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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2001.08229
Markwardt et al. (2020)
Search for L5 Earth Trojans with DECam
(DECam による L5 地球トロヤ群の探査)
ここでは,CTIO の Blanco Telescope に搭載された Dark Energy Camera (DECam) を用いた地球のトロヤ群天体の探査結果について報告する.
この観測では,L5 点における過去のサーベイ観測と比べて広い範囲を探査したにもかかわらず,さらなるトロヤ群天体は発見されなかった.そのためこの結果から,地球のトロヤ群小惑星に対するこれまでで最も厳しい制約が与えられる.
これらの制約は,トロヤ群天体の特性,特に光度分布の傾き (すなわち天体のサイズとアルベドの分布に依存する) の仮定に依存する.一般的な仮定の元での推定値は,L5 周辺に存在する絶対等級 H < 15.5 の天体は 1 個未満,H < 19.7 のものは 60-85 個,H = 20.4 のものは 97 個という制約を (90% の信頼度で) 与えた.H = 20.4 という等級は,天体のアルベドが 0.15 の場合天体サイズが ~300 m のものに対応している.
H = 19.7 では,これらの上限値は過去の L4 における地球のトロヤ群天体に与えられた制約と整合的であり,また L5 におけるトロヤ群天体に対する制約を大きく改善した.
地球のトロヤ群は,地球に近い場所に存在しているにも関わらずあまり理解が進んでいない.L4 や L5 にある天体は地球の年齢と同程度にわたって安定である可能性があり,太陽系の歴史においても重要な存在である.このような天体は,原始惑星系円盤の時代からの,摂動を受けていない生き残りの天体である可能性もある.
またトロヤ群は,月への衝突天体の候補として研究されてもきた.月の公転に対する先行半球と後行半球では,クレーターの分布に非対称性がある (Morota & Furumoto 2003).数値シミュレーションを用いて,地球近傍小惑星がこの非対称性の原因になりうるかどうかの調査が行われている.
Gallant et al. (2009) ではシミュレーションと観測データの不定性の範囲内で,地球近傍小惑星の既知の集団が月のクレーターの非対称性を説明可能であるとしている.一方で Ito & Malhotra (2010) は,既知の地球近傍小惑星の集団はクレーターの非対称性に ~50% しか寄与しないとした.さらに,月に対して非常に小さい相対速度を持った,観測されていない地球近傍小惑星の集団,例えば地球との共軌道天体が,この食い違いの解決策になる可能性を示唆した.
これらの観測の困難さのため,これまでに発見されている地球のトロヤ群天体は 2010 TK7 の 1 つのみに留まっている.しかしこの天体は,L4 か L5 の付近を長期間にわたって安定に秤動することが期待される始原的なトロヤ群の軌道を持っていない.特に,この天体は振幅が大きい tadpole 軌道を持ち,L4 付近にずっと留まっているのではなく,地球と L3 (太陽の背後にあるラグランジュ点) の間を秤動している (Connors et al. 2011,Dvorak et al. 2012),
このような軌道は始原的なトロヤ群とは異なるものと考えられるが,これらの軌道は数百万年のオーダーでは安定である可能性もある (Marzari & Scholl 2013).数値シミュレーションでは,この天体は非常にカオス的で短寿命の軌道を持つことが示唆されている.推定されている軌道の寿命には幅があり,7000 年程度 (Connors et al. 2011) から,25 万年程度まで (Dvorak et al. 2012) の推定値の開きがある.また,ヤルコフスキー効果を考慮すると,この天体は長期間安定な軌道を持つには小さすぎるとの指摘もある (Zhou et al. 2018).
結果として,2010 TK7 は始原的な地球のトロヤ群天体ではなく,一時的に地球の共軌道天体として捕らえられている可能性が非常に高い.
最も最近の捜索は,L5 のトロヤ群天体の地上からの捜索である (Whiteley & Tholen 1998).また,OSIRIS-REx が小惑星ベンヌへ向かう途中で L4 付近を通過した際にも天体の捜索が行われた (Cambioni et al. 2018),さらに,はやぶさ2 がリュウグウへ向かう途中の L5 通過における探索も行われた (Yoshikawa et al. 2018).これらのサーベイでは,トロヤ群天体は発見されていない.
はやぶさ2 の結果を元にしたトロヤ群天体の個数の上限値はまだ公開されていない.
地上からの観測である Whiteley & Tholen (1998) は,等級 R = 22.8 の天体に関しては,単位平方度あたりの存在個数の上限値として 3 個という値を与えている.
Cambioni et al. (2018) では,直径 ~210 m の S 型小惑星から ~470 m の C 型小惑星までの天体の存在個数の上限値として,73 ± 22 個と推定している.またその研究では Whiteley & Tholen (1998) のサーベイに対して同じ手法を用い,OSIRIS-REx の観測限界等級での上限値は 194 ± 116 個とした.これらの上限は,未発見のトロヤ群天体が数千個存在しうることを示唆するものである.
Whiteley & Tholen (1998) では L5 周辺のわずか 0.35 平方度の範囲の探査しか行われていない.個数の上限値が大きく,サーベイでのカバー範囲が限られていることから,地球のトロヤ群天体は十分に特徴付けられているとは言えないことを意味している.
arXiv:2001.08229
Markwardt et al. (2020)
Search for L5 Earth Trojans with DECam
(DECam による L5 地球トロヤ群の探査)
概要
太陽系の大きな惑星の大部分は,ラグランジュ点の L4 と L5 にトロヤ群として知られる共軌道天体の集団を持つ. 対照的に,地球の共軌道天体はこれまでのところ 1 つしか発見されていない.ここでは,CTIO の Blanco Telescope に搭載された Dark Energy Camera (DECam) を用いた地球のトロヤ群天体の探査結果について報告する.
この観測では,L5 点における過去のサーベイ観測と比べて広い範囲を探査したにもかかわらず,さらなるトロヤ群天体は発見されなかった.そのためこの結果から,地球のトロヤ群小惑星に対するこれまでで最も厳しい制約が与えられる.
これらの制約は,トロヤ群天体の特性,特に光度分布の傾き (すなわち天体のサイズとアルベドの分布に依存する) の仮定に依存する.一般的な仮定の元での推定値は,L5 周辺に存在する絶対等級 H < 15.5 の天体は 1 個未満,H < 19.7 のものは 60-85 個,H = 20.4 のものは 97 個という制約を (90% の信頼度で) 与えた.H = 20.4 という等級は,天体のアルベドが 0.15 の場合天体サイズが ~300 m のものに対応している.
H = 19.7 では,これらの上限値は過去の L4 における地球のトロヤ群天体に与えられた制約と整合的であり,また L5 におけるトロヤ群天体に対する制約を大きく改善した.
地球のトロヤ群天体について
トロヤ群天体の研究
ラグランジュ点の L4 と L5 は,地球から 60° 先行および後行する位置にある.各惑星のラグランジュ点 L4 と L5 に存在するトロヤ群天体は,金星,火星,木星,天王星,海王星で発見されている.対照的に,地球の場合は 2010 TK7 が WISE によって偶然発見されているのみである (Connors et al. 2011).地球のトロヤ群は,地球に近い場所に存在しているにも関わらずあまり理解が進んでいない.L4 や L5 にある天体は地球の年齢と同程度にわたって安定である可能性があり,太陽系の歴史においても重要な存在である.このような天体は,原始惑星系円盤の時代からの,摂動を受けていない生き残りの天体である可能性もある.
またトロヤ群は,月への衝突天体の候補として研究されてもきた.月の公転に対する先行半球と後行半球では,クレーターの分布に非対称性がある (Morota & Furumoto 2003).数値シミュレーションを用いて,地球近傍小惑星がこの非対称性の原因になりうるかどうかの調査が行われている.
Gallant et al. (2009) ではシミュレーションと観測データの不定性の範囲内で,地球近傍小惑星の既知の集団が月のクレーターの非対称性を説明可能であるとしている.一方で Ito & Malhotra (2010) は,既知の地球近傍小惑星の集団はクレーターの非対称性に ~50% しか寄与しないとした.さらに,月に対して非常に小さい相対速度を持った,観測されていない地球近傍小惑星の集団,例えば地球との共軌道天体が,この食い違いの解決策になる可能性を示唆した.
不安定な地球のトロヤ群天体 2010 TK7
地球のトロヤ群は観測するのが非常に難しい.L4 と L5 は地球から見て常に太陽から小さい離角しか持たない.これは,トロヤ群天体はまだ空が比較的明るい日没後か夜明け前にしか観測できないことを意味する.さらに軌道の配置のため,トロヤ群天体が衝となる位置からは決して観測できず,位相角が大きいため暗くなり検出が難しくなる.これらの観測の困難さのため,これまでに発見されている地球のトロヤ群天体は 2010 TK7 の 1 つのみに留まっている.しかしこの天体は,L4 か L5 の付近を長期間にわたって安定に秤動することが期待される始原的なトロヤ群の軌道を持っていない.特に,この天体は振幅が大きい tadpole 軌道を持ち,L4 付近にずっと留まっているのではなく,地球と L3 (太陽の背後にあるラグランジュ点) の間を秤動している (Connors et al. 2011,Dvorak et al. 2012),
このような軌道は始原的なトロヤ群とは異なるものと考えられるが,これらの軌道は数百万年のオーダーでは安定である可能性もある (Marzari & Scholl 2013).数値シミュレーションでは,この天体は非常にカオス的で短寿命の軌道を持つことが示唆されている.推定されている軌道の寿命には幅があり,7000 年程度 (Connors et al. 2011) から,25 万年程度まで (Dvorak et al. 2012) の推定値の開きがある.また,ヤルコフスキー効果を考慮すると,この天体は長期間安定な軌道を持つには小さすぎるとの指摘もある (Zhou et al. 2018).
結果として,2010 TK7 は始原的な地球のトロヤ群天体ではなく,一時的に地球の共軌道天体として捕らえられている可能性が非常に高い.
過去の地球のトロヤ群天体の捜索
地球のトロヤ群の捜索はこれまでに複数回行われてきた.最も最近の捜索は,L5 のトロヤ群天体の地上からの捜索である (Whiteley & Tholen 1998).また,OSIRIS-REx が小惑星ベンヌへ向かう途中で L4 付近を通過した際にも天体の捜索が行われた (Cambioni et al. 2018),さらに,はやぶさ2 がリュウグウへ向かう途中の L5 通過における探索も行われた (Yoshikawa et al. 2018).これらのサーベイでは,トロヤ群天体は発見されていない.
はやぶさ2 の結果を元にしたトロヤ群天体の個数の上限値はまだ公開されていない.
地上からの観測である Whiteley & Tholen (1998) は,等級 R = 22.8 の天体に関しては,単位平方度あたりの存在個数の上限値として 3 個という値を与えている.
Cambioni et al. (2018) では,直径 ~210 m の S 型小惑星から ~470 m の C 型小惑星までの天体の存在個数の上限値として,73 ± 22 個と推定している.またその研究では Whiteley & Tholen (1998) のサーベイに対して同じ手法を用い,OSIRIS-REx の観測限界等級での上限値は 194 ± 116 個とした.これらの上限は,未発見のトロヤ群天体が数千個存在しうることを示唆するものである.
Whiteley & Tholen (1998) では L5 周辺のわずか 0.35 平方度の範囲の探査しか行われていない.個数の上限値が大きく,サーベイでのカバー範囲が限られていることから,地球のトロヤ群天体は十分に特徴付けられているとは言えないことを意味している.
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