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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1906.06326
Mikal-Evans et al. (2019)
An emission spectrum for WASP-121b measured across the 0.8-1.1 micron wavelength range using the Hubble Space Telescope
(ハッブル宇宙望遠鏡を用いて測定された 0.8-1.1 マイクロメートル波長での WASP-121b の放射スペクトル)

概要

WASP-121b は,中心星のロッシュ限界付近を公転するトランジット巨大ガス系外惑星である.
木星のおよそ 2 倍の膨張した半径を持ち,昼側の温度は晩期 M 型星の光球と同程度の高温となっている.

この惑星の 1.1-1.6 µm 波長での二次食観測からは,惑星昼側の半球での大気の温度逆転層の存在が明らかになっている.この温度逆転層は,大気高高度での可視光波長の吸収によって引き起こされていると考えられる.

ここでは,ハッブル宇宙望遠鏡の Wide Field Camera 3 分光器を用いた WASP-121b の二次食観測について報告する.観測波長は 1.1-0.8 µm である.

測定された二次食スペクトルから惑星大気の特性を決定するために,熱解離と電離を考慮した化学平衡を仮定したリトリーバル解析を実行した.
その結果,ベストフィットモデルは観測データをよく再現できた.

観測データは黒体スペクトルからの乖離が見られ,かわりに 1.1 µm より短波長側で H- による放射が存在することが判明した.ベストフィットモデルでは過去に検出が報告されていた 1.25 µm でのスペクトルのバンプは再現されなかった.これは,過去に暫定的に存在が示唆されていた VO (酸化バナジウム) の放射ではなく,統計的なばらつきの特徴を見ている可能性を示唆するものである.

また,惑星大気の金属量を [M/H] = 1.09 と推定し,炭素と酸素の存在度を [C/Csolar] = -0.29,[O/Osolar] = 0.18 と測定した.これに対応する炭素-酸素比は C/O = 0.49 (+0.65, -0.37) である.これは太陽の値である 0.54 を含んでいるが,推定値は不定性が大きい.

研究背景

過去の WFC3 での観測例

ハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 を用いた観測では,これまでに WASP-43b の大気中の水の吸収が検出されている (Stevenson et al. 2014など).その他にも,HD 189733b (Crouzet et al. 2014),HD 209458b (Line et al. 2016),ケプラー13Ab (Beatty et al. 2017) でも検出されている.
また,WASP-121b では水の放射スペクトルが検出されている (Evans et al. 2017).

その他の分子の特徴としては,WASP-33b で TiO の放射 (Haynes et al. 2015),WASP-18b で CO 吸収 (Sheppard et al. 2017) が報告されている.ただし後者の検出報告には異議もある (Arcangeli et al. 2018).

最近の観測では,ウルトラホットジュピター WASP-18b,HAT-P-7b,WASP-103b といった惑星で特徴をかいたスペクトルが検出されており,これは水分子自身の熱解離による H- の連続波オパシティを考慮することで説明可能であることが示唆されている (Arcangeli et al. 2018など).これは,惑星昼側の温度が 2000 K を超える場合で特に顕著である.

WASP-121b について

同じくウルトラホットジュピターである WASP-121b も上記の研究対象である.

Delrez et al. (2016) によって発見されたこの惑星は,半径が 1.8 木星半径と特に大きく膨張した半径を持っている.また昼側の光球温度はおよそ 2700 K である(Evans et al. 2017).これは中心星 WASP-121 が F6V 型で,軌道長半径が 0.025 AU と非常に近いことに由来している.

この惑星は中心星からの強い潮汐力を受け,またロッシュローブオーバーフローを介した大気散逸が進行中であると考えられる.この描像は,最近 Swift UVOT の近紫外線トランジット測定で,可視光波長よりも著しく深いトランジット深さが得られたことから推定された (Salz et al. 2019).

この深いトランジットは,惑星のロッシュローブを満たす,近紫外線波長で比較的厚い広がった大気の存在によって説明可能である.例えば重元素の吸収線などである.

近赤外線波長では,ハッブル宇宙望遠鏡の WFC3 がこの惑星の透過光 (Evans et al. 2016) と放射スペクトル (Evans et al. 2017) の両方を取得している.透過スペクトル中には 1.4 µm の水のバンドに由来する吸収が観測されている,一方で同じバンドで二次食の際には放射が検出されている.このことから,惑星の昼側半球での温度逆転層の存在が明らかにされた.

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