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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1506.03793
Ouyed & Jaikumar (2015)
Nuclear Fusion in the Deuterated cores of inflated hot Jupiters
(膨張半径を持つホットジュピターの重水素を含むコアでの核融合反応)
Ouyed et al. (1998)では、木星でのheat excess (過剰な熱量)を説明するための理論としてD-D burningを提案。ただし中心部で100000 Kという高温を必要とした。
ここでは、"screened DD fusion"を提案する。Screeningが、温度に関する厳しい条件と、成層した重水素層の必要性を排除するため、DD fusionのための条件が緩和される。
DD fusionがガス惑星内部でのエネルギー源と成り得て、1025-1027 erg s-1程度のエネルギー発生率が期待される。また、DD fusionは10000 K程度の、ホットジュピター中心部の密度でも発生しうる。
さらに、この機構は普遍的なものであり、Gyr程度継続する長期間有効なものであり、さらに金属量があまり高くなく、コアが溶けきってしまわないうちは効果的である。
よって、この機構によって、異常膨張半径を持つホットジュピターの説明ができる可能性がある。
(ii) 未発見の伴星が存在し、その天体が対象のホットジュピターの軌道離心率を上げることによって、潮汐加熱によって内部を温める (Bodenheimer et al. 2001 など)
(iii) 大気波動のbreakingによるkinetic heatによるもの (Guillot & Showman 2002)や、惑星磁場とイオン化した大気の流れによるmagneto-viscous heating、いわゆるオーム加熱 (Batygin & Stevenson 2010)
(iv) 大気のopacityが大きいことによる効果 (Burrows et al. 2007)
しかし、DD fusion rateを外挿すると、木星の過剰熱量の説明のためには中心付近で100000 K程度が必要である。これは通常の理論におけるコアの温度より1桁高い温度である。
また、重水素の沈殿と成層化の仕組みは不明として、重水素層の存在を仮定している。
さらに、対流によって重水素層が不安定化されるという点も考慮すべき課題である。
今回の改善点としては、重水素の供給源をエンベロープの最も内側ではなく、重水素の多いコアと仮定している。また、effective screening potentialを導入している。
この場合、10000 K程度の温度で惑星の冷却を遅くすることができる。
(ii) すべてのホットジュピターで発生する現象ではないこと。同じホットジュピターでも、異常半径を持つものと持たないものがある。
(iii) 中心星の金属量とホットジュピターの異常膨張半径の関係は、逆相関の関係であること。中心星の金属量が多いと半径異常も少ないようである。
重水素は、微惑星集積時の微惑星の蒸発か、コアの溶解によって供給されると考える。
先述の通り、中心部付近での100000 Kは非常にシビアな条件である。また、重水素層が対流で壊される可能性もある。
DD fusionの形態としては、
(i) 縮退したコアにおいて、runaway burningが発生する
(ii) ~100000 Kでの定常的な燃焼
が考えられる。木星の過剰熱量の説明には(ii)が都合が良いが、中心温度や重水素層の安定性に関してはad hocな仮定である。
そこで、ここでは"DD screening"を考える。
DD fusionの反応断面積は、ガスの状態であるよりも固体の重水素含有のターゲットの方が大きくなる。そのため、低温領域で反応率が数桁上昇する。
コアの温度は ~10000 Kと仮定
解放するエネルギー:~1042 erg
DD fusionの継続時間は~108 年と推定。
ただしこの数値は用いた数値の不定性のため、108-1010 年の変動はある。
もっともらしい値を採用した場合は、109 年程度の継続時間となり、KH時間よりも長い時間エネルギーを生み出し続け、惑星半径を10-20%膨張させることが可能となる。
コアの溶解が対流によって引き起こされる場合、以下のことが考えられる。
(i) コアの溶解はガス惑星中心部でのDD fusionの必要条件だが、十分ではないかもしれない。
コアの重水素量が少なければ生成するエネルギーもまた少なくなる。金属量が高く氷が少ない(つまり重水素も少ない)場合は、コアの溶解が起きている場合であってもエネルギー生成は少なくなってしまうだろう。
(ii) 他の機構がはたらくホットジュピターでは、DD fusionはadditionalな効果としてはたらくだろう。
遠方のガス惑星においては、DD fusionはコア温度をコアの溶解が続く温度に保ち続け、DD fusionも維持される。しかしこれらの惑星はホットジュピターよりも早く冷えてしまうため、few billion yearsののちには縮退した状態まで冷えてしまうだろう。
木星は、過去にDD fusionによる穏やかな半径の膨張があり、その後冷却とコアの溶解によって徐々に縮んでいる状態なのかもしれない。これに関連して、現在の木星のコアは小さい可能性が指摘されている。
(iii) 異常膨張半径は中心星からのフラックスの大きさでスケールされているように思われる。ホットジュピターのような高温の表面は、コアの溶解が起きる状態にまでコア温度を保つ可能性がある。その場合は、コアに十分な重水素が存在する場合は、継続的なDD fusionによってホットジュピター半径を膨張させうる。
・DD burningによる"沸き立ち"を、惑星表面の振動のモードから探れる可能性はある
・現在も木星内部でDD fusionが続いている場合は、数十-数百個 cm-2 s-1の反ニュートリノが地球に飛来している計算になる。これは地下検出器の検出下限程度である。
ホットジュピターを含むガス惑星内部での重水素核融合(ここでは重水素同士の核融合反応)を考えることによって内部で熱を生み出し、一部のホットジュピターに見られる異常膨張半径を説明しようという内容の論文でした。
既存の理論では説明がつかない大きな半径を持つホットジュピターがいくつか存在していますが、エネルギーとしては受けている中心星からの輻射のほんの数%を惑星内部にdepositしてやれば、膨張半径は説明出来るとされています。
そのdepositの方法が不明なので未解決問題とされています。
説明するための仮説としては、
・ガス惑星の大気の運動エネルギーを内部に運んで熱化する。
大気の運動は中心星からの輻射によってドライブされると考えると、中心星のエネルギーのごく一部を大気の流れを介して惑星内部にdepositしていると考えることが出来る
・潮汐力や熱潮汐力によって惑星内部を加熱する。
・惑星の磁場と、アルカリ金属の電離などによってイオン化した大気の流れが生み出す電流が惑星内部でオーム散逸し、惑星内部を加熱するという。いわゆるオーム散逸やオーム加熱によるもので、大気の流れは中心星の輻射起源なのでこれも中心星からのエネルギーをイオン化した大気の流れを介して惑星内部に与えていることになる
・大気の吸収係数の増加。大気が不透明であり、従来考えていたよりもずっと冷えにくい(そのため半径の収縮が遅く、既存の理論での半径より大きくなる)というもの。これは熱を与えるものではなく、冷えにくくするという仮説。
・惑星内部での二重拡散対流が発達することで熱輸送効率が低下し、惑星が冷えにくくなるというもの。温度勾配と組成勾配の対立により、大規模な対流ではなく、複数の層に分割された層対流が発達することで熱輸送効率が大幅に低下することが原因だとする仮説
などが挙げられています。
この論文は、それに新たな、重水素核融合による熱の生成という仮説を加えることになりました。
内容は面白いんですが、実際に起きうるのかとなるとちょっと判断しかねるところです。
arXiv:1506.03793
Ouyed & Jaikumar (2015)
Nuclear Fusion in the Deuterated cores of inflated hot Jupiters
(膨張半径を持つホットジュピターの重水素を含むコアでの核融合反応)
概要
ベースとなる研究は、ガス惑星のコア・マントル境界におけるD-D burning (Deuterium-Deuterium burning、重水素核融合) (Ouyed et al. 1998)Ouyed et al. (1998)では、木星でのheat excess (過剰な熱量)を説明するための理論としてD-D burningを提案。ただし中心部で100000 Kという高温を必要とした。
ここでは、"screened DD fusion"を提案する。Screeningが、温度に関する厳しい条件と、成層した重水素層の必要性を排除するため、DD fusionのための条件が緩和される。
DD fusionがガス惑星内部でのエネルギー源と成り得て、1025-1027 erg s-1程度のエネルギー発生率が期待される。また、DD fusionは10000 K程度の、ホットジュピター中心部の密度でも発生しうる。
さらに、この機構は普遍的なものであり、Gyr程度継続する長期間有効なものであり、さらに金属量があまり高くなく、コアが溶けきってしまわないうちは効果的である。
よって、この機構によって、異常膨張半径を持つホットジュピターの説明ができる可能性がある。
イントロダクション、研究背景など
ホットジュピターの異常膨張半径を説明するための仮説
(i) 恒星からの輻射、あるいは風のわずかなエネルギーを惑星の内部にdepositすることによって、惑星の冷却を抑える"internal heat"とすることができ、半径の収縮を遅らせる (Baraffe et al. 2010)(ii) 未発見の伴星が存在し、その天体が対象のホットジュピターの軌道離心率を上げることによって、潮汐加熱によって内部を温める (Bodenheimer et al. 2001 など)
(iii) 大気波動のbreakingによるkinetic heatによるもの (Guillot & Showman 2002)や、惑星磁場とイオン化した大気の流れによるmagneto-viscous heating、いわゆるオーム加熱 (Batygin & Stevenson 2010)
(iv) 大気のopacityが大きいことによる効果 (Burrows et al. 2007)
Ouyed et al. (1998)での内容と改善
Ouyed et al. (1998)では、数kmのピュアな重水素の層が形成され、そこでの密度を2-4 g cm-3とした場合、この重水素層でのDD fusionが木星での過剰熱量の説明になりうると主張した。しかし、DD fusion rateを外挿すると、木星の過剰熱量の説明のためには中心付近で100000 K程度が必要である。これは通常の理論におけるコアの温度より1桁高い温度である。
また、重水素の沈殿と成層化の仕組みは不明として、重水素層の存在を仮定している。
さらに、対流によって重水素層が不安定化されるという点も考慮すべき課題である。
今回の改善点としては、重水素の供給源をエンベロープの最も内側ではなく、重水素の多いコアと仮定している。また、effective screening potentialを導入している。
この場合、10000 K程度の温度で惑星の冷却を遅くすることができる。
半径異常やheat excessの説明に必要なこと
(i) エネルギーの解放は持続的に行われ、Kelvin-Helmholtz時間(~108年)よりも長いこと。(ii) すべてのホットジュピターで発生する現象ではないこと。同じホットジュピターでも、異常半径を持つものと持たないものがある。
(iii) 中心星の金属量とホットジュピターの異常膨張半径の関係は、逆相関の関係であること。中心星の金属量が多いと半径異常も少ないようである。
木星型系外惑星におけるDD fusion
Ouyed et al. (1998)では、コアの直上や付近での重水素層を仮定し、温度が100000 K程度以上でDD fusionに点火、維持するとしていた。重水素は、微惑星集積時の微惑星の蒸発か、コアの溶解によって供給されると考える。
先述の通り、中心部付近での100000 Kは非常にシビアな条件である。また、重水素層が対流で壊される可能性もある。
DD fusionの形態としては、
(i) 縮退したコアにおいて、runaway burningが発生する
(ii) ~100000 Kでの定常的な燃焼
が考えられる。木星の過剰熱量の説明には(ii)が都合が良いが、中心温度や重水素層の安定性に関してはad hocな仮定である。
そこで、ここでは"DD screening"を考える。
DD fusionの反応断面積は、ガスの状態であるよりも固体の重水素含有のターゲットの方が大きくなる。そのため、低温領域で反応率が数桁上昇する。
ガス惑星・ホットジュピター等への適用
エネルギーの生成率:~1026 erg s-1コアの温度は ~10000 Kと仮定
解放するエネルギー:~1042 erg
DD fusionの継続時間は~108 年と推定。
ただしこの数値は用いた数値の不定性のため、108-1010 年の変動はある。
もっともらしい値を採用した場合は、109 年程度の継続時間となり、KH時間よりも長い時間エネルギーを生み出し続け、惑星半径を10-20%膨張させることが可能となる。
議論、結論など
Wilson & Militzer (2012a, b)では、コア温度10000 K以上でコアの溶解が起きうる。コアの溶解が対流によって引き起こされる場合、以下のことが考えられる。
(i) コアの溶解はガス惑星中心部でのDD fusionの必要条件だが、十分ではないかもしれない。
コアの重水素量が少なければ生成するエネルギーもまた少なくなる。金属量が高く氷が少ない(つまり重水素も少ない)場合は、コアの溶解が起きている場合であってもエネルギー生成は少なくなってしまうだろう。
(ii) 他の機構がはたらくホットジュピターでは、DD fusionはadditionalな効果としてはたらくだろう。
遠方のガス惑星においては、DD fusionはコア温度をコアの溶解が続く温度に保ち続け、DD fusionも維持される。しかしこれらの惑星はホットジュピターよりも早く冷えてしまうため、few billion yearsののちには縮退した状態まで冷えてしまうだろう。
木星は、過去にDD fusionによる穏やかな半径の膨張があり、その後冷却とコアの溶解によって徐々に縮んでいる状態なのかもしれない。これに関連して、現在の木星のコアは小さい可能性が指摘されている。
(iii) 異常膨張半径は中心星からのフラックスの大きさでスケールされているように思われる。ホットジュピターのような高温の表面は、コアの溶解が起きる状態にまでコア温度を保つ可能性がある。その場合は、コアに十分な重水素が存在する場合は、継続的なDD fusionによってホットジュピター半径を膨張させうる。
結論、その他
・screened DD fusionはガス惑星内部での熱源と成り得て、異常膨張半径の説明になりうる・DD burningによる"沸き立ち"を、惑星表面の振動のモードから探れる可能性はある
・現在も木星内部でDD fusionが続いている場合は、数十-数百個 cm-2 s-1の反ニュートリノが地球に飛来している計算になる。これは地下検出器の検出下限程度である。
ホットジュピターを含むガス惑星内部での重水素核融合(ここでは重水素同士の核融合反応)を考えることによって内部で熱を生み出し、一部のホットジュピターに見られる異常膨張半径を説明しようという内容の論文でした。
既存の理論では説明がつかない大きな半径を持つホットジュピターがいくつか存在していますが、エネルギーとしては受けている中心星からの輻射のほんの数%を惑星内部にdepositしてやれば、膨張半径は説明出来るとされています。
そのdepositの方法が不明なので未解決問題とされています。
説明するための仮説としては、
・ガス惑星の大気の運動エネルギーを内部に運んで熱化する。
大気の運動は中心星からの輻射によってドライブされると考えると、中心星のエネルギーのごく一部を大気の流れを介して惑星内部にdepositしていると考えることが出来る
・潮汐力や熱潮汐力によって惑星内部を加熱する。
・惑星の磁場と、アルカリ金属の電離などによってイオン化した大気の流れが生み出す電流が惑星内部でオーム散逸し、惑星内部を加熱するという。いわゆるオーム散逸やオーム加熱によるもので、大気の流れは中心星の輻射起源なのでこれも中心星からのエネルギーをイオン化した大気の流れを介して惑星内部に与えていることになる
・大気の吸収係数の増加。大気が不透明であり、従来考えていたよりもずっと冷えにくい(そのため半径の収縮が遅く、既存の理論での半径より大きくなる)というもの。これは熱を与えるものではなく、冷えにくくするという仮説。
・惑星内部での二重拡散対流が発達することで熱輸送効率が低下し、惑星が冷えにくくなるというもの。温度勾配と組成勾配の対立により、大規模な対流ではなく、複数の層に分割された層対流が発達することで熱輸送効率が大幅に低下することが原因だとする仮説
などが挙げられています。
この論文は、それに新たな、重水素核融合による熱の生成という仮説を加えることになりました。
内容は面白いんですが、実際に起きうるのかとなるとちょっと判断しかねるところです。
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