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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1805.08405
Santerne et al. (2018)
An Earth-sized exoplanet with a Mercury-like composition
(水星的な組成の地球サイズ系外惑星)
この金属豊富な水星の組成を説明するために,形成過程や進化過程に関する様々な説が提唱されている.例えば巨大衝突,マントルの蒸発,原始惑星系円盤の内縁での岩石成分の枯渇などである.
ここでは,複数のトランジット惑星を持つ K2-229 系の発見について報告する,
この系の最も内側を公転する惑星 K2-229b は,半径が 1.165 地球半径,質量は 2.59 地球質量である.この地球サイズの惑星のコア質量割合の推定値は水星に匹敵するが,一方で中心星の化学組成に基づくと,組成は地球に似ていることが期待される.
この大きな水星類似天体は,非常に独特の組成から形成されたか,あるいは例えばマントルの一部を失う過程を経て形成されたかだと考えられる.
K2-229b のさらなる特徴付けを行うことで,水星のその場観測 (Messenger, BepiColombo) の理解に繋がるだろうと期待される.
K2 の観測から,周期 14 時間と 8.3 日の 2 つのトランジットシグナルが検出された,また,これらとは別の一回ののトランジット状シグナルも検出された.これらをそれぞれ K2-229b, c, d とする.
また HARPS を用いて視線速度観測を行い,トランジット候補を惑星と確定させるとともに,各惑星の質量をドップラー分光から推定した.
トランジットが 1 回しか観測されていない K2-229d については 2 つの軌道解が存在し.それぞれ軌道周期は 31 日か 50 日程度である.しかし,軌道安定性の観点から,長周期の解は排除される.これは長周期の解を採用した場合,観測された K2-229d の比較的短いトランジット継続時間を説明するためには,K2-229d が大きな軌道離心率を持っている必要があるが,その場合 K2-229d がK2-229c の軌道と交差してしまうためである.
現在の恒星の X 線輻射とそれに伴う熱的散逸では,惑星の大気を十分に剥がせないと考えられる.
他の極めて高温な岩石惑星では,その質量と半径から (水星ではなく) 地球に似た組成だと考えられるものが発見されている.一方で,温暖でおそらくは金属量豊富な岩石惑星も発見されている (LHS 1140b).そのため,恒星からの輻射は惑星全体の質量の数%以上の質量損失率 (したがってマントル蒸発) には寄与しない可能性がある.
この惑星は軌道長半径が 0.012 AU と中心星の非常に近くを公転しているため,中心星との磁気的相互作用を介した岩石蒸気の薄い層の散逸が起きたという可能性はある.また,強い恒星風とフレアが惑星の大気を侵食する可能性もある.
しかしこの機構は,惑星が固有の磁気圏を持っていた場合は非効率的になる.これは磁気圏は大気を恒星風や磁気的な影響による蒸発から守る働きがあるためである.
惑星からの散逸が存在する場合,彗星状の尾の検出がこのような蒸発の証拠になりうる.コア質量割合と惑星周辺の磁気的環境の相関を探ることによって,この仮説における磁場の重要さの情報を得ることが出来る.
しかし,テイア的な天体が岩石惑星のマントルを除去して,水星よりさらに重い天体を形成するためには,初期質量や衝突速度といった初期条件がどうあればいいかという,巨大衝突のさらなるモデリングが必要である.
しかし,水星と地球的惑星の特性 (軌道間隔とコア質量割合の関係) を仮定しても,形成状況と最も内側の惑星の組成の間には明確な相関がない.一つの可能性は,地球類似の惑星は,水星的な組成の惑星が形成された場所よりもより外側で形成されたというものである.
光泳動シナリオに関する,さらなる理論的な研究が必要である.
K2-106b の組成と中心星の組成の明確な比較を行った研究は今の所存在しない.それでもこの発見は,水星に類似した組成の惑星の存在は,過去に考えられていたよりも一般的であることを示すものである.
金属量:[Fe/H] = -0.06
質量:0.837 太陽質量
半径:0.793 太陽半径
距離:104 pc
自転周期:18.1 日
年齢:54 億歳 (恒星進化トラックからの推定),30 億歳 (組成比からの推定)
軌道長半径:0.012888 AU
半径:1.164 地球半径
質量:2.59 地球質量
密度:8.9 g cm-3
平衡温度:1960 K (全球平均),2332K (昼側).アルベドがゼロと仮定,昼側温度は自転が同期していると仮定
軌道長半径:0.07577 AU
半径:2.12 地球半径
質量:21.3 地球質量未満
平衡温度:800 K (全球平均),962 K (昼側)
軌道離心率:0.39
軌道長半径:0.1830 AU
半径:2.65 地球半径
質量:25.1 地球質量未満
平衡温度:522 K (全球平均)
arXiv:1805.08405
Santerne et al. (2018)
An Earth-sized exoplanet with a Mercury-like composition
(水星的な組成の地球サイズ系外惑星)
概要
地球・金星・火星,およびいくつかの系外地球型惑星は,その質量と半径から,組成の 30% が金属コア,70% が岩石マントルという構造だと考えられる.一方で太陽系の最も内側にいる水星は組成が大きく異なり,70% が金属コアで 30% が岩石マントルだと考えられている.この金属豊富な水星の組成を説明するために,形成過程や進化過程に関する様々な説が提唱されている.例えば巨大衝突,マントルの蒸発,原始惑星系円盤の内縁での岩石成分の枯渇などである.
ここでは,複数のトランジット惑星を持つ K2-229 系の発見について報告する,
この系の最も内側を公転する惑星 K2-229b は,半径が 1.165 地球半径,質量は 2.59 地球質量である.この地球サイズの惑星のコア質量割合の推定値は水星に匹敵するが,一方で中心星の化学組成に基づくと,組成は地球に似ていることが期待される.
この大きな水星類似天体は,非常に独特の組成から形成されたか,あるいは例えばマントルの一部を失う過程を経て形成されたかだと考えられる.
K2-229b のさらなる特徴付けを行うことで,水星のその場観測 (Messenger, BepiColombo) の理解に繋がるだろうと期待される.
K2-229 系について
K2-229 系の概要
中心星は K2-229 (EPIC 228801451) であり,ケプラーの K2 ミッションの Campaign 10 の期間に観測された.等級は V = 11 で,スペクトル型は晩期 G/早期 K 型星である.K2 の観測から,周期 14 時間と 8.3 日の 2 つのトランジットシグナルが検出された,また,これらとは別の一回ののトランジット状シグナルも検出された.これらをそれぞれ K2-229b, c, d とする.
また HARPS を用いて視線速度観測を行い,トランジット候補を惑星と確定させるとともに,各惑星の質量をドップラー分光から推定した.
K2-229 系の 3 つの惑星
最も内側を公転する K2-229b は,2.59 地球質量,1.165 地球半径であり,平均密度 8.9 g cm-3 である.K2-229c と K2-229d はそれぞれ 21.3 地球質量未満,25.1 地球質量未満であり.半径はそれぞれ 2.12 地球半径,2.65 地球半径である.トランジットが 1 回しか観測されていない K2-229d については 2 つの軌道解が存在し.それぞれ軌道周期は 31 日か 50 日程度である.しかし,軌道安定性の観点から,長周期の解は排除される.これは長周期の解を採用した場合,観測された K2-229d の比較的短いトランジット継続時間を説明するためには,K2-229d が大きな軌道離心率を持っている必要があるが,その場合 K2-229d がK2-229c の軌道と交差してしまうためである.
水星に似た組成を持つ K2-229b とその起源
K2-229b の内部構造について,コア質量割合 (全質量に占めるコア質量の割合) は 68% と推定される.そのためこの惑星は,太陽系の水星の大きい版の類似天体と言える.岩石マントルの蒸発仮説
水星と比較すると軌道はより中心星に近く,軌道周期は 14 時間である.自転が公転と同期していると仮定すると,昼側の温度は最大で 2330 K になる.そのため,水星よりもマントル蒸発に対しては敏感な可能性がある.現在の恒星の X 線輻射とそれに伴う熱的散逸では,惑星の大気を十分に剥がせないと考えられる.
他の極めて高温な岩石惑星では,その質量と半径から (水星ではなく) 地球に似た組成だと考えられるものが発見されている.一方で,温暖でおそらくは金属量豊富な岩石惑星も発見されている (LHS 1140b).そのため,恒星からの輻射は惑星全体の質量の数%以上の質量損失率 (したがってマントル蒸発) には寄与しない可能性がある.
この惑星は軌道長半径が 0.012 AU と中心星の非常に近くを公転しているため,中心星との磁気的相互作用を介した岩石蒸気の薄い層の散逸が起きたという可能性はある.また,強い恒星風とフレアが惑星の大気を侵食する可能性もある.
しかしこの機構は,惑星が固有の磁気圏を持っていた場合は非効率的になる.これは磁気圏は大気を恒星風や磁気的な影響による蒸発から守る働きがあるためである.
惑星からの散逸が存在する場合,彗星状の尾の検出がこのような蒸発の証拠になりうる.コア質量割合と惑星周辺の磁気的環境の相関を探ることによって,この仮説における磁場の重要さの情報を得ることが出来る.
巨大衝突によるマントル剥ぎ取り仮説
その他の仮説としては,水星はテイアのような天体との巨大衝突を経験して岩石の外層を失ったというものがある.これが水星に類似した組成の系外惑星の形成に関与しているとすると,このような惑星の存在と複数惑星の軌道配置は相関している可能性がある.この場合,比較的大きい系外惑星の探査対象としても有望であるかもしれない.しかし,テイア的な天体が岩石惑星のマントルを除去して,水星よりさらに重い天体を形成するためには,初期質量や衝突速度といった初期条件がどうあればいいかという,巨大衝突のさらなるモデリングが必要である.
形成領域での岩石枯渇仮説
さらに別の仮説として,原始惑星系円盤中での光泳動が水星のような金属豊富な惑星を形成する機構である可能性がある.この機構では,原始惑星系円盤の最も内側領域では岩石成分が枯渇していたため,形成される惑星は金属豊富になると考える.もしこの機構が原因であるとすると,地球のような惑星を持つ恒星と中心星の特性の比較から,このような過程が発生する条件への制約を与えることが可能である.しかし,水星と地球的惑星の特性 (軌道間隔とコア質量割合の関係) を仮定しても,形成状況と最も内側の惑星の組成の間には明確な相関がない.一つの可能性は,地球類似の惑星は,水星的な組成の惑星が形成された場所よりもより外側で形成されたというものである.
光泳動シナリオに関する,さらなる理論的な研究が必要である.
その他の水星類似惑星
この論文の投稿後,当初は地球に似た組成とされていた K2-106b も,より鉄が豊富な組成であることが明らかにされた.K2-106b の組成と中心星の組成の明確な比較を行った研究は今の所存在しない.それでもこの発見は,水星に類似した組成の惑星の存在は,過去に考えられていたよりも一般的であることを示すものである.
パラメータ
K2-229
有効温度:5185 K金属量:[Fe/H] = -0.06
質量:0.837 太陽質量
半径:0.793 太陽半径
距離:104 pc
自転周期:18.1 日
年齢:54 億歳 (恒星進化トラックからの推定),30 億歳 (組成比からの推定)
K2-229b
軌道周期:0.584249 日軌道長半径:0.012888 AU
半径:1.164 地球半径
質量:2.59 地球質量
密度:8.9 g cm-3
平衡温度:1960 K (全球平均),2332K (昼側).アルベドがゼロと仮定,昼側温度は自転が同期していると仮定
K2-229c
軌道周期:8.32834 日軌道長半径:0.07577 AU
半径:2.12 地球半径
質量:21.3 地球質量未満
平衡温度:800 K (全球平均),962 K (昼側)
K2-229d
軌道周期:31.0 日軌道離心率:0.39
軌道長半径:0.1830 AU
半径:2.65 地球半径
質量:25.1 地球質量未満
平衡温度:522 K (全球平均)
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