×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1506.07602
Zeebe (2015)
Dynamic stability of the Solar System: Statistically inconclusive results from ensemble integrations
(太陽系の力学的安定性について)
例として、水星の軌道離心率が増大して、他の惑星と近接遭遇したり衝突する可能性は1%程度であると推定されている。
しかしこの値の正確性についてはほとんど分かっていない。
ここでは、およそ5 Gyr (50億年)に渡って8つの惑星と冥王星の運動方程式を積分して軌道の計算を行った。計算には一般相対論的な効果も含まれている。
結果として、水星の軌道離心率の進化については、異なる数値アルゴリズムは異なる統計的結果を導くことが分かった。
例として水星の軌道離心率を0.21として計算を開始した場合、5 Gyrの間の水星の軌道離心率の最大値は、heliocentricなsymplectic ensemble integrationを用いた場合、Jacobi integrateと厳密な誤差制御を用いた計算結果よりも大きくなる。
それに対し、水星の離心率を将来取りうる値である0.53として計算をスタートした場合、その後 500 Myrの間の最大の離心率は、Jacobi integrateと厳密な誤差制御を用いた計算の方がheliocentricなsymplectic ensemble integrationよりも大きくなる。
水星の離心率が 500 Myrの期間にわたって 0.53を越える確率は、Jacobiの場合は > 90%であるが、heliocentricの場合は 40 - 55%である。
現実のシステムや確率的な振る舞いは、計算法や座標系の選び方によって変わらないはずだというジレンマがある。
水星の離心率の高い初期値の場合、軌道の不安定化の確率は、heliocentricの場合は過小評価することを示唆する結果である。
しかしシステムはカオス的な振る舞いをするため、結果の解釈には統計的な議論が必須となる。
小さな初期条件の違いは、リアプノフ時間の間に指数関数的に増大してしまう。内側の惑星に対しては、ほんの 5 Myr程度の時間で増大してしまう。
初期座標のわずか 1 mmの違いが、163 Myr後には 1 AUの違いとなってしまうため、~100 Myr以上の時間を越えて系の状態を予言するのは根本的に不可能である。そのため統計的な議論が必須となる。
Lasker & Gostineau (2009)らの計算によると、1%の確率で木星の離心率が増加して内側の惑星軌道が不安定化される。
この中には、巨大ガス惑星から地球型惑星への角運動量の輸送により、地球と金星の軌道が乱されて衝突するという可能性も含んでいる。
数値積分には、一部を除きシンプレクティック積分を使用している。また、一般相対論効果は加味されている。
先行研究の結果と比較するため、いくつかの高次効果は無視している。例えば、小惑星の効果、太陽系近傍を通過する別の恒星による擾乱、太陽の質量放出に伴う影響である。
また、地球-月系に関しては質点とみなして計算し、質点の位置は地球・月の重心に置いている。
それぞれの計算手法において、40パターンの軌道計算を行っている。
このパターンでは、水星の太陽からの距離を 7 cmずつずらし、最大で 7 cm × 39 = 2.73 mずらしている。
また時間刻みは水星の離心率で変化させている。
太陽系の惑星の軌道は長期にわたって安定か?という問題に対し、異なるアルゴリズムで数値計算することによって、用いる積分手法によって統計的な結果が変化するという指摘をした論文です。
太陽系の惑星は、惑星形成の段階とその直後を除けば、その後およそ46億年間は安定に存在していることは確実ですが、未来永劫安定であるという保証はどこにもありません。
数値計算をしようにも、微小な初期条件のズレが時間の経過とともに指数関数的に増加してしまうため、全く異なる結末を導くこともあります。
そのため、太陽系の惑星の軌道が今後50億年にわたってどのように進化するかをはっきりと言い当てることは根本的に困難である、ということは昔から分かっていました。
そのためたくさんのパターンを数値計算し、太陽系の将来がどうなるのかを統計的に予測する必要があります。
これまでの数値計算の結果では、太陽の寿命が尽きる50億年ほど先までは、太陽系の惑星の軌道が不安定化される確率は低いということが分かっていたため、今後50億年程度の間は統計的には安定である可能性が高いと考えられています。
あくまで統計的な結果なので、不安定化される可能性を排除できているわけではないということです。
しかしこの論文では、異なる数値計算手法を用いると、その統計的な結果にさえも影響が及ぼされるという内容でした。
arXiv:1506.07602
Zeebe (2015)
Dynamic stability of the Solar System: Statistically inconclusive results from ensemble integrations
(太陽系の力学的安定性について)
概要
太陽系はカオス系であり、長期的な軌道の安定性については統計的にしか答えることができない。例として、水星の軌道離心率が増大して、他の惑星と近接遭遇したり衝突する可能性は1%程度であると推定されている。
しかしこの値の正確性についてはほとんど分かっていない。
ここでは、およそ5 Gyr (50億年)に渡って8つの惑星と冥王星の運動方程式を積分して軌道の計算を行った。計算には一般相対論的な効果も含まれている。
結果として、水星の軌道離心率の進化については、異なる数値アルゴリズムは異なる統計的結果を導くことが分かった。
例として水星の軌道離心率を0.21として計算を開始した場合、5 Gyrの間の水星の軌道離心率の最大値は、heliocentricなsymplectic ensemble integrationを用いた場合、Jacobi integrateと厳密な誤差制御を用いた計算結果よりも大きくなる。
それに対し、水星の離心率を将来取りうる値である0.53として計算をスタートした場合、その後 500 Myrの間の最大の離心率は、Jacobi integrateと厳密な誤差制御を用いた計算の方がheliocentricなsymplectic ensemble integrationよりも大きくなる。
水星の離心率が 500 Myrの期間にわたって 0.53を越える確率は、Jacobiの場合は > 90%であるが、heliocentricの場合は 40 - 55%である。
現実のシステムや確率的な振る舞いは、計算法や座標系の選び方によって変わらないはずだというジレンマがある。
水星の離心率の高い初期値の場合、軌道の不安定化の確率は、heliocentricの場合は過小評価することを示唆する結果である。
研究背景
最近は数値計算能力の向上によって長時間の軌道計算が可能となってきた。そのため太陽系の寿命と同程度、±5 Gyr程度の期間の計算が可能である。しかしシステムはカオス的な振る舞いをするため、結果の解釈には統計的な議論が必須となる。
小さな初期条件の違いは、リアプノフ時間の間に指数関数的に増大してしまう。内側の惑星に対しては、ほんの 5 Myr程度の時間で増大してしまう。
初期座標のわずか 1 mmの違いが、163 Myr後には 1 AUの違いとなってしまうため、~100 Myr以上の時間を越えて系の状態を予言するのは根本的に不可能である。そのため統計的な議論が必須となる。
Lasker & Gostineau (2009)らの計算によると、1%の確率で木星の離心率が増加して内側の惑星軌道が不安定化される。
この中には、巨大ガス惑星から地球型惑星への角運動量の輸送により、地球と金星の軌道が乱されて衝突するという可能性も含んでいる。
計算手法
ここでの数値計算では、mercury6とHNBodyを使用している。数値積分には、一部を除きシンプレクティック積分を使用している。また、一般相対論効果は加味されている。
先行研究の結果と比較するため、いくつかの高次効果は無視している。例えば、小惑星の効果、太陽系近傍を通過する別の恒星による擾乱、太陽の質量放出に伴う影響である。
また、地球-月系に関しては質点とみなして計算し、質点の位置は地球・月の重心に置いている。
それぞれの計算手法において、40パターンの軌道計算を行っている。
このパターンでは、水星の太陽からの距離を 7 cmずつずらし、最大で 7 cm × 39 = 2.73 mずらしている。
また時間刻みは水星の離心率で変化させている。
太陽系の惑星の軌道は長期にわたって安定か?という問題に対し、異なるアルゴリズムで数値計算することによって、用いる積分手法によって統計的な結果が変化するという指摘をした論文です。
太陽系の惑星は、惑星形成の段階とその直後を除けば、その後およそ46億年間は安定に存在していることは確実ですが、未来永劫安定であるという保証はどこにもありません。
数値計算をしようにも、微小な初期条件のズレが時間の経過とともに指数関数的に増加してしまうため、全く異なる結末を導くこともあります。
そのため、太陽系の惑星の軌道が今後50億年にわたってどのように進化するかをはっきりと言い当てることは根本的に困難である、ということは昔から分かっていました。
そのためたくさんのパターンを数値計算し、太陽系の将来がどうなるのかを統計的に予測する必要があります。
これまでの数値計算の結果では、太陽の寿命が尽きる50億年ほど先までは、太陽系の惑星の軌道が不安定化される確率は低いということが分かっていたため、今後50億年程度の間は統計的には安定である可能性が高いと考えられています。
あくまで統計的な結果なので、不安定化される可能性を排除できているわけではないということです。
しかしこの論文では、異なる数値計算手法を用いると、その統計的な結果にさえも影響が及ぼされるという内容でした。
PR
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック