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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1512.05175
Brogi et al. (2015)
Rotation and winds of exoplanet HD 189733 b measured with high-dispersion transmission spectroscopy
(高分散透過光分光観測で測定した系外惑星 HD 189733b の自転と風)
惑星の自転と大気の循環は、大気のスペクトル線を広げ、変形させる効果があり、これは高分散分光観測で検出することができる。ここでは、ホットジュピターである HD 189733bのトランジットを、2.3 μm 周辺で R ~ 105の分解能で観測した。観測に用いたのは、ESO Very Large Telescope (VLT)に搭載されている CRIRES である。
観測結果から、恒星の吸収線と、トランジット時のスペクトル線の変形 (ロシター効果によるもの)を補正した結果、CO と水蒸気の吸収線が透過スペクトル中に検出された。シグナルは、惑星の自転速度 (3.4 km s-1)で最大となった。これは自転周期に直すと 1.7 (+ 2.9, -0.4) 日に対応しており、惑星の軌道周期 2.2日と整合的な値となった。そのため、HD 189733bは潮汐固定されている状態にあるという事が示される。3σ で、惑星の自転周期は 1日よりも長いということが分かった。
昼側から夜側への大気の流れは小さく、-1.7 (+1.1, -1.2) km s-1であった。先行観測のナトリウムの吸収線の青方偏移による測定結果 (8 ± 2 km s-1)と比較すると、これは可視光と赤外線の透過スペクトルでは観測している高度が違うということに対応していると考えられる。そのため、垂直方向に大きな速度シアが存在するのだろうということが考えられる。
この場合、常に日射を受けている側と常に夜になっている側では大きな温度差が存在する。大気の循環はこの温度差を小さくする効果がある。この惑星大気内での熱の再分配と全球的なエネルギーバランスの理解は重要である。
数値計算では、圧力が ~ 1 bar 程度の深い大気では東向きの赤道ジェットが発達することが示されている (Showman et al. 2009など)。この圧力領域は惑星の光球面に相当し、すなわち広範囲の波長での惑星の熱放射に対応している。従って、最も高温な点は、強い赤道ジェットによって恒星直下点 (sub-stellar point)よりもシフトすると考えられる。
より高高度の低圧な領域 (1 mbar 未満)では、風は全ての緯度において昼側から夜側へ、明暗境界線 (terminator)を超えての流れとなる。また、このような高高度での風は、惑星が持つであろう磁場と部分的にイオン化した大気との相互作用による磁場の引きずりによって減衰されると考えられる (Perna et al. 2010)。さらに、大気と内部構造は常に完全に潮汐同期しているとは限らない (Showan & Guillot 2002)。そのため、全球でスーパーローテーションしていたり、自転よりも遅かったりという可能性が可能である。
観測的には、最も惑星表面からの熱放射が強い点が、恒星直下点から東方向にずれているという報告がある (Crossfield et al. 2010, Knutson et al. 2012)。これは惑星の二次食 (secondary eclipse)や位相曲線などから明らかになったことである。
大気の流れに関しては、HD 209458bの昼側から夜側への大気の流れが、スペクトル線の青方偏移 (-2 ± 1 km s-1)から弱く示唆されている (Snellen et al. 2010)。この青方偏移の検出に関しては、惑星軌道の軌道離心率によって引き起こされているという説も存在したが (Montalto et al. 2011)、惑星軌道のパラメータの更新によって排除された (Crossfield et al. 2012, Showman et al. 2013)。
可視光では、HD 289733bの大気の高高度におけるナトリウムの吸収線の青方偏移 (-8 ± 2 km s-1)が示唆されている (Wyttenbach et al. 2015)。また、Snellen et al. (2014)では、直接撮像されている若いガス惑星、がか座ベータ星bのスペクトル線の広がりから、25 km s-1という速い自転速度を示唆している。これは自転周期にすると 8 ± 1 時間というものである。
arXiv:1512.05175
Brogi et al. (2015)
Rotation and winds of exoplanet HD 189733 b measured with high-dispersion transmission spectroscopy
(高分散透過光分光観測で測定した系外惑星 HD 189733b の自転と風)
概要
中心星の近くを公転する惑星は、強い潮汐作用を受ける。そのため、短いタイムスケールで惑星の公転と自転は同期する、いわゆる潮汐固定 (tidal locking)された状態になる。しかしこれまで、ホットジュピターの自転周期は直接観測されたことは無い。また、ホットジュピターの大気は強い東向きのジェット気流によるスーパーローテーションか、高い高度での昼側から夜側への大気の流れ (あるいはこの両方)の風が存在するとかんがえられる。惑星の自転と大気の循環は、大気のスペクトル線を広げ、変形させる効果があり、これは高分散分光観測で検出することができる。ここでは、ホットジュピターである HD 189733bのトランジットを、2.3 μm 周辺で R ~ 105の分解能で観測した。観測に用いたのは、ESO Very Large Telescope (VLT)に搭載されている CRIRES である。
観測結果から、恒星の吸収線と、トランジット時のスペクトル線の変形 (ロシター効果によるもの)を補正した結果、CO と水蒸気の吸収線が透過スペクトル中に検出された。シグナルは、惑星の自転速度 (3.4 km s-1)で最大となった。これは自転周期に直すと 1.7 (+ 2.9, -0.4) 日に対応しており、惑星の軌道周期 2.2日と整合的な値となった。そのため、HD 189733bは潮汐固定されている状態にあるという事が示される。3σ で、惑星の自転周期は 1日よりも長いということが分かった。
昼側から夜側への大気の流れは小さく、-1.7 (+1.1, -1.2) km s-1であった。先行観測のナトリウムの吸収線の青方偏移による測定結果 (8 ± 2 km s-1)と比較すると、これは可視光と赤外線の透過スペクトルでは観測している高度が違うということに対応していると考えられる。そのため、垂直方向に大きな速度シアが存在するのだろうということが考えられる。
背景
ホットジュピターは、0.1 - 100 Myr のタイムスケールで潮汐固定される (Rasio et al. 1996, Marcy et al. 1997)。このタイムスケールは、典型的な系外惑星の年齢よりも十分短いものである。そのため多くのホットジュピターは潮汐固定されていると考えられる。この場合、常に日射を受けている側と常に夜になっている側では大きな温度差が存在する。大気の循環はこの温度差を小さくする効果がある。この惑星大気内での熱の再分配と全球的なエネルギーバランスの理解は重要である。
数値計算では、圧力が ~ 1 bar 程度の深い大気では東向きの赤道ジェットが発達することが示されている (Showman et al. 2009など)。この圧力領域は惑星の光球面に相当し、すなわち広範囲の波長での惑星の熱放射に対応している。従って、最も高温な点は、強い赤道ジェットによって恒星直下点 (sub-stellar point)よりもシフトすると考えられる。
より高高度の低圧な領域 (1 mbar 未満)では、風は全ての緯度において昼側から夜側へ、明暗境界線 (terminator)を超えての流れとなる。また、このような高高度での風は、惑星が持つであろう磁場と部分的にイオン化した大気との相互作用による磁場の引きずりによって減衰されると考えられる (Perna et al. 2010)。さらに、大気と内部構造は常に完全に潮汐同期しているとは限らない (Showan & Guillot 2002)。そのため、全球でスーパーローテーションしていたり、自転よりも遅かったりという可能性が可能である。
観測的には、最も惑星表面からの熱放射が強い点が、恒星直下点から東方向にずれているという報告がある (Crossfield et al. 2010, Knutson et al. 2012)。これは惑星の二次食 (secondary eclipse)や位相曲線などから明らかになったことである。
大気の流れに関しては、HD 209458bの昼側から夜側への大気の流れが、スペクトル線の青方偏移 (-2 ± 1 km s-1)から弱く示唆されている (Snellen et al. 2010)。この青方偏移の検出に関しては、惑星軌道の軌道離心率によって引き起こされているという説も存在したが (Montalto et al. 2011)、惑星軌道のパラメータの更新によって排除された (Crossfield et al. 2012, Showman et al. 2013)。
可視光では、HD 289733bの大気の高高度におけるナトリウムの吸収線の青方偏移 (-8 ± 2 km s-1)が示唆されている (Wyttenbach et al. 2015)。また、Snellen et al. (2014)では、直接撮像されている若いガス惑星、がか座ベータ星bのスペクトル線の広がりから、25 km s-1という速い自転速度を示唆している。これは自転周期にすると 8 ± 1 時間というものである。
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