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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1612.04225
Armstrong et al. (2016)
Variability in the Atmosphere of the Hot Giant Planet HAT-P-7 b
(高温の巨大惑星 HAT-P-7b の大気の変動)
太陽系内の惑星は広範な大気現象を見せる.この大気現象には,安定して存在する風のパターンや,変化する嵐,進化するアノマリーなどがある.また褐色矮星も同様に大気の変動を持つ.しかし巨大系外ガス惑星の大気におけるこのような時間変動は,これまで観測されていなかった.
HAT-P-7b は位相曲線にオフセットがあることが知られている系外惑星である.ここでは,このオフセットの位置に,位相にして -0.086 と 0.143 の間の変動があることを報告する.これは,この惑星の最も明るい点が恒星直下点 (substellar point) から別の場所へたびたびシフトしていることを示唆する結果である.
今回検出されたこの変動は,10 ~ 100 日程度のタイムスケールで発生する.これらの明るさのシフトは惑星大気の変動性を示す兆候であり,惑星の昼側からの熱放射と反射フラックスのバランスの変化から来るものである.これらの現象は,惑星大気中の風速の変動が,昼側の雲の被覆率の変動とエネルギーバランスの変化を引き起こし,その結果として観測された変動を説明することができると考えられる.
この惑星は,ケプラーによって 4 年間継続的に可視光で観測されてきた.また,赤外線ではスピッツァー宇宙望遠鏡でよく観測されている.
可視光と赤外線双方の位相曲線は過去に度々研究されている.惑星が非常に高温であるため,可視光での位相曲線はかなりの割合の熱放射を含んでいる (おそらく最大で 77%).
また,可視光での位相曲線には,平均的に見ると東方向へのずれがあることが分かっている.これは昼夜間の温度差に起因する,惑星スケールのロスビー波によって作られる全球循環によって引き起こされている.
ホットジュピター大気中での大規模な天候の存在は理論的には予測されているが,可視光の位相曲線での変動には先行研究がなかった.赤外線では 1%のオーダーの変動が予測されており,これもまだ観測されていない.
ここでは,公開されているケプラーの HAT-P-7 の 4 年に渡る観測データを用いた.機器の影響によるトレンドを光度曲線から除き,またこの系の天体暦に合わせて観測結果を組み合わせた.
その結果,peak brightness (惑星の位相曲線で最も明るい時刻) のオフセットの明確な変動を検出した.この変動は位相にして -0.086 と 0.143 まで変化していた.惑星の brightness amplitude にも小さい変動が見られるが,これはノイズ起因のものと思われる.
ではこれらのパラメータの変化を引き起こしている物理機構は何だろうか.潮汐固定されたホットジュピターの大気循環モデルは,強いスーパーローテーションの風の存在を予言する.これは赤外線の位相曲線によって観測されている,ホットジュピターの熱的な hotspot の東方向へのシフトを説明する.
スピッツァー宇宙望遠鏡のトランジット深さの観測から示唆されるこの惑星の昼側の温度 (~ 2800 K) は,何らかの凝縮物が形成されるには高温すぎる.しかし極めて高速な風が低温な夜側からエアロゾルを輸送することが出来る.水平方向の移流の短いタイムスケールにより,夜側で生成したエアロゾルは,朝側の明暗境界線 (terminator) から恒星直下点まで,昼側の高い温度にも関わらず,惑星の夕方側の方向へ向かって最終的に蒸発してしまうまで存在することが出来る.
表面温度が 2000 - 2200 K の HAT-P-7b 的な惑星の循環モデルでは,凝縮物は Al2O3 (corundum, コランダム) と CaTiO3 (perovskite, ペロブスカイト) で,これらは夜側の 100 mbar 程度の高度で凝縮する.これらの凝縮物は惑星の朝側の明暗境界線に存在でき,そこから昼側に輸送される.
昼側や朝の明暗境界線での雲の比率は,大気の移流とエアロゾルの蒸発のタイムスケールによって決まると考えられる.風速が速い場合は移流のタイムスケールが短くなるため,エアロゾルが蒸発してしまう前に昼側の大気中でより遠くまで到達することが出来る.
また,速い風速は熱的 hotspot を惑星の夕方側の明暗境界線側へ動かすだろう.従ってケプラーの光度曲線で検出されたこれらの位相オフセットの変動のもっともらしい原因は,スーパーローテーションジェットの速度の変動だろうと考えられる.
この非周期的な風速の変動の機構は不明だが,考えられる可能性としては,その中心星に近い軌道による,極めて大きな潮汐力が挙げられる.
移流してきたエアロゾルの集積による昼側のアルベドの増加は,高層大気の冷却を引き起こし,これは昼夜間の温度差を減少させる.従って,結果としてスーパーローテーションの流れを弱くする可能性がある.これは昼側へのエアロゾルの輸送を減少する可能性があり,それによって風速,昼側のアルベド,昼側の温度の振動を引き起こすフィードバック機構を作る可能性がある.これが観測されている位相曲線のピークのシフトを説明する.
今回の系外惑星大気の変動の検出は,惑星天気の時間次元の変化は太陽系の外の惑星でも調べることが出来ることを意味する.これまでに観測されている系外惑星の種類は多様性に富んでおり,太陽系にないタイプの惑星も含む.そのため,力学的な大気変動を説明する新しいモデルが必要である.
将来の宇宙空間からの観測,例えば CHEOPS,JWST,PLATO と ARIEL はこのようなデータを増やし,また時間的に分解された系外惑星の大気のサンプルを作り出すだろう.
arXiv:1612.04225
Armstrong et al. (2016)
Variability in the Atmosphere of the Hot Giant Planet HAT-P-7 b
(高温の巨大惑星 HAT-P-7b の大気の変動)
概要
系外惑星はその主星を公転する過程で反射と放射をするため,特有の位相曲線をつくる.この光を観測することで,離れた惑星の大気と表面を研究することができる.太陽系内の惑星は広範な大気現象を見せる.この大気現象には,安定して存在する風のパターンや,変化する嵐,進化するアノマリーなどがある.また褐色矮星も同様に大気の変動を持つ.しかし巨大系外ガス惑星の大気におけるこのような時間変動は,これまで観測されていなかった.
HAT-P-7b は位相曲線にオフセットがあることが知られている系外惑星である.ここでは,このオフセットの位置に,位相にして -0.086 と 0.143 の間の変動があることを報告する.これは,この惑星の最も明るい点が恒星直下点 (substellar point) から別の場所へたびたびシフトしていることを示唆する結果である.
今回検出されたこの変動は,10 ~ 100 日程度のタイムスケールで発生する.これらの明るさのシフトは惑星大気の変動性を示す兆候であり,惑星の昼側からの熱放射と反射フラックスのバランスの変化から来るものである.これらの現象は,惑星大気中の風速の変動が,昼側の雲の被覆率の変動とエネルギーバランスの変化を引き起こし,その結果として観測された変動を説明することができると考えられる.
HAT-P-7b について
HAT-P-7b は,1.4 木星半径の大きさのホットジュピターである.軌道周期は 2.20 日である.表面は極めて高温で,昼側の輝度温度は 2860 K,また平衡温度は 2200 K である.この惑星は,ケプラーによって 4 年間継続的に可視光で観測されてきた.また,赤外線ではスピッツァー宇宙望遠鏡でよく観測されている.
可視光と赤外線双方の位相曲線は過去に度々研究されている.惑星が非常に高温であるため,可視光での位相曲線はかなりの割合の熱放射を含んでいる (おそらく最大で 77%).
また,可視光での位相曲線には,平均的に見ると東方向へのずれがあることが分かっている.これは昼夜間の温度差に起因する,惑星スケールのロスビー波によって作られる全球循環によって引き起こされている.
ホットジュピター大気中での大規模な天候の存在は理論的には予測されているが,可視光の位相曲線での変動には先行研究がなかった.赤外線では 1%のオーダーの変動が予測されており,これもまだ観測されていない.
ここでは,公開されているケプラーの HAT-P-7 の 4 年に渡る観測データを用いた.機器の影響によるトレンドを光度曲線から除き,またこの系の天体暦に合わせて観測結果を組み合わせた.
その結果,peak brightness (惑星の位相曲線で最も明るい時刻) のオフセットの明確な変動を検出した.この変動は位相にして -0.086 と 0.143 まで変化していた.惑星の brightness amplitude にも小さい変動が見られるが,これはノイズ起因のものと思われる.
惑星大気の変動
この peak offset の変動を引き起こしている物理過程について注目する.ここでは,過去の半解析モデルを用いて,観測された変動についての考察を行う.このモデルは主に,ボンドアルベド,熱の再分配効率,cloud reflectivity boosting factor,凝縮温度に依存する.これらのパラメータの変動が観測された変動を引き起こしていると考えられる.ではこれらのパラメータの変化を引き起こしている物理機構は何だろうか.潮汐固定されたホットジュピターの大気循環モデルは,強いスーパーローテーションの風の存在を予言する.これは赤外線の位相曲線によって観測されている,ホットジュピターの熱的な hotspot の東方向へのシフトを説明する.
スピッツァー宇宙望遠鏡のトランジット深さの観測から示唆されるこの惑星の昼側の温度 (~ 2800 K) は,何らかの凝縮物が形成されるには高温すぎる.しかし極めて高速な風が低温な夜側からエアロゾルを輸送することが出来る.水平方向の移流の短いタイムスケールにより,夜側で生成したエアロゾルは,朝側の明暗境界線 (terminator) から恒星直下点まで,昼側の高い温度にも関わらず,惑星の夕方側の方向へ向かって最終的に蒸発してしまうまで存在することが出来る.
表面温度が 2000 - 2200 K の HAT-P-7b 的な惑星の循環モデルでは,凝縮物は Al2O3 (corundum, コランダム) と CaTiO3 (perovskite, ペロブスカイト) で,これらは夜側の 100 mbar 程度の高度で凝縮する.これらの凝縮物は惑星の朝側の明暗境界線に存在でき,そこから昼側に輸送される.
昼側や朝の明暗境界線での雲の比率は,大気の移流とエアロゾルの蒸発のタイムスケールによって決まると考えられる.風速が速い場合は移流のタイムスケールが短くなるため,エアロゾルが蒸発してしまう前に昼側の大気中でより遠くまで到達することが出来る.
また,速い風速は熱的 hotspot を惑星の夕方側の明暗境界線側へ動かすだろう.従ってケプラーの光度曲線で検出されたこれらの位相オフセットの変動のもっともらしい原因は,スーパーローテーションジェットの速度の変動だろうと考えられる.
この非周期的な風速の変動の機構は不明だが,考えられる可能性としては,その中心星に近い軌道による,極めて大きな潮汐力が挙げられる.
移流してきたエアロゾルの集積による昼側のアルベドの増加は,高層大気の冷却を引き起こし,これは昼夜間の温度差を減少させる.従って,結果としてスーパーローテーションの流れを弱くする可能性がある.これは昼側へのエアロゾルの輸送を減少する可能性があり,それによって風速,昼側のアルベド,昼側の温度の振動を引き起こすフィードバック機構を作る可能性がある.これが観測されている位相曲線のピークのシフトを説明する.
今回の系外惑星大気の変動の検出は,惑星天気の時間次元の変化は太陽系の外の惑星でも調べることが出来ることを意味する.これまでに観測されている系外惑星の種類は多様性に富んでおり,太陽系にないタイプの惑星も含む.そのため,力学的な大気変動を説明する新しいモデルが必要である.
将来の宇宙空間からの観測,例えば CHEOPS,JWST,PLATO と ARIEL はこのようなデータを増やし,また時間的に分解された系外惑星の大気のサンプルを作り出すだろう.
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