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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1509.06105
Roig & Nesvorný (2015)
The evolution of asteroids in the jumping-Jupiter migration model
(ジャンピング・ジュピターモデルでの小惑星の進化)
メインベルト小惑星、ヒルダ群小惑星、トロヤ群小惑星を含めたシミュレーションである。
小惑星は質量を持たない粒子としてN体計算を行った。
シミュレーションの初期条件は、木星と土星が3:2軌道共鳴に入っており、コンパクトな軌道配置を持つ3つの海王星質量の天体を置くという状態である。
計算開始後 10 Myr以内に惑星同士の近接遭遇により、海王星質量惑星1個が系から弾き出され、それにともなって木星の軌道長半径は 0.3 AU程度変化する。
これが、広い範囲での軌道不安定を引き起こす。
惑星の軌道移動期のあと 4 Gyrまで計算し、計算の最終状態と現在の太陽系の小惑星の軌道配置の比較を行った。現在の太陽系の小惑星の中で、計算との比較を行ったのは、(太陽系天体の)絶対等級が H < 9.7 のもののみである。
その結果、現在のメインベルトの構造を説明するためには、初期の小惑星帯の軌道分布は、軌道傾斜角では i ~ 10°にピークを持ち、軌道離心率では e ~ 0.1にピークを持つような分布をしている必要があるということが分かった。
この結果をGrand Tackモデルに適用した。
その結果、初期に存在したヒルダ群・トロヤ群小惑星は両方共に軌道不安定の時期を生き残れない事が分かった。
よって、現在あるこれらの天体は他の場所から供給されたという事を示す結果となった。
さらにヒルダ群・トロヤ群天体がメインベルトに起源を持つ可能性について調査したが、この寄与は小さいということが分かった。
この近接遭遇の時期には、海王星サイズの惑星が木星によって散乱され、そして太陽系から弾き出された可能性がある。
この近接遭遇が、木星の軌道長半径を数十分の一AUほど内側へ"ジャンプ"させる。
このモデルは現在の惑星移動モデルが抱えている問題点を解決するために提案されたものだが、現在の太陽系の多数の特徴からくる制限に対してよく調べられてはいない。
ここでは、ジャンピング・ジュピターによって小惑星帯の天体がどう軌道進化するかについて調べることを目的とする。
しかしこのスムーズな移動モデルは、太陽系の特徴の一部しか説明することが出来ていなかった(Malhotra 1993, Liou & Malhotraなど)。
これに変わるものとして、惑星系は短い期間の強い力学的な不安定を通じて進化するという不安定な移動モデルが提案された。
一般的には、この進化は主要な惑星の軌道を不安定化はしない。しかし他の太陽系天体の進化には大きな影響を与える。
この不安定モデルはThommes et al. (1999)によって提案され、後にTsiganis et al. (2005)によって最定式化された。
これは現在ニースモデル (Nice model)として知られているものである。
(※ モデルを提案したのがフランス・ニース (Nice)の研究グループであったためこう呼ばれています。)
ニースモデルは後期重爆撃期 (Late Heavy Bombardment)を説明することができ(Gomes et al. 2005)、またトロヤ群小惑星の起源も説明することが出来た(Morbidelli et al. 2005)。
しかし、ニースモデルではその他の特徴、例えば地球型惑星の軌道を説明することは出来なかった。
そこで、Morbidelli et al. (2009)とBrasser et al. (2009)ではニースモデルの改良が行われ、天王星の木星と土星による重力散乱が不安定化を引き起こすとするモデルが提案された。
このモデルでは、近接遭遇にともなって木星と土星の軌道長半径のジャンプが発生するため、ジャンピング・ジュピターモデルと呼ばれるようになった。
5つ目の仮説上の惑星は系から弾き出され、現在我々が知るような系が残されたというものである。
この仮説は、木星の不規則衛星の起源の説明(Nesvorný et al. 2014)、木星の衛星のいくつかの特徴の説明(Deuenno et al. 2014, Nesvorný et al. 2014)、木星のトロヤ群小惑星の起源の説明(Nesvorný et al. 2013)、そしてカイパーベルトの構造の説明(Nesvorný 2015)に関して大きな成功を収めてきた。
(カイパーベルトの構造の説明に関しては天文・宇宙物理関連メモ vol.2 Nesvorny ́ (2015)も参照)
また地球型惑星などの特徴の説明も可能となっているが、小惑星帯の構造については調べられていなかった。
小惑星帯は、木星型惑星によって擾乱された多数の試験粒子によって表現されている。
またこのシミュレーションでは地球型惑星は計算に含まれていない。
試験粒子の初期配置は一様であり、結果として得られた最終状態の分布を現在得られている小惑星帯の分布と比較した。
これを元に初期の試験粒子の配置を変更し、現在の小惑星帯の分布をよく再現するような初期分布を調べた。
計算中の進化の過程は以下の4段階に分割している。
この軌道配置はこれ以前に起きる円盤ガスによって駆動される惑星移動のフェーズの結果として実現されるものである(Pierens et al. 2014)。
特に、木星と土星は 3:2平均運動共鳴の状態に入っており、木星は現在の軌道より僅かに外側に存在している。
この軌道配置は計算中の 500 Myrに渡って安定である。
小惑星を表す試験粒子は3つの集団に分類される。メインベルト天体、ヒルダ群とトロヤ群である。
どの集団も、以下の条件内での一様な (ランダムな)分布が初期条件である。
・メインベルト天体
軌道長半径が 1.5 - 5.0 AU、近日点距離 q > 1.5 AU、遠日点距離 Q < 5.0 AU、軌道傾斜角 I < 30°
・ヒルダ群
軌道長半径が 4.0 - 4.3 AU、軌道離心率 e < 0.4、軌道傾斜角 I < 30°
・トロヤ群
軌道長半径が 5.2 - 5.7 AU、軌道離心率 e < 0.2、軌道傾斜角 I < 40°
平均近点離角 (mean anomaly)、近日点引数 (argument of perihelion)、昇交点経度 (longitude of node)の初期角度は 0 - 360°の間でランダムに分布させている。
シミュレーションは、SWIFT_RMVS4 symplectic integratorを用い、0.05年のタイムステップで計算している。
試験粒子がいずれかの惑星の半径より内側に入った場合、また近日点距離が 1 AUより小さくなった場合、軌道長半径が 100 AUを超えた場合は、計算から除外している。
メインベルト天体の少なくとも半分は安定だが、ヒルダ群とトロヤ群は大きな影響を受け失われる。
この結果は、後者の2グループは初期から存在するものではなく、別の場所から供給された天体からなるという説を補強する。
この先行研究では巨大惑星と重い微惑星円盤との相互作用を解いた現実的な計算を行っているが、ここの計算ではその再現はせず、その計算結果を擬似的に再現する計算を行っている。
計算結果を Case 1, 2, 3に分類している。3ケースの主な違いは以下のとおり。
・Case 1では中間(#2)の氷惑星が系から弾き出されているが、Case 2, 3では最も内側(#1)の氷惑星が弾き出されている。
・Case 2では弾き出された惑星と木星が何回も近接遭遇をしており、それによって木星は多数回の小さな"ジャンプ"を起こしている。一方Case 1, 3では近接遭遇の回数は少なく、木星は数回の大きな"ジャンプ"を経験している。
・Case 1では弾き出される惑星は不安定化の間に最小で2 AUの距離まで太陽に近づき、小惑星帯の内部深くにまで入り込むこととなる。Case 2では非常に短い期間 1.5 AUの距離に接近し、Case 3では 3 AU未満にはならなかった。
木星の内側移動の合計量はどのケースでも ~ 0.3 AUであり、また不安定化は計算開始後 5.5 - 6.5 Myrで発生した。
計算は改良したバージョンのSWIFT_RMVS3 symplectic integratorを用いている。
このフェーズの合計の期間は 10 Myrで、タイムステップは 0.05年である。
試験粒子は、惑星に当たった場合、また近日点距離が 1 AUを下回った場合、軌道長半径が 100 AUを超えた場合は除外している。
Residual migrationは惑星と微惑星円盤の間の相互作用によって起きるスムーズな惑星移動である。
この相互作用では、木星は内側へ、土星と残りの2つの氷惑星 (天王星と海王星)は外側へ移動する。
この移動は改良したバージョンのSWIFT_RMVS4コードで行われており、非保存的な加速度を書く惑星に加えている。
これまでのフェーズと同じく、ある条件に達した試験粒子は計算から除外している。
計算の期間は 100 Myr、タイムステップは 0.05年である。
惑星は既に移動をせず、初期条件は Phase 2で得られたものである。
計算の期間は 4 Gyrであり、計算にはSWIFT_RMVS4を用い、タイムステップは 0.05年である。
初期条件は Phase 2の最後で得られたものであるが、この段階での試験粒子は 25000 - 50000個が生き残っている、
これだけの試験粒子を 4 Gyrの期間にわたって計算するのは現実的ではないため、ダウンサンプリングをして計算している。
例として、近日点距離が 1.6 AU未満、軌道長半径が 2.1 AU未満のものは計算に考慮していない。
小惑星帯の天体のうち、近日点距離が 1.6 AU以上、軌道長半径が 4.2 AU以下、絶対等級が H ≦ 9.7のもの (直径が 40 - 70 kmより大きいものに対応)の 574個の小惑星を比較の対称とした。
得られた主な結果は以下のとおり。
・不安定が早期に起きる (円盤ガスによって駆動される惑星移動が終わった直後に起きる)とするモデルを支持する結果は得られず、不安定はしばらく時間が経過してから発生する (後期重爆撃期とよく合う時期)に発生するという結果を得た。
・ジャンピング・ジュピターに対する3つのモデルの中では、Case 2は軌道離心率が大きくなりすぎてしまうため現在の小惑星帯の状態を説明することが出来ない。
・その他のCase 1, 3のモデルでは、小惑星帯は不安定化に先立ち、軌道離心率 (0.1 - 0.2)、軌道傾斜角 (10° - 20°)が励起されている。ジャンピング・ジュピターの不安定の主要な効果は、軌道離心率・軌道傾斜角の値に穏やかな分散を作ることだけである。この結果は、メインベルトの現在の励起は軌道不安定化の前に発生したというアイデアを支持するものであり、これはGrand Tackモデルでの状態と同じである。
・初期の軌道傾斜角の分布の上限を与え、その結果はMorbidelli et al. (2010)と同様のものである。
・今回の結果から、不安定化の前の段階では小惑星帯の天体の軌道傾斜角は、~ 10°にピークを持つレイリー分布 (あるいはマクスウェル分布)を持っていたことが予言される。これはWalsh et al. (2012)のGrand Tackモデルでの値と矛盾しない。
・しかし、不安定化前の小惑星帯の天体の軌道離心率は、 ~ 0.1にピークをもつ分布をしていたことを予言する。これは Walsh et al. (2012)での 0.38という値より小さいものである。
arXiv:1509.06105
Roig & Nesvorný (2015)
The evolution of asteroids in the jumping-Jupiter migration model
(ジャンピング・ジュピターモデルでの小惑星の進化)
概要
ジャンピング・ジュピターモデルの枠組みの中で、初期に存在した小惑星帯の軌道進化を計算した。メインベルト小惑星、ヒルダ群小惑星、トロヤ群小惑星を含めたシミュレーションである。
小惑星は質量を持たない粒子としてN体計算を行った。
シミュレーションの初期条件は、木星と土星が3:2軌道共鳴に入っており、コンパクトな軌道配置を持つ3つの海王星質量の天体を置くという状態である。
計算開始後 10 Myr以内に惑星同士の近接遭遇により、海王星質量惑星1個が系から弾き出され、それにともなって木星の軌道長半径は 0.3 AU程度変化する。
これが、広い範囲での軌道不安定を引き起こす。
惑星の軌道移動期のあと 4 Gyrまで計算し、計算の最終状態と現在の太陽系の小惑星の軌道配置の比較を行った。現在の太陽系の小惑星の中で、計算との比較を行ったのは、(太陽系天体の)絶対等級が H < 9.7 のもののみである。
その結果、現在のメインベルトの構造を説明するためには、初期の小惑星帯の軌道分布は、軌道傾斜角では i ~ 10°にピークを持ち、軌道離心率では e ~ 0.1にピークを持つような分布をしている必要があるということが分かった。
この結果をGrand Tackモデルに適用した。
その結果、初期に存在したヒルダ群・トロヤ群小惑星は両方共に軌道不安定の時期を生き残れない事が分かった。
よって、現在あるこれらの天体は他の場所から供給されたという事を示す結果となった。
さらにヒルダ群・トロヤ群天体がメインベルトに起源を持つ可能性について調査したが、この寄与は小さいということが分かった。
研究背景
ジャンピング・ジュピターモデル
ジャンピング・ジュピターモデル (Jumping Jupiter model)は、惑星同士の近接遭遇によって引き起こされる軌道の不安定期がある惑星移動の仮説である。この近接遭遇の時期には、海王星サイズの惑星が木星によって散乱され、そして太陽系から弾き出された可能性がある。
この近接遭遇が、木星の軌道長半径を数十分の一AUほど内側へ"ジャンプ"させる。
このモデルは現在の惑星移動モデルが抱えている問題点を解決するために提案されたものだが、現在の太陽系の多数の特徴からくる制限に対してよく調べられてはいない。
ここでは、ジャンピング・ジュピターによって小惑星帯の天体がどう軌道進化するかについて調べることを目的とする。
ニースモデル
木星以遠の惑星の移動モデルとしては、惑星同士と、惑星・微惑星間の角運動量のやり取りによる"スムーズな"惑星移動モデルが提案されていた。しかしこのスムーズな移動モデルは、太陽系の特徴の一部しか説明することが出来ていなかった(Malhotra 1993, Liou & Malhotraなど)。
これに変わるものとして、惑星系は短い期間の強い力学的な不安定を通じて進化するという不安定な移動モデルが提案された。
一般的には、この進化は主要な惑星の軌道を不安定化はしない。しかし他の太陽系天体の進化には大きな影響を与える。
この不安定モデルはThommes et al. (1999)によって提案され、後にTsiganis et al. (2005)によって最定式化された。
これは現在ニースモデル (Nice model)として知られているものである。
(※ モデルを提案したのがフランス・ニース (Nice)の研究グループであったためこう呼ばれています。)
ニースモデルの改良
ニースモデルでは、木星と土星が 2:3の平均運動共鳴を通過することによって不安定性が引き起こされる。ニースモデルは後期重爆撃期 (Late Heavy Bombardment)を説明することができ(Gomes et al. 2005)、またトロヤ群小惑星の起源も説明することが出来た(Morbidelli et al. 2005)。
しかし、ニースモデルではその他の特徴、例えば地球型惑星の軌道を説明することは出来なかった。
そこで、Morbidelli et al. (2009)とBrasser et al. (2009)ではニースモデルの改良が行われ、天王星の木星と土星による重力散乱が不安定化を引き起こすとするモデルが提案された。
このモデルでは、近接遭遇にともなって木星と土星の軌道長半径のジャンプが発生するため、ジャンピング・ジュピターモデルと呼ばれるようになった。
3つの氷惑星を持つモデル
最近になって、太陽系は初期段階に5つの巨大惑星 (木星、土星、3つの巨大氷惑星)を持っていたとする仮説が提案された(Nesvorný 2011, Nesvorný & Morbidelli 2012)。5つ目の仮説上の惑星は系から弾き出され、現在我々が知るような系が残されたというものである。
この仮説は、木星の不規則衛星の起源の説明(Nesvorný et al. 2014)、木星の衛星のいくつかの特徴の説明(Deuenno et al. 2014, Nesvorný et al. 2014)、木星のトロヤ群小惑星の起源の説明(Nesvorný et al. 2013)、そしてカイパーベルトの構造の説明(Nesvorný 2015)に関して大きな成功を収めてきた。
(カイパーベルトの構造の説明に関しては天文・宇宙物理関連メモ vol.2 Nesvorny ́ (2015)も参照)
また地球型惑星などの特徴の説明も可能となっているが、小惑星帯の構造については調べられていなかった。
シミュレーション
微惑星による惑星移動が起こる前段階からの一連のシミュレーションを行った。小惑星帯は、木星型惑星によって擾乱された多数の試験粒子によって表現されている。
またこのシミュレーションでは地球型惑星は計算に含まれていない。
試験粒子の初期配置は一様であり、結果として得られた最終状態の分布を現在得られている小惑星帯の分布と比較した。
これを元に初期の試験粒子の配置を変更し、現在の小惑星帯の分布をよく再現するような初期分布を調べた。
計算中の進化の過程は以下の4段階に分割している。
Phase 0: 不安定化前
このフェーズでは、惑星は移動せずお互いの共鳴関係の状態に留まっている。この軌道配置はこれ以前に起きる円盤ガスによって駆動される惑星移動のフェーズの結果として実現されるものである(Pierens et al. 2014)。
特に、木星と土星は 3:2平均運動共鳴の状態に入っており、木星は現在の軌道より僅かに外側に存在している。
この軌道配置は計算中の 500 Myrに渡って安定である。
小惑星を表す試験粒子は3つの集団に分類される。メインベルト天体、ヒルダ群とトロヤ群である。
どの集団も、以下の条件内での一様な (ランダムな)分布が初期条件である。
・メインベルト天体
軌道長半径が 1.5 - 5.0 AU、近日点距離 q > 1.5 AU、遠日点距離 Q < 5.0 AU、軌道傾斜角 I < 30°
・ヒルダ群
軌道長半径が 4.0 - 4.3 AU、軌道離心率 e < 0.4、軌道傾斜角 I < 30°
・トロヤ群
軌道長半径が 5.2 - 5.7 AU、軌道離心率 e < 0.2、軌道傾斜角 I < 40°
平均近点離角 (mean anomaly)、近日点引数 (argument of perihelion)、昇交点経度 (longitude of node)の初期角度は 0 - 360°の間でランダムに分布させている。
シミュレーションは、SWIFT_RMVS4 symplectic integratorを用い、0.05年のタイムステップで計算している。
試験粒子がいずれかの惑星の半径より内側に入った場合、また近日点距離が 1 AUより小さくなった場合、軌道長半径が 100 AUを超えた場合は、計算から除外している。
メインベルト天体の少なくとも半分は安定だが、ヒルダ群とトロヤ群は大きな影響を受け失われる。
この結果は、後者の2グループは初期から存在するものではなく、別の場所から供給された天体からなるという説を補強する。
Phase 1: ジャンピング・ジュピター
このフェーズでは、巨大惑星はNesvorný & Morbidelli (2012)での軌道進化に従って移動すると考える。この先行研究では巨大惑星と重い微惑星円盤との相互作用を解いた現実的な計算を行っているが、ここの計算ではその再現はせず、その計算結果を擬似的に再現する計算を行っている。
計算結果を Case 1, 2, 3に分類している。3ケースの主な違いは以下のとおり。
・Case 1では中間(#2)の氷惑星が系から弾き出されているが、Case 2, 3では最も内側(#1)の氷惑星が弾き出されている。
・Case 2では弾き出された惑星と木星が何回も近接遭遇をしており、それによって木星は多数回の小さな"ジャンプ"を起こしている。一方Case 1, 3では近接遭遇の回数は少なく、木星は数回の大きな"ジャンプ"を経験している。
・Case 1では弾き出される惑星は不安定化の間に最小で2 AUの距離まで太陽に近づき、小惑星帯の内部深くにまで入り込むこととなる。Case 2では非常に短い期間 1.5 AUの距離に接近し、Case 3では 3 AU未満にはならなかった。
木星の内側移動の合計量はどのケースでも ~ 0.3 AUであり、また不安定化は計算開始後 5.5 - 6.5 Myrで発生した。
計算は改良したバージョンのSWIFT_RMVS3 symplectic integratorを用いている。
このフェーズの合計の期間は 10 Myrで、タイムステップは 0.05年である。
試験粒子は、惑星に当たった場合、また近日点距離が 1 AUを下回った場合、軌道長半径が 100 AUを超えた場合は除外している。
Phase 2: Residual migration
このフェーズはジャンピング・ジュピターの後の惑星の軌道進化を追うためのものである。Residual migrationは惑星と微惑星円盤の間の相互作用によって起きるスムーズな惑星移動である。
この相互作用では、木星は内側へ、土星と残りの2つの氷惑星 (天王星と海王星)は外側へ移動する。
この移動は改良したバージョンのSWIFT_RMVS4コードで行われており、非保存的な加速度を書く惑星に加えている。
これまでのフェーズと同じく、ある条件に達した試験粒子は計算から除外している。
計算の期間は 100 Myr、タイムステップは 0.05年である。
Phase 3: 長時間進化
このフェーズは計算の最終段階であり、惑星と小惑星が現在の配置に落ち着くまでの期間の計算である。惑星は既に移動をせず、初期条件は Phase 2で得られたものである。
計算の期間は 4 Gyrであり、計算にはSWIFT_RMVS4を用い、タイムステップは 0.05年である。
初期条件は Phase 2の最後で得られたものであるが、この段階での試験粒子は 25000 - 50000個が生き残っている、
これだけの試験粒子を 4 Gyrの期間にわたって計算するのは現実的ではないため、ダウンサンプリングをして計算している。
例として、近日点距離が 1.6 AU未満、軌道長半径が 2.1 AU未満のものは計算に考慮していない。
計算結果とその評価
Phase 3の計算を終えた後の分布と、現在の小惑星帯の天体の実際の分布を比較する。小惑星帯の天体のうち、近日点距離が 1.6 AU以上、軌道長半径が 4.2 AU以下、絶対等級が H ≦ 9.7のもの (直径が 40 - 70 kmより大きいものに対応)の 574個の小惑星を比較の対称とした。
得られた主な結果は以下のとおり。
・不安定が早期に起きる (円盤ガスによって駆動される惑星移動が終わった直後に起きる)とするモデルを支持する結果は得られず、不安定はしばらく時間が経過してから発生する (後期重爆撃期とよく合う時期)に発生するという結果を得た。
・ジャンピング・ジュピターに対する3つのモデルの中では、Case 2は軌道離心率が大きくなりすぎてしまうため現在の小惑星帯の状態を説明することが出来ない。
・その他のCase 1, 3のモデルでは、小惑星帯は不安定化に先立ち、軌道離心率 (0.1 - 0.2)、軌道傾斜角 (10° - 20°)が励起されている。ジャンピング・ジュピターの不安定の主要な効果は、軌道離心率・軌道傾斜角の値に穏やかな分散を作ることだけである。この結果は、メインベルトの現在の励起は軌道不安定化の前に発生したというアイデアを支持するものであり、これはGrand Tackモデルでの状態と同じである。
・初期の軌道傾斜角の分布の上限を与え、その結果はMorbidelli et al. (2010)と同様のものである。
・今回の結果から、不安定化の前の段階では小惑星帯の天体の軌道傾斜角は、~ 10°にピークを持つレイリー分布 (あるいはマクスウェル分布)を持っていたことが予言される。これはWalsh et al. (2012)のGrand Tackモデルでの値と矛盾しない。
・しかし、不安定化前の小惑星帯の天体の軌道離心率は、 ~ 0.1にピークをもつ分布をしていたことを予言する。これは Walsh et al. (2012)での 0.38という値より小さいものである。
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