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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1907.09068
Wilson Cauley et al. (2019)
Magnetic field strengths of hot Jupiters from signals of star-planet interactions
(恒星・惑星相互作用のシグナルからのホットジュピターの磁場強度)

概要

多くのホットジュピターにおいて恒星・惑星間相互作用の兆候が,惑星により変調された彩層放射という形で報告されている.磁気的な恒星・惑星間相互作用は,恒星と惑星の磁場に蓄積されたエネルギーの解放を伴う.そのため,これらのシグナルを検出することは系外惑星の磁場の間接的な検出となる.

ここでは,磁気的な恒星・惑星相互作用によって変調された恒星からの Ca II K 放射の強度を用いて,4 つのホットジュピター系での磁場強度の導出について報告する.

Ca II K 線の形で放出される部分的なエネルギーを近似することで,今回のサンプル中のホットジュピターでの表面磁場は,20-120 G の範囲内であることを見出した.この磁場強度は,自転周期 2-4 日程度の惑星に対するダイナモスケーリング則から予測される値よりも 10-100 倍大きいものである.一方でこれらの値は,巨大惑星内での内部熱フラックスと磁場強度を結びつけるスケーリング則とは一致する.

惑星磁場強度が大きい場合,磁気圏から放射されるメーザーが惑星の電離圏によって減衰されるのが防がれるため,観測可能な電子サイクロトロンメーザー放射が発生する可能性がある.ホットジュピター系の集中的な電波モニタリング観測を行うことで,これらの惑星磁場の強度を確認する手助けになるだろう.また,この重要な系外惑星の分類における磁場の生成メカニズムに関する情報も得られるだろうと期待される.

ホットジュピターの磁場

恒星・惑星間相互作用

ホットジュピターは中心星に近い位置にある.そのため,潮汐,恒星風粒子との衝突,恒星表面への蒸発した惑星ガスの降着,恒星と惑星の磁力線の磁気リコネクションを介して,強い相互作用を経験する.

恒星・惑星間相互作用 (star-planet interaction, SPI) からは,他の手法では非常に少ない情報しか得られていない恒星風の特性の詳細が明らかになる可能性がある.さらに最も興味深いのは,SPI からは惑星の磁場の詳細が明らかになる可能性もある.

惑星磁場は惑星大気を恒星風粒子から防ぎ,惑星からの質量放出を抑制するという重要な働きがある.

磁気的な SPI シグナルは,惑星の軌道周期の半分のタイムスケールで現れる潮汐相互作用とは異なり,惑星の軌道周期と同じ時間スケールで変化する,彩層活動によるスペクトル線コアのフラックスの変化として現れる可能性がある.このような変動の兆候は,多くのホットジュピター系において恒星の彩層からの放射の Ca II 線で見られている.

このようなシグナルの初発見例は HD 179949 である.フォローアップ観測でも同様の振る舞いが見られており,磁気的な SPI に起因するシグナルであるという解釈を強化している.似たようなシグナルは HD 189733,τ Boo,ν And でも検出されており,また HD 73256 でも兆候が報告されている.SPI 類似の変動は可視光の測光変動と X 線でも観測されている.

磁気的 SPI とその測定

磁気的 SPI による彩層線のフラックス変化は,惑星磁場強度の推定に使える可能性がある.

磁気的 SPI の強度を恒星および惑星の特性と結びつけるスケーリング則は,これまでにいろいろなものが提案されている.これらの強度推定は多くの異なるコロナ磁場の場合で整合的だが,正確な定数は仮定に依存して変わる.恒星の双極子磁場の場合,恒星と惑星の磁気圏の向きの揃い具合は,磁気的相互作用によるエネルギー散逸に大きな影響があることが示されている.

SPI シグナルを引き起こすその他のエネルギー源は,惑星から恒星表面への粒子のアウトフローである.近接惑星によって引き起こされた恒星磁場の相対的なヘリシティの減少は,恒星磁場の形状を低エネルギー状態へと進化させ,それにより大局スケールで可能な内部のリコネクションによって磁場のエネルギーの散逸が引き起こされることが指摘されている.この過程では,恒星と惑星磁気圏の境界における純粋な磁気リコネクションに比べて,2-3 桁大きい出力を解放できる.

HD 179949 での SPI シグナルからの強度推定,および HD 73256 と κ Ceti での暫定的な SPI の導出を除くと,その他の SPI 測定はフラックスが較正されていない.これは,地上からの高分散スペクトルでは正確なフラックスの較正をするのが難しいことと,SPI の検出を確定させるためには絶対フラックスの推定は必ずしも必要ではないことが原因である.
しかし,特定の SPI モデルに制約を与えたり,系外惑星の磁場の絶対強度を計算するためには,SPI シグナルとして放出されたエネルギーの情報が必要である.

磁気的 SPI の理論

エネルギーが惑星と恒星の磁気圏の間でのリコネクションによって生成されると仮定すると,
\[
P = \gamma \frac{\pi}{\mu} R_{\rm p}^{2} B_{*}^{4/3} B_{\rm p0}^{2/3} v_{\rm rel}
\]
となる.\(R_{\rm p}\) は惑星半径,\(B_{*}\) は惑星の軌道距離での恒星の磁場強度,\(B_{\rm p0}\) は極での惑星表面磁場,\(v_{\rm rel}\) は惑星の軌道距離での惑星と恒星の磁力線の相対速度,\(\mu\) は透磁率,\(0 < \gamma < 1\) は恒星と惑星の磁気圏の相対角度に依存する効率因子である.

\(\gamma = 0.5\) を仮定すると,磁気リコネクションのみで生成されるエネルギーは 1020 W 程度よりも 2-3 桁低い値になる.この 1020 W という値は,HD 179949 周囲で観測されている SPI シグナルの推定値である.\(\gamma = 1\),1 木星半径,\(B_{*}\) = 0.005 G,\(B_{\rm p0}\) = 100 G,相対速度 150 km s-1 と仮定した場合でも,2 × 1018 W となり,観測されている Ca II K のエネルギーより 2 桁低い.このエネルギーを満たすためには惑星の磁場が 104 G のオーダーである必要がある.そのため,リコネクションシナリオは今後考慮しない.

Alfven wing SPI モデルについても調査されている.HD 179949b の場合,1020 W の出力を再現するためには,木星の磁場の 4000 倍程度の強度が必要である.その他にも様々な Alfven wing SPI モデルが提案されているが,可能な出力は 1019 W と僅かに低い.特に,測定された出力は Ca II K 線で放射されたもののみを含んでおり,これは全体として放出された出力の一部である.

その他の可能性のあるシナリオとして,惑星が恒星磁場のヘリシティを増加させ,これがエネルギー放出過程に影響を及ぼすというものがある.様々なケースで考察された結果,線形・非線形のフォースフリー場で,純粋なリコネクションのケースと同程度の出力が得られると考えられている.そのため,観測結果を説明するには不適である.

必要なエネルギーを生成する最も確実なシナリオとして,惑星表面と恒星表面を接続する磁気フラックスチューブの基底を横切るポインティングフラックスがある.この出力は,惑星と恒星磁気圏の相対運動により,恒星表面の磁気的なフットプリントが連続的に変形することで発生する.この場合,可能な出力は
\[
P \approx \frac{2\pi}{\mu} f_{\rm AP} R_{\rm p}^{2} B_{\rm p0}^{2} v_{\rm rel}
\]
で書き表され,\(f_{\rm AP}\) はフラックスチューブで覆われた惑星の半球の割合を示す.この場合,合計で 1020 - 1021 W の出力が可能であり,測定された出力を説明するのに十分な値である.

惑星の磁場強度の推定手法

観測された Ca II K の出力から,フラックスチューブ SPI モデルを用いて惑星の絶対磁場強度を計算することができる.式の中の全ての物理量は既知であるかよく推定できるものであるため,そこから \(B_{\rm p0}\) を計算できる.\(f_{\rm AP}\) は \(B_{*}/B_{\rm p0}\) に依存するため,式は数値的に解く必要がある.ここで導出した磁場強度の場合,\(f_{\rm AP}\) は 0.02-0.20 となる.

観測された Ca II K での出力は SPI によって生成された全出力の下限値であるため,SPI による総エネルギーのうち Ca II K 線として放射される割合を推定する必要がある.これに関しては,中程度の太陽フレアのものと比較する.M クラスの太陽フレアで散逸するエネルギーのモデルを用い,M クラスフレアの際に Ca II K 線として放出されるエネルギーは,フレアで散逸する総エネルギーの 0.21% ± 0.08% であるという推定値を用いる.

結果

ホットジュピターの強い磁場

今回の手法で導出した磁場は,HD 189733b で 20 ± 7 G,HD 179949b で 86 ± 29 G,τ Boo b で 117 ± 38 G,ν And b で 83 ± 77 G である.これらはいずれも,全エネルギーのうち Ca II K で放出される割合を 0.20% と仮定した場合のものであり.推定誤差ははエネルギー変換割合を 0.12-0.28% と変化させた場合のばらつきに対応する.

ここで導出した惑星磁場強度を,外部からの恒星加熱モデルで計算した磁場強度と比較した.その結果,SPI から導出した磁場強度とある程度の一致を見た.

重要な点は,ここで導出した惑星磁場の値は,自転のスケーリングと,中心星からの高温な惑星内部への余分なエネルギー注入の考慮がない場合に,内部熱流束進化から予測される値よりも 2-8 倍大きいという点である.今回の結果は,ホットジュピターの磁場強度は,惑星の熱進化と低速な自転のみを考慮した場合に予測される値よりもずっと大きいものになるという,過去のアイデアを支持するものである.

過去の研究との比較

今回の結果は,惑星外気圏のライマンアルファ線吸収のモデルを用いて高温惑星に対して導出された小さい磁気モーメントの値とは対照的である.例として,HD 209458b の磁気モーメントは木星の 0.1 倍と推定されている.

余分な熱の注入を考慮したモデルでは,この惑星の極での磁場強度は 49 G 程度と予測され,これは木星の表面磁場より 3 倍ほど大きい.同様に,ホットネプチューン GJ 436b の磁気モーメントも木星の 0.16 倍と推定される.
しかしこれらのモデルは,惑星の質量放出率と恒星風の密度などの大きな不定性を持つ多くのパラメータに依拠しており,また HD 209458b の場合はライマンアルファ線の透過スペクトルのシグナルノイズ比が低いという問題点がある.

電波放出の検出可能性

系外惑星が強い磁場を持ちうる場合,惑星の磁気圏からの電波放射の検出可能性に影響を及ぼす.いくつかのホットジュピターの濃い電離圏では,電子サイクロトロンメーザー不安定で生成されるいかなる電波放射も減衰されてしまうと考えられている.これは放射される電波よりもプラズマ周波数が大きいことが原因である.しかしこれは惑星磁場が 1-10 G 程度と弱く,また広がった電離圏を持っている場合である.

今回導出した惑星磁場では,電子サイクロトロンメーザー不安定によって放射される電波が,惑星の磁気圏を脱出するのに適した状況にとなるため,電波が検出可能になることが期待される.

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