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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1809.03775
Southworth et al. (2018)
Physical properties and optical-infrared transmission spectrum of the giant planet XO-1b
(巨大惑星 XO-1b の物理的特性と可視光-赤外線透過スペクトル)

概要

XO-1 惑星系の 4 回のトランジットを高精度で観測した.観測波長は,u, g, r, 赤方偏移した Hα,I, z の各フィルターを使用した.これらを用いて,物理的特性,軌道暦,大気透過スペクトルを全ての可視光波長領域でカバーした.

観測結果を,過去のハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 のデータと合わせ,0.37 - 1.65 µm の波長域で惑星大気の透過スペクトルを構築した.ベストフィットモデルでは,惑星は水素分子・ヘリウム主体の大気を持ち,大気成分として水 (3.05σ の信頼度),窒素を含む分子である NH3 と HCN (1.5σ) が検出され,また部分的な雲 (1.3σ) も検出された.

今回の場合,可視光から近赤外線のデータを加えても,惑星大気に対してより精密な制約を課すことには繋がらないことを見出した.

また,今回の結果における恒星の周辺減光 (limb darkening) の効果を詳細に調査した結果,周辺減光の法則と係数の選択は得られる結果に対して重要ではないことが分かった.ただしこの結論は他の惑星系では同様ではない可能性があるため,全ての高品質データセットについて再評価するべきである.

なお,g バンドで測定した惑星半径は異常に小さい値を示したため,高いスペクトル分解能の将来観測でさらなる調査するべきである.

トランジットの時刻の測定から,この惑星の軌道暦を更新した.これを用いて,改良された恒星の潮汐クオリティファクターの下限値として \(Q’_{*}>10^{5.6}\) という値を与えた.
また,過去に存在が主張されていた,トランジット時刻の正弦波状の変動の存在は否定された.

XO-1 系について

発見と観測

XO-1b は,トランジット惑星としては 11 番目に発見された系外惑星である (McCullough et al. 2006).0.92 木星質量,1.21 木星半径を持ち,1.04 太陽質量,0.94 太陽半径の G1V 星を 3.94 日周期で公転している (Southworth 2010).

この惑星の掩蔽 (二次食) は,Machalek et al. (2008) によってスピッツァー宇宙望遠鏡を用いて観測された.この時の観測は,スピッツァー宇宙望遠鏡の IRAC の 4 バンドで行われた.

大気成分に関する観測

Tinetti et al. (2010) とBurke et al. (2010) では,ハッブル宇宙望遠鏡の NICMOS を用いてこの惑星の大気透過スペクトルを取得した.そのスペクトル中から,大気中に水,メタン,二酸化炭素分子が存在する証拠を発見した.

しかし同じデータの再解析に基づき,この結果には疑問が呈されている (Gibson et al. 2011).またハッブル宇宙望遠鏡 WFC3 による新しいデータを元にした透過スペクトルの解析でも,同じく検出に疑問が呈されている (Deming et al. 2013),なお後者では透過スペクトル中に水の証拠は発見されており,同様の結論は Tsiaras et al. (2018) でも報告されている.

その他にも,トランジット光度曲線の観測,中心星の分光解析などが行われている.また惑星の軌道離心率は 0.29 未満という制約が与えられている (Madhusudhan & Winn 2009, Pont et al. 2011).さらに最近では,新しい視線速度測定から軌道離心率は 0.019 未満 (1σ の上限値) と制約が与えられている (Bonomo et al. 2017).

観測結果

トランジット時刻解析

過去の観測データと合わせ,この惑星の軌道崩壊について解析を行った.
その結果,軌道崩壊についての上限値を与え,それを元に潮汐の Q 値に対して下限値を与えた.得られた下限値は \(Q’_{*}>10^{5.6}\) である.

またトランジット時刻の変動についても解析した.
Burke et al. (2010) では,トランジット時刻が 118.3 軌道周期 (466.3 日) で正弦曲線的に変動している可能性について報告している.

周波数スペクトルを解析した結果,報告があった周期での明確なシグナルは検出されなかった.より高周波の 0.0807 /日と 0.0802 /日では強いピークが見られたものの,これらのシグナルノイズ比は低い.そのため,トランジット時刻の変動に関しては明確な証拠は検出されないという結論となった

可視光・近赤外線透過スペクトル

過去の観測結果も合わせて,この惑星大気の透過スペクトルを構築して結果を解釈した.スペクトルについては,部分的な雲を持つ大気のモデルでフィッティングを行った.

その結果,昼夜境界領域での雲とヘイズの割合が 0.54 というモデルでスペクトルを最もよくフィット出来た.部分的な雲を持つ大気のモデルは一般に,1.3σ の信頼水準で,晴れた大気を持つモデルよりも良く観測データをフィットする.

また 3.05σ の信頼水準でハッブル宇宙望遠鏡 WFC3 のデータに水の存在が検出され,さらに窒素含有分子である NH3,HCN の存在の兆候が 1.5σ で検出された.なお,Na と K に関しては存在する兆候が見られなかった.

g バンドでの異常に小さい半径

ベストフィットモデルは,今回 g バンドで測定された惑星半径を説明できない.

今回の g バンドでの惑星半径は,モデル透過スペクトルが予測する値より 8σ も低く,他のどの波長バンドでの惑星半径よりも小さい値となった.この違いの理由は不明である.

ここで使用した全ての透過スペクトルモデルにおいて,赤外線バンドで予測される惑星半径を下回る可視光バンドでの惑星半径を示すものは存在しなかった.そのため,g バンドでの惑星半径が異常に小さい現象を理論的に説明するのが困難である.

また,観測的にもこれを説明することは困難である.
このパスバンドでの 2 つの光度曲線は高精度でお互いによく一致しており,またこのような影響は過去の観測では見られていない.

さらに,惑星大気か恒星大気の時間変動も原因になるとは考えにくい.これは,g バンドの光度曲線は,z バンドと,u か r バンドのどちらかと同時に取得されているからである.

結論

結果として,XO-1b の大気は,水素・ヘリウムが主成分であり,成分として水蒸気を含み,低信頼水準ではあるが部分的な雲と窒素含有分子を含む大気モデルによって再現できる.

ただし g バンドでの異常に小さい惑星半径は,観測的にも理論的にも説明が困難であり,この波長域における非常に高い分解能での観測で今後調査する必要がある.

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