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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1911.05830
Osborn & Bayliss (2019)
Investigating the Planet-Metallicity Correlation for Hot Jupiters
(ホットジュピターの惑星・金属量相関の調査)
その結果,ホットジュピターは金属が豊富な恒星の周りに高頻度で存在することが分かった.しかしホットジュピターの場合,視線速度サーベイで発見されている (ホットジュピターではない) 長周期の巨大ガス惑星の相関と比べると,整合的ではあるが若干弱い相関であることを発見し,(\(\beta=0.71^{+0.56}_{-0.34}\)) であることがわかった.
このことは,ホットジュピターに属する惑星は,おそらくは他の巨大ガス惑星と同様の過程で形成されるが,その後の移動の歴史のみが異なるということを示唆している.
この結果は後に,現在ではよく知られている巨大惑星と金属量の相関の研究へと発展した.つまり,恒星の金属量が高いほど,その恒星が巨大惑星を持つ確率は高くなるというものである (Santos et al. 2004など).
この相関は,最近のレビュー論文の中で再解析された (Adibekyan 2019).その中では,FGK 主系列星のうち視線速度法とトランジット法で惑星が発見されているものを,FGK 主系列星のうち HARPS GTO プログラムによって惑星を持たないことが分かっている恒星と比較している.なお双方の恒星のパラメータは同じ手法を用いて導出している.
その結果,惑星を持つ恒星と惑星を持たない恒星の間では,恒星の金属量の分布に非常に明瞭な違いがあることが示された.この違いは 2 サンプルのコルモゴロフ・スミルノフ検定 (KS 検定) で確認され,巨大惑星と恒星の金属量の間に相関が存在することが再確認された.
1 つめは,汚染や自己増幅 (Gonzalez (1997) で相関の背後にあるメカニズムとして示唆されたもの) であり,これは恒星の外層が周囲からの物質の落下によって汚染されたことが原因だとする理論である.
ここで恒星外層に落下した物質は,おそらくは巨大惑星の内側移動に起因するものだと考えられる.
2 番目は始原的な原因によるもので,恒星の金属量は,恒星が形成された分子雲の金属量を反映しているとするものである.この理論は,巨大惑星は金属量の大きい原始惑星系円盤で形成されやすいことを示唆している.
Santos et al. (2001) では,シンプルな恒星汚染モデルでは観測されている金属量の違いを説明する主要プロセスにはならず,また始原的な起源であるとする説はその他の証拠により支持されると結論付けている.この説は,惑星形成の主要な理論の一つであるコア降着惑星形成理論でも支持される (Ida & Lin 2004など).
コア降着を介した惑星形成過程 (Pollack et al. 1996など) はボトムアップ過程であり,巨大惑星は岩石/氷の核 (10-15 地球質量) から形成が始まり,惑星軌道からガスが取り除かれるか,あるいは円盤全体からガスが取り除かれるまで,暴走的過程でガスを降着する.もし初期の円盤が高い金属量である場合 (つまりより多くの固体粒子が存在する場合),ガスを効率的に降着することができる大きな金属核が,円盤からガスが失われる前に形成可能であると考えられる.
ホットジュピターは半径が大きく軌道周期が短いため,視線速度やトランジットサーベイでは比較的容易に発見できるにも関わらず,比較的希少な存在である.FGK 型星回りでの存在頻度はわずか 0.4% であると推定されている (Cumming et al. 2008,Howard et al. 2012,Zhou et al. 2019).
ホットジュピターに関する金属量依存性について研究は少ないが,いくつかの (そしてしばしば相反する) 傾向が観測されている.
Sozzetti (2004) は,太陽よりも金属量が少ない恒星において,5 日よりも短い周期の惑星が欠乏していることを示した.しかし観測データにバイアスがある可能性があり,さらに統計的な数が少ないことから,明確な結論には至っていない.
数年後にはホットジュピターの発見数が増えて新たな解析が行われた.Maldonado et al. (2012) は,低金属量の恒星では,高温の巨大惑星は低温の巨大惑星よりも存在頻度が低いことを見出した.
また Adibekyan et al. (2013) は,金属量が少ない恒星の周りでは,0.03-4 木星質量の惑星はホットジュピターのような短周期ではなく,長周期のものが多いことを示した.しかし Narang et al. (2018) は,最大で 50 地球質量までの惑星が存在する場合は,軌道周期が 10 日未満では軌道周期の増加に伴って中心星の平均の金属量は増加するが,50 地球質量以上の巨大惑星では短周期 (10 日以下) と長周期 (10 日以上) では平均の金属量に差異はなかったと報告している.
Adibekyan (2019) では,視線速度とトランジットでの惑星の別々のサンプルが,個々の惑星の軌道周期は大きく違う領域にあるにも関わらず,KS テストを用いて金属量の分布は識別できないことを示したのは特筆に値する.このサンプル中では,解析に用いたトランジット惑星の平均軌道周期は 11 日で,視線速度で発見された惑星は平均 1202 日である.
なお残念ながら,Adibekyan (2019) でのトランジットサンプルの平均は Narang et al. (2018) での短周期巨大惑星のしきい値である 10 日をわずかに上回っているため,この 2 つは直接比較できない.
存在頻度の依存性について,
\[
f\left(\left[{\rm Fe/H}\right]\right) \propto 10^{\beta\left[{\rm Fe/H}\right]}
\]
で定義する.ここで,\(f\) は巨大惑星を持つ恒星の割合,[Fe/H] は金属量,\(\beta\) はベキの指数である.
今回の解析では,(\(\beta=0.71^{+0.56}_{-0.34}\)) という値を得た.
Johnson et al. (2010) は AFGKM 星の 1194 個の星と,より広い質量範囲の恒星を解析した.その結果,\(\beta=1.2\pm0.2\),わずかに大きいが今回の結果と整合する値を得ている.
Schlaufman (2014) は 620 個の FGK 星の解析を行った.うち 44 個は少なくとも 1 つの巨大惑星を持つ系であり,HARPS GTO プログラムでの観測結果である.その結果,\(\beta=2.3\pm0.4\) という結果を得ている.興味深いことに,この結果は Valenti & Fischer (2005) の結果とはよく一致しているが,Johnson et al. (2010) や今回の結果とは一致しない.
これらの結果は,惑星は全て視線速度サーベイによって発見されたものだが,トランジットサーベイで発見された惑星についての研究も行われている.特にケプラーでのサーベイ由来のものがある.
Guo et al. (2017) と Petigura et al. (2018) は,どちらもケプラーのデータ中の 14 個のホットジュピターから \(\beta\) を評価した.
Guo et al. (2017) は \(\beta=2.1\pm0.7\) としたが,Petigura et al. (2018) は \(\beta=3.4^{+0.9}_{-0.8}\) と,過去の研究より高い値を報告している.
なお,ケプラーでのホットジュピターの発見数が少ないこと,またケプラーサーベイでの観測対象選定の複雑さを考慮すると,ケプラーのデータを元にしたこれらの結果はいくらかの注意を持って扱う必要がある (今回の研究でのサンプルは,ターゲットを定めないサーベイによるもの).
ホットジュピターも低温な巨大惑星も同じ過程で形成され,その後の移動の過程が異なったものだと考えられる.今回導かれた相関は,ホットジュピターのその場形成モデルとは対立する示唆を与える.
arXiv:1911.05830
Osborn & Bayliss (2019)
Investigating the Planet-Metallicity Correlation for Hot Jupiters
(ホットジュピターの惑星・金属量相関の調査)
概要
ほぼ 15 年にわたる地上からの広視野サーベイ観測で発見された 217 個のホットジュピターの,一様で無バイアスなデータセットを用いて,巨大惑星と金属量の相関について調査した.ホットジュピターを持つ中心星の金属量を,散在星のものと比較した.ここでは Besan ̧con 銀河モデルを使用した.その結果,ホットジュピターは金属が豊富な恒星の周りに高頻度で存在することが分かった.しかしホットジュピターの場合,視線速度サーベイで発見されている (ホットジュピターではない) 長周期の巨大ガス惑星の相関と比べると,整合的ではあるが若干弱い相関であることを発見し,(\(\beta=0.71^{+0.56}_{-0.34}\)) であることがわかった.
このことは,ホットジュピターに属する惑星は,おそらくは他の巨大ガス惑星と同様の過程で形成されるが,その後の移動の歴史のみが異なるということを示唆している.
惑星の存在頻度の金属量依存性
金属量との相関の発見
惑星を持たない散在星と比べると,周囲に惑星を持つ恒星の方が金属量が高いということは,系外惑星が数個発見された段階ですぐに指摘された (Gonzalez 1997,Santos et al. 2000, 2001).例えば Gonzalez (1997) はこの関連性を,わずか 4 つの巨大系外惑星しか検出されていない段階で指摘した.この結果は後に,現在ではよく知られている巨大惑星と金属量の相関の研究へと発展した.つまり,恒星の金属量が高いほど,その恒星が巨大惑星を持つ確率は高くなるというものである (Santos et al. 2004など).
この相関は,最近のレビュー論文の中で再解析された (Adibekyan 2019).その中では,FGK 主系列星のうち視線速度法とトランジット法で惑星が発見されているものを,FGK 主系列星のうち HARPS GTO プログラムによって惑星を持たないことが分かっている恒星と比較している.なお双方の恒星のパラメータは同じ手法を用いて導出している.
その結果,惑星を持つ恒星と惑星を持たない恒星の間では,恒星の金属量の分布に非常に明瞭な違いがあることが示された.この違いは 2 サンプルのコルモゴロフ・スミルノフ検定 (KS 検定) で確認され,巨大惑星と恒星の金属量の間に相関が存在することが再確認された.
相関の原因
巨大惑星と金属量の相関の原因に関して,2 つの主要な理論が提案されている.1 つめは,汚染や自己増幅 (Gonzalez (1997) で相関の背後にあるメカニズムとして示唆されたもの) であり,これは恒星の外層が周囲からの物質の落下によって汚染されたことが原因だとする理論である.
ここで恒星外層に落下した物質は,おそらくは巨大惑星の内側移動に起因するものだと考えられる.
2 番目は始原的な原因によるもので,恒星の金属量は,恒星が形成された分子雲の金属量を反映しているとするものである.この理論は,巨大惑星は金属量の大きい原始惑星系円盤で形成されやすいことを示唆している.
Santos et al. (2001) では,シンプルな恒星汚染モデルでは観測されている金属量の違いを説明する主要プロセスにはならず,また始原的な起源であるとする説はその他の証拠により支持されると結論付けている.この説は,惑星形成の主要な理論の一つであるコア降着惑星形成理論でも支持される (Ida & Lin 2004など).
コア降着を介した惑星形成過程 (Pollack et al. 1996など) はボトムアップ過程であり,巨大惑星は岩石/氷の核 (10-15 地球質量) から形成が始まり,惑星軌道からガスが取り除かれるか,あるいは円盤全体からガスが取り除かれるまで,暴走的過程でガスを降着する.もし初期の円盤が高い金属量である場合 (つまりより多くの固体粒子が存在する場合),ガスを効率的に降着することができる大きな金属核が,円盤からガスが失われる前に形成可能であると考えられる.
ホットジュピターの金属量相関について
巨大惑星の下位分類であるホットジュピターについての金属量との関係性の研究も行われている.ホットジュピターは半径が大きく軌道周期が短いため,視線速度やトランジットサーベイでは比較的容易に発見できるにも関わらず,比較的希少な存在である.FGK 型星回りでの存在頻度はわずか 0.4% であると推定されている (Cumming et al. 2008,Howard et al. 2012,Zhou et al. 2019).
ホットジュピターに関する金属量依存性について研究は少ないが,いくつかの (そしてしばしば相反する) 傾向が観測されている.
Sozzetti (2004) は,太陽よりも金属量が少ない恒星において,5 日よりも短い周期の惑星が欠乏していることを示した.しかし観測データにバイアスがある可能性があり,さらに統計的な数が少ないことから,明確な結論には至っていない.
数年後にはホットジュピターの発見数が増えて新たな解析が行われた.Maldonado et al. (2012) は,低金属量の恒星では,高温の巨大惑星は低温の巨大惑星よりも存在頻度が低いことを見出した.
また Adibekyan et al. (2013) は,金属量が少ない恒星の周りでは,0.03-4 木星質量の惑星はホットジュピターのような短周期ではなく,長周期のものが多いことを示した.しかし Narang et al. (2018) は,最大で 50 地球質量までの惑星が存在する場合は,軌道周期が 10 日未満では軌道周期の増加に伴って中心星の平均の金属量は増加するが,50 地球質量以上の巨大惑星では短周期 (10 日以下) と長周期 (10 日以上) では平均の金属量に差異はなかったと報告している.
Adibekyan (2019) では,視線速度とトランジットでの惑星の別々のサンプルが,個々の惑星の軌道周期は大きく違う領域にあるにも関わらず,KS テストを用いて金属量の分布は識別できないことを示したのは特筆に値する.このサンプル中では,解析に用いたトランジット惑星の平均軌道周期は 11 日で,視線速度で発見された惑星は平均 1202 日である.
なお残念ながら,Adibekyan (2019) でのトランジットサンプルの平均は Narang et al. (2018) での短周期巨大惑星のしきい値である 10 日をわずかに上回っているため,この 2 つは直接比較できない.
結果
ここでは,広視野の,特定の天体をターゲットとしていないトランジットサーベイによって検出されたホットジュピターのサンプルを用いて解析を行った.存在頻度の依存性について,
\[
f\left(\left[{\rm Fe/H}\right]\right) \propto 10^{\beta\left[{\rm Fe/H}\right]}
\]
で定義する.ここで,\(f\) は巨大惑星を持つ恒星の割合,[Fe/H] は金属量,\(\beta\) はベキの指数である.
今回の解析では,(\(\beta=0.71^{+0.56}_{-0.34}\)) という値を得た.
議論
先行研究との比較
Valenti & Fischer (2005) では 1040 個の FGK 星の長期間の一様な視線速度サーベイから,\(\beta=2\) という値を見出した.解析しているのは軌道周期が 4 年未満の巨大惑星である.Johnson et al. (2010) は AFGKM 星の 1194 個の星と,より広い質量範囲の恒星を解析した.その結果,\(\beta=1.2\pm0.2\),わずかに大きいが今回の結果と整合する値を得ている.
Schlaufman (2014) は 620 個の FGK 星の解析を行った.うち 44 個は少なくとも 1 つの巨大惑星を持つ系であり,HARPS GTO プログラムでの観測結果である.その結果,\(\beta=2.3\pm0.4\) という結果を得ている.興味深いことに,この結果は Valenti & Fischer (2005) の結果とはよく一致しているが,Johnson et al. (2010) や今回の結果とは一致しない.
これらの結果は,惑星は全て視線速度サーベイによって発見されたものだが,トランジットサーベイで発見された惑星についての研究も行われている.特にケプラーでのサーベイ由来のものがある.
Guo et al. (2017) と Petigura et al. (2018) は,どちらもケプラーのデータ中の 14 個のホットジュピターから \(\beta\) を評価した.
Guo et al. (2017) は \(\beta=2.1\pm0.7\) としたが,Petigura et al. (2018) は \(\beta=3.4^{+0.9}_{-0.8}\) と,過去の研究より高い値を報告している.
なお,ケプラーでのホットジュピターの発見数が少ないこと,またケプラーサーベイでの観測対象選定の複雑さを考慮すると,ケプラーのデータを元にしたこれらの結果はいくらかの注意を持って扱う必要がある (今回の研究でのサンプルは,ターゲットを定めないサーベイによるもの).
形成過程への示唆
今回の結果は,過去の研究と同様に巨大惑星と中心星の金属量の相関の存在を確認するものである.しかし,他の長周期の巨大惑星よりもホットジュピターでの金属量依存性はわずかに弱いことを示唆する.この結果は,ホットジュピターは明確に独立した集団ではなく,より長周期の巨大惑星と同じ集団から引き出されたものであることを示す強力な証拠である.ホットジュピターも低温な巨大惑星も同じ過程で形成され,その後の移動の過程が異なったものだと考えられる.今回導かれた相関は,ホットジュピターのその場形成モデルとは対立する示唆を与える.
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