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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2002.07847
Spalding & Adams (2020)
The Solar wind prevents re-accretion of debris after Mercury's giant impact
(太陽風が水星の巨大衝突後の破片の再降着を阻害する)
息の長いアイデアとしては,水星はかつては大きな岩石質マントルを持っていたが,太陽系の初期に発生した巨大衝突によって取り除かれたというものがある.このアイデアの問題点は,水星から放出された物質は,典型的には短い時間スケール (~数百万年) で水星に再び降着してしまうという点である.
ここでは,形成初期の太陽風が水星から放出された破片に十分な摩擦を与え,破片が再び水星表面に衝突する前に水星と交差する軌道から取り除きうることを示す.
具体的には,若い太陽は現在より強い太陽風を持っており,また自転も強く磁場も強かった.水星への巨大衝突の時間に応じて,この太陽風によって破片にかかるラム圧は,放出された破片のサイズに依存して,100 万年未満の時間スケールで破片を太陽系の外側に向かって押したり,あるいは太陽に向かって落下させたりする.
したがって巨大衝突仮説は,水星と太陽系外惑星,特に強い恒星風を持つ若い恒星に近い惑星において,惑星から岩石質のマントルを取り除くための有望な経路である.
水星の鉄の割合が多い原因は未解明であり,これまでに複数のモデルが提唱されている.
提唱されている仮説は大きく分けると,水星の岩石に対する鉄の割合が大きいのは始原的であるとするものと,水星は他の岩石惑星と同様にコンドライト組成で形成されたが,形成後に岩石が取り除かれたとするものがある.後者の岩石を取り除く原因としては,一般に巨大衝突が想定される.前者の始原的とするシナリオでは対照的に,鉄と岩石を,惑星に内包される前の原始惑星系物質の段階で分離するということが想定されている.
一般に,この温度起源説は惑星形成中の円盤の温度分布に関する現代的な見方とは非整合である (Armitage 2011など).また系外惑星では水星より短い軌道周期を持つものが多様に存在することとも矛盾するように思われる (Borucki 2016).
代替仮説としては,温度に依存しない物質の分離過程が提案されている.例えば光泳動 (Wurm et al. 2013,電気伝導率と関連),ガス摩擦 (Weidenschilling 1978,密度の分離が発生する),磁気的侵食 (Hubbard 2014,鉄豊富な物質が磁気的に集められる) というモデルが提唱されている.これらのメカニズムは原理的には水星の Fe/Si 比を再現できるが,それを引き起こすための原始惑星系円盤の条件として,他の知見からは予想されない,あるいは他の知見とは矛盾する条件を必要とするという難点がある.
現在も星周円盤の化学に関する分野の研究が進んでおり,始原的な Si と Fe の分化が原因であるという説についても否定されているわけではない.
巨大衝突説は他の場面でも注目されており,例えば月の形成,火星衛星の形成,冥王星・カロン系の形成,さらには天王星の傾いた自転軸の説明などでも登場する.
一般的には,水星の巨大衝突のシミュレーションでは,原始水星への高エネルギー衝突によって現在の水星の密度を説明する程度の質量を除去することが可能であり,現在の 2.25 倍の質量の原始水星から岩石マントルを取り除くことも可能であるという結果が得られている (Benz et al. 1988,2007など).
しかし,水星から蒸気として放出された岩石物質は凝縮して小球 (spherule) となり,衝突後も水星と交差する軌道にとどまる.そのため放出された物質は ~1000 万年の時間スケールで水星へと再降着してしまい,最終的な水星の密度は大きくは増加しない.
再降着問題の解決案としては,ポインティング・ロバートソン効果が挙げられる.これは cm サイズの粒子に対して,再降着と同程度の時間スケールで働く効果である.しかし光学的に厚い太陽中心の放出物リングは自己遮蔽を起こすため (Gladman & Coffey 2009),ポインティング・ロバートソン効果だけで水星への再降着を阻止できるかは明確ではない.
再降着を回避する別のシナリオとしては,より大きな衝突体が衝突を無傷で生き残り,水星のマントルを剥ぎ取ったというものがある (Asphaug et al. 2006など).他には,多数の小さい衝突が水星の表面を侵食したというものもある (Svesov 2011).
現在の太陽風による数 µm より大きい粒子への摩擦は,ポインティング・ロバートソン効果による摩擦効果のおおよそ 1/3 程度である.しかし,もし若い太陽が現在よりも強い太陽風を持っていた場合,太陽風による摩擦はより大きなものになる.
若い恒星の恒星風に関する直接的な測定例は少ないため,惑星形成期の恒星風の特性を決めるのは難しい.しかし太陽に似た恒星の恒星風は形成後時間とともに減少すると考えられ,観測では若いソーラーアナログでは恒星風の強度は現在の太陽の 100 倍にもなるとの示唆が得られている (Wood et al. 2014).対照的に,ポインティング・ロバートソン効果は初期の太陽系でも数倍程度しか変化しないと考えられる.
arXiv:2002.07847
Spalding & Adams (2020)
The Solar wind prevents re-accretion of debris after Mercury's giant impact
(太陽風が水星の巨大衝突後の破片の再降着を阻害する)
概要
水星は異常に大きな鉄の核を持っており,そのため惑星の平均密度は大きい.このような大きな鉄の含有量を説明するために,数多くの仮説が提案されている.息の長いアイデアとしては,水星はかつては大きな岩石質マントルを持っていたが,太陽系の初期に発生した巨大衝突によって取り除かれたというものがある.このアイデアの問題点は,水星から放出された物質は,典型的には短い時間スケール (~数百万年) で水星に再び降着してしまうという点である.
ここでは,形成初期の太陽風が水星から放出された破片に十分な摩擦を与え,破片が再び水星表面に衝突する前に水星と交差する軌道から取り除きうることを示す.
具体的には,若い太陽は現在より強い太陽風を持っており,また自転も強く磁場も強かった.水星への巨大衝突の時間に応じて,この太陽風によって破片にかかるラム圧は,放出された破片のサイズに依存して,100 万年未満の時間スケールで破片を太陽系の外側に向かって押したり,あるいは太陽に向かって落下させたりする.
したがって巨大衝突仮説は,水星と太陽系外惑星,特に強い恒星風を持つ若い恒星に近い惑星において,惑星から岩石質のマントルを取り除くための有望な経路である.
水星の巨大な核の原因
金星と地球と火星の組成は概ね共通しているが,水星は鉄の割合が非常に大きいという特徴がある.水星の鉄コアの半径はは水星全体の半径の 80% にもなるが,地球の鉄コア半径は地球全体の 50% 程度である.水星の質量は地球よりも一桁小さいにもかかわらず,平均密度は地球に匹敵する.水星の鉄の割合が多い原因は未解明であり,これまでに複数のモデルが提唱されている.
提唱されている仮説は大きく分けると,水星の岩石に対する鉄の割合が大きいのは始原的であるとするものと,水星は他の岩石惑星と同様にコンドライト組成で形成されたが,形成後に岩石が取り除かれたとするものがある.後者の岩石を取り除く原因としては,一般に巨大衝突が想定される.前者の始原的とするシナリオでは対照的に,鉄と岩石を,惑星に内包される前の原始惑星系物質の段階で分離するということが想定されている.
始原的な鉄と岩石の分離が発生したとする説
最初期のアイデアでは,現在の水星付近では原始惑星系円盤の温度が高く,岩石物質は気体で,鉄は固体で存在していたというモデルがあった (Urey 1951,Lewis 1973).その後の仮説でも,水星が形成された位置が高温であったことが原因だとする説があり,水星の軌道は水星の岩石マントルが蒸発して原始惑星系円盤ガスとともに除去されるに十分なほど高温だったとするモデルがある (Cameron 1985).一般に,この温度起源説は惑星形成中の円盤の温度分布に関する現代的な見方とは非整合である (Armitage 2011など).また系外惑星では水星より短い軌道周期を持つものが多様に存在することとも矛盾するように思われる (Borucki 2016).
代替仮説としては,温度に依存しない物質の分離過程が提案されている.例えば光泳動 (Wurm et al. 2013,電気伝導率と関連),ガス摩擦 (Weidenschilling 1978,密度の分離が発生する),磁気的侵食 (Hubbard 2014,鉄豊富な物質が磁気的に集められる) というモデルが提唱されている.これらのメカニズムは原理的には水星の Fe/Si 比を再現できるが,それを引き起こすための原始惑星系円盤の条件として,他の知見からは予想されない,あるいは他の知見とは矛盾する条件を必要とするという難点がある.
現在も星周円盤の化学に関する分野の研究が進んでおり,始原的な Si と Fe の分化が原因であるという説についても否定されているわけではない.
惑星形成後に岩石マントルが剥ぎ取られたとする説
ここで着目するのは,惑星形成後に分離が発生するモデルである.このモデルでは,水星ははじめはコンドライトの元素組成で他の地球型惑星と同様に形成されたと考える.その後,岩石マントルが水星への巨大衝突によって剥がされたというものである (Wetherill 1985など).惑星形成シナリオでは惑星系の形成後期には天体の巨大衝突が発生するフェーズがあるため,この説は有力視されている.巨大衝突説は他の場面でも注目されており,例えば月の形成,火星衛星の形成,冥王星・カロン系の形成,さらには天王星の傾いた自転軸の説明などでも登場する.
一般的には,水星の巨大衝突のシミュレーションでは,原始水星への高エネルギー衝突によって現在の水星の密度を説明する程度の質量を除去することが可能であり,現在の 2.25 倍の質量の原始水星から岩石マントルを取り除くことも可能であるという結果が得られている (Benz et al. 1988,2007など).
しかし,水星から蒸気として放出された岩石物質は凝縮して小球 (spherule) となり,衝突後も水星と交差する軌道にとどまる.そのため放出された物質は ~1000 万年の時間スケールで水星へと再降着してしまい,最終的な水星の密度は大きくは増加しない.
再降着問題の解決案としては,ポインティング・ロバートソン効果が挙げられる.これは cm サイズの粒子に対して,再降着と同程度の時間スケールで働く効果である.しかし光学的に厚い太陽中心の放出物リングは自己遮蔽を起こすため (Gladman & Coffey 2009),ポインティング・ロバートソン効果だけで水星への再降着を阻止できるかは明確ではない.
再降着を回避する別のシナリオとしては,より大きな衝突体が衝突を無傷で生き残り,水星のマントルを剥ぎ取ったというものがある (Asphaug et al. 2006など).他には,多数の小さい衝突が水星の表面を侵食したというものもある (Svesov 2011).
太陽風の影響
ここでは,太陽風によって水星から放出された物質の軌道崩壊が引き起こされるというシナリオを提案する.現在の太陽風による数 µm より大きい粒子への摩擦は,ポインティング・ロバートソン効果による摩擦効果のおおよそ 1/3 程度である.しかし,もし若い太陽が現在よりも強い太陽風を持っていた場合,太陽風による摩擦はより大きなものになる.
若い恒星の恒星風に関する直接的な測定例は少ないため,惑星形成期の恒星風の特性を決めるのは難しい.しかし太陽に似た恒星の恒星風は形成後時間とともに減少すると考えられ,観測では若いソーラーアナログでは恒星風の強度は現在の太陽の 100 倍にもなるとの示唆が得られている (Wood et al. 2014).対照的に,ポインティング・ロバートソン効果は初期の太陽系でも数倍程度しか変化しないと考えられる.
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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2002.07185
Schäfer et al. (2020)
On the coexistence of the streaming instability and the vertical shear instability in protoplanetary disks
(原始惑星系円盤内でのストリーミング不安定性と鉛直シア不安定性の共存について)
ここでは,ストリーミング不安定性と,鉛直シア不安定性 (vertical shear instability) との相互作用によって引き起こされる乱流について調査を行った.FLASH Code を用いて 2 次元軸対称大局円盤シミュレーションを実施した.シミュレーションの範囲は 1-100 au で,ガスとダストの相互摩擦と,動径方向・鉛直方向の恒星重力も含めた.
その結果,もしストリーミング不安定性と鉛直シア不安定性がその成長を同じタイミングで開始する場合,ダストの円盤平面層における乱流は,主にストリーミング不安定性によって駆動されていることを見出した.この場合,マッハ数が最大で 10-2 の鉛直方向のガスの動きが生じる.またダストのスケールハイトは,ガスのスケールハイトのおよそ 1% に自己調節的に設定される.
対照的に,シミュレーション中にダストを導入する前に鉛直シア不安定性が飽和する場合,この不安定性はダスト層の乱流の主要な原因であり続けることが分かった.鉛直シア不安定性はマッハ数 ~10-1 の乱流を誘起し,ダストの沈殿を阻害する.それにも関わらず,鉛直シア不安定性とストリーミング不安定性が組み合わさることで,ストリーミング不安定性単独で形成されるよりも遥かに高密度で長寿命な動径方向のダストの濃集が発生することが判明した.
したがって,鉛直シア不安定性は,ストリーミング不安定性の種としてはたらく弱い密度過剰を形成することで,微惑星形成を促進する可能性がある.
arXiv:2002.07185
Schäfer et al. (2020)
On the coexistence of the streaming instability and the vertical shear instability in protoplanetary disks
(原始惑星系円盤内でのストリーミング不安定性と鉛直シア不安定性の共存について)
概要
ストリーミング不安定性 (streaming instability) は,微惑星形成を説明する主要なメカニズムの候補である.しかし,原始惑星系円盤の乱流の駆動におけるこの不安定性の役割は,この線形流体力学不安定性としての基本的な性質を考えると,これまでに詳細に調査されていない.ここでは,ストリーミング不安定性と,鉛直シア不安定性 (vertical shear instability) との相互作用によって引き起こされる乱流について調査を行った.FLASH Code を用いて 2 次元軸対称大局円盤シミュレーションを実施した.シミュレーションの範囲は 1-100 au で,ガスとダストの相互摩擦と,動径方向・鉛直方向の恒星重力も含めた.
その結果,もしストリーミング不安定性と鉛直シア不安定性がその成長を同じタイミングで開始する場合,ダストの円盤平面層における乱流は,主にストリーミング不安定性によって駆動されていることを見出した.この場合,マッハ数が最大で 10-2 の鉛直方向のガスの動きが生じる.またダストのスケールハイトは,ガスのスケールハイトのおよそ 1% に自己調節的に設定される.
対照的に,シミュレーション中にダストを導入する前に鉛直シア不安定性が飽和する場合,この不安定性はダスト層の乱流の主要な原因であり続けることが分かった.鉛直シア不安定性はマッハ数 ~10-1 の乱流を誘起し,ダストの沈殿を阻害する.それにも関わらず,鉛直シア不安定性とストリーミング不安定性が組み合わさることで,ストリーミング不安定性単独で形成されるよりも遥かに高密度で長寿命な動径方向のダストの濃集が発生することが判明した.
したがって,鉛直シア不安定性は,ストリーミング不安定性の種としてはたらく弱い密度過剰を形成することで,微惑星形成を促進する可能性がある.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2002.07188
Chen & Lin (2020)
How efficient is the streaming instability in viscous protoplanetary disks?
(粘性原始惑星系円盤の中でストリーミング不安定性はどれだけ効率的か?)
特に,乱流による粒子のかき混ぜは不安定性を抑制する可能性がある.この効果を定量化するため,ガスの粘性と粒子の拡散をモデル化することによる,外的乱流を伴ったストリーミング不安定性の線形理論を開発した.
その結果,ストリーミング不安定性は乱流に敏感で,粒子のストークス数と粘性の α について,\(\alpha\gtrsim {\rm St^{1/5}}\) の場合は不安定性の成長率が無視できることを見出した.
空隙率の高いダスト粒子に適用可能と思われる,非線形抵抗則の効果について調査を行ったところ,成長率は多少抑えられることが判明した.また,ガスの圧縮性は,拡散の効果を減少させることで成長率を増加させることが分かった.
開発した線形理論を,粘性原始惑星系円盤の大局モデルに応用した.
最小質量太陽系円盤モデルの場合,cm サイズの粒子で乱流が弱い (α~10-4) 場合であっても,ストリーミング不安定性は円盤寿命の間に数十 AU 以遠のみでしか成長しないことが分かった.今回の結果は,特に小さい粒子の場合,整流状態ではない原始惑星系円盤の中ではストリーミング不安定性を引き起こすのはいくぶんか難しいことを示唆している.
arXiv:2002.07188
Chen & Lin (2020)
How efficient is the streaming instability in viscous protoplanetary disks?
(粘性原始惑星系円盤の中でストリーミング不安定性はどれだけ効率的か?)
概要
ストリーミング不安定性は,濃集したダスト粒子が重力崩壊することによる,微惑星形成のポピュラーな候補過程である.しかし原始惑星系円盤の中でストリーミング不安定性が発生する物理的な条件については不明確である.特に,乱流による粒子のかき混ぜは不安定性を抑制する可能性がある.この効果を定量化するため,ガスの粘性と粒子の拡散をモデル化することによる,外的乱流を伴ったストリーミング不安定性の線形理論を開発した.
その結果,ストリーミング不安定性は乱流に敏感で,粒子のストークス数と粘性の α について,\(\alpha\gtrsim {\rm St^{1/5}}\) の場合は不安定性の成長率が無視できることを見出した.
空隙率の高いダスト粒子に適用可能と思われる,非線形抵抗則の効果について調査を行ったところ,成長率は多少抑えられることが判明した.また,ガスの圧縮性は,拡散の効果を減少させることで成長率を増加させることが分かった.
開発した線形理論を,粘性原始惑星系円盤の大局モデルに応用した.
最小質量太陽系円盤モデルの場合,cm サイズの粒子で乱流が弱い (α~10-4) 場合であっても,ストリーミング不安定性は円盤寿命の間に数十 AU 以遠のみでしか成長しないことが分かった.今回の結果は,特に小さい粒子の場合,整流状態ではない原始惑星系円盤の中ではストリーミング不安定性を引き起こすのはいくぶんか難しいことを示唆している.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2002.06720
Grundy et al. (2020)
Color, Composition, and Thermal Environment of Kuiper Belt Object (486958) Arrokoth
(カイパーベルト天体アロコスの色,組成と熱環境)
その結果,表面にはメタノールの氷が有機物質とともに存在しており,これは単純な分子が輻射によって形成されたことでできたものだと考えられる.また,水の氷は検出されなかった.この組成は,CO 豊富な氷の水素化か,メタンと水氷のエネルギー過程 (あるいはその両方) が,初期太陽系の低温な外縁部で発生したことを示唆するものである.
また表面の色とスペクトルの領域ごとの変化は小さかった.そのためアロコスは一様な固体か,もしくはよく混合された固体の集まりから形成されたことが示唆される.冬の夜側からのマイクロ波の熱放射は,平均輝度温度 29 ± 5 K と整合的である.
自転周期は 15.9 時間で,公転周期は 298 年である.自転軸は軌道に対して 99.3° 傾斜している.太陽からの平均距離は 44.2 au で,軌道離心率は 0.03 とほぼ円軌道,軌道傾斜角は 2.4° である.
アロコスはカイパーベルト天体の一員であり,低温な古典的カイパーベルト天体 (cold classical Kuiper belt object, CCKBO) の “kernel” サブ集団に属する.CCKBO は,より励起された軌道にある KBO 天体とは異なる起源と特性を持つ.励起された軌道にあるものは,より太陽に近い位置で形成され,その後巨大惑星の移動に伴って摂動を受けたと考えられる.CCKBO は原始惑星系円盤内の形成された場所に留まっていると考えられる.
arXiv:2002.06720
Grundy et al. (2020)
Color, Composition, and Thermal Environment of Kuiper Belt Object (486958) Arrokoth
(カイパーベルト天体アロコスの色,組成と熱環境)
概要
外部太陽系天体の (486958) Arrokoth (アロコス,仮符号は 2014 MU69) は,形成されて以降,大きな変化を経験していない天体であると考えられる.ここでは,ニューホライズンズの観測データを用いてアロコスの表面組成を研究した.その結果,表面にはメタノールの氷が有機物質とともに存在しており,これは単純な分子が輻射によって形成されたことでできたものだと考えられる.また,水の氷は検出されなかった.この組成は,CO 豊富な氷の水素化か,メタンと水氷のエネルギー過程 (あるいはその両方) が,初期太陽系の低温な外縁部で発生したことを示唆するものである.
また表面の色とスペクトルの領域ごとの変化は小さかった.そのためアロコスは一様な固体か,もしくはよく混合された固体の集まりから形成されたことが示唆される.冬の夜側からのマイクロ波の熱放射は,平均輝度温度 29 ± 5 K と整合的である.
アロコスの観測
ニューホライズンズは,アロコスを 2019 年初頭に通過して観測した.自転周期は 15.9 時間で,公転周期は 298 年である.自転軸は軌道に対して 99.3° 傾斜している.太陽からの平均距離は 44.2 au で,軌道離心率は 0.03 とほぼ円軌道,軌道傾斜角は 2.4° である.
アロコスはカイパーベルト天体の一員であり,低温な古典的カイパーベルト天体 (cold classical Kuiper belt object, CCKBO) の “kernel” サブ集団に属する.CCKBO は,より励起された軌道にある KBO 天体とは異なる起源と特性を持つ.励起された軌道にあるものは,より太陽に近い位置で形成され,その後巨大惑星の移動に伴って摂動を受けたと考えられる.CCKBO は原始惑星系円盤内の形成された場所に留まっていると考えられる.
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2002.05776
Hartman et al. (2020)
HATS-47b, HATS-48Ab, HATS-49b and HATS-72b: Four Warm Giant Planets Transiting K Dwarfs
(HATS-47b, HATS-48Ab, HATS-49b と HATS-72b:K 矮星をトランジットする 4 つの温暖な巨大惑星)
スーパーネプチューン HATS-72b (もしくは WASP-191b,TOI 294.01) は,HATSouth,WASP,TESS のサーベイで独立してトランジット惑星候補として同定され,それぞれのプロジェクトとそれらのフォローアップ観測で収集された全てのデータを合わせて解析した.高精度の視線速度観測が VLT/ESPRESSO,FEROS,HARPS と Megellan/PFS で得られているため,HATS-72b の質量は特に精密に測定可能である.
また HATS-47 (TOI 1073.01),HATS-48A,HATS-49 の TESS による観測データも含めて解析を行った.
HATS-47 は TESS チームによって惑星候補として独立に同定された.一方で他の 2 つはこれまでは TESS のデータ中には同定されていなかった.これらの系の視線速度は Magellan/PFS で測定した.
HATS-48A は,Gaia DR2 のデータにおいて 5”.4 の位置に近傍の天体が分解されており,0.22 太陽質量で固有運動を共有する連星を持つ.2 つの恒星の現在の射影した物理的間隔は ~1400 au である.
半径:0.6564 太陽半径
光度:0.1599 太陽光度
有効温度:4512 K
金属量:[Fe/H] = -0.113
年齢:81 億歳
距離:301.7 pc
質量:0.369 木星質量
半径:1.117 木星半径
密度:0.331 g cm-3
軌道長半径:0.04269 AU
有効温度:852.9 K
半径:0.7152 太陽半径
光度:0.1955 太陽光度
有効温度:4546 K
金属量:[Fe/H] = 0.186
年齢:119.7 億歳
距離:265.4 pc
質量:0.243 木星質量
半径:0.800 木星半径
密度:0.589 g cm-3
軌道長半径:0.03769 AU
平衡温度:954.6 K
半径:0.6977 太陽半径
光度:0.1641 太陽光度
有効温度:4405 K
金属量:[Fe/H] = 0.208
年齢:105 億歳
距離:324.6 pc
質量:0.353 木星質量
半径:0.765 木星半径
密度:0.986 g cm-3
軌道長半径:0.04515 AU
平衡温度:834.8 K
半径:0.7214 太陽半径
光度:0.2193 太陽光度
有効温度:4656.1 K
金属量:[Fe/H] = 0.099
年齢:121.7 億歳
距離:127.66 pc
質量:0.1254 木星質量
半径:0.7224 木星半径
密度:0.4110 g cm-3
軌道長半径:0.066517 AU
平衡温度:739.3 K
arXiv:2002.05776
Hartman et al. (2020)
HATS-47b, HATS-48Ab, HATS-49b and HATS-72b: Four Warm Giant Planets Transiting K Dwarfs
(HATS-47b, HATS-48Ab, HATS-49b と HATS-72b:K 矮星をトランジットする 4 つの温暖な巨大惑星)
概要
K 型矮星まわりでのトランジットする巨大惑星 4 つの発見を報告する.今回発見した惑星は HATS-47b, HATS-48Ab, HATS-49b, HATS-72b である.スーパーネプチューン HATS-72b (もしくは WASP-191b,TOI 294.01) は,HATSouth,WASP,TESS のサーベイで独立してトランジット惑星候補として同定され,それぞれのプロジェクトとそれらのフォローアップ観測で収集された全てのデータを合わせて解析した.高精度の視線速度観測が VLT/ESPRESSO,FEROS,HARPS と Megellan/PFS で得られているため,HATS-72b の質量は特に精密に測定可能である.
また HATS-47 (TOI 1073.01),HATS-48A,HATS-49 の TESS による観測データも含めて解析を行った.
HATS-47 は TESS チームによって惑星候補として独立に同定された.一方で他の 2 つはこれまでは TESS のデータ中には同定されていなかった.これらの系の視線速度は Magellan/PFS で測定した.
HATS-48A は,Gaia DR2 のデータにおいて 5”.4 の位置に近傍の天体が分解されており,0.22 太陽質量で固有運動を共有する連星を持つ.2 つの恒星の現在の射影した物理的間隔は ~1400 au である.
パラメータ
HATS-47 系
HATS-47
質量:0.674 太陽質量半径:0.6564 太陽半径
光度:0.1599 太陽光度
有効温度:4512 K
金属量:[Fe/H] = -0.113
年齢:81 億歳
距離:301.7 pc
HATS-47b
軌道周期:3.9228038 日質量:0.369 木星質量
半径:1.117 木星半径
密度:0.331 g cm-3
軌道長半径:0.04269 AU
有効温度:852.9 K
HATS-48A 系
HATS-48A
質量;0.7279 太陽質量半径:0.7152 太陽半径
光度:0.1955 太陽光度
有効温度:4546 K
金属量:[Fe/H] = 0.186
年齢:119.7 億歳
距離:265.4 pc
HATS-48Ab
軌道周期:3.1316666 日質量:0.243 木星質量
半径:0.800 木星半径
密度:0.589 g cm-3
軌道長半径:0.03769 AU
平衡温度:954.6 K
HATS-49 系
HATS-49
質量:0.7133 太陽質量半径:0.6977 太陽半径
光度:0.1641 太陽光度
有効温度:4405 K
金属量:[Fe/H] = 0.208
年齢:105 億歳
距離:324.6 pc
HATS-49b
軌道周期:4.1480467 日質量:0.353 木星質量
半径:0.765 木星半径
密度:0.986 g cm-3
軌道長半径:0.04515 AU
平衡温度:834.8 K
HATS-72 系
HATS-72
質量:0.7311 太陽質量半径:0.7214 太陽半径
光度:0.2193 太陽光度
有効温度:4656.1 K
金属量:[Fe/H] = 0.099
年齢:121.7 億歳
距離:127.66 pc
HATS-72b
軌道周期:7.3279474 日質量:0.1254 木星質量
半径:0.7224 木星半径
密度:0.4110 g cm-3
軌道長半径:0.066517 AU
平衡温度:739.3 K