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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1910.01622
Tan & Komacek (2019)
The Atmospheric Circulation of Ultra-hot Jupiters
(ウルトラホットジュピターの大気循環)

概要

最近の,昼側温度が 2500 K を超えるウルトラホットジュピターの観測では,大気中での新しい物理過程の証拠が発見されている.ここでは,大気中での水素分子の解離と水素原子の再結合が,ウルトラホットジュピターの大気循環に与える影響について調査した.

これらの効果をホットジュピターの general circulation model (GCM) に含め,恒星の入射フラックス,自転周期,大気の摩擦抵抗の強度を変化させて計算を行った.その結果,水素の解離と再結合の効果を含めることで,ウルトラホットジュピターの昼夜間温度差が減少することを見出し,それにより自転を固定した場合に赤道ジェットの速度が減少することがわかった
これは,水素の解離には大きなエネルギー注入が必要なために惑星の昼側が冷え,また水素の再結合によって解放されるエネルギーが夜側で大気を暖めるためである.昼夜間の温度差が減少することにより,循環を駆動する昼夜間の圧力勾配も減少し,結果として風速が低下する.

今回の GCM 計算の結果は,惑星の平衡温度が上昇するにつれて,水素の解離・再結合によってウルトラホットジュピターの昼夜間の温度差が減少するという過去の理論と定性的に一致する.

最後に,GCM の計算結果から,系の全位相光度曲線を計算した.その結果,昼夜間の温度差が減少したウルトラホットジュピターでは位相曲線の振幅は小さくなることが示された.水素の解離と再結合による位相曲線振幅の減少は,現在観測されているウルトラホットジュピターの位相曲線振幅が比較的小さいことを説明できる.

ウルトラホットジュピターについて

ウルトラホットジュピターは,おおむね 2200 K を超える平衡温度を持つ惑星のことである.
最近の観測では,これらのウルトラホットジュピターは通常のホットジュピターとは異なるスペクトルを持つことが分かっている.

まず,ウルトラホットジュピターの放射スペクトルはほとんど特徴を欠いている.これは惑星の昼側大気で水分子が解離しているからである (Kitzmann et al. 2018, Kreidberg et al. 2018, Lothringer et al. 2018, Parmentier et al. 2018).

また,平衡温度 2500 K 程度では大気中の水素分子が部分的に解離を始める.水素分子の解離には,強い H2 の結合を破るための大気からのエネルギー注入が必要になる.

昼側の大気で解離した水素原子が大気力学によって大気の低温領域である夜側に輸送されると,水素原子が再結合して分子になる際に大量の熱を解放する.この解放される熱は,水の凝結により解放される潜熱よりも 100 倍ほど大きい (Bell & Cowan 2018).

Bell & Cowan (2018) によって,水素の解離と再結合がウルトラホットジュピターの大気温度構造に影響を及ぼすことが初めて指摘された.そこでは,従来の半解析的な手法を改良して,水素の解離・再結合を追加のエネルギーフラックスの項として含めている.その結果,水素の再結合によってウルトラホットジュピターの夜側は大きく加熱されることを指摘した.またそれにより位相曲線の振幅を小さくし,位相曲線の位相のずれを大きくすることを見出した.

また Komacek & Tan (2018) でも解析モデルを使用した研究が行われている.そこでは,ハッブル宇宙望遠鏡やスピッツァー宇宙望遠鏡で観測されている,WASP-103b (Kreidberg et al. 2018) や WASP-33b (Zhang et al. 2018) の比較的小さい振幅の位相曲線を説明できるとした.

これまでの研究は 1 次元の枠内での熱輸送の計算であった.過去のホットジュピターの計算では,3 次元の計算が多く行われている.しかしウルトラホットジュピターでの水素の解離と再結合の影響は,3 次元の大気力学ではこれまで考慮されていなかった.

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