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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1711.05269
Oklopčić & Hirata (2017)
A New Window into Escaping Exoplanet Atmospheres: 10830 Å Line of Metastable Helium
(系外惑星の散逸する大気を見るための新しい窓:準安定ヘリウムの 10830 Å 線)
しかし,ライマンアルファ線のコア部分 (スペクトル線の中心部分) は,星間空間での吸収と地球コロナ放射によって大きく影響を受ける.そのため,ライマンアルファ線のスペクトルの一部から抽出できる,系外惑星の大気についての情報が制限されてしまう.
そのため,原子のスペクトル線を用いたトランジット観測で,
(a) 希薄な外気圏のガスをトレースできるほどの感度があり
(b) 星間物質による大きな吸収の影響を受けない
という性質を持つものが,より詳細な観測を可能にし,大気散逸の理論モデルにおける制約を与えることが出来る.
準安定ヘリウムの 10830 Å の吸収線が,上記の両方の条件を系外惑星で満たす可能性がある.
ここでは 1 次元の水素とヘリウムを含む大気散逸モデルを構築する.そのモデルを用いて,23 S 準安定励起状態にあるヘリウムの密度分布を計算した.また 10830 Å での期待されるトランジット時の吸収を,大気散逸を起こしている事が知られている 2 つの惑星に対して計算した.
その結果,GJ 436b 的な惑星と HD 209458b 的な惑星は,10830 Å で大きなトランジット深さを持ち,それぞれラインコアで ~ 10% と ~ 4% のトランジット深さになることが予想される.
エネルギーが最も低い三重項準位 (23S1) は,選択則によって放射遷移が強く抑制されるため,一重項の基底状態 (11S0) からほぼ切り離される.
磁気双極子遷移公式に対する相対論的および有限波長の補正により,23S1 三重項ヘリウムは,2.2 時間という非常に長い寿命で一重項の基底状態に放射減衰することができる (Drake 1971).
23S1 状態は,再結合または基底状態からの衝突励起によって生み出される.この状態の減少はゆっくり進むため準安定状態であり,そのため吸収線の起源になることが期待される.
準安定状態から 23P 状態への共鳴散乱が,10830 Å での吸収を生み出す.この遷移は実際には 3 つの線で構成されており,それらのうち 2 つ,10830.34 Å と 10830.25 Å はほとんど区別ができないが,一方で最初の 2 つよりも小さな発振強度を持つ 3 つ目の要素は 10829.09 Å である.
準安定状態のヘリウムの 10830 Å 線は,恒星風の動力学の探査 (Dupree et al. 1992, Edwards et al. 2003など),活動銀河核のアウトフローの探査 (Leighly et al. 2011など) などに利用されている.
この線はこれまでも系外惑星の大気探査において最も有望なスペクトル特徴の一つとして同定されていたにも関わらず (Seager & Sasselov 2000),これまでに検出例はない (Moutou et al. 2003など).
これまでの散逸大気のモデルはヘリウムの準安定状態を具体的にモデル化することなく,中性粒子およびイオンという視点でのみ,水素もしくはトラッキングされたヘリウムに焦点を当てていた.
ここでは,1 次元の散逸大気モデルの中でヘリウムのポピュレーションを計算し,準安定なヘリウムによる吸収線の深さを推定した.
GJ 437b 的な惑星の場合は,HD 209458b 的な惑星よりもトランジットが深いため検出しやすい.
これは,
(a) 重力ポテンシャルが小さい惑星からの散逸大気は,重い惑星と比べて高い高度でより高密度になると言う事実 (Salz et al. 2016)
(b) 準安定ヘリウム状態を作り出す放射と減らす放射のフラックス比がちょうどよい
という効果の組み合わせによるものである.
準安定状態のヘリウムのポピュレーションレベルに影響を与える可能性がある要素は,水素をイオン化する放射フラックスである.このフラックスは水素の電離度と電子数密度に影響を与える.その結果として,衝突を介してヘリウムの準安定状態を減少させる機構に相対的に寄与する.
恒星や惑星の様々な特性が,期待される 10830 Å での吸収にどのように影響を及ぼすかは,将来的な検討課題である.
arXiv:1711.05269
Oklopčić & Hirata (2017)
A New Window into Escaping Exoplanet Atmospheres: 10830 Å Line of Metastable Helium
(系外惑星の散逸する大気を見るための新しい窓:準安定ヘリウムの 10830 Å 線)
概要
これまでにいくつかの系外惑星で,系外惑星の大気が散逸していることを示す観測的な証拠が得られている.この証拠は紫外線での強いトランジットシグナル,特に水素のライマンアルファ線の裾野部分でのトランジットの検出によるものである.しかし,ライマンアルファ線のコア部分 (スペクトル線の中心部分) は,星間空間での吸収と地球コロナ放射によって大きく影響を受ける.そのため,ライマンアルファ線のスペクトルの一部から抽出できる,系外惑星の大気についての情報が制限されてしまう.
そのため,原子のスペクトル線を用いたトランジット観測で,
(a) 希薄な外気圏のガスをトレースできるほどの感度があり
(b) 星間物質による大きな吸収の影響を受けない
という性質を持つものが,より詳細な観測を可能にし,大気散逸の理論モデルにおける制約を与えることが出来る.
準安定ヘリウムの 10830 Å の吸収線が,上記の両方の条件を系外惑星で満たす可能性がある.
ここでは 1 次元の水素とヘリウムを含む大気散逸モデルを構築する.そのモデルを用いて,23 S 準安定励起状態にあるヘリウムの密度分布を計算した.また 10830 Å での期待されるトランジット時の吸収を,大気散逸を起こしている事が知られている 2 つの惑星に対して計算した.
その結果,GJ 436b 的な惑星と HD 209458b 的な惑星は,10830 Å で大きなトランジット深さを持ち,それぞれラインコアで ~ 10% と ~ 4% のトランジット深さになることが予想される.
ヘリウムの準安定状態と 10830 Å 線
ヘリウム原子は,2 つの電子のスピンの相対配置によって 2 つの形態がある.スピンが反並行になっている状態である singlet (一重項) と,平行になっている triplet (三重項) である,エネルギーが最も低い三重項準位 (23S1) は,選択則によって放射遷移が強く抑制されるため,一重項の基底状態 (11S0) からほぼ切り離される.
磁気双極子遷移公式に対する相対論的および有限波長の補正により,23S1 三重項ヘリウムは,2.2 時間という非常に長い寿命で一重項の基底状態に放射減衰することができる (Drake 1971).
23S1 状態は,再結合または基底状態からの衝突励起によって生み出される.この状態の減少はゆっくり進むため準安定状態であり,そのため吸収線の起源になることが期待される.
準安定状態から 23P 状態への共鳴散乱が,10830 Å での吸収を生み出す.この遷移は実際には 3 つの線で構成されており,それらのうち 2 つ,10830.34 Å と 10830.25 Å はほとんど区別ができないが,一方で最初の 2 つよりも小さな発振強度を持つ 3 つ目の要素は 10829.09 Å である.
準安定状態のヘリウムの 10830 Å 線は,恒星風の動力学の探査 (Dupree et al. 1992, Edwards et al. 2003など),活動銀河核のアウトフローの探査 (Leighly et al. 2011など) などに利用されている.
この線はこれまでも系外惑星の大気探査において最も有望なスペクトル特徴の一つとして同定されていたにも関わらず (Seager & Sasselov 2000),これまでに検出例はない (Moutou et al. 2003など).
これまでの散逸大気のモデルはヘリウムの準安定状態を具体的にモデル化することなく,中性粒子およびイオンという視点でのみ,水素もしくはトラッキングされたヘリウムに焦点を当てていた.
ここでは,1 次元の散逸大気モデルの中でヘリウムのポピュレーションを計算し,準安定なヘリウムによる吸収線の深さを推定した.
議論と結論
モデル計算から,準安定状態のヘリウムによる 10830 Å でのトランジット深さは,HD 209458b の場合は 4% 程度,GJ 436b の場合は 10% 程度の深さになることが期待される.また 10829.09 Å にも吸収があり,こちらは ~ 2% 程度の深さが期待される.GJ 437b 的な惑星の場合は,HD 209458b 的な惑星よりもトランジットが深いため検出しやすい.
これは,
(a) 重力ポテンシャルが小さい惑星からの散逸大気は,重い惑星と比べて高い高度でより高密度になると言う事実 (Salz et al. 2016)
(b) 準安定ヘリウム状態を作り出す放射と減らす放射のフラックス比がちょうどよい
という効果の組み合わせによるものである.
準安定状態のヘリウムのポピュレーションレベルに影響を与える可能性がある要素は,水素をイオン化する放射フラックスである.このフラックスは水素の電離度と電子数密度に影響を与える.その結果として,衝突を介してヘリウムの準安定状態を減少させる機構に相対的に寄与する.
恒星や惑星の様々な特性が,期待される 10830 Å での吸収にどのように影響を及ぼすかは,将来的な検討課題である.
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