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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2001.03126
Cubillos et al. (2020)
Near-ultraviolet Transmission Spectroscopy of HD 209458b: Evidence of Ionized Iron Beyond the Planetary Roche Lobe
(HD 209458b の近紫外線透過光分光観測:惑星のロッシュローブ以遠での鉄イオンの証拠)
この惑星の近紫外線の透過光観測の再解析から,鉄イオンの吸収の存在を波長 2370 Å 周辺にて検出した.また,この吸収は惑星のロッシュローブを超えた範囲にまで広がっている.しかし,2600 Å 周辺に予想される同程度の強さの鉄イオンの吸収は検出されなかった.さらに,中性マグネシウム,マグネシウムイオン,中性鉄原子による吸収の兆候は得られなかった.これは,過去の Vidal-Madjar et al. (2013) での,同じデータセットからマグネシウムは検出されたがマグネシウムイオンは検出されなかった理論モデルと矛盾しない結果である.
今回の結果は,WASP-12b や KELT-9b のような極端なウルトラホットジュピターほどの輻射を受けていなくても,ハイドロダイナミックエスケープは惑星のロッシュローブを超えて鉄程度の重い原子を十分運べるほどに強いことを示唆している.
この惑星の高層大気で鉄が検出され,マグネシウムが非検出であったことは,低層大気では鉄を含む凝縮物よりも主にマグネシウムを含む凝縮物 (すなわち隔離物質) があるというモデルで説明できる.この事は,現在の微物理モデルで示唆されている.
Lyα 線での強い吸収は,惑星のロッシュローブを越えた範囲に散逸している水素大気が存在することを示唆している.この発見がきっかけとなって,高層大気の散逸に関する観測と理論の両方が発展した.実際に,さらなる紫外線観測で他の惑星でも大気散逸が観測されてており,HD 189733b,WASP-12b で近紫外線で大気散逸が検出され,また WASP-121b でも近紫外線で大気散逸の兆候が検出されている (Salz et al. 2019).またウォームネプチューンでも GJ 435b と GJ 3470b で遠紫外線で大気散逸が検出されている.
HD 209458b のその後の遠紫外線・近紫外線の観測では,O と C+ の散逸が観測されている (Vidal-Madjar et al. 2004; Linsky et al. 2010; Ballester & Ben-Jaffel 2015),一方で Si2+ の検出に関しては議論がある (Linsky et al. 2010; Ballester & Ben-Jaffel 2015).
Vidal-Madjar et al. (2013) は HD 209458b において 2853 Å の共鳴線での Mg (マグネシウム) の吸収を報告している.これは,輻射圧で加速されている惑星からの Mg 原子の散逸と解釈される.また Mg+ の吸収の探査も行ったが,これは成功しなかった.マグネシウムのイオン化エネルギーは 7.65 eV と低く,これは ~1621 Å より短い波長の放射はマグネシウム原子を電離できることを意味する.HD 209458b は G 型星であり,この恒星の光球からの放射は 1450-1500 Å 付近で上昇する.そのため,Mg が検出され Mg+ が検出されなかったことは大きな驚きである.
Mg+ が検出されなかったことについて,Vidal-Madjar et al. (2013) では,電子の再結合が Mg+ を減少させ Mg を増加させることによって説明できるとし,これが実現されるための電子密度を 108-9 cm-3 と推定した.この電子密度は,高層大気モデルで予測される極大の電子密度より 10 倍大きい.
さらに Bourrier et al. (2014) は観測に最も適合する電子密度はさらに高い 1010 cm-3 と推定した.これは理論的予測よりはるかに大きいことに加え,その場所での Mg+ の再結合率は,全ての電子が Mg に使われることを仮定しているように思われる.これは非現実的な仮定であるため,Mg の検出と Mg+ の非検出を説明するための再結合には,電子密度が 1010 cm-3 より大きくなければいけないことが推測される.
これらの先行研究を元に,ハッブル宇宙望遠鏡での近紫外線観測を再解析した.主要な目的は,Mg と Mg+ の検出と非検出の再調査と,スペクトル中の金属の吸収の探査である.
arXiv:2001.03126
Cubillos et al. (2020)
Near-ultraviolet Transmission Spectroscopy of HD 209458b: Evidence of Ionized Iron Beyond the Planetary Roche Lobe
(HD 209458b の近紫外線透過光分光観測:惑星のロッシュローブ以遠での鉄イオンの証拠)
概要
膨張したトランジットホットジュピター HD 209458b は,系外惑星の特徴付けを行うための研究の初期から現在に至るまで,最も研究された天体の一つである.中間赤外線から遠紫外線までの多波長での透過光観測では,大気中の原子・分子の兆候や,惑星の低層大気のエアロゾル粒子,また高層大気の散逸する水素と金属の存在が明らかにされている.この惑星の近紫外線の透過光観測の再解析から,鉄イオンの吸収の存在を波長 2370 Å 周辺にて検出した.また,この吸収は惑星のロッシュローブを超えた範囲にまで広がっている.しかし,2600 Å 周辺に予想される同程度の強さの鉄イオンの吸収は検出されなかった.さらに,中性マグネシウム,マグネシウムイオン,中性鉄原子による吸収の兆候は得られなかった.これは,過去の Vidal-Madjar et al. (2013) での,同じデータセットからマグネシウムは検出されたがマグネシウムイオンは検出されなかった理論モデルと矛盾しない結果である.
今回の結果は,WASP-12b や KELT-9b のような極端なウルトラホットジュピターほどの輻射を受けていなくても,ハイドロダイナミックエスケープは惑星のロッシュローブを超えて鉄程度の重い原子を十分運べるほどに強いことを示唆している.
この惑星の高層大気で鉄が検出され,マグネシウムが非検出であったことは,低層大気では鉄を含む凝縮物よりも主にマグネシウムを含む凝縮物 (すなわち隔離物質) があるというモデルで説明できる.この事は,現在の微物理モデルで示唆されている.
ホットジュピターの高層大気
紫外線観測での高層大気検出
HD 209458b はトランジットが検出された初めての惑星であり,大気が検出された惑星としても初めてである (Charnonneau et all. 2000, 2002).大気は Na D 線の吸収の測定から検出された.その直後に,惑星周りの広がった水素エンベロープの存在が検出された (Vidal-Madjar et al. 2003).これはハッブル宇宙望遠鏡を用いた遠紫外線でのトランジットから,Lyα 線のウィング部分でのトランジット深さが ~10% であることから検出された.なお Lyα 線のコア部分は星間物質によって完全に吸収されてしまうため,その部分でのトランジットを検出することはできない.Lyα 線での強い吸収は,惑星のロッシュローブを越えた範囲に散逸している水素大気が存在することを示唆している.この発見がきっかけとなって,高層大気の散逸に関する観測と理論の両方が発展した.実際に,さらなる紫外線観測で他の惑星でも大気散逸が観測されてており,HD 189733b,WASP-12b で近紫外線で大気散逸が検出され,また WASP-121b でも近紫外線で大気散逸の兆候が検出されている (Salz et al. 2019).またウォームネプチューンでも GJ 435b と GJ 3470b で遠紫外線で大気散逸が検出されている.
HD 209458b のその後の遠紫外線・近紫外線の観測では,O と C+ の散逸が観測されている (Vidal-Madjar et al. 2004; Linsky et al. 2010; Ballester & Ben-Jaffel 2015),一方で Si2+ の検出に関しては議論がある (Linsky et al. 2010; Ballester & Ben-Jaffel 2015).
HD 209458b での金属原子の検出
NUV の波長域には,大量に存在する金属の共鳴線も含まれる (マグネシウム,鉄,マンガンなど).これらのいくつかは,散逸する惑星大気中に検出されている.Vidal-Madjar et al. (2013) は HD 209458b において 2853 Å の共鳴線での Mg (マグネシウム) の吸収を報告している.これは,輻射圧で加速されている惑星からの Mg 原子の散逸と解釈される.また Mg+ の吸収の探査も行ったが,これは成功しなかった.マグネシウムのイオン化エネルギーは 7.65 eV と低く,これは ~1621 Å より短い波長の放射はマグネシウム原子を電離できることを意味する.HD 209458b は G 型星であり,この恒星の光球からの放射は 1450-1500 Å 付近で上昇する.そのため,Mg が検出され Mg+ が検出されなかったことは大きな驚きである.
Mg+ が検出されなかったことについて,Vidal-Madjar et al. (2013) では,電子の再結合が Mg+ を減少させ Mg を増加させることによって説明できるとし,これが実現されるための電子密度を 108-9 cm-3 と推定した.この電子密度は,高層大気モデルで予測される極大の電子密度より 10 倍大きい.
さらに Bourrier et al. (2014) は観測に最も適合する電子密度はさらに高い 1010 cm-3 と推定した.これは理論的予測よりはるかに大きいことに加え,その場所での Mg+ の再結合率は,全ての電子が Mg に使われることを仮定しているように思われる.これは非現実的な仮定であるため,Mg の検出と Mg+ の非検出を説明するための再結合には,電子密度が 1010 cm-3 より大きくなければいけないことが推測される.
これらの先行研究を元に,ハッブル宇宙望遠鏡での近紫外線観測を再解析した.主要な目的は,Mg と Mg+ の検出と非検出の再調査と,スペクトル中の金属の吸収の探査である.
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