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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



The seventh inner moon of Neptune
Showalter et al. (2019)
The seventh inner moon of Neptune
(海王星の 7 番目の内衛星)

概要

1989 年のボイジャー2号のフライバイの最中に,海王星の 6 つの小さい衛星が撮影された.これらはすべて,大きな逆行衛星トリトンよりも内側を公転している.近傍に存在する複数の環とともに,これらの衛星はおそらく海王星自身よりも若いと思われる.これらはトリトンが捕獲された直後に形成され,彗星の衝突によって複数回破壊されたと考えられる.

ここでは,ハッブル宇宙望遠鏡の観測による,7 番目の内衛星である Hippocamp の発見について報告する.この衛星は他の 6 つの内衛星よりも小さく,平均半径はおよそ 17 km である.

また海王星の最も内側の衛星であるナイアドも観測した,ナイアドは最後に観測されたのが 1989 年であり,今回の観測では新たな位置天文観測データを提供する.

また,他のすべての内衛星の軌道決定とサイズの推定を行った.これは,各衛星の軌道運動を補正するために,連続した画像を変形させる記述を含む様々な解析技術を使用している.この手法は,他の衛星や系外惑星の探査に適用可能である.


Hippocamp の軌道は,これらの内衛星の中で最も外側を公転し,最も大きいプロテウスに近い.この 2 つの衛星の軌道長半径は 10% しか違わない.プロテウスは,海王星との潮汐相互作用の影響で外側へ移動してきたと考えられる.
今回の結果は,Hippocamp はおそらくはかつてのプロテウスの破片であり,海王星の内衛星系は多数の衝突によって形作られてきたという仮説を支持するものである

軌道運動を補正した画像解析技術

観測

海王星の環やリングアーク,小さい内衛星を探査するプログラムの一環として,ハッブル宇宙望遠鏡を用いて海王星を観測した.この観測は,2004-2005 年の Advanced Camera for Surveys (ACS) の High Resolution Channel (HRC) を用いた観測と,2009-2016 年の Wide Field Camera 3 の Ultraviolet/Visual Imager (UVIS) を用いた観測からなる.

新しく発見された衛星 Hippocamp は,S/2004 N 1 もしくは Neptune XIV と名前が付けられている.初めてこの衛星の画像が得られてから発見までに時間がかかったのは,衛星の発見を確定させるために特別な画像処理技術が必要とされたからである.

Hippocamp の発見

画像から小さい衛星を検出するためには,衛星の動きによるずれは点拡がり関数のスケールに限定されている必要がある.そのため海王星の内部衛星系の場合,露光時間の長さはずれが支配的になりシグナルノイズ比が上昇をやめるまでの 200-300 秒に限定される.ここでは,この制限を超えて積分時間を稼ぐための画像処理技術を開発した.

海王星の衛星は検出器上を急速に動くが,この動きは予測可能であり,変形モデルを用いて記述することができる.海王星の重力場のモーメント J2 と J4 を含めたモデルで平均運動の関数を導出し,天体の予測される動きに合わせて画像処理を行った.変形をすると,順行の円軌道の赤道上の軌道の衛星が,固定されたピクセル座標に現れる.変換された画像はお互いに足し合わされ,より長い実効的な露光時間が得られる.

この画像処理技術を用いて,合計で 20 回の Hippocamp の検出が得られた.
大部分はハッブル宇宙望遠鏡の各軌道で取得された全ての長い露光時間画像の足し合わせが必要である.検出のシグナルノイズ比は 2.3〜13.2 までで変化する.衛星が最も検出しやすいのは,天球での動きが低速で,背景ノイズが少なく,またもし天体が不規則な形状をしていた場合は大きな断面積を見せている時である.最も良い条件が組み合わさった時は,画像の足し合わせ無しで衛星を一回の観測で捉えることができる.

既知の衛星への適用

同じ手法をナイアドの観測にも適用した.

最近の天体暦から予測されるよりもナイアドの軌道が大きくずれているため,ナイアドを同定するのは困難が伴う.2016 年にナイアドは予測される場所からほぼ 180° 離れた軌道上の位置にあった.しかし,ハッブル宇宙望遠鏡とボイジャーのアストロメトリでは,ボイジャーから導出したナイアドの平均運動に対して 1σ の範囲のプラスの誤差を許容するのであれば,一様でほぼ円軌道の運動をしていた場合に観測と整合的となる.

天体暦に大きな誤差が存在したという事実は,ケック望遠鏡での 2002 年のナイアドの検出報告は誤認だったことを意味する.また,タラッサの予測軌道に 19° の誤差があったことから,同じデータセットにおいてこれも誤認だった可能性が示唆される.

海王星の内衛星の軌道について,2004-2016 年のハッブル宇宙望遠鏡でのデータのみからパラメータを決定した.Hippocamp 以外の衛星の軌道要素に関しては,ボイジャーや地上望遠鏡の観測データも含めた解析からより精密な軌道が導出可能である.しかし,より大きい衛星の軌道天体暦は過去の推定値と非常に近く一致した.

ボイジャー2号の観測データとの比較

ボイジャー観測データでの Hippocamp の非検出

導出された Hippocamp の軌道を,ボイジャー2号のフライバイがあった 1989 年 8 月 25 日にまで外挿した.この外挿の精度は,軌道経度にして ±0.5° であり,これはボイジャーの狭角カメラにおいて 10 ピクセル分に相当する.

ボイジャーの候補画像をピックアップしたが,他の内衛星が観測された位置に対して予想される Hippocamp の位置に基づくと,画像はひどくぶれているか,あるいは Hippocamp を見逃しているかであった.

ボイジャーの観測範囲での未発見衛星への上限

ボイジャーの画像は,衛星の幾何アルベドとして 0.09 という値を仮定すると,検出されなかった衛星に対して半径 5 km という上限値を与える.このボイジャー画像中の探査は,海王星から 65000 km 以内は完了しており,90000 km 以内は部分的に完了している.

今回の解析結果から,ボイジャーの探査からの上限とプロテウスの軌道の間において,Hippocamp の半分の大きさを持ついかなる衛星の存在は否定される (半径 12 km に相当する).

プロテウスの軌道以遠では,画像は海王星の明るさの影響を受けず,かつ衛星の軌道運動がゆっくりであるため,より大きなセットの画像を足し合わせ可能である.その結果,Hippocamp の 30% の明るさの衛星はプロテウスの軌道以遠では一般に観測可能と思われる.今回の探査のカバー範囲は 200000 km までは完全で,300000 km までは 2/3 である.しかし,軌道面がやや傾いていたり軌道離心率のある軌道の衛星は,検出が難しくなる.

Hippocamp および海王星内衛星の形成と進化

小さいサイズを持つ Hippocamp の発見は,海王星の内部衛星系の歴史の理解に貢献する.
この衛星は,自身の 4000 倍の体積を持つプロテウスのわずか 12000 km 内側を公転している.プロテウスは海王星との潮汐相互作用によって外側へ移動してきたため,過去にはより海王星に近い位置にあった.Hippocamp は質量がより小さいため潮汐相互作用による移動は非常に低速で,形成場所に近い位置に留まっていると考えられる.

彗星の衝突は海王星の小さい衛星を何度も破壊したと考えられる.プロテウスのみがトリトンの捕獲直後から無傷で生き残ったと思われる.プロテウスにあるファロスクレーターは,衛星のサイズに比して異様に大きい.これは過去にプロテウスも破壊されかけたことを示唆している.

プロテウスへの巨大衝突,おそらくはファロスクレーターを形成した衝突によって,プロテウスから破片が海王星周回軌道に放出されたと仮定する.放出されたいくつかの破片は,プロテウスから数ヒル半径内側の 1000 - 2000 km 内側の安定な軌道に落ち着き,Hippocamp へと集積した.Hippocamp の体積は,ファロス衝突クレーターの形成に伴ってプロテウスから失われた体積のわずか2%に過ぎない.

この形成シナリオには複雑な要素がある.1 つ目は,プロテウスは軌道が非常に近かった際に Hippocamp の軌道離心率と傾斜角を増加させた可能性があることである.あるいはそれより後に強い共鳴を横断した際にも,離心率と傾斜角が増加する可能性がある.そのため Hippocamp の離心率と傾斜角が非常に小さいのは驚くべきことである.

このことは,その後の軌道破壊によって説明できる可能性がある.常に衛星が破壊され再び降着するという過程を繰り返していた場合,その衛星の離心率と傾斜角は減衰される.

現在のプロテウスでの 10 km 以上のクレーター形成率は 10-12 km-2 yr-1 (1 年あたり 1 平方キロメートルに形成される 10 km 以上のクレーターの個数が 10-12 個) である.これは Hippocamp でも同程度であろうと考えられる.Hippocamp は 10 km サイズのクレーターを形成する衝突イベントによって破壊されるだろう.そのため,過去 40 億年の間に 9 回再集積したと推論される.

このシナリオが働くためには,プロテウスは寿命の間に 11000 km 程度以上移動して現在の位置まで来ている必要がある.衛星の移動率は海王星の潮汐の Q 値に反比例する.プロテウスがこの距離を 40 億年の間に移動するためには,海王星の Q 値は 15000 程度以下である必要がある.これは海王星の Q 値として示唆されている値 (12000-33000) か天王星に対して示唆されている値 (11000-39000) の範囲内である.

海王星が小さい Q 値を持つ場合はプロテウスは遠くへ移動し,したがって Hippocamp はいくらか若いことになる.しかし太陽系形成の初期は天体の衝突流束が高かったことから,Hippocamp は少なくとも数十億歳だろうと考えられる.

しかし別の議論では,プロテウスの移動距離の上限は 10000 km であることが示唆されている.プロテウスが 107000 km の距離を超えた段階でデスピナとの 2:1 軌道共鳴に入り,シミュレーションではデスピナの傾斜角が現在の観測値よりずっと大きくなってしまうことが指摘されている.しかしデスピナは過去40億年の間に 3-6 回破壊されていると考えられることから,プロテウスの移動へのこの制約は適用されない.

Hippocamp がその場で形成され,プロテウスとは関係がないという可能性は否定できない.しかし,衛星のサイズが小さいこと,軌道位置が特徴的であることから,ここで提案したシナリオがもっともらしい形成モデルだと考えられる.

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