×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1801.00412
Lothringer et al. (2018)
An HST/STIS Optical Transmission Spectrum of Warm Neptune GJ 436b
(ウォームネプチューン GJ 436b のハッブル宇宙望遠鏡/STIS 可視光透過スペクトル)
ここでは,この惑星の初めての宇宙空間からの可視光透過スペクトルについて報告する.
観測はハッブル宇宙望遠鏡の STIS を用いて行い,観測波長は 0.53 - 1.03 µm である.
その結果,スペクトル中にアルカリ金属による吸収特徴の兆候は見られなかった.また 0.53 µm より長波長での散乱スロープの兆候も見られなかった.
スペクトルからは,中間的あるいは高い大気の金属量が示唆され,太陽金属量の ~ 100 - 1000 倍と推定される,ただし,中間的な金属量である場合 (太陽金属量の ~ 100 倍) は,スペクトルを説明するためには大気中のエアロゾルによる不透明度が必要である.
また,可視光のスペクトルは,大きく散乱を起こすヘイズが存在するというモデルを棄却する.
波長 0.8 µm 周辺でのトランジット深さの増加は,今回の観測結果をあわせて 3 つの sub-Jovian (木星より軽い) 系外惑星で発見されたことになる (GJ 436b,HAT-P-26b,GJ 1214b).これらのデータのほとんどはハッブル宇宙望遠鏡の STIS を用いて取得されているものだが,STIS 以外の異なる 3 つの装置からも同様の結果が得られており,これは機器の影響ではないことを示唆している.
これらのうち,GJ 1214b のトランジットスペクトルだけが,主星の光球面にプラージュが存在するとするモデルと合致する.
中心星の測光モニタリングからは,GJ 436 の自転周期は 44.1 日で,活動サイクルは 7.4 年と推定された.
興味深いことに,GJ 436 は明るさが暗くなるにつれてより赤っぽい色を示さないという特徴を持つ.もし恒星の明るさの変動の大部分が黒点による影響である場合は,暗くなっている時期はスペクトルが赤っぽくなることが期待される.
この効果は小型の惑星にとっては重大な問題である.大気のスケールハイトが小さいことと,惑星と恒星の半径比が小さいことから,トランジット深さの波長による本質的な変動は,もしエアロゾルが大気に存在しない場合であったとしても小さいものになってしまい,系統誤差と同程度のオーダーとなる.
いくつかの系外惑星の研究では,雲は灰色 (波長依存性のない) の不透明度として定義され,ヘイズはスペクトルにスロープを生じさせる散乱不透明度として寄与するものと定義されている.しかしここでは雲とヘイズを,惑星のスペクトルへの影響に基づいてではなく,その形成過程と物理特性に基づいて定義する.すなわち,雲は凝集したエアロゾル,ヘイズは光化学過程で形成されたエアロゾルであると定義する.
低質量の惑星が高い金属量を持つことは,コア降着過程を介した低質量惑星形成の自然な帰結である (Fortney et al. 2013など).高金属量大気とエアロゾル豊富な大気を見分けるのは難しく,高いシグナルノイズ比が必要だが,Benneke & Seager (2013) はスペクトル線のウィングの傾きの大きさの測定と,異なるスペクトルの特徴の相対的な吸収深さから,これらの大気組成の区別を行うための手法を提案している.
また,高金属量大気とエアロゾル豊富な大気は,スペクトルの短波長と長波長両方において違いが生じ始めるため,それによって縮退を破ることが出来る可能性がある.
大気中のエアロゾル粒子による透過光の散乱がある場合,短波長側でトランジット深さが深くなる.
一方で雲無し大気の場合,0.5 µm 周辺でトランジット深さが最小になる.0.5 µm より短波長側ではレイリー散乱が主要になり,また 0.9 µm より長波長側では大気中の分子の不透明度が主要になる,
また,大きなエアロゾル粒子がある大気の場合は,可視光の波長では平坦な透過スペクトルとなる.加えて,ナトリウムとカリウム原子による吸収が系外惑星大気には見られる.これらの特徴付けから,赤外線スペクトルで探査できる範囲よりも低い圧力での大気の情報を得ることが出来る.
可視光でのナトリウムとカリウムの特徴が欠如している場合,これらの元素が雲として凝集している可能性が示唆される.例えば KCl や Na2S などである (Morley et al. 2013).
黒点など恒星表面の影響については,中心星の測光モニタリングから,黒点やプラージュのフィリングファクターを調べることが出来る.またこの観測からは,恒星の活動サイクルを知ることも出来る.
この惑星は視線速度法によって発見された (Butler et al. 2004).海王星質量の系外惑星としては初めて発見された惑星である,
その後,この惑星のトランジットが検出された (Gillon et al. 2007).
ハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 で観測されたトランジット分光観測からは,この惑星の透過スペクトルは特徴に欠けていることが分かった.そのため,雲無しで水素主体の大気を持つ可能性は棄却された (Knutson et al. 2014).
さらにスピッツァー宇宙望遠鏡での観測では,大気からの CH4 (メタン) の検出が主張され,同時に CO (一酸化炭素) と CO2 (二酸化炭素) の特徴は見られないことが報告された (Beaulier et al. 2011).しかしこれは Knutson et al. (2011) によって反論されている.恒星の活動が,波長だけではなく時間とともにスペクトルを変化させると仮定している.新しい手法でデータ解析をした結果,透過スペクトルは波長によらず一定であり,トランジット時期によらず変化しないことが発見された (Lanotte et al. 2014, Morello et al. 2015).
惑星の平衡温度は 700 - 800 K であるため,化学平衡状態であれば,炭素含有種はメタンが最も多いことが示唆される.しかし Stevenson et al. (2010) では,メタンではなく一酸化炭素が多いことが示唆された.後の研究でも,この惑星は一酸化炭素と二酸化炭素が多く,メタンが少ない事が支持されている (Madhusudhan & Seager 2011など).
予想に反してメタンが少なく,逆に一酸化炭素が多いという食い違いは,大気中の鉛直方向の混合と,惑星内部での潮汐加熱のような不平衡過程によって説明できる可能性がある.
なお,光化学過程ではメタンの欠乏を説明できないと考えられる (Line et al. 2011).これは,推定されるメタンの破壊率は,観測を説明するには小さすぎるためである.
もし金属量が太陽の 1000 倍のオーダーであれば,雲無し大気であっても依然として観測を説明可能である.しかし低金属量の場合は,観測と一致するような特徴に欠けたスペクトルを説明するためには,雲が必要である.
また,潮汐などの内部加熱を伴う不平衡過程によるメタンの欠乏が観測データと合うことも指摘されている.これは,海王星惑星サイズにおける一酸化炭素の増加とメタンの欠乏が,高い金属量を持つ大気の自然な帰結であるという過去のモデルと整合する (Moses et al. 2013).
arXiv:1801.00412
Lothringer et al. (2018)
An HST/STIS Optical Transmission Spectrum of Warm Neptune GJ 436b
(ウォームネプチューン GJ 436b のハッブル宇宙望遠鏡/STIS 可視光透過スペクトル)
概要
GJ 436b は,warm Neptune (ウォームネプチューン) のタイプの惑星大気を理解するための主要なターゲットであり,打ち上げが予定されているジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (JWST) の Guaranteed Time Observation (GTO) プログラムの観測ターゲットでもある.このプログラムでは,0.7 - 11 µm の波長で,惑星の二次食を複数回観測する予定である.ここでは,この惑星の初めての宇宙空間からの可視光透過スペクトルについて報告する.
観測はハッブル宇宙望遠鏡の STIS を用いて行い,観測波長は 0.53 - 1.03 µm である.
その結果,スペクトル中にアルカリ金属による吸収特徴の兆候は見られなかった.また 0.53 µm より長波長での散乱スロープの兆候も見られなかった.
スペクトルからは,中間的あるいは高い大気の金属量が示唆され,太陽金属量の ~ 100 - 1000 倍と推定される,ただし,中間的な金属量である場合 (太陽金属量の ~ 100 倍) は,スペクトルを説明するためには大気中のエアロゾルによる不透明度が必要である.
また,可視光のスペクトルは,大きく散乱を起こすヘイズが存在するというモデルを棄却する.
波長 0.8 µm 周辺でのトランジット深さの増加は,今回の観測結果をあわせて 3 つの sub-Jovian (木星より軽い) 系外惑星で発見されたことになる (GJ 436b,HAT-P-26b,GJ 1214b).これらのデータのほとんどはハッブル宇宙望遠鏡の STIS を用いて取得されているものだが,STIS 以外の異なる 3 つの装置からも同様の結果が得られており,これは機器の影響ではないことを示唆している.
これらのうち,GJ 1214b のトランジットスペクトルだけが,主星の光球面にプラージュが存在するとするモデルと合致する.
中心星の測光モニタリングからは,GJ 436 の自転周期は 44.1 日で,活動サイクルは 7.4 年と推定された.
興味深いことに,GJ 436 は明るさが暗くなるにつれてより赤っぽい色を示さないという特徴を持つ.もし恒星の明るさの変動の大部分が黒点による影響である場合は,暗くなっている時期はスペクトルが赤っぽくなることが期待される.
背景
惑星大気中の雲とヘイズ
系外惑星の大気中では,凝縮物による雲や,光化学反応によるヘイズ (炭化水素など) といったエアロゾルが生成される.このエアロゾルは,大気のスペクトルの特徴を減少させてしまう効果を持つ.この効果は小型の惑星にとっては重大な問題である.大気のスケールハイトが小さいことと,惑星と恒星の半径比が小さいことから,トランジット深さの波長による本質的な変動は,もしエアロゾルが大気に存在しない場合であったとしても小さいものになってしまい,系統誤差と同程度のオーダーとなる.
いくつかの系外惑星の研究では,雲は灰色 (波長依存性のない) の不透明度として定義され,ヘイズはスペクトルにスロープを生じさせる散乱不透明度として寄与するものと定義されている.しかしここでは雲とヘイズを,惑星のスペクトルへの影響に基づいてではなく,その形成過程と物理特性に基づいて定義する.すなわち,雲は凝集したエアロゾル,ヘイズは光化学過程で形成されたエアロゾルであると定義する.
高分子量大気 vs 雲・ヘイズ
高金属量の大気は,惑星のスペクトルに対してエアロゾルと同様の効果をもたらす.大気の金属量が高い場合は大気の平均分子量が大きくなるため,大気のスケールハイトを小さくする.スケールハイトが小さい場合は大気の透過スペクトルのシグナルも小さくなり,そのためスペクトルの特徴を減少させる.低質量の惑星が高い金属量を持つことは,コア降着過程を介した低質量惑星形成の自然な帰結である (Fortney et al. 2013など).高金属量大気とエアロゾル豊富な大気を見分けるのは難しく,高いシグナルノイズ比が必要だが,Benneke & Seager (2013) はスペクトル線のウィングの傾きの大きさの測定と,異なるスペクトルの特徴の相対的な吸収深さから,これらの大気組成の区別を行うための手法を提案している.
また,高金属量大気とエアロゾル豊富な大気は,スペクトルの短波長と長波長両方において違いが生じ始めるため,それによって縮退を破ることが出来る可能性がある.
大気中のエアロゾル粒子による透過光の散乱がある場合,短波長側でトランジット深さが深くなる.
一方で雲無し大気の場合,0.5 µm 周辺でトランジット深さが最小になる.0.5 µm より短波長側ではレイリー散乱が主要になり,また 0.9 µm より長波長側では大気中の分子の不透明度が主要になる,
また,大きなエアロゾル粒子がある大気の場合は,可視光の波長では平坦な透過スペクトルとなる.加えて,ナトリウムとカリウム原子による吸収が系外惑星大気には見られる.これらの特徴付けから,赤外線スペクトルで探査できる範囲よりも低い圧力での大気の情報を得ることが出来る.
可視光でのナトリウムとカリウムの特徴が欠如している場合,これらの元素が雲として凝集している可能性が示唆される.例えば KCl や Na2S などである (Morley et al. 2013).
恒星活動の影響
その他,中心星の光球面にある黒点が可視光の透過スペクトルにスロープを形成する事があるため,可視光の透過スペクトルのスロープを解釈する際には注意が必要である.黒点など恒星表面の影響については,中心星の測光モニタリングから,黒点やプラージュのフィリングファクターを調べることが出来る.またこの観測からは,恒星の活動サイクルを知ることも出来る.
GJ 436b
GJ 436b の発見
GJ 436b は,21.4 地球質量 (1.25 海王星質量,0.0673 木星質量),4.2 地球半径 (1.1 海王星半径,0.37 木星半径) のウォームネプチューンである (Trifonov et al. 2017など).この惑星は視線速度法によって発見された (Butler et al. 2004).海王星質量の系外惑星としては初めて発見された惑星である,
その後,この惑星のトランジットが検出された (Gillon et al. 2007).
GJ 436b のトランジット分光観測
トランジット時のスペクトルは,ハッブル宇宙望遠鏡の NICMOS を用いて初めて取得された (Pont et al. 2009).この観測からは,1.4 µm での水の吸収に対して上限値を与えた.ハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 で観測されたトランジット分光観測からは,この惑星の透過スペクトルは特徴に欠けていることが分かった.そのため,雲無しで水素主体の大気を持つ可能性は棄却された (Knutson et al. 2014).
さらにスピッツァー宇宙望遠鏡での観測では,大気からの CH4 (メタン) の検出が主張され,同時に CO (一酸化炭素) と CO2 (二酸化炭素) の特徴は見られないことが報告された (Beaulier et al. 2011).しかしこれは Knutson et al. (2011) によって反論されている.恒星の活動が,波長だけではなく時間とともにスペクトルを変化させると仮定している.新しい手法でデータ解析をした結果,透過スペクトルは波長によらず一定であり,トランジット時期によらず変化しないことが発見された (Lanotte et al. 2014, Morello et al. 2015).
GJ 436b の二次食観測
GJ 436b の昼側のスペクトルは,スピッツァー宇宙望遠鏡での二次食の観測から得られている.惑星の平衡温度は 700 - 800 K であるため,化学平衡状態であれば,炭素含有種はメタンが最も多いことが示唆される.しかし Stevenson et al. (2010) では,メタンではなく一酸化炭素が多いことが示唆された.後の研究でも,この惑星は一酸化炭素と二酸化炭素が多く,メタンが少ない事が支持されている (Madhusudhan & Seager 2011など).
予想に反してメタンが少なく,逆に一酸化炭素が多いという食い違いは,大気中の鉛直方向の混合と,惑星内部での潮汐加熱のような不平衡過程によって説明できる可能性がある.
なお,光化学過程ではメタンの欠乏を説明できないと考えられる (Line et al. 2011).これは,推定されるメタンの破壊率は,観測を説明するには小さすぎるためである.
金属量の推定とメタンの欠乏
より最近の解析では,大気の金属量に対して 3 σ の下限値として太陽の 106 倍という推定値が得られている (Morley et al. 2017).もし金属量が太陽の 1000 倍のオーダーであれば,雲無し大気であっても依然として観測を説明可能である.しかし低金属量の場合は,観測と一致するような特徴に欠けたスペクトルを説明するためには,雲が必要である.
また,潮汐などの内部加熱を伴う不平衡過程によるメタンの欠乏が観測データと合うことも指摘されている.これは,海王星惑星サイズにおける一酸化炭素の増加とメタンの欠乏が,高い金属量を持つ大気の自然な帰結であるという過去のモデルと整合する (Moses et al. 2013).
PR
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック