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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1805.07328
Diamond-Lowe et al. (2018)
Ground-based optical transmission spectroscopy of the small, rocky exoplanet GJ 1132b
(小さい岩石系外惑星 GJ 1132b の地上からの可視光透過スペクトル)
これまでの系外惑星大気の研究の大部分は,ホットジュピターとホットネプチューンに集中していた.しかし最近は,小さい岩石系外惑星が小さい太陽系近傍の恒星をトランジットしているのが発見されており,岩石惑星の大気研究の対象として適している.
GJ 1132b は,半径 1.2 地球半径,質量 1.6 地球質量の惑星である.中心星 GJ 1133 は M 型星であり,太陽系から 12 パーセク離れた位置にある.この惑星のトランジットを 5 回観測した.観測には,Magellan Clay Telescope と LDSS3C 多天体分光装置を用いた.
ベストフィットのトランジットパラメータを決定する際に,白色光の光度曲線と,波長で区切った光度曲線の両方を使用して解析を行った.また惑星大気の透過スペクトルを得るために,光度曲線を 20 nm 幅の波長バンドに分割して解析した.
今回の観測の結果,この惑星の大気が,雲を持たず,金属量が太陽の 10 倍程度である可能性は 3.7 σ の信頼度で否定された,また,水蒸気が 10%,水素分子が 90% という組成の大気である可能性は 3.5 σ で否定された.
今回のデータからは,この惑星の大気の透過スペクトルは明確な特徴を示さなかった.したがってこの惑星は,高分子量の大気を持っているか,あるいは大気を持たないかのどちらかであることが示唆される.ただしここでは大気中のエアロゾルの存在の可能性は考慮していない.
今回の結果は,GJ 1132b 程度の質量と日射量の惑星では,水素分子主体のガスエンベロープを保持することができないことを示唆するこれまでの理論的な研究と一致する.
GJ 1132b は 1.2 地球半径,1.6 地球質量であり.質量と半径からは,地球と金星に似た,鉄と岩石主体の組成と整合的である (Berta-Thompson et al. 2015).
探査対象は低平均分子量の大気の特徴だが,水素そのものは強い吸収源ではないため,透過スペクトルから検出するのは難しい.その代わりに,大気成分はよく混合していると仮定して,トレーサーとなる分子,例えば水やメタンなどの特徴を捉えることを目指す.これらの分子は,可視光から近赤外の波長で大きな吸収断面積を持つ.
さらなる観測データを得た場合に,高い平均分子量の大気がある可能性を否定できるのか,あるいは同じ結論により少ないデータで到達できるのかを検証するために,テストケースの解析を行った.
その結果,低平均分子量の大気の存在を高い信頼度で排除するためには,今回得た 5 回のトランジットのデータ全てが必要であることが分かった.
理論的には,最も高い平均分子量を持つ大気 (ここでは,太陽金属量の 1000 倍で,水蒸気が 100% の大気) を持つ可能性を排除するためには,8 回のトランジット観測が必要である,この推定値は最小値だが,ここではフォトンノイズ限界を達成していないため,誤差の大きさは分析に用いるデータセットの数の平方根分は減少しない.
将来の超巨大望遠鏡を用いた観測の場合は,地球型系外惑星の大気の検出と特徴付けが視野に入る.
ケプラーで得られた大量の系外惑星のデータには,1.6 地球半径よりも小さい近接惑星は岩石主体であり,低密度のエンベロープを持っているものは欠乏しているという統計的な証拠がある (Rogers 2015,Fulton et al. 2017).
その結果,この惑星の大気は薄く,生命由来ではない酸素分子を主成分としていると推定した.このような大気は,以下のように生成しうる.
まず,この惑星大気中の水蒸気は中心星からの強い紫外線により,水素と酸素に光解離する.水素は宇宙空間へと散逸し,この際にいくらかの酸素も一緒に散逸していく.ただし水素と酸素では散逸率が異なることと,酸素は惑星内部に持ち去られる過程があることにより,いくらかの酸素は酸素分子を形成して大気中に残ることが可能となる.
この過程に,窒素分子や二酸化炭素などの更なる大気ガスを含んだモデリングは興味深い研究対象である.
もし大気が酸素分子主体の場合は,現在の装置での検出は難しい.これは,酸素主体の大気は平均分子量が比較的大きいことだけではなく,酸素はスペクトルの特徴に乏しいことも原因である.
幸い,酸素分子の光解離はオゾン分子の生成につながる.オゾン分子は形状が非対称性であるため,大きな振幅のスペクトル特徴を生み出し,検出には適している.
金星の場合は二酸化炭素の厚い大気を持ち,タイタンは大気中に検出可能な量のメタンを含んでいる.これらの分子は観測可能なスペクトルの特徴を持つ.
もしこれらの分子が GJ 1132b に存在した場合,オンラインの Pand Exo コード (Batalha et al. 2017,Morley et al. 2017) を用いて計算すると,ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で 10 回のトランジット観測を行えば検出可能であると予測される.
より遠方にある地球型惑星は大気探査の対象として適している可能性がある.例えば LHS 1140b は,日射量が地球の 0.46 倍であり,また高い表面重力を持つ.そのため,大量の大気散逸を経験していない可能性がある (Dittmann et al. 2017).
arXiv:1805.07328
Diamond-Lowe et al. (2018)
Ground-based optical transmission spectroscopy of the small, rocky exoplanet GJ 1132b
(小さい岩石系外惑星 GJ 1132b の地上からの可視光透過スペクトル)
概要
太陽系の地球型惑星は,金星・火星・地球のように高分子量の大気を持っているか,あるいは水星のように大気を持たないかのどちらかである.これが地球型惑星にとって典型的な状態なのか,あるいは太陽系特有の状態なのかについて,現在のところは十分な観測的情報が存在しない.これまでの系外惑星大気の研究の大部分は,ホットジュピターとホットネプチューンに集中していた.しかし最近は,小さい岩石系外惑星が小さい太陽系近傍の恒星をトランジットしているのが発見されており,岩石惑星の大気研究の対象として適している.
GJ 1132b は,半径 1.2 地球半径,質量 1.6 地球質量の惑星である.中心星 GJ 1133 は M 型星であり,太陽系から 12 パーセク離れた位置にある.この惑星のトランジットを 5 回観測した.観測には,Magellan Clay Telescope と LDSS3C 多天体分光装置を用いた.
ベストフィットのトランジットパラメータを決定する際に,白色光の光度曲線と,波長で区切った光度曲線の両方を使用して解析を行った.また惑星大気の透過スペクトルを得るために,光度曲線を 20 nm 幅の波長バンドに分割して解析した.
今回の観測の結果,この惑星の大気が,雲を持たず,金属量が太陽の 10 倍程度である可能性は 3.7 σ の信頼度で否定された,また,水蒸気が 10%,水素分子が 90% という組成の大気である可能性は 3.5 σ で否定された.
今回のデータからは,この惑星の大気の透過スペクトルは明確な特徴を示さなかった.したがってこの惑星は,高分子量の大気を持っているか,あるいは大気を持たないかのどちらかであることが示唆される.ただしここでは大気中のエアロゾルの存在の可能性は考慮していない.
今回の結果は,GJ 1132b 程度の質量と日射量の惑星では,水素分子主体のガスエンベロープを保持することができないことを示唆するこれまでの理論的な研究と一致する.
GJ 1132b について
中心星の GJ 1132 はスペクトル型が M4.5V である,GJ 1132b は 1.2 地球半径,1.6 地球質量であり.質量と半径からは,地球と金星に似た,鉄と岩石主体の組成と整合的である (Berta-Thompson et al. 2015).
探査対象は低平均分子量の大気の特徴だが,水素そのものは強い吸収源ではないため,透過スペクトルから検出するのは難しい.その代わりに,大気成分はよく混合していると仮定して,トレーサーとなる分子,例えば水やメタンなどの特徴を捉えることを目指す.これらの分子は,可視光から近赤外の波長で大きな吸収断面積を持つ.
地球型系外惑星大気の地上からの検出について
今回のデータリダクションでは,地球型系外惑星の大気を地上観測から検出する試みにおける困難さが提示された.系外惑星大気によるシグナルが小さく,トランジット深さは 0.24% であり,さらに地球大気による変動の大きさが 0.02% である.また今回の観測では,フォトンノイズ限界に到達しなかった.さらなる観測データを得た場合に,高い平均分子量の大気がある可能性を否定できるのか,あるいは同じ結論により少ないデータで到達できるのかを検証するために,テストケースの解析を行った.
その結果,低平均分子量の大気の存在を高い信頼度で排除するためには,今回得た 5 回のトランジットのデータ全てが必要であることが分かった.
理論的には,最も高い平均分子量を持つ大気 (ここでは,太陽金属量の 1000 倍で,水蒸気が 100% の大気) を持つ可能性を排除するためには,8 回のトランジット観測が必要である,この推定値は最小値だが,ここではフォトンノイズ限界を達成していないため,誤差の大きさは分析に用いるデータセットの数の平方根分は減少しない.
将来の超巨大望遠鏡を用いた観測の場合は,地球型系外惑星の大気の検出と特徴付けが視野に入る.
GJ 1132b の理論的な大気
GJ 1132b の特徴
GJ 1132b は半径が 1.2 地球半径と小さく,日射量は地球の 19 倍と高いため,もしこの惑星が低平均分子量の大気を持っていた場合は驚くべきことである.理論進化モデルと恒星からの極端紫外線照射による質量損失モデルに基づくと,この惑星は水素・ヘリウム主体のエンベロープを保持するのは不可能であると予想される (Lopez & Fortney 2013).ケプラーで得られた大量の系外惑星のデータには,1.6 地球半径よりも小さい近接惑星は岩石主体であり,低密度のエンベロープを持っているものは欠乏しているという統計的な証拠がある (Rogers 2015,Fulton et al. 2017).
酸素主体の大気を持つ可能性
Schaefer et al. (2016) は,GJ 1132b の大気と内部の結合を含めたモデルを構築した.ここでの結合とは,大気と惑星内部との間での酸素の交換である.その結果,この惑星の大気は薄く,生命由来ではない酸素分子を主成分としていると推定した.このような大気は,以下のように生成しうる.
まず,この惑星大気中の水蒸気は中心星からの強い紫外線により,水素と酸素に光解離する.水素は宇宙空間へと散逸し,この際にいくらかの酸素も一緒に散逸していく.ただし水素と酸素では散逸率が異なることと,酸素は惑星内部に持ち去られる過程があることにより,いくらかの酸素は酸素分子を形成して大気中に残ることが可能となる.
この過程に,窒素分子や二酸化炭素などの更なる大気ガスを含んだモデリングは興味深い研究対象である.
もし大気が酸素分子主体の場合は,現在の装置での検出は難しい.これは,酸素主体の大気は平均分子量が比較的大きいことだけではなく,酸素はスペクトルの特徴に乏しいことも原因である.
幸い,酸素分子の光解離はオゾン分子の生成につながる.オゾン分子は形状が非対称性であるため,大きな振幅のスペクトル特徴を生み出し,検出には適している.
その他の大気成分の可能性
また,別の分子主体の大気を持つ可能性もある.金星の場合は二酸化炭素の厚い大気を持ち,タイタンは大気中に検出可能な量のメタンを含んでいる.これらの分子は観測可能なスペクトルの特徴を持つ.
もしこれらの分子が GJ 1132b に存在した場合,オンラインの Pand Exo コード (Batalha et al. 2017,Morley et al. 2017) を用いて計算すると,ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で 10 回のトランジット観測を行えば検出可能であると予測される.
GJ 1132b およびその他の地球型惑星の大気観測の可能性
この惑星の日射量を考えると,高平均分子量の大気を持っているか,あるいは大気を持たないかのどちらかだろうと予測される.これは TRAPPIST-1 の惑星たちにも言えることである (Gillon et al. 2017,de Wit et al. 2018).より遠方にある地球型惑星は大気探査の対象として適している可能性がある.例えば LHS 1140b は,日射量が地球の 0.46 倍であり,また高い表面重力を持つ.そのため,大量の大気散逸を経験していない可能性がある (Dittmann et al. 2017).
※関連記事
天文・宇宙物理関連メモ vol.389 Gillon et al. (2017) TRAPPIST-1 まわりの 7 つの惑星の発見
天文・宇宙物理関連メモ vol.737 de Wit et al. (2018) TRAPPIST-1 の惑星の大気観測と雲無し水素大気の棄却
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天文・宇宙物理関連メモ vol.123 Berta-Thompson et al. (2015) 太陽近傍での岩石惑星 GJ 1132bの発見