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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2002.07847
Spalding & Adams (2020)
The Solar wind prevents re-accretion of debris after Mercury's giant impact
(太陽風が水星の巨大衝突後の破片の再降着を阻害する)
息の長いアイデアとしては,水星はかつては大きな岩石質マントルを持っていたが,太陽系の初期に発生した巨大衝突によって取り除かれたというものがある.このアイデアの問題点は,水星から放出された物質は,典型的には短い時間スケール (~数百万年) で水星に再び降着してしまうという点である.
ここでは,形成初期の太陽風が水星から放出された破片に十分な摩擦を与え,破片が再び水星表面に衝突する前に水星と交差する軌道から取り除きうることを示す.
具体的には,若い太陽は現在より強い太陽風を持っており,また自転も強く磁場も強かった.水星への巨大衝突の時間に応じて,この太陽風によって破片にかかるラム圧は,放出された破片のサイズに依存して,100 万年未満の時間スケールで破片を太陽系の外側に向かって押したり,あるいは太陽に向かって落下させたりする.
したがって巨大衝突仮説は,水星と太陽系外惑星,特に強い恒星風を持つ若い恒星に近い惑星において,惑星から岩石質のマントルを取り除くための有望な経路である.
水星の鉄の割合が多い原因は未解明であり,これまでに複数のモデルが提唱されている.
提唱されている仮説は大きく分けると,水星の岩石に対する鉄の割合が大きいのは始原的であるとするものと,水星は他の岩石惑星と同様にコンドライト組成で形成されたが,形成後に岩石が取り除かれたとするものがある.後者の岩石を取り除く原因としては,一般に巨大衝突が想定される.前者の始原的とするシナリオでは対照的に,鉄と岩石を,惑星に内包される前の原始惑星系物質の段階で分離するということが想定されている.
一般に,この温度起源説は惑星形成中の円盤の温度分布に関する現代的な見方とは非整合である (Armitage 2011など).また系外惑星では水星より短い軌道周期を持つものが多様に存在することとも矛盾するように思われる (Borucki 2016).
代替仮説としては,温度に依存しない物質の分離過程が提案されている.例えば光泳動 (Wurm et al. 2013,電気伝導率と関連),ガス摩擦 (Weidenschilling 1978,密度の分離が発生する),磁気的侵食 (Hubbard 2014,鉄豊富な物質が磁気的に集められる) というモデルが提唱されている.これらのメカニズムは原理的には水星の Fe/Si 比を再現できるが,それを引き起こすための原始惑星系円盤の条件として,他の知見からは予想されない,あるいは他の知見とは矛盾する条件を必要とするという難点がある.
現在も星周円盤の化学に関する分野の研究が進んでおり,始原的な Si と Fe の分化が原因であるという説についても否定されているわけではない.
巨大衝突説は他の場面でも注目されており,例えば月の形成,火星衛星の形成,冥王星・カロン系の形成,さらには天王星の傾いた自転軸の説明などでも登場する.
一般的には,水星の巨大衝突のシミュレーションでは,原始水星への高エネルギー衝突によって現在の水星の密度を説明する程度の質量を除去することが可能であり,現在の 2.25 倍の質量の原始水星から岩石マントルを取り除くことも可能であるという結果が得られている (Benz et al. 1988,2007など).
しかし,水星から蒸気として放出された岩石物質は凝縮して小球 (spherule) となり,衝突後も水星と交差する軌道にとどまる.そのため放出された物質は ~1000 万年の時間スケールで水星へと再降着してしまい,最終的な水星の密度は大きくは増加しない.
再降着問題の解決案としては,ポインティング・ロバートソン効果が挙げられる.これは cm サイズの粒子に対して,再降着と同程度の時間スケールで働く効果である.しかし光学的に厚い太陽中心の放出物リングは自己遮蔽を起こすため (Gladman & Coffey 2009),ポインティング・ロバートソン効果だけで水星への再降着を阻止できるかは明確ではない.
再降着を回避する別のシナリオとしては,より大きな衝突体が衝突を無傷で生き残り,水星のマントルを剥ぎ取ったというものがある (Asphaug et al. 2006など).他には,多数の小さい衝突が水星の表面を侵食したというものもある (Svesov 2011).
現在の太陽風による数 µm より大きい粒子への摩擦は,ポインティング・ロバートソン効果による摩擦効果のおおよそ 1/3 程度である.しかし,もし若い太陽が現在よりも強い太陽風を持っていた場合,太陽風による摩擦はより大きなものになる.
若い恒星の恒星風に関する直接的な測定例は少ないため,惑星形成期の恒星風の特性を決めるのは難しい.しかし太陽に似た恒星の恒星風は形成後時間とともに減少すると考えられ,観測では若いソーラーアナログでは恒星風の強度は現在の太陽の 100 倍にもなるとの示唆が得られている (Wood et al. 2014).対照的に,ポインティング・ロバートソン効果は初期の太陽系でも数倍程度しか変化しないと考えられる.
arXiv:2002.07847
Spalding & Adams (2020)
The Solar wind prevents re-accretion of debris after Mercury's giant impact
(太陽風が水星の巨大衝突後の破片の再降着を阻害する)
概要
水星は異常に大きな鉄の核を持っており,そのため惑星の平均密度は大きい.このような大きな鉄の含有量を説明するために,数多くの仮説が提案されている.息の長いアイデアとしては,水星はかつては大きな岩石質マントルを持っていたが,太陽系の初期に発生した巨大衝突によって取り除かれたというものがある.このアイデアの問題点は,水星から放出された物質は,典型的には短い時間スケール (~数百万年) で水星に再び降着してしまうという点である.
ここでは,形成初期の太陽風が水星から放出された破片に十分な摩擦を与え,破片が再び水星表面に衝突する前に水星と交差する軌道から取り除きうることを示す.
具体的には,若い太陽は現在より強い太陽風を持っており,また自転も強く磁場も強かった.水星への巨大衝突の時間に応じて,この太陽風によって破片にかかるラム圧は,放出された破片のサイズに依存して,100 万年未満の時間スケールで破片を太陽系の外側に向かって押したり,あるいは太陽に向かって落下させたりする.
したがって巨大衝突仮説は,水星と太陽系外惑星,特に強い恒星風を持つ若い恒星に近い惑星において,惑星から岩石質のマントルを取り除くための有望な経路である.
水星の巨大な核の原因
金星と地球と火星の組成は概ね共通しているが,水星は鉄の割合が非常に大きいという特徴がある.水星の鉄コアの半径はは水星全体の半径の 80% にもなるが,地球の鉄コア半径は地球全体の 50% 程度である.水星の質量は地球よりも一桁小さいにもかかわらず,平均密度は地球に匹敵する.水星の鉄の割合が多い原因は未解明であり,これまでに複数のモデルが提唱されている.
提唱されている仮説は大きく分けると,水星の岩石に対する鉄の割合が大きいのは始原的であるとするものと,水星は他の岩石惑星と同様にコンドライト組成で形成されたが,形成後に岩石が取り除かれたとするものがある.後者の岩石を取り除く原因としては,一般に巨大衝突が想定される.前者の始原的とするシナリオでは対照的に,鉄と岩石を,惑星に内包される前の原始惑星系物質の段階で分離するということが想定されている.
始原的な鉄と岩石の分離が発生したとする説
最初期のアイデアでは,現在の水星付近では原始惑星系円盤の温度が高く,岩石物質は気体で,鉄は固体で存在していたというモデルがあった (Urey 1951,Lewis 1973).その後の仮説でも,水星が形成された位置が高温であったことが原因だとする説があり,水星の軌道は水星の岩石マントルが蒸発して原始惑星系円盤ガスとともに除去されるに十分なほど高温だったとするモデルがある (Cameron 1985).一般に,この温度起源説は惑星形成中の円盤の温度分布に関する現代的な見方とは非整合である (Armitage 2011など).また系外惑星では水星より短い軌道周期を持つものが多様に存在することとも矛盾するように思われる (Borucki 2016).
代替仮説としては,温度に依存しない物質の分離過程が提案されている.例えば光泳動 (Wurm et al. 2013,電気伝導率と関連),ガス摩擦 (Weidenschilling 1978,密度の分離が発生する),磁気的侵食 (Hubbard 2014,鉄豊富な物質が磁気的に集められる) というモデルが提唱されている.これらのメカニズムは原理的には水星の Fe/Si 比を再現できるが,それを引き起こすための原始惑星系円盤の条件として,他の知見からは予想されない,あるいは他の知見とは矛盾する条件を必要とするという難点がある.
現在も星周円盤の化学に関する分野の研究が進んでおり,始原的な Si と Fe の分化が原因であるという説についても否定されているわけではない.
惑星形成後に岩石マントルが剥ぎ取られたとする説
ここで着目するのは,惑星形成後に分離が発生するモデルである.このモデルでは,水星ははじめはコンドライトの元素組成で他の地球型惑星と同様に形成されたと考える.その後,岩石マントルが水星への巨大衝突によって剥がされたというものである (Wetherill 1985など).惑星形成シナリオでは惑星系の形成後期には天体の巨大衝突が発生するフェーズがあるため,この説は有力視されている.巨大衝突説は他の場面でも注目されており,例えば月の形成,火星衛星の形成,冥王星・カロン系の形成,さらには天王星の傾いた自転軸の説明などでも登場する.
一般的には,水星の巨大衝突のシミュレーションでは,原始水星への高エネルギー衝突によって現在の水星の密度を説明する程度の質量を除去することが可能であり,現在の 2.25 倍の質量の原始水星から岩石マントルを取り除くことも可能であるという結果が得られている (Benz et al. 1988,2007など).
しかし,水星から蒸気として放出された岩石物質は凝縮して小球 (spherule) となり,衝突後も水星と交差する軌道にとどまる.そのため放出された物質は ~1000 万年の時間スケールで水星へと再降着してしまい,最終的な水星の密度は大きくは増加しない.
再降着問題の解決案としては,ポインティング・ロバートソン効果が挙げられる.これは cm サイズの粒子に対して,再降着と同程度の時間スケールで働く効果である.しかし光学的に厚い太陽中心の放出物リングは自己遮蔽を起こすため (Gladman & Coffey 2009),ポインティング・ロバートソン効果だけで水星への再降着を阻止できるかは明確ではない.
再降着を回避する別のシナリオとしては,より大きな衝突体が衝突を無傷で生き残り,水星のマントルを剥ぎ取ったというものがある (Asphaug et al. 2006など).他には,多数の小さい衝突が水星の表面を侵食したというものもある (Svesov 2011).
太陽風の影響
ここでは,太陽風によって水星から放出された物質の軌道崩壊が引き起こされるというシナリオを提案する.現在の太陽風による数 µm より大きい粒子への摩擦は,ポインティング・ロバートソン効果による摩擦効果のおおよそ 1/3 程度である.しかし,もし若い太陽が現在よりも強い太陽風を持っていた場合,太陽風による摩擦はより大きなものになる.
若い恒星の恒星風に関する直接的な測定例は少ないため,惑星形成期の恒星風の特性を決めるのは難しい.しかし太陽に似た恒星の恒星風は形成後時間とともに減少すると考えられ,観測では若いソーラーアナログでは恒星風の強度は現在の太陽の 100 倍にもなるとの示唆が得られている (Wood et al. 2014).対照的に,ポインティング・ロバートソン効果は初期の太陽系でも数倍程度しか変化しないと考えられる.
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