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天文・宇宙物理関連メモ vol.1305 Gilbert et al. (2020),Rodriguez et al. (2020),Suissa et al. (2020) TESS による初のハビタブルゾーン内地球サイズ惑星の発見とその特徴
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2001.00952
Gilbert et al. (2020)
The First Habitable Zone Earth-sized Planet from TESS. I: Validation of the TOI-700 System
(TESS による初めてのハビタブルゾーンの地球サイズ惑星 I.TOI-700 系の実証)
地上からのフォローアップ観測の結果と組み合わせ,一般的な天体物理的な偽陽性シナリオの可能性を否定し,検出されたシグナルが惑星系由来のものであることを実証した.
最も外側の惑星 TOI-700d は 1.19 ± 0.11 地球半径で,中心星の保守的なハビタブルゾーンの中に軌道を持つ.地球の日射量のおよそ 86% を受けている.
ハビタブルゾーン内に地球サイズの惑星を持つその他の低質量星とは対照的に,この恒星は恒星活動の水準が低い.そのため,おそらく岩石質であるこの惑星の大気を探査するための良い対象である.
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (JWST) での TOI-700d の大気の特徴付けを行うことは難しいものの,より大きなサイズであるサブネプチューン TOI-700c (2.63 地球半径) は,JWST やさらに将来の観測機器での良い観測対象である.
TESS はその拡張ミッションにおいて,再び 11 sectors にわたって南天および TOI-700 を観測する予定である.その観測によって,既知の惑星のパラメータを更に制限し,さらなる惑星の探査やトランジット時刻変化の探査を行えることが期待される.
ケプラー62 系には,早期 K 型星の周りを公転する地球に近い日射を受ける 2 つの惑星が存在するが,距離が ~300 pc と比較的遠く暗いため,フォローアップ観測が難しい.
ケプラーによる重要な発見の一つに,低質量の M 型星回りでは惑星の存在頻度が高いというものがある.特に,2 地球半径よりも小さい惑星は非常に多く発見されている.
ハビタブルゾーン内にある地球サイズ惑星の初めての確実な発見はケプラー186f である.距離は ~179 pc で,太陽の半分程度の質量を持つ M 型星を公転する複数惑星系の一部である (Quintana et al. 2014など).
ケプラーの拡張ミッションである K2 ミッションでは,メインのミッションより一桁多い M 型矮星を観測している (主要ミッションでは ~3000 個の M 型星が観測された).K2 ミッションでは低質量星が多く観測され,複数のハビタブルゾーン内の小型のトランジット惑星が発見された.例として,K2-3d,K2-18b,K2-9b,K2-72e,K2-288Bb が挙げられる.これらのうち,おそらく岩石質の惑星だと言えるほど十分小さいものは,1.3 地球半径を持つ K2-72e のみである (Rogers 2015).
ケプラーと K2 ミッションでは多数の小型の惑星が発見されたが,ターゲット選定の戦略と限られた観測期間の影響で,大部分の天体は詳細なフォローアップ観測をするには暗すぎるものとなっている.
地上からの測光観測でのトランジット,および分光観測での視線速度測定でも,M 型星まわりの惑星の観測が進行している.例えば,GJ 1214b,GJ 1132b,LHS 1140b, c が MEarth プログラムで発見されている.また,プロキシマ・ケンタウリb や,7 つの地球型惑星を持つ非常に晩期の M 型星 TRAPPIST-1 も発見されている.
LHS 1140b は特に興味深い対象で,岩石質であることが示唆される質量を持つスーパーアースである (Ment et al. 2019).TRAPPIST-1 の惑星もハビタブルゾーン内に位置しており,トランジット時刻変化から質量が測定されている.その結果,岩石質のものから,より揮発性物質が豊富な地球サイズ惑星までと多様性があることが分かっている.
距離:31.127 pc
スペクトル型:M2V
有効温度:3480 K
金属量:[Fe/H] = -0.07
質量:0.416 太陽質量
半径:0.420 太陽半径
光度:0.0233 太陽光度
自転周期:54.0 日
半径:1.010 地球半径
日射量:地球の 5.0 倍
軌道長半径:0.0637 AU
半径:2.63 地球半径
日射量:地球の 2.66 倍
軌道長半径:0.0925 AU
半径:1.19 地球半径
日射量:地球の 0.86 倍
軌道長半径:0.163 AU
TOI-700 系の考えられる形成シナリオとしては,内側 2 つの惑星は早期に形成されて大量のガスを降着したが,外側の惑星はよりゆっくりと形成され,ガスをあまり降着しなかったというものがある.大気の光蒸発は惑星の恒星からの距離に非常に敏感であるため,最も内側の惑星はそのエンベロープを光蒸発によって失ったと考えられる.
別の可能性として,大きな軌道移動は惑星のフィーディングゾーンに大きな多様性をもたらしうるため,結果として形成される惑星の組成も異なるというものが挙げられる.TOI-700c は円盤外側から内側へ移動してきて,惑星 TOI-700b と d に比べて異なる環境 (そしておそらくはより速い形成) を経験した可能性がある.しかし質量が類似していることから,なぜ 1 つの惑星だけが内側へ移動し,残りはしなかったのかを理解するのは難しい.
この 2 番目のシナリオは,もし将来的な研究で TOI-700c の質量が b と d よりもずっと大きいことが示唆された場合は,もっともらしい候補になるだろう.
arXiv:2001.00954
Rodriguez et al. (2020)
The First Habitable Zone Earth-Sized Planet From TESS II: Spitzer Confirms TOI-700 d
(TESS による初めてのハビタブルゾーンの地球サイズ惑星 II.スピッツァーによる TOI-700d の確認)
スピッツァー宇宙望遠鏡の観測で TESS による TOI-700d の発見を確認し,トランジットシグナルは本物の惑星によるものであることが示された.
視線速度の半振幅はとして期待される値は ~ 80 cm/s であり,最新の視線速度測定装置を用いて TOI-700d を検出することは可能である.
arXiv:2001.00955
Suissa et al. (2020)
The First Habitable Zone Earth-sized Planet from TESS. III: Climate States and Characterization Prospects for TOI-700 d
(TESS による初めてのハビタブルゾーンの地球サイズ惑星 III.TOI-700d の気候状態と特徴付けの可能性)
20 パターンのシミュレーションにおいて,気候モデルから透過スペクトル,組み合わされた光のスペクトル,積分した広帯域位相曲線を合成した.これらの気候学に基づいた観測可能量は,この惑星の将来的な特徴付けに必要な技術的な能力をコミュニティが評価するのを助けるだけではなく,将来的に高感度のスペクトル観測を得た場合に,その気候状態を識別するのに役立つだろう.
結果として,TOI-700d はハビタブルな惑星の手堅い候補であり,大気組成の広い範囲において温暖な表層環境を保持する可能性があることを見出した.
残念ながら,結果として合成した透過スペクトルのスペクトル特徴の深さと,ピークフラックス,および合成した位相曲線は 10 ppm を超えない.そのためジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による大気の特徴付けを行うのは難しいだろうと予想される.
arXiv:2001.00952
Gilbert et al. (2020)
The First Habitable Zone Earth-sized Planet from TESS. I: Validation of the TOI-700 System
(TESS による初めてのハビタブルゾーンの地球サイズ惑星 I.TOI-700 系の実証)
概要
近傍 (31.1 pc) の M2 星 TOI-700 (TIC 150428135) を公転する 3 惑星系の発見と実証について報告する.この天体は TESS の黄道の南天における continuous viewing zone (継続的に観測が可能な領域) に位置しており,11 sectors にわたる観測から,複数の惑星のトランジットが検出された.惑星半径は 1-2.6 地球半径,軌道周期は 9.98-37.43 日である.地上からのフォローアップ観測の結果と組み合わせ,一般的な天体物理的な偽陽性シナリオの可能性を否定し,検出されたシグナルが惑星系由来のものであることを実証した.
最も外側の惑星 TOI-700d は 1.19 ± 0.11 地球半径で,中心星の保守的なハビタブルゾーンの中に軌道を持つ.地球の日射量のおよそ 86% を受けている.
ハビタブルゾーン内に地球サイズの惑星を持つその他の低質量星とは対照的に,この恒星は恒星活動の水準が低い.そのため,おそらく岩石質であるこの惑星の大気を探査するための良い対象である.
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (JWST) での TOI-700d の大気の特徴付けを行うことは難しいものの,より大きなサイズであるサブネプチューン TOI-700c (2.63 地球半径) は,JWST やさらに将来の観測機器での良い観測対象である.
TESS はその拡張ミッションにおいて,再び 11 sectors にわたって南天および TOI-700 を観測する予定である.その観測によって,既知の惑星のパラメータを更に制限し,さらなる惑星の探査やトランジット時刻変化の探査を行えることが期待される.
背景
ハビタブルゾーン内に存在する小さい惑星としては,ケプラー22b が初めての発見例である (Borucki et al. 2012).しかしこの惑星の半径は 2 地球半径よりも大きいため,岩石惑星ではない可能性が高い.ケプラー62 系には,早期 K 型星の周りを公転する地球に近い日射を受ける 2 つの惑星が存在するが,距離が ~300 pc と比較的遠く暗いため,フォローアップ観測が難しい.
ケプラーによる重要な発見の一つに,低質量の M 型星回りでは惑星の存在頻度が高いというものがある.特に,2 地球半径よりも小さい惑星は非常に多く発見されている.
ハビタブルゾーン内にある地球サイズ惑星の初めての確実な発見はケプラー186f である.距離は ~179 pc で,太陽の半分程度の質量を持つ M 型星を公転する複数惑星系の一部である (Quintana et al. 2014など).
ケプラーの拡張ミッションである K2 ミッションでは,メインのミッションより一桁多い M 型矮星を観測している (主要ミッションでは ~3000 個の M 型星が観測された).K2 ミッションでは低質量星が多く観測され,複数のハビタブルゾーン内の小型のトランジット惑星が発見された.例として,K2-3d,K2-18b,K2-9b,K2-72e,K2-288Bb が挙げられる.これらのうち,おそらく岩石質の惑星だと言えるほど十分小さいものは,1.3 地球半径を持つ K2-72e のみである (Rogers 2015).
ケプラーと K2 ミッションでは多数の小型の惑星が発見されたが,ターゲット選定の戦略と限られた観測期間の影響で,大部分の天体は詳細なフォローアップ観測をするには暗すぎるものとなっている.
地上からの測光観測でのトランジット,および分光観測での視線速度測定でも,M 型星まわりの惑星の観測が進行している.例えば,GJ 1214b,GJ 1132b,LHS 1140b, c が MEarth プログラムで発見されている.また,プロキシマ・ケンタウリb や,7 つの地球型惑星を持つ非常に晩期の M 型星 TRAPPIST-1 も発見されている.
LHS 1140b は特に興味深い対象で,岩石質であることが示唆される質量を持つスーパーアースである (Ment et al. 2019).TRAPPIST-1 の惑星もハビタブルゾーン内に位置しており,トランジット時刻変化から質量が測定されている.その結果,岩石質のものから,より揮発性物質が豊富な地球サイズ惑星までと多様性があることが分かっている.
パラメータ
TOI-700
別名:TIC 150428135距離:31.127 pc
スペクトル型:M2V
有効温度:3480 K
金属量:[Fe/H] = -0.07
質量:0.416 太陽質量
半径:0.420 太陽半径
光度:0.0233 太陽光度
自転周期:54.0 日
TOI-700b
軌道周期:9.97701 日半径:1.010 地球半径
日射量:地球の 5.0 倍
軌道長半径:0.0637 AU
TOI-700c
軌道周期:16.051098 日半径:2.63 地球半径
日射量:地球の 2.66 倍
軌道長半径:0.0925 AU
TOI-700d
軌道周期:37.4260 日半径:1.19 地球半径
日射量:地球の 0.86 倍
軌道長半径:0.163 AU
他の複数惑星系との比較と形成過程
今回発見された TOI-700 系は,2 つの地球サイズ惑星と,1 つのより大きい (2.6 地球半径) 惑星からなる.この惑星系は,他のハビタブルゾーン内の小さい惑星を持つ複数惑星系と比較すると構造が変わっている.ケプラーで発見された複数惑星系では,惑星はどれも似たサイズを持ち,規則的な軌道間隔で,円軌道で (傾斜角が測定できているものは) 同一平面上にある.しかし TOI-700 系はこの傾向に合わない.TOI-700 系の考えられる形成シナリオとしては,内側 2 つの惑星は早期に形成されて大量のガスを降着したが,外側の惑星はよりゆっくりと形成され,ガスをあまり降着しなかったというものがある.大気の光蒸発は惑星の恒星からの距離に非常に敏感であるため,最も内側の惑星はそのエンベロープを光蒸発によって失ったと考えられる.
別の可能性として,大きな軌道移動は惑星のフィーディングゾーンに大きな多様性をもたらしうるため,結果として形成される惑星の組成も異なるというものが挙げられる.TOI-700c は円盤外側から内側へ移動してきて,惑星 TOI-700b と d に比べて異なる環境 (そしておそらくはより速い形成) を経験した可能性がある.しかし質量が類似していることから,なぜ 1 つの惑星だけが内側へ移動し,残りはしなかったのかを理解するのは難しい.
この 2 番目のシナリオは,もし将来的な研究で TOI-700c の質量が b と d よりもずっと大きいことが示唆された場合は,もっともらしい候補になるだろう.
arXiv:2001.00954
Rodriguez et al. (2020)
The First Habitable Zone Earth-Sized Planet From TESS II: Spitzer Confirms TOI-700 d
(TESS による初めてのハビタブルゾーンの地球サイズ惑星 II.スピッツァーによる TOI-700d の確認)
概要
スピッツァー宇宙望遠鏡を用いて TOI-700d のトランジットを 4.5 µm 波長での観測を行った.この惑星は,ハビタブルゾーン内にある地球サイズの惑星である.半径は 1.220 地球半径で,37.42 日周期,中心星の保守的なハビタブルゾーンの中にあり,平衡温度は ~269 K と推定される.この系は内側にさらに 2 つの惑星を持つ.スピッツァー宇宙望遠鏡の観測で TESS による TOI-700d の発見を確認し,トランジットシグナルは本物の惑星によるものであることが示された.
視線速度の半振幅はとして期待される値は ~ 80 cm/s であり,最新の視線速度測定装置を用いて TOI-700d を検出することは可能である.
arXiv:2001.00955
Suissa et al. (2020)
The First Habitable Zone Earth-sized Planet from TESS. III: Climate States and Characterization Prospects for TOI-700 d
(TESS による初めてのハビタブルゾーンの地球サイズ惑星 III.TOI-700d の気候状態と特徴付けの可能性)
概要
新しく発見されたハビタブルゾーン内の地球サイズ惑星 TOI-700d の,可能な気候状態の自己無撞着 3 次元気候シミュレーションを行った.惑星の大気組成,圧力,自転状態を変化させ,海で覆われた状態と完全に乾燥した惑星の両方で,惑星の居住可能性について評価した.20 パターンのシミュレーションにおいて,気候モデルから透過スペクトル,組み合わされた光のスペクトル,積分した広帯域位相曲線を合成した.これらの気候学に基づいた観測可能量は,この惑星の将来的な特徴付けに必要な技術的な能力をコミュニティが評価するのを助けるだけではなく,将来的に高感度のスペクトル観測を得た場合に,その気候状態を識別するのに役立つだろう.
結果として,TOI-700d はハビタブルな惑星の手堅い候補であり,大気組成の広い範囲において温暖な表層環境を保持する可能性があることを見出した.
残念ながら,結果として合成した透過スペクトルのスペクトル特徴の深さと,ピークフラックス,および合成した位相曲線は 10 ppm を超えない.そのためジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による大気の特徴付けを行うのは難しいだろうと予想される.
モデル
気候モデルとしては ExoCAM を使用した.惑星を,完全に海に覆われて陸地が存在しない水惑星と,完全に大地に覆われて海が存在しない陸惑星を考慮した.また惑星大気は,窒素分子,二酸化炭素,メタン,水素分子,水蒸気を複数の割合で混合したものを用いた.PR
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