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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1601.05428
Fujii et al. (2016)
Radio Emission from Red-Giant Hot Jupiters
(赤色巨星周りのホットジュピターからの電波放射)

概要

惑星を持つ恒星が主系列段階を離れ赤色巨星分枝 (red giant branch) へと進化した時,恒星は数桁明るくなり,同時に主系列段階の時よりも大量の質量を放出する.結果として,中心星から数 AU の位置に仮に惑星が存在した場合は,標準的なホットジュピターと同等程度にまで加熱される,また濃密な恒星風に晒されることになる.

磁場を持った惑星は恒星風と相互作用を起こして電波を放射するというプロセスを考えると,このような "Red-Giant Hot Jupiters" (以下,RGHJs と表記) も電波放射源の候補となる.ここでは,恒星風と電波放射の間の経験的な関係と,これまでに提案されている惑星磁場のスケーリング即に基づき,RGHJs からのオーロラ電波のスペクトル強度の推定を行った.

その結果,RGHJs からの電波放射は本質的に,標準的なホットジュピターからの放射と同程度か,あるいは明るく,また中心星が主系列段階にある場合と比較すると ~ 100 倍程度明るいことが分かった.さらにこの電波の検出可能性について議論を行い,RGHJs からの電波放射は,SKA を用いて観測した場合は最大で数百 pc 以内の距離にあるものは検出可能であることが判明した.

研究背景

惑星磁気圏からの電波放射

強い磁場を持つ惑星は,高エネルギーの荷電粒子と相互作用した際に電波や X 線を放射する.有名な例は,木星のオーロラ領域からのサイクロトロン放射やメーザー不安定による電波放射である (Wu & Lee 1979, Zarka 1998, Treumann 2006).系外惑星においても,惑星の磁場や周辺環境 (恒星風の粒子,イオのような惑星からの粒子の存在) 次第では同様の放射が期待される.

太陽系の惑星からの電波放射に関しては,オーロラ電波の放射は惑星の磁気圏内に入る太陽風のエネルギーに比例するという経験則が示唆されている.これは "radiometric Bode's law" と呼ばれるものである (Desch & Kaiser 1984, Zarka et al. 2001).
(※チチウス・ボーデの法則に倣って付けられた名称)

この経験則を系外惑星系に外挿した先行研究が存在する.
ある研究では複数の系外惑星系に適用し,軌道長半径が小さい場合は ~ 1 mJy 程度の水準になるだろうと予測している (Farrell et al. 1999, Zarka et al. 2001, Lazio et al. 2004).また,恒星からの X 線放射フラックスから恒星の質量散逸率を推定し,惑星からの電波放射を再評価した研究もある (Stevens 2005).Grießmeier et al. (2005) では,恒星の初期の高い活動度から,若い系は惑星からの電波放射を検出する候補として適していると提案している.

これらの先行研究は,恒星風の運動エネルギーだけではなく,恒星風とコロナ質量放出の磁場のエネルギーも考慮している.しかし惑星の磁場スケーリング則はまちまちである.
Reiners & Christensen (2010) では,Christensen et al. (2009),Jardine & Collier Cameron (2008) に基づき,"radiometric Bode's law" に基づかない新しい惑星磁場のスケーリング則を適用した.

観測的観点からは,これまでに系外惑星からの電波放射の明確な検出例は存在しないが,肯定的な結果を示す初期成果は存在する (Lecavelier des Etangs et al. 2013, Sirothia et al. 2014).

赤色巨星まわりの惑星からの電波放射

質量が ~ 8太陽質量よりも小さい主系列星は,その後赤色巨星分枝 (red giant branch, RGB) や漸近巨星分枝 (asymptotic giant branch, AGB) 段階へ進化する.この段階においては恒星の半径と光度は桁で上昇する.

この時,恒星を公転する木星型惑星は,潮汐トルクや恒星からの質量散逸などの影響を受けて,軌道が内側もしくは外側に移動する (Nordhaus et al. 2010など).この時,恒星の質量次第だが,~ 10 AU 程度までの軌道を持つ惑星はホットジュピターになる.これをここでは Red-Giant Hot Jupiters (RGHJs) と呼ぶ (Spiegel & Madhusudhan 2012).

RGHJs は,重く,しかし低速の恒星風に晒される.恒星からの質量散逸率は 10-8 - 10-5 太陽質量/年 程度となる (Reiners 1975など).惑星からの電波放射が恒星風に関係しているという仮定のもとでは,進化した恒星周りの惑星からは強い電波放射が可能となる.

RGHJs からの電波放射に関しての先行研究である Ignace et al. (2010) では,低温の進化した恒星周りの惑星質量天体からの電波放射について調査している.
これによると,進化した恒星からの恒星風は電離度が低いため,電波放射が抑制される.またここではバウショック通過後の加熱による水素原子イオンの生成のシナリオについても検討している.結果として,RGHJs まわりでの電波生成は太陽系の惑星の場合と異なるとした.また,下限値の見積もりでは,電波放射は検出限界以下であるとした.

新たに考慮すること

ここでは,重い恒星風の惑星への降着を考慮する.降着の際に紫外線や X 線が放射されるため,惑星付近の恒星風を電離するという現象が起きる.恒星風が電離された場合,太陽系の惑星で起きているものと同様の磁気圏と恒星風の相互作用が期待される.そこで "radiometric Bode's law" を咳嗽し,過去の研究よりも楽観的な見積もりができる.

さらに,RGHJs からの電波放射の検出に関して障害になり得る,恒星風のプラズマ周波数のカットオフの推定と,惑星磁場のスケーリング則をもちいてパラメータサーチを行うことによって,先行研究よりも改善を行っている.

モデル

電波放射の周波数

電子が惑星の磁場に沿って流れ,局所的なサイクロトロン周波数で電波放射を行う.上限は,惑星表面での磁場によるサイクロトロン周波数となる.

これが地球の表面で観測できるためには,系外惑星からの電波の周波数の上限値が,地球の電離圏でのプラズマ周波数よりも大きくなっている必要がある.加えて,視線方向の最大のプラズマ周波数よりも大きくなっている必要がある.

プラズマ周波数は,
νplasma = √(nee2/πme)
である.ne は電子の数密度,e は素電荷,meは電子の質量である.

地球の電離圏は電子の数密度は 106 cm-3 程度以下であり,プラズマ周波数は 10 MHz 程度以下となる.

電波強度

電波のスペクトルフラックスは,
Fν = P/(Ω l2 ⊿ν)
となる.ここで Ω は放射される立体角,l は地球からの距離,⊿ν は周波数のバンド幅である.また, P は考えている周波数領域でオーロラ電波放射として注入されるエネルギーである.P は木星のオーロラ電波放射と,恒星風からのエネルギー注入でスケーリングを行う (Grießmeier et al. 2005, 2007a, b).

標準値として,P = 2.1 × 1011 W を用いる (Grießmeier et al. 2005, 2007a).

Ω は木星と同じ値を採用する.参考として,木星,土星,地球の Ω はそれぞれ,~ 1.6, 6.3, 3.5 ステラジアンである (Desch & Kaiser 1984).

磁場の見積もり

系外惑星の磁場については,木星の磁場をスケーリングする.木星の場合は表面で ~ 10 G である.

Christensen et al. (2009) で提案され, Reiners & Christensen et al. (2010)で用いられた関係では,ダイナモ領域での磁場と,全散逸に対するオーム散逸の比,ダイナモ領域の平均密度,オーダー 1 の efficiency factor,ダイナモ領域の外端における対流フラックスの関係を用いている.このスケーリングは高速自転している場合にのみ適用できる.一般的なホットジュピターは潮汐固定されているため自転は低速だが,RGHJs の場合は潮汐固定されていないだろうと考えられる.

また,0.1 - 10木星質量のガス惑星の内部構造モデル (Fortney et al. 2007, Spiegel & Burrows 2012, 2013) では,ガス惑星は ~ 1 Gyr 以内に 0.8 - 1.2木星半径に収縮する.そのため惑星の半径としては 1.0木星半径を用いる.

惑星の密度分布は,n = 1 のポリトロープを考える.
ダイナモ領域の外端は,水素が金属的になる臨界密度である 0.7 g cm-3 を超える半径とする (Queloz et al. 2006など).ダイナモ領域の平均密度はコアの平均値を用いる.木星の場合は,ダイナモ領域外端の半径は 0.85木星半径,密度は 1.899 g cm-3 である.

恒星風

恒星風は,球対称の構造を考える.恒星からの質量散逸率と恒星からの距離,恒星風速度から数密度を計算する.

太陽風の場合は,質量散逸率は 2 × 10-14太陽質量/年,速度は ~ 400 km s-1である (Hundhausen et al. 1997).
赤色巨星の場合は,10-8 - 10-7太陽質量/年 程度である (Reimers 1975).さらに,AGB 段階の場合は 10-5 にまでなり得る (Schild 1989など).そのため,恒星風による質量散逸率は 10-6 - 10-9太陽質量/年 とする.

恒星風の速度は,数恒星半径程度では脱出速度と同程度のオーダとなる.したがって,100太陽半径の恒星の場合は,~ 30 km s-1 となる.

惑星周囲での恒星風の電離

Ignace et al. (2010) での議論の通り,恒星が進化すると恒星風の電離度は ~ 10-3 程度となる (Drake et al. 1987).荷電粒子のみが磁場と相互作用を起こすため,電波放射は電離度が低い場合は低下する.

しかし進化した恒星からの恒星風は速度が低下し,惑星の脱出速度よりも低速になる.そのため,惑星への恒星風の降着が発生する.Spiegel & Madhusudhan (2012) では,ボンディ・ホイル降着 (Bondi-Hoyle acceretion) を考慮した.この場合,恒星からの質量散逸率が 10-8太陽質量/年,恒星質量が太陽と同じ,惑星質量が木星と同じ場合,降着による光度は 1025 erg s-1となり,また温度は 2 × 105 K になるとした.

この場合,~ kT 程度 (k はボルツマン定数) の 紫外線/X線光子が生成される.これは 13.6 eV よりも高エネルギーであるため,惑星周りに電離領域を生成することが出来る.これによって電波放射を増加させる効果がある.

結果

検出可能性を考えた場合,惑星質量が 4木星質量よりも重く,磁場が木星より強い惑星の場合,電波放出の検出が期待できる.この場合,恒星風のカットオフ周波数の影響は小さい.また地球から ~ 100 pc の距離にある時,電波放射は ~ 10 μJy となり,これは SKA で検出可能な値である.また,VLA のアップグレード後の性能で検出可能である.

電波における RGHJs のサーベイ観測は,トランジット法や視線速度法ではあまり検出の感度が良くない,進化した恒星周りの惑星の探査手法として用いることが出来る.もし検出できた場合は,様々な物理量の推定が可能となる.
例えば,時間変動性からは惑星の自転周期や衛星の存在を探ることが出来る.またスペクトルが分かれば,カットオフ周波数の上限から,惑星表面での磁場の強さが分かる (視線速度法で惑星の質量が判明している場合).カットオフ周波数の下限からは,惑星軌道における恒星風の情報を得ることが出来る.また,"radiometric Bode's law" の検証を行うことも可能である.

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