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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2003.10314
Armstrong et al. (2020)
A remnant planetary core in the hot Neptunian desert
(高温の海王星砂漠の中の惑星の残骸コア)
希少な進化経路をたどっている系外惑星は,惑星内部を理解するための新しい道を与えてくれる.
ここでは,TOI-849b の発見を報告する.この天体は巨大惑星の残骸のコアと考えられ,半径は海王星より小さいが,質量は 40.8 地球質量と異常に大きく,密度は 5.5 g cm-3 と地球に類似した値である.
内部構造モデルからは,この惑星が持つ純粋な水素・ヘリウムからなるガスのエンベロープは,惑星全体の質量の 3.9% を超えないと推定される.
この惑星は晩期 G 型星を 18.4 時間で公転しており,平衡温度は 1800 K である.
この惑星の質量は,暴走ガス降着を起こしうる理論的なしきい値よりも重い.そのため,惑星は巨大ガス惑星として形成され,熱的自己破壊や巨大惑星衝突による極端な質量放出を経験したか,もしくはギャップ形成や後期形成などにより大きなガス降着を回避したかのどちらかで現在の姿になったものと予想される.
この惑星に予想される大気の光蒸発率では,木星のようなガス惑星のエンベロープを減らすのに十分な量の質量放出を起こすことはできないが,数十億年のタイムスケールで数地球質量分の水素・ヘリウムエンベロープを取り除くことは可能である.このことは,現在残っている大気は惑星内部からの水やその他の揮発性物質が濃集している可能性を示唆している.
測光観測では,その他の惑星が存在することを示すシグナルや,恒星活動のシグナルは検出されなかった.HARPS での追加観測では大きな視線速度シグナルが検出され,トランジットを起こしていたのが惑星であることが確認された.
公転周期 0.7655240 ± 0.0000027 日という 1 日未満の軌道を持っており,超短周期惑星に分類される.また海王星サイズで超短周期惑星である惑星としては 2 例目の発見である.
軌道離心率の上限値は 0.08 である.
TOI-849b の半径,質量,軌道周期は,海王星砂漠の中間に位置している.海王星砂漠とは,光蒸発と潮汐破壊により惑星が特に欠乏しているパラメータ領域を指す.
中心星 TOI-849 は G 型主系列星で,0.929 太陽質量,0.919 太陽半径,年齢は 67 億年である.惑星が中心星に非常に近いため,惑星の平衡温度は 1800 K と予想される (惑星のアルベドとして 0.3 を仮定).
惑星の内部構造モデル (Dorn et al. 2017) を改良して構造の推定を行った.[Fe/Si] の値を中心星と同じ値にし,惑星が層構造を持つことを仮定した.その上で,コアとマントルと水による寄与を最小化することによって,惑星が持つエンベロープの最大割合を推定した.
その結果,エンベロープ質量は最大で惑星質量の 3.9% であると推定された.
最近海王星砂漠内に発見された別の惑星を含め,類似の特徴を持つ天体との比較を行った.
NGTS-4b (West et al. 2019) は,軌道周期が 1.34 日,20.6 地球質量,3.18 地球半径である.この惑星は質量-半径パラメータ空間上では純粋な水組成のトラックに乗り,性質は TOI-849b と似ているが,質量は軽い.
LTT9779b (Jenkins et el. submitted) は,海王星サイズの超短周期惑星のこれまでで唯一の例 (今回発見された TOI-849b を除いて) であり,軌道周期 0.79 日,29.3 地球質量,4.59 地球半径である.
TOI-849b はこれら 2 つの惑星より重く高密度であり,海王星砂漠に位置する惑星の中でも極端な例である可能性がある.
原始惑星系円盤内で,原始惑星が暴走ガス降着を起こす臨界質量は,10-20 地球質量以上と予想される (Mizuno et al. 1978など).それではなぜこの惑星は重いガスエンベロープを持たないのだろうか?一見すると,コアが暴走降着を回避したか,もしくはかつてガス惑星であったが何らかの原因でエンベロープを失ったかである可能性がある.
暴走降着が進行して巨大惑星が形成された場合,現在の TOI-849b の状態になるためには元々の質量の大部分を失う必要がある.HD 149026b (Sato et al. 2005) は 121 地球質量の巨大惑星で,~50 地球質量の固体コアを持つと推定されており (Fortney et al. 2006,Ikoma et al. 2006),このコア質量は TOI-849b のものと近い.
HD 149026b が初期状態だとすると,質量の 60-70% を失う必要がある.TOI-849b は中心星に近いため光蒸発で質量を失う可能性はあるが,木星に類似した惑星が一生の間に失える質量はわずか数%であり,TOI-849b の状態に到達するために必要な質量放出量よりもずっと小さい.
なお,HD 149026b のような惑星の詳細な状況は明確には分かっておらず,また系の寿命の間に失える質量は仮定に大きく依存する点に注意が必要である.
この場合,典型的には破壊後にはコアを残さないと思われることや,そのようなコアは短寿命であると思われるが (Winn et al. 2017),この惑星はコアが残る希少なケースだった可能性は考えられる.この惑星の位置を考えると,惑星が木星質量でサイズが 1.5 木星半径より大きい場合,潮汐破壊が発生することが期待される.
しかしどちらのケースでも,40 地球質量の残骸を残すほど十分なコアを持つかどうかは不明瞭である.これは,数地球質量のコアを取り囲むガスエンベロープは,降着してくる微惑星をエンベロープ内で溶解させるからである.そのため大きなコアを生成するためには,エンベロープ内で溶解した固体成分がその後に rain out してコアに降り注ぐ必要がある.
種族合成モデルでは,この惑星に似た質量と軌道長半径を持つ惑星が少量形成されることが予測される (Mordasini 2018).そのモデルでは,そのような惑星は惑星移動時期の終わりに巨大惑星衝突によって形成され,惑星エンベロープを放出し,さらなるガスを降着する時間は残されていない.このようなシナリオでは,中心星に近い位置に高密度の惑星コアを残しうる.
原始惑星系円盤にギャップを開けるのに必要な惑星質量は円盤のスケールハイトの値に敏感であり,中心星に近いと円盤のスケールハイトは小さいため,中心星に近い惑星は深いギャップを形成しやすい.例として,0.1 AU にある 40 地球質量の惑星は円盤の面密度を 10 倍程度下げうる.
このシナリオの場合,惑星の軌道軸は恒星の自転軸と揃っているはずである.この軸の角度はロシター効果で測定できるため,形成シナリオの識別に役立つだろう.
惑星の平衡温度が高いため,氷を蒸発させて水やその他の揮発性物質を含む濃縮された二次大気が形成されることが予想される.この場合,始原的な惑星コアの組成が大気の組成を観測することによって研究できるという独特な観測対象となる可能性がある.
arXiv:2003.10314
Armstrong et al. (2020)
A remnant planetary core in the hot Neptunian desert
(高温の海王星砂漠の中の惑星の残骸コア)
概要
巨大惑星の内部はあまり分かっていない.太陽系内の惑星であっても,観測の困難さのため惑星コアの特性の推定には大きな不定性がある.希少な進化経路をたどっている系外惑星は,惑星内部を理解するための新しい道を与えてくれる.
ここでは,TOI-849b の発見を報告する.この天体は巨大惑星の残骸のコアと考えられ,半径は海王星より小さいが,質量は 40.8 地球質量と異常に大きく,密度は 5.5 g cm-3 と地球に類似した値である.
内部構造モデルからは,この惑星が持つ純粋な水素・ヘリウムからなるガスのエンベロープは,惑星全体の質量の 3.9% を超えないと推定される.
この惑星は晩期 G 型星を 18.4 時間で公転しており,平衡温度は 1800 K である.
この惑星の質量は,暴走ガス降着を起こしうる理論的なしきい値よりも重い.そのため,惑星は巨大ガス惑星として形成され,熱的自己破壊や巨大惑星衝突による極端な質量放出を経験したか,もしくはギャップ形成や後期形成などにより大きなガス降着を回避したかのどちらかで現在の姿になったものと予想される.
この惑星に予想される大気の光蒸発率では,木星のようなガス惑星のエンベロープを減らすのに十分な量の質量放出を起こすことはできないが,数十億年のタイムスケールで数地球質量分の水素・ヘリウムエンベロープを取り除くことは可能である.このことは,現在残っている大気は惑星内部からの水やその他の揮発性物質が濃集している可能性を示唆している.
観測
TESS ミッションによるトランジット観測から検出された.中心星の名称は TOI-849,もしくは TIC33595516 である.測光観測では,その他の惑星が存在することを示すシグナルや,恒星活動のシグナルは検出されなかった.HARPS での追加観測では大きな視線速度シグナルが検出され,トランジットを起こしていたのが惑星であることが確認された.
TOI-849 系の特性
TOI-849b は 40.8 (+2.4, -2.5) 地球質量で,土星のほぼ半分の質量である.半径は 3.45 地球半径で,平均密度 5.5 ± 0.8 g cm-3 と.これまでに発見された海王星サイズの惑星の中では最も高密度である.公転周期 0.7655240 ± 0.0000027 日という 1 日未満の軌道を持っており,超短周期惑星に分類される.また海王星サイズで超短周期惑星である惑星としては 2 例目の発見である.
軌道離心率の上限値は 0.08 である.
TOI-849b の半径,質量,軌道周期は,海王星砂漠の中間に位置している.海王星砂漠とは,光蒸発と潮汐破壊により惑星が特に欠乏しているパラメータ領域を指す.
中心星 TOI-849 は G 型主系列星で,0.929 太陽質量,0.919 太陽半径,年齢は 67 億年である.惑星が中心星に非常に近いため,惑星の平衡温度は 1800 K と予想される (惑星のアルベドとして 0.3 を仮定).
惑星の内部構造モデル (Dorn et al. 2017) を改良して構造の推定を行った.[Fe/Si] の値を中心星と同じ値にし,惑星が層構造を持つことを仮定した.その上で,コアとマントルと水による寄与を最小化することによって,惑星が持つエンベロープの最大割合を推定した.
その結果,エンベロープ質量は最大で惑星質量の 3.9% であると推定された.
最近海王星砂漠内に発見された別の惑星を含め,類似の特徴を持つ天体との比較を行った.
NGTS-4b (West et al. 2019) は,軌道周期が 1.34 日,20.6 地球質量,3.18 地球半径である.この惑星は質量-半径パラメータ空間上では純粋な水組成のトラックに乗り,性質は TOI-849b と似ているが,質量は軽い.
LTT9779b (Jenkins et el. submitted) は,海王星サイズの超短周期惑星のこれまでで唯一の例 (今回発見された TOI-849b を除いて) であり,軌道周期 0.79 日,29.3 地球質量,4.59 地球半径である.
TOI-849b はこれら 2 つの惑星より重く高密度であり,海王星砂漠に位置する惑星の中でも極端な例である可能性がある.
形成過程
この惑星のコア質量が大きくエンベロープ質量が小さいことは,コア降着を介した従来の惑星形成の見方とは食い違う.原始惑星系円盤内で,原始惑星が暴走ガス降着を起こす臨界質量は,10-20 地球質量以上と予想される (Mizuno et al. 1978など).それではなぜこの惑星は重いガスエンベロープを持たないのだろうか?一見すると,コアが暴走降着を回避したか,もしくはかつてガス惑星であったが何らかの原因でエンベロープを失ったかである可能性がある.
暴走降着が進行して巨大惑星が形成された場合,現在の TOI-849b の状態になるためには元々の質量の大部分を失う必要がある.HD 149026b (Sato et al. 2005) は 121 地球質量の巨大惑星で,~50 地球質量の固体コアを持つと推定されており (Fortney et al. 2006,Ikoma et al. 2006),このコア質量は TOI-849b のものと近い.
HD 149026b が初期状態だとすると,質量の 60-70% を失う必要がある.TOI-849b は中心星に近いため光蒸発で質量を失う可能性はあるが,木星に類似した惑星が一生の間に失える質量はわずか数%であり,TOI-849b の状態に到達するために必要な質量放出量よりもずっと小さい.
なお,HD 149026b のような惑星の詳細な状況は明確には分かっておらず,また系の寿命の間に失える質量は仮定に大きく依存する点に注意が必要である.
潮汐破壊
惑星の潮汐破壊は,初期質量から 1-2 桁質量を下げられる可能性がある.ホットジュピターの多くは潮汐破壊半径の近くに位置していることや,ホットジュピターは若い恒星の周りで多く発見されるという事実から (Collier Cameron & Jardine 2018; Hamer & Schlaufman 2019),ホットジュピターの潮汐破壊現象は一般的であると思われる.この場合,典型的には破壊後にはコアを残さないと思われることや,そのようなコアは短寿命であると思われるが (Winn et al. 2017),この惑星はコアが残る希少なケースだった可能性は考えられる.この惑星の位置を考えると,惑星が木星質量でサイズが 1.5 木星半径より大きい場合,潮汐破壊が発生することが期待される.
潮汐熱化
別の可能性としては,潮汐熱化イベントを介したエンベロープ散逸が挙げられる.この現象も 1-2 桁質量を減らしうる.もしこの惑星が,現在の近接軌道に他の惑星による高離心率散乱で到達した場合,潮汐円軌道化の最中に惑星内部の f モードのエネルギー生成は惑星内部の束縛エネルギーの大きな割合に到達し,熱化イベントを引き起こしうる (Vick et al. 2019; Veras & Fuller 2019).これにより惑星のエンベロープ層を取り除きうる.しかしどちらのケースでも,40 地球質量の残骸を残すほど十分なコアを持つかどうかは不明瞭である.これは,数地球質量のコアを取り囲むガスエンベロープは,降着してくる微惑星をエンベロープ内で溶解させるからである.そのため大きなコアを生成するためには,エンベロープ内で溶解した固体成分がその後に rain out してコアに降り注ぐ必要がある.
巨大惑星同士の衝突
巨大惑星の衝突は,TOI-849b のような惑星を形成する別の中間的な経路となる可能性がある.種族合成モデルでは,この惑星に似た質量と軌道長半径を持つ惑星が少量形成されることが予測される (Mordasini 2018).そのモデルでは,そのような惑星は惑星移動時期の終わりに巨大惑星衝突によって形成され,惑星エンベロープを放出し,さらなるガスを降着する時間は残されていない.このようなシナリオでは,中心星に近い位置に高密度の惑星コアを残しうる.
ガス降着の回避
別の可能性としては,ガスの暴走降着の回避が挙げられる.原始惑星が原始惑星系円盤にギャップを開け,コアが大量のエンベロープ質量を降着する前に円盤のガスが枯渇するというものである.原始惑星系円盤にギャップを開けるのに必要な惑星質量は円盤のスケールハイトの値に敏感であり,中心星に近いと円盤のスケールハイトは小さいため,中心星に近い惑星は深いギャップを形成しやすい.例として,0.1 AU にある 40 地球質量の惑星は円盤の面密度を 10 倍程度下げうる.
このシナリオの場合,惑星の軌道軸は恒星の自転軸と揃っているはずである.この軸の角度はロシター効果で測定できるため,形成シナリオの識別に役立つだろう.
軽いエンベロープの起源
いずれのシナリオでも,水素・ヘリウムエンベロープが数%残っていても,この惑星が中心星に近接した軌道を公転していることを考えると,光蒸発で数十億年にわたって質量が取り除かれうる.現在の質量放出率は 9.5 × 10-10 地球質量/年と推定され,数十億年の間にエンベロープ質量の ~4% を失う計算となる.この場合,この惑星の軽いエンベロープはどこから来たのかという疑問が生じる.惑星の平衡温度が高いため,氷を蒸発させて水やその他の揮発性物質を含む濃縮された二次大気が形成されることが予想される.この場合,始原的な惑星コアの組成が大気の組成を観測することによって研究できるという独特な観測対象となる可能性がある.
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