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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1910.13612
Brozović et al. (2019)
Orbits and resonances of the regular moons of Neptune
(海王星の規則衛星の軌道と共鳴)
観測結果を,状態ベクトル,平均軌道要素,軌道不定性という観点からまとめる.
最も内側を公転する 2 つの衛星,ナイアドとタラッサの推定質量 (万有引力定数と質量の積) はそれぞれ,GMNaiad = 0.0080 ± 0.0043 km3 s-1,GMThalassa = 0.0236 ± 0.0064 km3 s-1 であり,平均密度は 0.80 ± 0.48 g cm-3,1.23 ± 0.43 g cm-3 に対応する.
今回の解析では,ナイアドとタラッサは一般的でないタイプの軌道共鳴に固定されていることが判明した.共鳴角は \(73\dot{\lambda_{\rm Thalassa}}-69\dot{\lambda_{\rm Naiad}}-4\dot{\Omega_{\rm Naiad}}\approx 0\) で,平均振幅 ~66° で 180° の周囲を秤動しており,この周期は ~1.9 年である.
これは外惑星の衛星の中で,4 次の共鳴にあることが発見された初めての例である.
ナイアドとタラッサの質量,および秤動の振幅と周期をより良く制約するためには,さらなる高精度の位置天文観測が必要である.
また,ヒッポカンプとプロテウスは 13:11 共鳴に近い状態にあることを報告する.この共鳴のため,将来のヒッポカンプの観測によって,プロテウスの質量推定が行える可能性がある.
また今回の解析から,海王星の扁平率係数は J2 = 3409.1 と推定される.
Showalter et al. (2013) は,ハッブル宇宙望遠鏡を用いた観測データから,7 個目の規則衛星であるヒッポカンプの発見を報告した.この小さい衛星は半径が ~17 km で,ラリッサとプロテウスの軌道の間を公転している.
全ての規則衛星はほぼ円軌道の順行軌道であり,軌道長半径は 48000 - 118000 km の間である.これらの中で最も遠方を公転するプロテウスの軌道長半径は,海王星の中心から 5 海王星半径未満の距離にある.規則衛星系の全体は狭い範囲に集まっており,地球と月の距離の 3 分の 1 の中に収まる.
トリトンは半径が ~1350 km と非常に大きく,規則衛星に期待されるのと同様な,ほぼ完全な円軌道を持っている.しかしトリトンの軌道は逆行であり,軌道傾斜角は海王星の赤道面から ~157° である.これは不規則衛星によく見られる軌道の特徴である.
規則衛星と不規則衛星は,その起源が大きく異なる.規則衛星は「その場」形成であるのに対し,不規則衛星は外部から捕獲された天体だと広く認識されている.
現在の理論は,トリトンは結局の所捕獲された天体であることを示唆しており,元々存在していた海王星の規則衛星は,トリトンが系を不安定化させる間に衝突で破壊されたとされる.
ネレイドは,トリトンが捕獲され軌道が円軌道化される過程で高離心率軌道に散乱されたか,もしくは元々の規則衛星の唯一の生き残りである可能性がある.ネレイドは時々不規則衛星であるとみなされるが,その近点と軌道傾斜角は不規則衛星に典型的なものではない.
現在存在している海王星の規則衛星は,衝突破片の環から形成されたと考えられる.これらの衛星は,重いトリトンによって強く擾乱された状態のままである.
海王星系の不変平面は,海王星の自転角運動量とトリトンの軌道角運動量の両方によって定義されるため,トリトンは海王星系の重要な要素である.ここでは,最新の位置天文観測に基づく,規則衛星の軌道のフィットについて記述する.
6 つの規則衛星の初めての軌道要素推定は Owen et al. (1991) によって行われ,これはボイジャー2号の撮像データに基づくものである.後に Jacobson & Owen (2004) で,地上観測およびハッブル宇宙望遠鏡の観測を合わせて更新された.
土星の衛星であるミマスとテティスは,双方の軌道交点が関与する 2 次の平均運動共鳴にある.また Cooper et al. (2008) は,アンテとミマスはどちらの交点も関与する 1 次の平均運動共鳴であることを報告し,さらにアンテとメトネの間に 77:75 の離心率型の共鳴に近い関係があることも指摘した.
4 次の平均運動共鳴は,小惑星帯の天体で存在が確認されている.例えば木星との 7:3 共鳴は Koronis と Eos families (コロニス族,エオス族) の間に位置しており,いくつかの短寿命の小惑星がこのギャップの中に存在している (Yoshikawa 1991, Tsiganis et al. 2003).
さらに,海王星と 1:5 共鳴にある太陽系外縁天体もいくつかある (Gladman et al. 2012など).
ナイアドとタラッサの間の 73:69 共鳴が,惑星の衛星の中では初めての 4 次の共鳴であり,単一の衛星の交点のみが関与する共鳴としては初めてのものである.
また,新しく発見された衛星であるヒッポカンプは,プロテウスと 13:11 の共鳴に近い状態にあることを発見した.これは外惑星の衛星で 2 次の共鳴に入っているものとしては 3 番目である.
他には,ミマスとテティスの 4:2 共鳴,アンテとメトネの 77:75 共鳴が確認された.
ヒッポカンプの将来の観測で,プロテウスの質量が明らかになるだろう.
一方で,デスピナ,ガラテアとラリッサの質量 (換算重力定数) の測定はより難しい.これは,これらの衛星は直接共鳴には入っていないことと,質量が小さいことが原因である.
arXiv:1910.13612
Brozović et al. (2019)
Orbits and resonances of the regular moons of Neptune
(海王星の規則衛星の軌道と共鳴)
概要
海王星の内側の規則衛星の,これまでで最も完全な位置天文データに基づく軌道のフィットを行った.観測データは,地球からの観測,ボイジャー2号による観測,およびハッブル宇宙望遠鏡による観測であり,期間は 1981-2016 年までである.観測結果を,状態ベクトル,平均軌道要素,軌道不定性という観点からまとめる.
最も内側を公転する 2 つの衛星,ナイアドとタラッサの推定質量 (万有引力定数と質量の積) はそれぞれ,GMNaiad = 0.0080 ± 0.0043 km3 s-1,GMThalassa = 0.0236 ± 0.0064 km3 s-1 であり,平均密度は 0.80 ± 0.48 g cm-3,1.23 ± 0.43 g cm-3 に対応する.
今回の解析では,ナイアドとタラッサは一般的でないタイプの軌道共鳴に固定されていることが判明した.共鳴角は \(73\dot{\lambda_{\rm Thalassa}}-69\dot{\lambda_{\rm Naiad}}-4\dot{\Omega_{\rm Naiad}}\approx 0\) で,平均振幅 ~66° で 180° の周囲を秤動しており,この周期は ~1.9 年である.
これは外惑星の衛星の中で,4 次の共鳴にあることが発見された初めての例である.
ナイアドとタラッサの質量,および秤動の振幅と周期をより良く制約するためには,さらなる高精度の位置天文観測が必要である.
また,ヒッポカンプとプロテウスは 13:11 共鳴に近い状態にあることを報告する.この共鳴のため,将来のヒッポカンプの観測によって,プロテウスの質量推定が行える可能性がある.
また今回の解析から,海王星の扁平率係数は J2 = 3409.1 と推定される.
海王星の規則衛星
規則衛星の特徴
海王星は内側を公転する規則衛星 7 個と,トリトン,ネレイド,そして 5 つの外側の不規則衛星を持つ.ナイアド,タラッサ,デスピナ,ラリッサ,ガラテア,プロテウスは,ボイジャー2号が 1989 年にフライバイした際に発見された規則衛星である (Smith et al. 1989,Owen et al. 1991).Showalter et al. (2013) は,ハッブル宇宙望遠鏡を用いた観測データから,7 個目の規則衛星であるヒッポカンプの発見を報告した.この小さい衛星は半径が ~17 km で,ラリッサとプロテウスの軌道の間を公転している.
全ての規則衛星はほぼ円軌道の順行軌道であり,軌道長半径は 48000 - 118000 km の間である.これらの中で最も遠方を公転するプロテウスの軌道長半径は,海王星の中心から 5 海王星半径未満の距離にある.規則衛星系の全体は狭い範囲に集まっており,地球と月の距離の 3 分の 1 の中に収まる.
トリトンの影響
ウィリアム・ラッセルによって 1846 年に発見されたトリトンは (Lassel 1846),規則衛星と不規則衛星の両方の特性を持っているという点で奇妙な天体である.トリトンは半径が ~1350 km と非常に大きく,規則衛星に期待されるのと同様な,ほぼ完全な円軌道を持っている.しかしトリトンの軌道は逆行であり,軌道傾斜角は海王星の赤道面から ~157° である.これは不規則衛星によく見られる軌道の特徴である.
規則衛星と不規則衛星は,その起源が大きく異なる.規則衛星は「その場」形成であるのに対し,不規則衛星は外部から捕獲された天体だと広く認識されている.
現在の理論は,トリトンは結局の所捕獲された天体であることを示唆しており,元々存在していた海王星の規則衛星は,トリトンが系を不安定化させる間に衝突で破壊されたとされる.
ネレイドは,トリトンが捕獲され軌道が円軌道化される過程で高離心率軌道に散乱されたか,もしくは元々の規則衛星の唯一の生き残りである可能性がある.ネレイドは時々不規則衛星であるとみなされるが,その近点と軌道傾斜角は不規則衛星に典型的なものではない.
現在存在している海王星の規則衛星は,衝突破片の環から形成されたと考えられる.これらの衛星は,重いトリトンによって強く擾乱された状態のままである.
海王星系の不変平面は,海王星の自転角運動量とトリトンの軌道角運動量の両方によって定義されるため,トリトンは海王星系の重要な要素である.ここでは,最新の位置天文観測に基づく,規則衛星の軌道のフィットについて記述する.
6 つの規則衛星の初めての軌道要素推定は Owen et al. (1991) によって行われ,これはボイジャー2号の撮像データに基づくものである.後に Jacobson & Owen (2004) で,地上観測およびハッブル宇宙望遠鏡の観測を合わせて更新された.
4 次の共鳴
高次の共鳴,あるいは軌道傾斜角が関わる共鳴は,惑星の衛星では希少である (Murray & Dermott 2001).土星の衛星であるミマスとテティスは,双方の軌道交点が関与する 2 次の平均運動共鳴にある.また Cooper et al. (2008) は,アンテとミマスはどちらの交点も関与する 1 次の平均運動共鳴であることを報告し,さらにアンテとメトネの間に 77:75 の離心率型の共鳴に近い関係があることも指摘した.
4 次の平均運動共鳴は,小惑星帯の天体で存在が確認されている.例えば木星との 7:3 共鳴は Koronis と Eos families (コロニス族,エオス族) の間に位置しており,いくつかの短寿命の小惑星がこのギャップの中に存在している (Yoshikawa 1991, Tsiganis et al. 2003).
さらに,海王星と 1:5 共鳴にある太陽系外縁天体もいくつかある (Gladman et al. 2012など).
ナイアドとタラッサの間の 73:69 共鳴が,惑星の衛星の中では初めての 4 次の共鳴であり,単一の衛星の交点のみが関与する共鳴としては初めてのものである.
結論
海王星の規則衛星の軌道要素の測定から,ナイアドとタラッサの質量 (換算重力定数 GM) の推定が可能になった.これは,これらの衛星が 73:69 の傾斜角の共鳴に入っているという事実に基づくものである.この 4 次の共鳴は,惑星の衛星の中では独特のものである.また,新しく発見された衛星であるヒッポカンプは,プロテウスと 13:11 の共鳴に近い状態にあることを発見した.これは外惑星の衛星で 2 次の共鳴に入っているものとしては 3 番目である.
他には,ミマスとテティスの 4:2 共鳴,アンテとメトネの 77:75 共鳴が確認された.
ヒッポカンプの将来の観測で,プロテウスの質量が明らかになるだろう.
一方で,デスピナ,ガラテアとラリッサの質量 (換算重力定数) の測定はより難しい.これは,これらの衛星は直接共鳴には入っていないことと,質量が小さいことが原因である.
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