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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1606.01105
de Wit et al. (2016)
Direct Measure of Radiative and Dynamical Properties of an Exoplanet Atmosphere
(系外惑星大気の放射特性と力学的特性の直接測定)
観測の結果,大気層は 500 K から 1400 K まで急速に加熱されることが分かった.放射のタイムスケールは ~ 4 時間であった.また,近星点通過中に 20%の入射光を吸収していることが分かった.
解析から,惑星の自転周期は 93 (+85, -35) 時間であることが示唆された.これは,この惑星の自転周期として予測されていた擬同期周期 (pseudo-synchronous period) である 40 時間よりも長い.
惑星は軌道周期が 111.43677 日であり,軌道離心率は 0.93366 と非常に大きい.また,惑星の軌道平面と中心星の赤道平面は 42°ずれていることが分かっている (Moutou et al. 2009など).
惑星が近星点を通過する際の近星点距離は,恒星の表面から ~ 6 太陽半径であり,近星点を通過する度に周期的な強い輻射と潮汐を経験することになる.そのため,HD 80606b の天候は極端な状態になると考えるのが自然である.
惑星が受け取るフラックスの比 f は,軌道離心率を用いて
と表され,この惑星の軌道離心率を用いると f ~ 850 となる (近星点と遠星点での比).
近星点通過の ~ 24 時間前から急激に日射が増加する.そのため,シューメーカー・レヴィ第9彗星が衝突の際に木星に与えたものの ~ 1000 倍のエネルギーの短時間での注入が発生することになる.これによって全球的な温度の上昇を引き起こし,この温度の上昇はスピッツァー宇宙望遠鏡で観測されている (Werner et al. 2004).
また,最後の 30 時間の間は,惑星からの放射の増加は観測されなかった.これは, 4.5 µm で見た時の大気層の放射のタイムスケールが,惑星の自転周期よりも短いことを示唆している.
観測結果の解析から,惑星の自転周期は 93 (+85, -35) 時間と推定される.
Pseudo-synchronous state についてよく知られているモデルは Hut (1981) によるものである.これは平衡潮汐理論 (Darwin 1908) を用いたものであり,Darwin (1908) では水星の非同期回転状態を定性的に説明する事ができる (Peale & Gold 1965).
このモデルによると,HD 80606b の自転周期は 39.9 時間程度になると予想される.しかしこれは今回の結果とやや異なる.
Hut (1981) による理論の他にも説はあるが,それらは Hut (1981) での予測よりも短いものである.例えば,Ivanov & Papaloizou (2007) は,高軌道離心率惑星の自転周期は,近星点付近での円軌道を仮定した場合の軌道周期の 1.55 倍になると予測している.これは,HD 80606b に適用すると ~ 28 時間となる.
今回の,理論的な予測と異なる結果は,潮汐により同期しようというプロセスが最近始まったか,あるいはその効率がこれまでの予測よりも低いということを示唆する.また同時に,観測した光度曲線からの自転周期の推定には,惑星の大気組成の時間変化などの影響が混入している可能性もある.この効果は現在のモデルには入っていない.そのため詳細なモデリングは今後の課題である.
arXiv:1606.01105
de Wit et al. (2016)
Direct Measure of Radiative and Dynamical Properties of an Exoplanet Atmosphere
(系外惑星大気の放射特性と力学的特性の直接測定)
概要
軌道離心率が大きい惑星系の観測から,惑星へ入射するフラックスの変化に伴う大気の応答を調べることが出来る.ここでは,エキセントリックな (e ~ 0.93) ホットジュピターである HD 80606b を,スピッツァー宇宙望遠鏡を用いて多数日・多チャンネルの測光観測を行った.大きな軌道離心率を持つ惑星の近星点通過前後の長期間の観測を行うことにより,惑星大気の放射のタイムスケールと力学的なタイムスケールの縮退を解くことが可能となった.また,大気の熱応答への制限を付けることが出来た.観測の結果,大気層は 500 K から 1400 K まで急速に加熱されることが分かった.放射のタイムスケールは ~ 4 時間であった.また,近星点通過中に 20%の入射光を吸収していることが分かった.
解析から,惑星の自転周期は 93 (+85, -35) 時間であることが示唆された.これは,この惑星の自転周期として予測されていた擬同期周期 (pseudo-synchronous period) である 40 時間よりも長い.
HD 80606 系について
中心星の HD 80606 は,等級が 8.93,スペクトル型が G5V の恒星であり,質量が 3.94 木星質量の惑星 HD 80606b を持つ (Naef et al. 2001),また,伴星として HD 80607 が存在し,これは太陽型星で,投影距離は ~ 1000 AU である.惑星は軌道周期が 111.43677 日であり,軌道離心率は 0.93366 と非常に大きい.また,惑星の軌道平面と中心星の赤道平面は 42°ずれていることが分かっている (Moutou et al. 2009など).
惑星が近星点を通過する際の近星点距離は,恒星の表面から ~ 6 太陽半径であり,近星点を通過する度に周期的な強い輻射と潮汐を経験することになる.そのため,HD 80606b の天候は極端な状態になると考えるのが自然である.
惑星が受け取るフラックスの比 f は,軌道離心率を用いて
と表され,この惑星の軌道離心率を用いると f ~ 850 となる (近星点と遠星点での比).
近星点通過の ~ 24 時間前から急激に日射が増加する.そのため,シューメーカー・レヴィ第9彗星が衝突の際に木星に与えたものの ~ 1000 倍のエネルギーの短時間での注入が発生することになる.これによって全球的な温度の上昇を引き起こし,この温度の上昇はスピッツァー宇宙望遠鏡で観測されている (Werner et al. 2004).
結果・議論
観測結果と解析の概説
観測開始後の近星点通過前では,惑星は 4.5 µm では検出不可能なほどの暗さであった.また,近星点通過直後は 4.5 µm も 8 µm も急激に低下した.惑星からのフラックスの低下は,惑星の光球面からの冷却と,暖められた大気の領域が自転によって視線方向から移動することの組み合わせによって発生する.また,最後の 30 時間の間は,惑星からの放射の増加は観測されなかった.これは, 4.5 µm で見た時の大気層の放射のタイムスケールが,惑星の自転周期よりも短いことを示唆している.
観測結果の解析から,惑星の自転周期は 93 (+85, -35) 時間と推定される.
高軌道離心率惑星の自転周期
円軌道を持つ惑星とは異なり,高軌道離心率の惑星の場合は大きく変化する潮汐力が,自転と公転の同期 (spin-orbit synchronization) を阻害する.このような場合,潮汐の効果によって,"pseudo-synvhronous" 状態になると予測されていた.これは,惑星の自転周期は近星点付近の瞬間的な円軌道における軌道周期のオーダーになるというものである.Pseudo-synchronous state についてよく知られているモデルは Hut (1981) によるものである.これは平衡潮汐理論 (Darwin 1908) を用いたものであり,Darwin (1908) では水星の非同期回転状態を定性的に説明する事ができる (Peale & Gold 1965).
このモデルによると,HD 80606b の自転周期は 39.9 時間程度になると予想される.しかしこれは今回の結果とやや異なる.
Hut (1981) による理論の他にも説はあるが,それらは Hut (1981) での予測よりも短いものである.例えば,Ivanov & Papaloizou (2007) は,高軌道離心率惑星の自転周期は,近星点付近での円軌道を仮定した場合の軌道周期の 1.55 倍になると予測している.これは,HD 80606b に適用すると ~ 28 時間となる.
今回の,理論的な予測と異なる結果は,潮汐により同期しようというプロセスが最近始まったか,あるいはその効率がこれまでの予測よりも低いということを示唆する.また同時に,観測した光度曲線からの自転周期の推定には,惑星の大気組成の時間変化などの影響が混入している可能性もある.この効果は現在のモデルには入っていない.そのため詳細なモデリングは今後の課題である.
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