模な渦の進化は,ダストの凝集・破壊と,動径ドリフトの間の複雑な相互作用の結果として発生することとなる.ここではダストの凝集と破壊を考慮したモデルを構築した.
惑星は円軌道で固定し,軌道長半径は 20 au,円盤の粘性パラメータは 7 × 10-5 とした.ガスの渦を維持するため,円盤全体でこの低い粘性パラメータの値を採用した.
ガスの面密度分布は指数関数的に減少するモデルを採用した.円盤の内側領域は r-0.8 で分布し,80 au から指数関数的なカットオフを持つ分布とした.ガス面密度の規格化は 1.3 g cm-3 で行った.
円盤の分布は 8-320 au とした.また円盤質量は 4.5 × 10-3 太陽質量と軽いため,円盤とダストの自己重力は無視できる.これは Toomre’s Q で言うと,円盤全体で Q ~150 であることに相当する.
円盤は局所等温で,h0 = 0.06,cs/vK = h0 (r/r0)0.25 とする.これは円盤内の温度分布が T = 89.0 (r/r0)-0.5 K であることに相当する.
ガスとダストの間の摩擦によるフィードバックは運動量方程式に含まれている.
ダスト粒子の内部密度は 0.8 g cm-3 とした.この円盤パラメータでは,サイズが 4.0 mm のダストの r0 の位置でのストークス数は 0.16 となる.また初期のガス分布では,20 au にある 2.4 cm のダストでストークス数が 1 になる.
ダストサイズ分布に関して,サイズ分布を扱う計算の場合は,1.0 µm から 100 cm までを 151 分割して計算を行った.また 10 m s-1 を境界として,ダストが接着するか破壊されるかを判断する.
ダストの付着・破壊のための乱流パラメータは α = 10-3 を使用した.これはガスの粘性とは異なる値である.ガス粘性の α を小さくするのは RWI を引き起こすため,乱流の α を大きくするのは凝集による大きすぎるダストを作るのを防ぐためである.なおサイズ分布を入れずシングルサイズで解く場合は,ダストサイズを 4.0 mm か 0.2 mm に固定した.
計算は二次元の計算コード LA-COMPASS を使用した.円盤の動径方向に 4096 メッシュ,方位角方向に 3456 メッシュの解像度の計算を行った.
ダストサイズは破壊サイズと radial drift barrier のサイズで決まっている.その後ダストは渦中心へ螺旋状に落下する.渦の中心に向かってダスト面密度とダスト/ガス面密度比は上昇する.
面密度比の進化は 2 段階に分けられる.400 周までの間に 1 µm から最大サイズまで成長する.これは Birnstiel et al. (2012) や Laune et al. (2020) よりファクター 2 大きい.これはおそらくダストの相対速度が,外側円盤での乱流よりも動径方向ドリフトによって決まっているためである.
この段階ではストークス数が小さいため面密度比の上昇は非常に非効率的である.ダストが最大サイズまで成長した後に効率的なダスト収集プロセスが開始する.ダスト収集が続くと渦中心でのダストガス比が 600 周くらいで 1 を超え,その後飽和する.ダストからガスへのフィードバックは渦ストリーミング不安定性を引き起こしうる.
4.0 mm のダストの計算では,大規模な渦は 500 周程度で消失した.面密度比の等高線は非常に clumpy な構造となる.
ダストサイズを 0.2 mm にした場合,渦はより長時間生き残る.ガス渦は依然として強く,面密度比の等高線は 1000 周程度までなめらかな形状となる.
4.0 mm モデルでは収集プロセスが非常に効率的で,0.2 mm モデルよりもずっと速い.4.0/0.2 mm 間の違いは単純に 2 モデルでのダストのストークス数が違うためである.
arXiv:2003.06522
Li et al. (2020)
Planet-induced Vortices with Dust Coagulation in Protoplanetary Disks
(原始惑星系円盤におけるダストの凝集を伴った惑星が誘起する渦)
概要
2 次元の大局的高分解能流体力学シミュレーションを行い,粘性の低い円盤の中にある重い惑星によって誘起される渦の進化および観測的な特徴が,ダストの凝縮と破壊によってどう影響を受けるかを調査した.渦の中ではガスの面密度が大きく圧力勾配が急であるため,ダストの凝集と破壊,および渦中心に向かう移動は全て非常に効率的であり,マイクロメートルから 1 cm の範囲の粒子が形成され,また全体として高いダストガス比 (1 以上) が実現される.さらに,渦の中ではダストのサイズ分布も非常に非一様になり,渦中心での質量で重み付けした平均ダストサイズは ~4.0 mm と,他の渦領域よりも 10 倍近く大きいものになる.
渦の中のガスの運動に対しては,~mm サイズの大きい粒子も 10 µm 程度の小さい粒子のどちらも強い影響を与える.したがってダストの凝集の効果を含めることで,渦の寿命に大きな影響があることを見出し,渦の典型的な寿命はおよそ 1000 周であることが判明した.
初期に存在したガスの渦が破壊された後,渦内のダストはリング状に広がり,いくつかの小さいガスの渦が残る.ダストの濃集度は高く,またダストの最大サイズは ~mm と大きい.
進化の後期には,凝集を考慮した場合でのダスト連続波の合成画像は,1.33 mm バンドではいくつかのホットスポットが埋め込まれたリングとして見えるが,7.0 mm では明確なホットスポットのみが残って見える.
円盤内の渦について
原始惑星系円盤内の渦は,微惑星形成を引き起こす理想的な環境になり得る.観測でも,偏った馬蹄形や三日月状の非対称構造が,ミリ波・サブミリ波で観測されている.これらの構造は,粘性の低い円盤に埋もれた重い惑星によって開けられたギャップの縁におけるロスビー波不安定性や,降着的に非活発な dead zone の縁,連星天体,傾圧不安定性などで形成されうる.円盤全体が進化する間のダストのサイズ進化は,大局的な 2 次元円盤モデルで最近になって調べ始められたばかりであり,これまでの多数の研究ではダストのサイズ進化は考慮されていない.
ダスト・ガス比が 1 近くになると,ダストからガスへのフィードバックが重要となる.半径方向のダストの移動と収集過程により,渦領域ではダストガス比が時間とともに増加する.これらのプロセスは,ストークス数が大きい場合,あるいはストークス数が小さくダストサイズが大きい時に早くなるが,ダストの収集過程は動径方向移動よりもずっと速い.そのため,ダストのサイズ成長をコントロールする凝縮は,ダストのフィードバックの効率を左右する重要な役割を果たす.
しかしダストの破壊により,表面密度は大きな粒子から小さい粒子へと分布するようになるため,ダストガス比の増加は単一粒子モデルと比較するとそこまで効率的にはならない.ダストのフィードバックの効率,そして大規模な渦の進化は,ダストの凝集・破壊と,動径ドリフトの間の複雑な相互作用の結果として発生することとなる.ここではダストの凝集と破壊を考慮したモデルを構築した.
計算手法
ここでは,2 太陽質量の恒星の周りを公転する 5 木星質量の惑星を仮定した.これは IRS 48 での観測結果を想定したものである.惑星は円軌道で固定し,軌道長半径は 20 au,円盤の粘性パラメータは 7 × 10-5 とした.ガスの渦を維持するため,円盤全体でこの低い粘性パラメータの値を採用した.
ガスの面密度分布は指数関数的に減少するモデルを採用した.円盤の内側領域は r-0.8 で分布し,80 au から指数関数的なカットオフを持つ分布とした.ガス面密度の規格化は 1.3 g cm-3 で行った.
円盤の分布は 8-320 au とした.また円盤質量は 4.5 × 10-3 太陽質量と軽いため,円盤とダストの自己重力は無視できる.これは Toomre’s Q で言うと,円盤全体で Q ~150 であることに相当する.
円盤は局所等温で,h0 = 0.06,cs/vK = h0 (r/r0)0.25 とする.これは円盤内の温度分布が T = 89.0 (r/r0)-0.5 K であることに相当する.
ガスとダストの間の摩擦によるフィードバックは運動量方程式に含まれている.
ダスト粒子の内部密度は 0.8 g cm-3 とした.この円盤パラメータでは,サイズが 4.0 mm のダストの r0 の位置でのストークス数は 0.16 となる.また初期のガス分布では,20 au にある 2.4 cm のダストでストークス数が 1 になる.
ダストサイズ分布に関して,サイズ分布を扱う計算の場合は,1.0 µm から 100 cm までを 151 分割して計算を行った.また 10 m s-1 を境界として,ダストが接着するか破壊されるかを判断する.
ダストの付着・破壊のための乱流パラメータは α = 10-3 を使用した.これはガスの粘性とは異なる値である.ガス粘性の α を小さくするのは RWI を引き起こすため,乱流の α を大きくするのは凝集による大きすぎるダストを作るのを防ぐためである.なおサイズ分布を入れずシングルサイズで解く場合は,ダストサイズを 4.0 mm か 0.2 mm に固定した.
計算は二次元の計算コード LA-COMPASS を使用した.円盤の動径方向に 4096 メッシュ,方位角方向に 3456 メッシュの解像度の計算を行った.
結果
ダスト凝集あり
惑星ギャップ外縁でロスビー波不安定性によって渦が形成される.円盤の外側から流れてきたダストは渦に集められる.渦に集められるダスト量は少なく,17% 程度,合計で 2.0 地球質量程度である.これは粒子が内側に流れる円盤の外側領域では粒子サイズが小さいためである.ダストサイズは破壊サイズと radial drift barrier のサイズで決まっている.その後ダストは渦中心へ螺旋状に落下する.渦の中心に向かってダスト面密度とダスト/ガス面密度比は上昇する.
面密度比の進化は 2 段階に分けられる.400 周までの間に 1 µm から最大サイズまで成長する.これは Birnstiel et al. (2012) や Laune et al. (2020) よりファクター 2 大きい.これはおそらくダストの相対速度が,外側円盤での乱流よりも動径方向ドリフトによって決まっているためである.
この段階ではストークス数が小さいため面密度比の上昇は非常に非効率的である.ダストが最大サイズまで成長した後に効率的なダスト収集プロセスが開始する.ダスト収集が続くと渦中心でのダストガス比が 600 周くらいで 1 を超え,その後飽和する.ダストからガスへのフィードバックは渦ストリーミング不安定性を引き起こしうる.
単一粒子モデルとの比較
ダストのサイズ進化を考慮しないモデルでは,4.0 mm と 0.2 mm の 2 つサイズのダストの計算を行った.4.0 mm のダストの計算では,大規模な渦は 500 周程度で消失した.面密度比の等高線は非常に clumpy な構造となる.
ダストサイズを 0.2 mm にした場合,渦はより長時間生き残る.ガス渦は依然として強く,面密度比の等高線は 1000 周程度までなめらかな形状となる.
4.0 mm モデルでは収集プロセスが非常に効率的で,0.2 mm モデルよりもずっと速い.4.0/0.2 mm 間の違いは単純に 2 モデルでのダストのストークス数が違うためである.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2003.06424
von Essen et al. (2020)
HST/STIS transmission spectrum of the ultra-hot Jupiter WASP-76 b confirms the presence of sodium in its atmosphere
(ウルトラホットジュピター WASP-76b の HST/STIS 透過スペクトルから大気中のナトリウムの存在を確認)
観測データは 3 回のトランジットからなり,2 回は波長域が 2900-5700 Å,3 番目は 5250-10300 Å でのデータである.1 次元の時間依存のスペクトルから,白色光での光度曲線と波長依存性のある光度曲線を構築した.後者の典型的な積分バンド幅は ~200 Å である.
WASP-76 の伴星の存在を考慮に入れつつ,波長依存性のある惑星・恒星の半径比を計算した.その結果,惑星の透過スペクトルは短波長の方向に向かって不透明度が増加するスペクトルの傾きを示し,惑星の平衡温度を仮定するとトランジット深さは 3 スケールハイト分に相当した.
この惑星は過去に大気中のナトリウムの検出が報告されている.ハッブル宇宙望遠鏡で得られたデータを,ナトリウムの波長を中心としたより狭いバンドを用いて再解析を行った.この透過スペクトルの大気復元から,2.9σ でナトリウムの兆候が検出されたことを報告する.この場合,大気の上端 (10-5 bar) での温度は 2300 K と計算される.
また,酸化チタン (TiO) の暫定的な兆候も検出された.しかし,TiO の発見を確認するためにはさらなる地上からの高分散観測が必要である.
arXiv:2003.06424
von Essen et al. (2020)
HST/STIS transmission spectrum of the ultra-hot Jupiter WASP-76 b confirms the presence of sodium in its atmosphere
(ウルトラホットジュピター WASP-76b の HST/STIS 透過スペクトルから大気中のナトリウムの存在を確認)
概要
ウルトラホットジュピター WASP-76b の大気の透過スペクトルについて報告する.ハッブル宇宙望遠鏡の Space Telescope Imaging Spectrograph (STIS) を用いて得られたアーカイブデータの解析を行った.観測データは 3 回のトランジットからなり,2 回は波長域が 2900-5700 Å,3 番目は 5250-10300 Å でのデータである.1 次元の時間依存のスペクトルから,白色光での光度曲線と波長依存性のある光度曲線を構築した.後者の典型的な積分バンド幅は ~200 Å である.
WASP-76 の伴星の存在を考慮に入れつつ,波長依存性のある惑星・恒星の半径比を計算した.その結果,惑星の透過スペクトルは短波長の方向に向かって不透明度が増加するスペクトルの傾きを示し,惑星の平衡温度を仮定するとトランジット深さは 3 スケールハイト分に相当した.
この惑星は過去に大気中のナトリウムの検出が報告されている.ハッブル宇宙望遠鏡で得られたデータを,ナトリウムの波長を中心としたより狭いバンドを用いて再解析を行った.この透過スペクトルの大気復元から,2.9σ でナトリウムの兆候が検出されたことを報告する.この場合,大気の上端 (10-5 bar) での温度は 2300 K と計算される.
また,酸化チタン (TiO) の暫定的な兆候も検出された.しかし,TiO の発見を確認するためにはさらなる地上からの高分散観測が必要である.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2003.05528
Ehrenreich et al. (2020)
Nightside condensation of iron in an ultra-hot giant exoplanet
(超高温巨大系外惑星における鉄の夜側での凝縮)
ウルトラホットジュピターの昼側大気には雲がないと予想されており,大気成分は原子で占められており,夜側大気よりずっと高温である.原子は低温な夜側では再結合して分子となり,昼夜間で異なる化学過程を引き起こす.
ウルトラホットジュピターでは金属元素と大きな温度差の存在が観測されている一方,このような系外惑星の表面にわたる化学組成の勾配はこれまでに測定されていない.昼から夜に向かう部分 (“夕方”) と夜から昼へ向かう部分 (“朝”) の昼夜境界 (terminator) での異なる大気化学は,トランジット最中の非対称な吸収特性から明らかにすることが出来る.
ここでは,極めて高温な系外惑星 WASP-76b の非対称な大気特徴の検出を報告する.この特徴を,集光面積の大きな高分散分光観測の組み合わせにより,スペクトル的および時間的に分解することができた.
大気中の中性の鉄原子に起因する吸収の特徴は,公転に後行する側の縁では -11 ± 0.7 km s-1 青方偏移しており,これは惑星の自転と高温の昼側からの風で説明可能な値である.
一方で,朝の境界線に近い夜側からはシグナルが検出されなかった.このことは,この領域では鉄元素は恒星光を吸収していないことを意味する.そのため,鉄は惑星の夜側大気を進む途中で凝縮しているはずである.
arXiv:2003.05528
Ehrenreich et al. (2020)
Nightside condensation of iron in an ultra-hot giant exoplanet
(超高温巨大系外惑星における鉄の夜側での凝縮)
概要
ウルトラホットジュピターは地球の数千倍の輻射を受けている.温度が 2000 K 以上と高いため,極端な惑星の気候と化学過程を研究する上で理想的な対象である.ウルトラホットジュピターの昼側大気には雲がないと予想されており,大気成分は原子で占められており,夜側大気よりずっと高温である.原子は低温な夜側では再結合して分子となり,昼夜間で異なる化学過程を引き起こす.
ウルトラホットジュピターでは金属元素と大きな温度差の存在が観測されている一方,このような系外惑星の表面にわたる化学組成の勾配はこれまでに測定されていない.昼から夜に向かう部分 (“夕方”) と夜から昼へ向かう部分 (“朝”) の昼夜境界 (terminator) での異なる大気化学は,トランジット最中の非対称な吸収特性から明らかにすることが出来る.
ここでは,極めて高温な系外惑星 WASP-76b の非対称な大気特徴の検出を報告する.この特徴を,集光面積の大きな高分散分光観測の組み合わせにより,スペクトル的および時間的に分解することができた.
大気中の中性の鉄原子に起因する吸収の特徴は,公転に後行する側の縁では -11 ± 0.7 km s-1 青方偏移しており,これは惑星の自転と高温の昼側からの風で説明可能な値である.
一方で,朝の境界線に近い夜側からはシグナルが検出されなかった.このことは,この領域では鉄元素は恒星光を吸収していないことを意味する.そのため,鉄は惑星の夜側大気を進む途中で凝縮しているはずである.