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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1508.03084
Macintosh et al. (2015)
Discovery and spectroscopy of the young Jovian planet 51 Eri b with the Gemini Planet Imager
(GPIによる若い木星型惑星エリダヌス座51番星bの発見と分光観測)
恒星と惑星の投影距離は 13 AUである。
エリダヌス座51番星bの近赤外線観測から、強いメタンと水の吸収スペクトルが得られた。
スペクトルと測光観測からのモデルでは、惑星の光度は 1.6 - 4.0 × 10-6 太陽光度であり、有効温度は 600 - 750 Kと推定された。
これらの年齢と惑星の光度から、惑星が"hot-start"で形成されたとするモデルでは、惑星質量は 2木星質量であると推定される。
またこの惑星の低い光度は、木星と同じくコア集積による"cold-start"とも合うものである。
惑星の光度は、年齢と質量、初期条件の関数であり、つまり惑星の光度は惑星形成時の情報を得るための重要な物理量である。
惑星形成の初期条件には大きく分けて2つある。
・Hot-start
これは惑星が急速に形成されるモデルである。力学的タイムスケールでの原始惑星系円盤の不安定性によって惑星が形成される。
この形成方法では、高エントロピーの惑星が形成され、若い時に大きな光度を持つことになる。
・Cold-start
これは、まず固体コアが形成され、その後円盤内のガスが衝撃波を介して固体コアに降着して木星型惑星を形成するというものである。
この形成方法では初期のエントロピーは小さいため、hot-startによるものと比べると温度は低く、半径もわずかに小さくなる。
直接撮像で発見されている若い系外惑星は、ほとんどがcold-startで説明するには明るすぎる。
(ただし、cold-startでも降着時の衝撃波の様子が特別である場合は、高エントロピーになる場合もあり得る。)
エリダヌス座51番星は、近傍にあり若いため、初期の観測対象として選定されていた。
エリダヌス座51番星は、中間赤外、遠赤外領域に赤外超過があることが分かっている。これは、5.5 AU, 82 AUに軽いダストのベルトが存在することによるものだと考えられている。
また、2000 AUの距離に、お互いに6 AU離れたM型星の連星 (GJ 3305A, GJ 3305B)を持っている。
これら3つの恒星は、2001年にβ Pictoris moving group (がか座ベータ運動星団)の一員であるということが判明している。
がか座ベータ運動星団の年齢は 12 - 23 Myrであり、またリチウム欠乏の年齢制限から、エリダヌス座51番星は 20 ± 6 Myrと推定されている。
観測の結果、エリダヌス座51番星bを発見した。また、メタンと水の吸収を検出した。
2015年1月には波長の範囲を広げ、GPIで J band (1.25 μm)の観測を行った。さらに、NIRC2/W、Keck2 (3.8 μm)でも観測を行い、双方で惑星の存在を確認した。
惑星のスペクトルは、褐色矮星のスペクトル型で言うと T4.5 - T6に類似している。
一方cold-startの場合は、形成後 ~ 20 Myrでの光度は惑星質量にほとんど依存しない。
これらの解析より、エリダヌス座51番星bは 2 -12木星質量であると推定される。
エリダヌス座51番星は連星の伴星を持ってるが、エリダヌス座51番星bの軌道に大きな影響を与えるには遠い。
また若い系であるため、Lidov-Kozai振動が軌道離心率と軌道傾斜角に影響を与えることはあるものの、軌道離心率が非常に大きくなって潮汐が効き、惑星の軌道長半径を変えるほどの影響があったとは考えづらい。
そのため、惑星は現在ある場所周辺で形成されたものだと考えられる。
太陽型星まわりの15 AUの位置にある2木星質量の惑星は、コア集積モデルの枠組みで説明可能である。
大気にメタンを多く含むスペクトルを持ち、光度が小さい、おそらくは低エントロピー状態の初期条件であったと考えられるエリダヌス座51番星bは、中心星から大きく離れた軌道を持ち、高温でより重い惑星と、木星型惑星を繋ぐ存在であると考えられる。
スペクトル型:F0IV
質量:1.75太陽質量
光度:7.1太陽光度
距離:29.4 pc (~ 95.89光年)
年齢:20 ± 6 Myr
金属量:[M/H] = -0.027
・エリダヌス座51番星b
Cloud-free equilibrium model (SM-750K)での解析の結果は、有効温度 750 K、0.76木星半径、年齢が 10000 Myr、67木星質量となった。
半径の割に質量が大きすぎること、年齢がその他の観測と全く合わないことから、このモデルの結果は間違っていると考えられる。
(雲が存在しないという仮定は適用できない事を示唆)
Partial-cloud model (TB-700K)では、有効温度 700 K、1木星半径、年齢が 20 Myr、2木星質量となった。年齢はその他の観測からの推定とよく一致し、半径と質量もリーズナブルな範囲である。
「若い木星を発見」としてニュースにもなった系外惑星の発見報告論文です。
参考リンク
「若い木星」発見、地球から100光年の系外惑星 (AFPBB News)
リンク先には質量は木星の2倍と書かれていますが、これはあくまで見積もりの下限値であって、形成の初期条件やモデルによって不定性があるものです。
一般に、直接撮像で発見された惑星の質量は惑星の光度と年齢から決定しますが、形成過程の違いがこの見積もりに大きな影響を及ぼすので、誤差も大きくなります。
arXiv:1508.03084
Macintosh et al. (2015)
Discovery and spectroscopy of the young Jovian planet 51 Eri b with the Gemini Planet Imager
(GPIによる若い木星型惑星エリダヌス座51番星bの発見と分光観測)
概要
Gemini Planet Imager (GPI)を用いて、若い(~ 20 Myr)恒星であるエリダヌス座51番星 (51 Eridani, 51 Eri)の周りに直接撮像によって惑星を発見した。恒星と惑星の投影距離は 13 AUである。
エリダヌス座51番星bの近赤外線観測から、強いメタンと水の吸収スペクトルが得られた。
スペクトルと測光観測からのモデルでは、惑星の光度は 1.6 - 4.0 × 10-6 太陽光度であり、有効温度は 600 - 750 Kと推定された。
これらの年齢と惑星の光度から、惑星が"hot-start"で形成されたとするモデルでは、惑星質量は 2木星質量であると推定される。
またこの惑星の低い光度は、木星と同じくコア集積による"cold-start"とも合うものである。
Hot-startとcold-start
系外惑星の直接撮像の観測からは、惑星の光度が分かる。惑星の光度は、年齢と質量、初期条件の関数であり、つまり惑星の光度は惑星形成時の情報を得るための重要な物理量である。
惑星形成の初期条件には大きく分けて2つある。
・Hot-start
これは惑星が急速に形成されるモデルである。力学的タイムスケールでの原始惑星系円盤の不安定性によって惑星が形成される。
この形成方法では、高エントロピーの惑星が形成され、若い時に大きな光度を持つことになる。
・Cold-start
これは、まず固体コアが形成され、その後円盤内のガスが衝撃波を介して固体コアに降着して木星型惑星を形成するというものである。
この形成方法では初期のエントロピーは小さいため、hot-startによるものと比べると温度は低く、半径もわずかに小さくなる。
直接撮像で発見されている若い系外惑星は、ほとんどがcold-startで説明するには明るすぎる。
(ただし、cold-startでも降着時の衝撃波の様子が特別である場合は、高エントロピーになる場合もあり得る。)
エリダヌス座51番星での惑星発見
エリダヌス座51番星の概要
Gemini Planet Imager (GPI)による、Gemini Planet Imager Exoplanet Survey (GPIES)では、600個あまりの近傍の若い恒星をターゲットとして観測している。エリダヌス座51番星は、近傍にあり若いため、初期の観測対象として選定されていた。
エリダヌス座51番星は、中間赤外、遠赤外領域に赤外超過があることが分かっている。これは、5.5 AU, 82 AUに軽いダストのベルトが存在することによるものだと考えられている。
また、2000 AUの距離に、お互いに6 AU離れたM型星の連星 (GJ 3305A, GJ 3305B)を持っている。
これら3つの恒星は、2001年にβ Pictoris moving group (がか座ベータ運動星団)の一員であるということが判明している。
がか座ベータ運動星団の年齢は 12 - 23 Myrであり、またリチウム欠乏の年齢制限から、エリダヌス座51番星は 20 ± 6 Myrと推定されている。
エリダヌス座51番星bの発見
2014年12月に、H band (1.65 μm)で観測を行った。この観測はGPIESの44番目のターゲットであった。観測の結果、エリダヌス座51番星bを発見した。また、メタンと水の吸収を検出した。
2015年1月には波長の範囲を広げ、GPIで J band (1.25 μm)の観測を行った。さらに、NIRC2/W、Keck2 (3.8 μm)でも観測を行い、双方で惑星の存在を確認した。
惑星のスペクトルは、褐色矮星のスペクトル型で言うと T4.5 - T6に類似している。
エリダヌス座51番星bの特徴
この惑星がhot-startで形成されたとする場合、惑星の光度からは質量は2木星質量と推定される。一方cold-startの場合は、形成後 ~ 20 Myrでの光度は惑星質量にほとんど依存しない。
これらの解析より、エリダヌス座51番星bは 2 -12木星質量であると推定される。
エリダヌス座51番星は連星の伴星を持ってるが、エリダヌス座51番星bの軌道に大きな影響を与えるには遠い。
また若い系であるため、Lidov-Kozai振動が軌道離心率と軌道傾斜角に影響を与えることはあるものの、軌道離心率が非常に大きくなって潮汐が効き、惑星の軌道長半径を変えるほどの影響があったとは考えづらい。
そのため、惑星は現在ある場所周辺で形成されたものだと考えられる。
太陽型星まわりの15 AUの位置にある2木星質量の惑星は、コア集積モデルの枠組みで説明可能である。
大気にメタンを多く含むスペクトルを持ち、光度が小さい、おそらくは低エントロピー状態の初期条件であったと考えられるエリダヌス座51番星bは、中心星から大きく離れた軌道を持ち、高温でより重い惑星と、木星型惑星を繋ぐ存在であると考えられる。
諸物理量
・エリダヌス座51番星スペクトル型:F0IV
質量:1.75太陽質量
光度:7.1太陽光度
距離:29.4 pc (~ 95.89光年)
年齢:20 ± 6 Myr
金属量:[M/H] = -0.027
・エリダヌス座51番星b
Cloud-free equilibrium model (SM-750K)での解析の結果は、有効温度 750 K、0.76木星半径、年齢が 10000 Myr、67木星質量となった。
半径の割に質量が大きすぎること、年齢がその他の観測と全く合わないことから、このモデルの結果は間違っていると考えられる。
(雲が存在しないという仮定は適用できない事を示唆)
Partial-cloud model (TB-700K)では、有効温度 700 K、1木星半径、年齢が 20 Myr、2木星質量となった。年齢はその他の観測からの推定とよく一致し、半径と質量もリーズナブルな範囲である。
「若い木星を発見」としてニュースにもなった系外惑星の発見報告論文です。
参考リンク
「若い木星」発見、地球から100光年の系外惑星 (AFPBB News)
リンク先には質量は木星の2倍と書かれていますが、これはあくまで見積もりの下限値であって、形成の初期条件やモデルによって不定性があるものです。
一般に、直接撮像で発見された惑星の質量は惑星の光度と年齢から決定しますが、形成過程の違いがこの見積もりに大きな影響を及ぼすので、誤差も大きくなります。
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