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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1811.07135
Spalding et al. (2018)
An orbital window into the ancient Sun's mass
(太古の太陽の質量のための軌道の窓)

概要

太陽の長期進化のモデルは,20-40 億年前の太陽の光度は低かったことを示唆している.しかしこれは古代の地球と火星の地質記録では,両惑星は温暖で湿潤な環境であったという証拠とは整合しない.これは faint young Sun paradox (暗い太陽のパラドックス) と呼ばれているものである.パラドックスの典型的な解決策は地球と火星の大気組成の変化を考慮することであり,これは興味深い仮説であるものの,特に火星に関してはこの仮説の地質学的な検証が欠けている.

暗い太陽のパラドックスの解決に関する一つの可能性は,単に太陽は数%の質量をその寿命の間に失ったというものである.この仮説が正しければ,太陽は一定の質量であったとするモデルから期待される光度の増加を遅くするか,あるいはそれを相殺する可能性もある.しかしこの仮説は検証することが難しい.

ここでは,過去の太陽質量を観測的に推定する代替策を提案する.これは,地球と火星における堆積岩の堆積パターンから容易に測定することができるものである.

太陽系の惑星の軌道要素は準周期的振動をしており,この振動の周波数は永年モード \(g_{2}-g_{5}\) で与えられ,近似的には太陽質量と線形でスケールする.そのため,過去の堆積物の蓄積を調べることで,太陽質量がこれまで一定であったか,あるいは過去の太陽は現在より重かったかを 1% 程度の精度で区別することができる.このアプローチは,初期太陽が重かった仮説の検証,もしくは否定を行うことができる.

暗い太陽のパラドックス

地球はその一生のうちの大部分で生命を宿しており,そのため数十億年に渡って表面に液体の水を保持し続けていたことが示唆されている.さらに地質学的には, Archean era (太古代,38 - 25 億年前) には一定量の海洋が存在した証拠が得られている (Grotzinger & Kasting 1993など).

火星も同様に過去に峡谷のネットワークが形成されており,40 億年ほどまでに表面に水が存在したことが分かっている (Wordsworth 2016).また堆積物の存在からも大量の水が存在したことが示唆されている.

初期地球と火星が温暖な気候であったことは,太陽の長期進化の標準モデルとは相容れない.太陽の光度は一生の間に単調増加すると考えられており,太古代の日射量は現在の 75-85% と推定されている (Gough 1981).大気組成などの要素が現在と同じであるとすると,太陽の光度が現在の値を 10% 下回っただけで地球は凍結する (Yang et al. 2012,Hoffman et al. 2017).
また,火星の現在の気候が寒冷であることを考えると,若い太陽が暗かったにも関わらず古代に火星が温暖だったことは,さらに問題を複雑にする.この問題は The Faint Young Sun Paradox (暗い太陽のパラドックス) と呼ばれている (Sagan & Mullen 1972).

パラドックスの解決策として提案されているのは,過去の地球は高濃度の温室効果ガスを持っていたという仮説である (Feulner 2012など).過去の地球大気には高い水準の温室効果ガスが含まれていたとするモデルは,初期の温暖な地球を再現するという点ではまずまずの成功を収めている.
しかし太古代の大気組成を地質学データを用いて精密に制約するのは依然として困難である.これは火星でも同様の問題である.

太陽質量の変化の可能性

暗い太陽のパラドックスの別の解決策

ここでは,標準太陽モデルから導出された太陽の光度進化が間違っているという仮説を考慮する.

標準太陽モデルでは,太陽質量は常に一定であることを前提としている.しかし,もし若い太陽が現在よりも数%重かった場合,太古代の太陽光度は現在と同程度の水準に保たれる (Bowen and Willson 1986,Feulner 2012).

ここでは,太陽が長期間に渡って質量を失った場合,地球と火星の軌道タイムスケールに違いが生じるという仮説を提案する.地球と火星の軌道離心率の振動の周期で,\(g_{2}-g_{5}\) のミランコビッチモードから,過去の太陽質量を 1% 以下の精度で制約できる可能性がある.このようなサイクルの記録は,地球や火星の堆積物中に残されている可能性がある.

気候サイクルから探る過去の太陽質量

ミランコビッチサイクルは,天文学的な理由により生じる日射量の強制的な準周期的変動であり,地球の過去の気候変動を駆動する機構として最初に提案された (Milankovich 1941).

太陽系の 8 惑星は一般に軌道傾斜角と軌道離心率が小さく,またそれぞれの軌道周期は整数比からは遠い.このような場合,惑星間の相互重力作用は “永年的” なアプローチで近似することが可能である.すなわち,各惑星はその軌道上に分布する質量の環として表現され,太陽系内の他の惑星の環へのトルクが与えられると近似することができる.

この場合,軌道離心率と軌道傾斜角の時間進化は,擾乱を与える天体と太陽質量の質量比を用いて表すことができる.従って太陽質量が異なる場合はこの周期変動にも変化を与える.

以上の理由により,地球や火星における堆積物に記録されているであろうサイクルのタイムスケールを測定することで,過去の太陽質量を直接測定することが可能となる.

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