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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2001.01106
Lari et al. (2020)
Long-term evolution of the Galilean satellites: the capture of Callisto into resonance
(ガリレオ衛星の長期進化:カリストの共鳴への捕獲)
ここでは,太陽系年齢の間にわたるガリレオ衛星の振る舞いを特徴づけ,ラプラス共鳴の安定性を定量化した.潮汐散逸によって,現在の軌道共鳴から脱出したり,あるいは新しい共鳴に捕獲されたりすることが可能になり,各衛星の軌道要素に大きな変化をもたらす.
今回は特に,カリストが共鳴に捕獲されうるかについて調査を行った.
現在の半解析モデルの改善バージョンを用いて,数百の伝播計算を行った.
ガニメデが外側にむかって動くにつれ,ガニメデはカリストとの 2:1 共鳴の位置に近付き,衛星系の一時的なカオス的な運動を誘起する.そのため,共鳴遭遇の結果を統計的な描像として表した.
衛星系は 2 つの異なる状態に落ち着きうる.
A) イオ・エウロパ,エウロパ・ガニメデ,ガニメデ・カリストの 3 つの 2:1 の 2 体共鳴の鎖,あるいは,
B) イオ・エウロパの 2 体の 2:1 共鳴を含む共鳴鎖で,少なくとも 1 つの純粋な 4:2:1 の 3 体共鳴を含む状態.
最も多く実現されるパターンは,エウロパ・ガニメデ・カリストの 3 体の共鳴が発生するケースである.
ケース A はシミュレーションの 56% で見られ,ラプラス共鳴は常に保たれ,衛星の軌道離心率は 0.01 未満の低い値にとどまる.
ケース B は 44% で見られ,ラプラス共鳴は一般に破壊され,ガニメデとカリストの離心率は最大で 0.1 まで上昇する.この軌道配置は不安定であり,系は新しい共鳴状態に移ることになる.
全てのケースで,カリストは他の衛星の共鳴運動によって押されて外側に移動を開始する.
今回の結果から,カリストが将来的に共鳴に捕獲される可能性は極めて高く,シミュレーションでは 100% のケースでカリストの共鳴捕獲が発生した.共鳴に入る正確なタイミングは,衛星系でのエネルギー散逸率の精密な値に依存する.
イオと木星の間の散逸に関して最も新しい推定値を仮定すると,共鳴への遭遇は今からおよそ 15 億年後に起きる.そのため,現在知られているラプラス共鳴の安定性は,少なくとも 15 億年の間は保証されることになる.
1798 年の段階で既に,ラプラスがイオ・エウロパ・ガニメデが 4:2:1 軌道共鳴に入っていることを観測している.この軌道配置は,イオ・エウロパと,エウロパ・ガニメデの 2 つの 2:1 の 2 体の平均運動共鳴からなっている.
\(\lambda_{i}\) を \(i\) 番目の衛星の平均黄経,\(\varpi_{i}\) を近点経度とすると,これら 3 つの衛星の間には
\[
\lambda_{1}-2\lambda_{2}+\varpi_{1}\sim 0\\
\lambda_{1}-2\lambda_{2}+\varpi_{2}\sim \pi\\
\lambda_{2}-2\lambda_{3}+\varpi_{2}\sim 0
\]
という関係がある.ここで \(\sim\) は「この値の周囲の狭い範囲を振動する」という意味合いである.最後 2 つの式から,
\[
\lambda_{1}-3\lambda_{2}+2\lambda_{3}\sim\pi
\]
という,3 衛星の平均黄経が入った式が得られる.この関係は一般に「ラプラス共鳴」として知られる.
惑星と衛星との潮汐力は散逸効果をもたらし,長いタイムスケールでの衛星の動径方向への軌道移動を引き起こす.ガリレオ衛星における潮汐散逸は,イオの表層における火山活動や,エウロパの氷地殻の下にある (おそらくガニメデにも) 液体の水の海を保持するための熱源などの現象の源となっている.
衛星が共鳴軌道の配置にある原因は長らく謎であったが,Goldreich (1965) が潮汐散逸による移動を介して衛星が共鳴に捕獲されるというアイデアを提唱した.その後衛星系についての数々の研究が行われた.
ガリレオ衛星に関しては,Yoder (1979) と Yoder & Peale (1981) が,イオの軌道移動は常に他のガリレオ衛星の移動よりも速いことを示唆した.その結果として,イオは最初にエウロパとの平均運動共鳴に捕獲され,それによりエウロパの移動速度が加速され,ガニメデとの共鳴に捕獲される.
Tittemore (1990) は,3 衛星のラプラス共鳴が確立される前には,エウロパとガニメデの離心率が大幅に上昇するカオス期間があったことを示した.これは大きな潮汐摩擦を 2 つの天体に対して誘起するため,カオス期間を経験したガニメデと経験していないカリストが非常に異なる表面を持つ理由を説明可能である.
似たシナリオは Malhotra (1991) と Showman & Malhotra (1997) でも提唱されている.これらの説では,カオスフェーズはイオ・エウロパ・ガニメデの間の 3 体の平均運動共鳴の通過によって引き起こされた可能性が非常に高いとした.これは Tittemore (1990) での主張とは対照的である.
短いタイムスケールでは,ラプラス共鳴の安定性は Celletti et al. (2019) によって確認されている.しかし潮汐散逸の結果としての長いタイムスケールでの安定性は不明である.
平均運動共鳴の 1, 2 番目の式に基づくと,イオに働く強い散逸効果は,共鳴を介してエウロパとガニメデの間にも分配される.このことはこれらの衛星が現在も移動していることを示しており,過去に起きたような重要な現象が将来再び発生する可能性があることを意味している.特に,カリストは現在いかなる平均運動共鳴にも入っておらず,その他のガリレオ衛星との共鳴を通過するかどうかという疑問がある.
潮汐散逸はイオ・エウロパ・ガニメデの外向き移動を引き起こしているため,最初に起きうる重要な共鳴は,カリストとガニメデが 2:1 の尽数関係になった際に発生する.
ガニメデとカリストの関係は,
\[
\lambda_{3}-2\lamnda_{4}+\varpi_{3}\sim 0
\]
となる.
ガニメデとカリストは 2:1 共鳴の鎖を成し,一度共鳴に捕獲されるとカリストは外側へと移動を始める.これは,イオの軌道に働く散逸の効果はすべての衛星に波及しており,これがカリストにも届いたことを示している.
このような進化を経た結果として衛星の軌道離心率は異なる値に変化するが,0.01 未満の小さい値に保たれる.
理論的にはこの種類の共鳴は,イオ・エウロパ・ガニメデの 3 つか,エウロパ・ガニメデ・カリストの 3 つの組み合わせ,あるいはこの両方が発生するケースが考えられる.しかし純粋なイオ・エウロパ・ガニメデの共鳴は,シミュレーションでは一時的な状態としてしか出現しなかった.
1 パターンのシミュレーションのみで,イオ・エウロパ・ガニメデの純粋な共鳴の状態が実現された.統計的な確率が低いため,このパターンについては調査を行わず,残りの 273 シミュレーションをケース B として分類した,これは,エウロパ.ガニメデ・カリストが純粋な 3 体平均運動共鳴状態に入っているものである.
ケース A とは異なり,ガニメデとカリストは,2 体の 2:1 共鳴には少なくとも直ちには捕獲されない.しかし,エウロパとの純粋な 3 体の共鳴には入る.全てのシミュレーションでカリストの軌道長半径は移動を開始し,軌道共鳴に入ったことを示している.
arXiv:2001.01106
Lari et al. (2020)
Long-term evolution of the Galilean satellites: the capture of Callisto into resonance
(ガリレオ衛星の長期進化:カリストの共鳴への捕獲)
概要
ガリレオ衛星は,平均運動共鳴と系に働く潮汐力のため,非常に複雑な軌道力学を持つ.木星とイオの間にはたらく強い散逸の影響は,いわゆるラプラス共鳴に入っているすべての衛星 (イオ,エウロパ,ガニメデの 3 つ) に広がり,これらの衛星の軌道を移動させる.ここでは,太陽系年齢の間にわたるガリレオ衛星の振る舞いを特徴づけ,ラプラス共鳴の安定性を定量化した.潮汐散逸によって,現在の軌道共鳴から脱出したり,あるいは新しい共鳴に捕獲されたりすることが可能になり,各衛星の軌道要素に大きな変化をもたらす.
今回は特に,カリストが共鳴に捕獲されうるかについて調査を行った.
現在の半解析モデルの改善バージョンを用いて,数百の伝播計算を行った.
ガニメデが外側にむかって動くにつれ,ガニメデはカリストとの 2:1 共鳴の位置に近付き,衛星系の一時的なカオス的な運動を誘起する.そのため,共鳴遭遇の結果を統計的な描像として表した.
衛星系は 2 つの異なる状態に落ち着きうる.
A) イオ・エウロパ,エウロパ・ガニメデ,ガニメデ・カリストの 3 つの 2:1 の 2 体共鳴の鎖,あるいは,
B) イオ・エウロパの 2 体の 2:1 共鳴を含む共鳴鎖で,少なくとも 1 つの純粋な 4:2:1 の 3 体共鳴を含む状態.
最も多く実現されるパターンは,エウロパ・ガニメデ・カリストの 3 体の共鳴が発生するケースである.
ケース A はシミュレーションの 56% で見られ,ラプラス共鳴は常に保たれ,衛星の軌道離心率は 0.01 未満の低い値にとどまる.
ケース B は 44% で見られ,ラプラス共鳴は一般に破壊され,ガニメデとカリストの離心率は最大で 0.1 まで上昇する.この軌道配置は不安定であり,系は新しい共鳴状態に移ることになる.
全てのケースで,カリストは他の衛星の共鳴運動によって押されて外側に移動を開始する.
今回の結果から,カリストが将来的に共鳴に捕獲される可能性は極めて高く,シミュレーションでは 100% のケースでカリストの共鳴捕獲が発生した.共鳴に入る正確なタイミングは,衛星系でのエネルギー散逸率の精密な値に依存する.
イオと木星の間の散逸に関して最も新しい推定値を仮定すると,共鳴への遭遇は今からおよそ 15 億年後に起きる.そのため,現在知られているラプラス共鳴の安定性は,少なくとも 15 億年の間は保証されることになる.
ガリレオ衛星の進化
ラプラス共鳴
ガリレオ衛星は木星の 4 つの大きな衛星で,1610 年にガリレオ・ガリレイによって発見された.木星から近い順に,イオ (1),エウロパ (2),ガニメデ (3),カリスト (4) の順に並んでいる.1798 年の段階で既に,ラプラスがイオ・エウロパ・ガニメデが 4:2:1 軌道共鳴に入っていることを観測している.この軌道配置は,イオ・エウロパと,エウロパ・ガニメデの 2 つの 2:1 の 2 体の平均運動共鳴からなっている.
\(\lambda_{i}\) を \(i\) 番目の衛星の平均黄経,\(\varpi_{i}\) を近点経度とすると,これら 3 つの衛星の間には
\[
\lambda_{1}-2\lambda_{2}+\varpi_{1}\sim 0\\
\lambda_{1}-2\lambda_{2}+\varpi_{2}\sim \pi\\
\lambda_{2}-2\lambda_{3}+\varpi_{2}\sim 0
\]
という関係がある.ここで \(\sim\) は「この値の周囲の狭い範囲を振動する」という意味合いである.最後 2 つの式から,
\[
\lambda_{1}-3\lambda_{2}+2\lambda_{3}\sim\pi
\]
という,3 衛星の平均黄経が入った式が得られる.この関係は一般に「ラプラス共鳴」として知られる.
軌道進化と共鳴捕獲
太陽系内の規則衛星の軌道は,一般に数十億年にわたる力学的進化が発生した結果である.惑星と衛星との潮汐力は散逸効果をもたらし,長いタイムスケールでの衛星の動径方向への軌道移動を引き起こす.ガリレオ衛星における潮汐散逸は,イオの表層における火山活動や,エウロパの氷地殻の下にある (おそらくガニメデにも) 液体の水の海を保持するための熱源などの現象の源となっている.
衛星が共鳴軌道の配置にある原因は長らく謎であったが,Goldreich (1965) が潮汐散逸による移動を介して衛星が共鳴に捕獲されるというアイデアを提唱した.その後衛星系についての数々の研究が行われた.
ガリレオ衛星に関しては,Yoder (1979) と Yoder & Peale (1981) が,イオの軌道移動は常に他のガリレオ衛星の移動よりも速いことを示唆した.その結果として,イオは最初にエウロパとの平均運動共鳴に捕獲され,それによりエウロパの移動速度が加速され,ガニメデとの共鳴に捕獲される.
Tittemore (1990) は,3 衛星のラプラス共鳴が確立される前には,エウロパとガニメデの離心率が大幅に上昇するカオス期間があったことを示した.これは大きな潮汐摩擦を 2 つの天体に対して誘起するため,カオス期間を経験したガニメデと経験していないカリストが非常に異なる表面を持つ理由を説明可能である.
似たシナリオは Malhotra (1991) と Showman & Malhotra (1997) でも提唱されている.これらの説では,カオスフェーズはイオ・エウロパ・ガニメデの間の 3 体の平均運動共鳴の通過によって引き起こされた可能性が非常に高いとした.これは Tittemore (1990) での主張とは対照的である.
ガリレオ衛星の将来的な進化
ガリレオ衛星が将来的にどう進化するかについてはあまり研究されていない.短いタイムスケールでは,ラプラス共鳴の安定性は Celletti et al. (2019) によって確認されている.しかし潮汐散逸の結果としての長いタイムスケールでの安定性は不明である.
平均運動共鳴の 1, 2 番目の式に基づくと,イオに働く強い散逸効果は,共鳴を介してエウロパとガニメデの間にも分配される.このことはこれらの衛星が現在も移動していることを示しており,過去に起きたような重要な現象が将来再び発生する可能性があることを意味している.特に,カリストは現在いかなる平均運動共鳴にも入っておらず,その他のガリレオ衛星との共鳴を通過するかどうかという疑問がある.
潮汐散逸はイオ・エウロパ・ガニメデの外向き移動を引き起こしているため,最初に起きうる重要な共鳴は,カリストとガニメデが 2:1 の尽数関係になった際に発生する.
結果
ケース A
ガリレオ衛星の進化計算では,628 パターンのシミュレーション中,354 パターンでケース A の状態へ進化した.これはガニメデとカリストが 2:1 共鳴に入る一方で,現在のイオ・エウロパ・ガニメデの共鳴,およびラプラス共鳴は保存されるというものである.ガニメデとカリストの関係は,
\[
\lambda_{3}-2\lamnda_{4}+\varpi_{3}\sim 0
\]
となる.
ガニメデとカリストは 2:1 共鳴の鎖を成し,一度共鳴に捕獲されるとカリストは外側へと移動を始める.これは,イオの軌道に働く散逸の効果はすべての衛星に波及しており,これがカリストにも届いたことを示している.
このような進化を経た結果として衛星の軌道離心率は異なる値に変化するが,0.01 未満の小さい値に保たれる.
ケース B
残りの 274 パターンのシミュレーションでは,ケース A よりも複雑な進化をたどり,4:2:1 の純粋な 3 体平均運動共鳴を含むものとなった.理論的にはこの種類の共鳴は,イオ・エウロパ・ガニメデの 3 つか,エウロパ・ガニメデ・カリストの 3 つの組み合わせ,あるいはこの両方が発生するケースが考えられる.しかし純粋なイオ・エウロパ・ガニメデの共鳴は,シミュレーションでは一時的な状態としてしか出現しなかった.
1 パターンのシミュレーションのみで,イオ・エウロパ・ガニメデの純粋な共鳴の状態が実現された.統計的な確率が低いため,このパターンについては調査を行わず,残りの 273 シミュレーションをケース B として分類した,これは,エウロパ.ガニメデ・カリストが純粋な 3 体平均運動共鳴状態に入っているものである.
ケース A とは異なり,ガニメデとカリストは,2 体の 2:1 共鳴には少なくとも直ちには捕獲されない.しかし,エウロパとの純粋な 3 体の共鳴には入る.全てのシミュレーションでカリストの軌道長半径は移動を開始し,軌道共鳴に入ったことを示している.
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