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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:2001.01484
Iino et al. (2020)
14N/15N isotopic ratio in CH3CN of Titan's atmosphere measured with ALMA
(ALMA で測定したタイタン大気の CH3CN の 14N/15N 同位体比)

概要

タイタンの大気中に存在するそれぞれの窒素化合物は,異なる 14N/15N の同位体比を持つことが予想される.これはそれぞれの窒素化合物の生成過程が,主に紫外線照射や磁気圏の電子,銀河宇宙線などの異なる起源によって誘起される様々な窒素分子の解離過程に依存するためである.

CH3CN (アセトニトリル) の場合,ある光化学モデルは 14N/15N の値がタイタンの下部成層圏で 120-130 になると予測している.これは HCN (シアン化水素) と HC3N (シアノアセチレン) での値である ~67-94 よりもずっと大きい.

Atacama Large Millimeter/submillimeter Array (ALMA) のアーカイブデータの解析から,ミリ波での 338 GHz バンドで,タイタンの大気スペクトルから CH3C15N の回転遷移 (J=19-18) の検出に成功した.これらの観測を同時に取得された CH3CN J=19-18 の 349 GHz バンドでのスペクトル線と比較した.これは大気の高度 160- ~400 km の領域を探査していることに相当する.

その結果,アセトニトリルの 14N/15N は 125 (+145, -44) と測定された.データ品質の限界のため導出された値の範囲は不十分な精度しか持たないものの,ベストフィットの値は,アセトニトリルでの窒素同位体比は HCN と HC3N で過去に観測され理論的に予測されていたものよりも大きいことを示している.これは最近の光化学モデルが示唆するように,大気中の高度によって窒素分子の解離源が異なることで説明できる可能性がある

背景

タイタン大気の特徴は複雑な窒素化合物が存在する点である.
1986 年に 30 m 単一鏡電波望遠鏡を用いた観測で,タイタン大気に最も豊富な窒素化合物である HCN (シアン化水素) が発見された.その後,HC3N (シアノアセチレン),CH3CN (アセトニトリル),HNC (イソシアン化水素),C2H5CN (プロパンニトリル) が,宇宙望遠鏡や地上からのミリ波・サブミリ波観測で検出された.

現在,これらの分子の生成は窒素分子の解離による窒素原子の生成が起点であると考えられている.この解離は,紫外線照射,磁気圏電子,銀河宇宙線によって誘起される.

Loison et al. (2015) では,以下のような HCN 生成経路を考えている.まず,基底状態の窒素原子と CH2 から H2CN が生成する.次に,H2CN と H が反応して HCN + N2 が生成される.
一方で,励起状態の窒素原子はタイタンで 2 番目に多い分子種である CH4 と容易に反応し,CH2NH を生成する.CH2NH は光解離によって失われて H2CN を生成し,これから HCN が生成される.

HCN が生成されると,その光分解により反応性の CN ラジカルが生成し,これは C2H2 と反応して HC3N を生成する.なお HCN の異性体である HNC の生成過程は HCN と類似している.HNC は H2CN + H 反応における微量生成物である.

CH3CN の生成経路,は HCN とその娘分子種とは異なると考えられる.Koison et al. (2015) では,基底状態の窒素分子と C2H3 から CH2CN が生成され,CH2CN と H と金属原子から CH3CN が生成されると示唆している.CH2CN は多く存在する CH3 ラジカルと反応して C2H5CN を生成し,また C2H3 ラジカルの生成は大気中の高圧力領域 (低高度) のみで発生すると考えられる (Loison et al. 2015).このような低高度では窒素分子の光解離はめったに発生しない.代わりに,その高度での基底状態の窒素原子の生成は,銀河宇宙線による窒素分子の解離によると考えられる.

最近の Dobrijevic & Loison (2018) のモデルでは,高度 600 km 以下では,基底状態の窒素原子の生成は紫外線や磁気圏電子によるものではなく,銀河宇宙線起源で占められることを示した.そのため,CH3CN と C2H5CN の生成は 600 km 以下でも継続していることが期待される.


窒素原子の異なる解離プロセスは,複雑な窒素組成と化学過程の要因となる.そのため,タイタンの大気化学の理論モデルを評価する際には,窒素の同位体比の観測が重要となる.

Dobrijevic & Loison (2018) は,特に窒素分子の解離過程の違いに依存して同位体比は大きく変化することを指摘した.具体的には,CH3CN と C2H5CN の 14N/15N 比は,モデルでは ~ 800 km の高高度では ~80 で,下部成層圏 (~200 km) では ~120 に増加すると予測した.一方で HCN と HC3N での同位体比は 800 km 以下で ~80 で比較的一定と予想した.
HCN と HC3N に関しては過去の観測と一致しており,HCN は 94 ± 13 (Gurwell 2004),72.2 ± 2.2 (Molter et al. 2016),HC3N では 67 ± 14 (Cordiner et al. 2018) である.

同位体比に関しては異なる値を出すモデルもある.Vuitton et al. (2019) では同位体分別過程を含めたモデルから,1000 km 以上の高高度では CH3CN の同位体比は HCN と HC3N より小さくなると予測している.これは,CH3CN は 15N では豊富な,励起状態の窒素原子から生成されることが原因としている.200 km の下部成層圏では,3 つの窒素化合物が ~55 程度の同程度の同位体比を持つと予測.これは,窒素分子と銀河宇宙線の衝突で生成される分別されていない窒素原子が,リサイクル過程を介して同位体比を均質化するからである.

銀河宇宙線はタイタンの大気の組成に影響を及ぼす.銀河宇宙線の影響を評価するためには CH3CN の窒素同位体比の観測的導出が重要である.最近,Palmer et al. (2017) は CH3C15N のシグナルを ALMA を用いてサブミリ波で検出し,同位体比の値として 8 9± 5 を導出した.この解析ではアセトニトリルの存在度分布は Marten et al. (2002) で導出された参照分布と同じと仮定している.つまり,CH3C15N と CH3CN のそれぞれの観測は 2014 年と 1998 年の異なる時期に,大きく異なる空間分解能で行われていることを意味する.

モデルとの比較

ベストフィットの窒素同位体比 14N/15N は 125 で,Dobrijevic & Loison (2018) のモンテカルロ計算からによる,高度 200 km での 70-170 という予測の範囲内である.モデルではアセトニトリルは紫外線と銀河宇宙線による窒素分子の解離という 2 つの可能な経路がある.そのため 200 km で 90 と 160 という 2 つの極大値の予想がある.これはそれぞれ,紫外線起源と銀河宇宙線起源に対応している.しかしデータの品質の限界から,どちらのシナリオかを明確に識別するのは困難である.

アセトニトリルとは対照的に,HCN と HC3N はそれぞれ 79.5, 79.6 という低い窒素同位体比が予測される.ここで導出したアセトニトリルの窒素同位体比は,HCN と HC3N に予想される値とは非整合である.このことは,異なる窒素分子解離過程が存在するというモデルの予測を支持している.

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