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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1709.09678
Pino et al. (2017)
Combining low- to high-resolution transit spectroscopy of HD189733b
(HD 189733b の低-高分散トランジット分光観測の結合)

概要

宇宙空間からの低分散・中間分散の観測 (R ~ 102 - 103) と,地上からの高分散観測 (R ~ 105) は,可視光・近赤外線での系外惑星大気の透過スペクトルを得るために一般的に使われている.この波長帯では,宇宙空間からの観測は最も広いスペクトルの特徴 (アルカリ金属の二重線,分子の吸収バンド,散乱など) を検出し,一方で高分散分解能を持つ地上からの観測では,最も細い特徴 (アルカリ金属のラインのコア,分子のライン) を探査する.

これら 2 つのテクニックは,いくつかの要素において違いがある.
(1) Line Spread Function (線広がり関数) は,宇宙空間での観測よりも地上観測のほうが ~ 103 倍細い.
(2) 宇宙区間からの透過スペクトル観測では,最大で熱圏の底部 (≳ 10-6 bar) の領域までを探査する一方,地上からの観測の場合はその高い分解能により,さらに低い気圧領域 (~ 10-11 bar) まで探査できる.
(3) 宇宙空間からの観測からは惑星のトランジット深さを直接得ることが出来るが,地上観測の場合は異なる波長での惑星の見かけの大きさの違いしか測定できない.

これらの違いが存在する影響で,2 つのテクニックで得られた情報を合わせることが難しくなっている.ここでは,異なる分解能を用いた観測結果と理論的モデルとを比較するための堅牢な手法を開発した.

非常に高い分解能 (R ~ 106,波長幅 Δλ ~ 0.01 Å) での,広い波長範囲にわたる理論的な透過スペクトルを計算するための line-by-line 1D 輻射輸送コードを使用した.

この技術を HD 189733b に適用した.この惑星では,ハッブル宇宙望遠鏡による観測によって,エアロゾルの影響のため平坦になったスペクトルが観測されている.一方でHARPS を用いた地上からの高分散分解能観測では,ナトリウムのラインのコアにおける鋭いスペクトルの特徴が検出されている.

ここでは,惑星の対流圏から熱圏までの両方のデータセットを同時に再現するモデルを構築し,これらの宇宙空間からと地上からの観測結果の明らかな違いを調和させることを目指した.
その結果,確認する事ができたのは以下の項目である.
(1) 対流圏のエアロゾルによる散乱が存在する.
(2) 従ってナトリウムのラインのコアの特徴は熱圏起源である.


大気中のエアロゾルの存在を考慮した場合,HARPS で測定されたナトリウムのラインのコアの大きなコントラストは,熱圏での温度が最大で 1000 K 程度であることを示唆する.これは過去の報告よりも高い温度である.また,熱圏の温度の詳細な値は,ナトリウムの存在度によって変わる相対的な光学的深さと,エアロゾルの底部の位置と縮退することを示す.

これまでの観測

様々な分解能で探る系外惑星大気

近赤外線では,ハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 を用いた大気の透過スペクトルが,数十の惑星で得られている.観測は,ホットジュピター,ホットネプチューン,ウォームネプチューン,さらにはスーパーアースでも行われている.

この観測は 1.1 - 1.4 µm の波長帯の水 (水蒸気) の吸収に感度がある.観測される水の吸収強度はしばしば,理論モデルが予測するものより低い.この原因として考えられているのが,大気中に存在するエアロゾル (Seager & Sasselov 2000など) や,あるいは水の存在度が太陽存在度より低いこと (Seager et al. 2005など) である.ハッブル宇宙望遠鏡での可視光と赤外線での観測を組み合わせることでこの縮退を破ることが出来,エアロゾルが原因だとするモデルがより好ましいと考えられている (Sing et al. 2016).

ハッブル宇宙望遠鏡の ACS と STIS を用いた可視光での透過光分光観測では,増幅されたレイリー散乱的な特徴がいくつかの系外惑星で検出されている (Lecavelier Des Etangs et al. 2008;Pont et al. 2008; Sing et al. 2016).これは,小さいエアロゾルによる散乱で説明することができる.

ナトリウムやカリウムの二重線のような最も強いスペクトルの特徴はエアロゾルより上空で作られ,透過スペクトル中に現れる (Ehrenreich et al. 2014など).

ハッブル宇宙望遠鏡による,可視光と近赤外線での広い範囲のスペクトルとその観測精度のおかげで,系外惑星の大気中から多くの化学種やスペクトルの特徴が検出されている (ナトリウム,カリウム,水,エアロゾルなど).しかし宇宙望遠鏡のスペクトル分解能は比較的限定されている (R ~ 102 - 103).

地上観測の場合は,分解能をもっと高くする事が出来る (R ~ 105).この程度の分解能であれば,単一の吸収線がスペクトルとして分解でき,分子の特徴も位置にに同定できる(Snellen et al. 2010; de Kok et al. 2014;Brogi et al. 2016).
ナトリウムやカリウムの単一のラインも分解することができ,ラインの鋭いコア構造を通じて大気の高高度における低い圧力領域を探査することも可能である (Vidal-Madjar et al. 2011, Wyttenbach et al. 2015).

HD 189733b の場合

ここでは HD 189733b に焦点を当てる.

低分散・中間分散分解能のデータは,雲や分子のバンド吸収,アルカリ金属の二重線が生成される領域である,対流圏 (10 - 10-4 bar) の大気層を探査することができる.
一方で高分散分光観測の可視光でのデータは,アルカリ元素の微細なコア構造に感度がある (Wyttenbach et al. 2015, 2017).これらの特徴は,より高い高度の熱圏低部 (10-4 - 10-11 bar) あたりで現れる.

これらの観測は近紫外線での透過スペクトル観測と相補的である.近紫外線では,惑星の上部熱圏と外気圏の遷移領域を探査することができる (Vidal-Madjar et al. 2013).また,遠紫外線のトランジット分光観測では,外気圏を探査することができる.これは惑星大気の最も外側部分に相当する.

熱圏下部における恒星の X/EUV 光子による熱圏加熱は,HD 189733b の高層大気が拡大している原因である (Vidal-Madjar et al. 2003など).これは惑星大気からの水素と重い粒子の散逸の原因になっている (Lecavelier Des Etangs et al. 2010など).

HD 189733b の低分散透過スペクトル観測では,透過スペクトルは惑星の対流圏に存在するエアロゾルの散乱によって平坦な形状になっている (Pont et al. 2013, Sing et al. 2016).対照的に,地上からの高分散透過スペクトル観測では,ナトリウムの二重線の鋭い吸収特性の存在が確認されている (Wyttenbach et al. 2015).これらの結果は,見かけ上整合しない.ここではこれらのデータを整合させることを目的としている.

さらに,Vidal-Madjar et al. (2011) と Wyttenbach et al. (2015) では,ナトリウムの二重線の観測から,大気中に正の温度勾配が存在することを指摘している,これは,熱圏加熱の存在を示唆する結果である.

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