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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:2001.11048
Bourrier et al. (2020)
MOVES III. Simultaneous X-ray and ultraviolet observations unveiling the variable environment of the hot Jupiter HD 189733b
(MOVES III.X 線と紫外線の同時観測が明らかにするホットジュピター HD 189733b の変動性の環境)
観測中に 2 回の恒星フレアを検出したが,惑星 HD 189733b の環境には,そのスペクトルエネルギー分布の長期間の変動が最も重要な影響を与えていることを提案する.低調なコロナ活動と恒星風活動からは,惑星の進行方向のバウショック中に高密度な Si2+ の濃集が形成されることが示唆され,これは最初の 2 回で測定されたトランジット前とトランジット中の吸収の原因である可能性がある.
Lyman-α 線でトランジット中の吸収特徴が,2, 3, 5 番目の観測で検出された.これは広がった惑星の外気圏と,惑星外気圏との電荷交換を介して中性化された恒星風陽子の尾によるものだと考えられる.惑星への X 線照射の増加と極端紫外線の減少が中性水素の光電離速度の低下をもたらし,高層大気での中性水素原子の高い密度を維持し,恒星風との電荷交換を加速することにより,これらの特徴を検出させやすくしているという仮説を提案する.
最後の観測時期で検出された深く広い吸収特徴は,惑星が異なる蒸発状態に入ったことを示唆しており,恒星活動と惑星環境の構造を結び付ける鍵となる可能性がある.
N V (4階電離の窒素) 線の有意な変動は非検出であり,Lyα 線も有意な変動は検出されなかった.これは Lecavelier des Etangs et al. (2012),Bourrier et al. (2013),Guo & Ben-Jaffel (2016) と一致する結果である.
1, 2 ではスペクトル線が変形しており,比較した場合の吸収深さは 28.3% である.これらの減衰は Bourrier et al. (2013) で報告されており,惑星のトランジット前に発生している.
N V 二重項の最も明るい線では変動が検出されなかった.しかし Bourrier et al. (2013) の報告よりもトランジット前のフラックスは低い.
Lyα は 1, 2 では変動が見られず,この値を参照値として採用した.3 では減少が見られ減少幅は 14.1% であった.大気の影響を差し引くと,超過吸収は 11.7% となり,これが惑星を取り囲む中性水素の外気圏によるものであると考えられる.減少そのものは惑星大気の明確な特徴として考慮はできないものの,スペクトル線の blue と red wing での減少が同時に発生しており,惑星大気由来の可能性が高いだろう.
また,orbit 4 の間で明確なトランジット後の変動は検出されなかった.
2 の時に Lyα と Si III 線でフレアが検出された.FUV でしか検出されないフレアは,G 型と M 型の恒星で検出例がある.フレアは恒星磁場構造内でのリコネクションによって発生する.これらのリコネクションは電子を加速し,電子ビームが恒星の高密度な低層大気に衝突し,ガスが急速に加熱されリコネクションが起きた磁気ループを満たし,フレアの軟 X 線が生成される.
紫外線のみが発生するフレアは,小さい磁場構造におけるリコネクションの結果と考えられる (Loyd et al. 2018).この場合,電子ビームは恒星の遷移領域と彩層しか加熱できない.より大きい構造の場合はよりエネルギーが大きいため高温な X 線を放射するプラズマをコロナまで押し上げることができる.このシナリオは,今回検出された Lyα と Si III 線での小さい増幅度と,より高エネルギーの線や X 線での非検出と整合的である.
軟 X 線では優位な変動は検出されなかった.
Si III と N V では有意な変動は見られなかった.
また,低い X 線放射強度と惑星での大きな光電離が,Visit A での高層大気の広がりと中性水素の割合を減らし,これが visit A での Lyα の非検出の原因となっていると推測される.
今回の観測と解析を元に,以下の予測を行った.
(i) EUV が弱く X 線が強い時期は,HD 189733b の熱圏と外気圏の中性水素の量が増加する.そのため Lyα トランジット分光観測で高層大気を探査するのに適している.
(ii) 高層大気による吸収は惑星トランジットの時間帯が最大になる.
(iii) X 線が弱い時期,おそらく恒星風が弱くなっている時期は,低電離種が占め,異なる配置のバウショックが形成される.
arXiv:2001.11048
Bourrier et al. (2020)
MOVES III. Simultaneous X-ray and ultraviolet observations unveiling the variable environment of the hot Jupiter HD 189733b
(MOVES III.X 線と紫外線の同時観測が明らかにするホットジュピター HD 189733b の変動性の環境)
概要
MOVES (Multiwavelength Observations of an eVaporating Exoplanet and its Star) プログラムでの 3 番目の論文である.ハッブル宇宙望遠鏡による遠紫外線観測と,XMM-Newton/Swift の X 線観測で,ホットジュピターを持つ恒星 HD 189733 の遠紫外線の多数のスペクトル線と,軟 X 線スペクトルを取得した.これらの測定から,HD 189733 に対する星間物質の特徴付けと,恒星の半合成 XUV スペクトルを導出し,これは 5 つの異なる時期での高エネルギー放射の進化の研究に使用した.観測中に 2 回の恒星フレアを検出したが,惑星 HD 189733b の環境には,そのスペクトルエネルギー分布の長期間の変動が最も重要な影響を与えていることを提案する.低調なコロナ活動と恒星風活動からは,惑星の進行方向のバウショック中に高密度な Si2+ の濃集が形成されることが示唆され,これは最初の 2 回で測定されたトランジット前とトランジット中の吸収の原因である可能性がある.
Lyman-α 線でトランジット中の吸収特徴が,2, 3, 5 番目の観測で検出された.これは広がった惑星の外気圏と,惑星外気圏との電荷交換を介して中性化された恒星風陽子の尾によるものだと考えられる.惑星への X 線照射の増加と極端紫外線の減少が中性水素の光電離速度の低下をもたらし,高層大気での中性水素原子の高い密度を維持し,恒星風との電荷交換を加速することにより,これらの特徴を検出させやすくしているという仮説を提案する.
最後の観測時期で検出された深く広い吸収特徴は,惑星が異なる蒸発状態に入ったことを示唆しており,恒星活動と惑星環境の構造を結び付ける鍵となる可能性がある.
観測結果
Visit A 2010/4/6 (orbit 1-4 の 4 セット観測)
Si III (2階電離のケイ素) の分布は orbit 1, 4 で類似しており,2, 3 とは異なる分布であった.1, 4 は対称なスペクトルであり,恒星由来のスペクトルと推測される.一方で 2, 3 ではスペクトル線の形状は変形しており,1, 4 と比べると吸収は 21.2% であった.この吸収の特徴は Bourrier et al. (2013) では検出されていない.N V (4階電離の窒素) 線の有意な変動は非検出であり,Lyα 線も有意な変動は検出されなかった.これは Lecavelier des Etangs et al. (2012),Bourrier et al. (2013),Guo & Ben-Jaffel (2016) と一致する結果である.
Visit B 2011/9/7-8 (orbit 1-4 の 4 セット観測)
ここでは orbit 1, 2 が似たスペクトル線分布を示し,3, 4 が類似しており 1, 2 とは異なる分布であった.3, 4 が恒星の Si III 線に対応すると判断される.これは visit A でのスペクトル線の分布とほぼ同一であったためである.1, 2 ではスペクトル線が変形しており,比較した場合の吸収深さは 28.3% である.これらの減衰は Bourrier et al. (2013) で報告されており,惑星のトランジット前に発生している.
N V 二重項の最も明るい線では変動が検出されなかった.しかし Bourrier et al. (2013) の報告よりもトランジット前のフラックスは低い.
Lyα は 1, 2 では変動が見られず,この値を参照値として採用した.3 では減少が見られ減少幅は 14.1% であった.大気の影響を差し引くと,超過吸収は 11.7% となり,これが惑星を取り囲む中性水素の外気圏によるものであると考えられる.減少そのものは惑星大気の明確な特徴として考慮はできないものの,スペクトル線の blue と red wing での減少が同時に発生しており,惑星大気由来の可能性が高いだろう.
また,orbit 4 の間で明確なトランジット後の変動は検出されなかった.
Visit C 2013/5/9-10
1, 3, 4 ではどのスペクトル線でも明確な変動は見られなかった.2 の時に Lyα と Si III 線でフレアが検出された.FUV でしか検出されないフレアは,G 型と M 型の恒星で検出例がある.フレアは恒星磁場構造内でのリコネクションによって発生する.これらのリコネクションは電子を加速し,電子ビームが恒星の高密度な低層大気に衝突し,ガスが急速に加熱されリコネクションが起きた磁気ループを満たし,フレアの軟 X 線が生成される.
紫外線のみが発生するフレアは,小さい磁場構造におけるリコネクションの結果と考えられる (Loyd et al. 2018).この場合,電子ビームは恒星の遷移領域と彩層しか加熱できない.より大きい構造の場合はよりエネルギーが大きいため高温な X 線を放射するプラズマをコロナまで押し上げることができる.このシナリオは,今回検出された Lyα と Si III 線での小さい増幅度と,より高エネルギーの線や X 線での非検出と整合的である.
Visit D 2013/11/3
1, 2 ではいずれのスペクトル線でも明確な変動は検出されなかった.3 で Lyα が明確なフラックスの減少を示し,これは Visit B のものに類似している.これは惑星トランジットの最中に発生しており,吸収深さも整合的で,減光が同じスペクトル領域に位置している.軟 X 線では優位な変動は検出されなかった.
Visit E 2013/11/21
1, 2 では Lyα は有意な変動は見られなかった.3 では blue/red wing 共に有意な減衰を示した.Si III と N V では有意な変動は見られなかった.
議論
恒星の磁気活動と恒星風活動が減少した時の Visit A, B の恒星風の特性は,惑星の前方にあるバウショックでの Si2+ の濃い濃集を形成しやすくする.これが Visit A, B でのトランジット前とトランジット中の Si III の吸収の原因と思われる.また,低い X 線放射強度と惑星での大きな光電離が,Visit A での高層大気の広がりと中性水素の割合を減らし,これが visit A での Lyα の非検出の原因となっていると推測される.
今回の観測と解析を元に,以下の予測を行った.
(i) EUV が弱く X 線が強い時期は,HD 189733b の熱圏と外気圏の中性水素の量が増加する.そのため Lyα トランジット分光観測で高層大気を探査するのに適している.
(ii) 高層大気による吸収は惑星トランジットの時間帯が最大になる.
(iii) X 線が弱い時期,おそらく恒星風が弱くなっている時期は,低電離種が占め,異なる配置のバウショックが形成される.
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