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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。


arXiv:1506.06529
Lammer et al. (2015)
Origin and Stability of Exomoon Atmospheres - Implications for Habitability
(系外衛星大気の起源と安定性 居住可能性への影響)

概要

若い太陽型星まわりのハビタブルゾーン内を公転する巨大ガス惑星の衛星を想定した大気の研究。
衛星として、地球と同じ平均密度を持つ、地球質量の0.1倍、0.5倍、1倍の岩石衛星を想定する。大気の主成分は水と二酸化炭素。
大気計算として、輻射吸収、高層大気の流体モデルを用い、恒星が若い時期のsaturation phaseの際の水素分子の流出と、それに乗って散逸していくCとOを計算。

結果としては、形成後~100 Myrまでに、ハビタブルゾーン内にある0.25地球質量の衛星では大気を保持することができない。

恒星のスペクトル型とXUV radiationの進化によるが、0.25-0.5地球質量では"火星的"な環境になり、0.5地球質量以上では地球的な環境と火星的な環境の混合になる。
従って、系外衛星の表層では生命の誕生や進化が可能であるかもしれない。

系外衛星の検出方法

ハビタブルな系外衛星が面白い理由

ハビタブルな環境にある系外衛星が面白い理由としては、以下のような理由がある。
(i) 系外衛星が存在する場合、現在の検出手法では0.25地球質量以上のものが検出可能である(Kipping et al. 2009)。これは火星(0.1地球質量)よりも重い値である。
(ii) 系外衛星は惑星に対して潮汐ロックされていると考えられるため、恒星年に対して1日は短い。これはM型星まわりのハビタブルゾーン内にある、恒星に対して潮汐ロックされているハビタブル惑星よりもアドバンテージがある。(潮汐ロックされている惑星の場合は、1日=1年となる)
(iii) 巨大惑星の赤道面を公転している系外衛星の方が、同じハビタブルゾーンにある地球型惑星より季節を感じやすい(Heller et al. 2011; Porter and Grundy 2011)。
(iv) 最近のケプラー宇宙望遠鏡による観測データの統計では、warm-Neptuneやガス惑星が多いことが分かっている。そのため、ハビタブルゾーン内の惑星まわりのハビタブルな系外衛星の方が、単独の地球類似の惑星より多いだろう。

Transit Timing Variation

衛星が存在する場合、惑星-衛星の共通重心まわりの運動をする。これが、トランジット時刻の変動(Transit Timing Variation, TTV)を引き起こす。

しかし衛星だけではなく、トロヤ天体やparallax effects、恒星表面の黒点も似たような効果を引き起こし得る。
TTVの検出単独ではユニークな解は得られない。

Transit Duration Variation

同じく惑星-衛星の効果により、トランジットの継続時間が変動する。これがTransit Duration Variation (TDV)である。

同一平面上にない系の場合、TDVは速度(TDV-V)とトランジットのインパクトパラメータ(TDV-TIP)の2成分に大別できる。
・TDV-V…衛星の重力によって惑星の速度が変動することによるTDV
・TDV-TIP…重心まわりの運動によって惑星の位置が変化し、トランジット時のインパクトパラメータが変化することによるTDV

一般にTDV-V > TDV-TIPである。しかし、これらの成分から、衛星の運動方向が分かる。

軌道傾斜角が0°で円軌道の場合は、TDV-TIP成分はゼロになる。
さらに、これらの同程度の振幅のシグナルには90°の位相差があり、ユニークなsignatureとなり、TTVとTDVの組み合わせから系外衛星の存在を確定できる(Kipping 2011, Kipping et al., 2012)。

TDVとTTVの比から、系外衛星の質量を決定することができる。
Kipping et al. (2012, 2013)によると、M-dwarfまわりを公転する土星質量の惑星を回る、0.2地球質量の衛星は検出可能である。
しかし、G型星まわりのハビタブルゾーン内にある木星質量の惑星の衛星に関しては、TTV-TDV methodを用いた場合は現状のケプラー宇宙望遠鏡の精度では検出不可である。
M dwarfまわりのハビタブルゾーン内にある木星質量の惑星まわりの、スーパーアースサイズの衛星の場合は、ケプラーでも検出可能である。

Eclipse feature

衛星が恒星の手前に存在する場合は、トランジットの"補助"としてはたらく。
また、惑星が恒星をトランジットしている最中に、衛星が惑星の手前か背後にいる、相互イベントが考えられる。
これらの2つは両方ともに食の特徴として検出できる。

この観測からは衛星の半径が分かるため、衛星の平均密度を知るための鍵となる。

また、European Extreme Large Telescope (E-ELT)では、形成間もない若く明るいガス惑星を、衛星がトランジットするのを検出可能(Heller and Albrecht 2014)。

Radio emissions

系外衛星がプラズマの供給源としてはたらく場合は、惑星からの電波源としてもはたらく。また惑星の持つ強い磁気圏の同定も可能となる。
この磁気圏の存在は、衛星表面を高エネルギー粒子から守る役割を果たすかもしれない。

例として、木星の衛星イオは~40 MHzの木星電波のトリガーになる。
火山活動のある衛星が、木星の磁気圏へのプラズマ供給源となり、電波放射をenhanceする。

Nichols (2011, 2012)によると、惑星の自転速度と恒星からのXUV放射強度によって、電波の強度は上昇する。
電波観測から、1 pc以遠の天体を検出するためには、惑星の軌道長半径は1-50 AUである必要がある。
XUV放射が現在の太陽の100-1000倍である場合は、検出限界は20 pc程度にまで延びる。
さらに惑星の自転が速い場合は、限界は50 pc程度にまで延びる。

大きな系外衛星による中心惑星の電波放射変動は、Long Wavelength Array (LWA)やLOFAR (Low Frequency Array)で検出可能である(Noyola et al. 2014)。
しかしそのためには衛星の半径は3.5地球半径程度が必要であり、これは天王星と同程度。
このサイズになると、衛星というよりは"連星惑星系"と言ったほうが近い。そのため、系外衛星の検出手法としては当面は効果的でない。

系外衛星のハビタビリティについて

系外衛星でのハビタビリティに関して重要だと考えられる事項に関しては以下のものがある。
・潮汐加熱とエネルギー源
・軌道の安定性
・(惑星の)照明の効果
・ヒル安定性
・磁気的な環境
・形成シナリオ
・Biosignature

Habitable Edgeと軌道安定性

上記の条件の他に、恒星周りのハビタブルゾーンの考えに似た、いわゆるハビタブルエッジ (Habitable Edge, HE)がある。(Kasting et al. 1993)
HEは、恒星からの照射と惑星からの照射、潮汐加熱を考えた時に、衛星がハビタブルな環境であるための最小の軌道間隔(惑星と衛星の距離)として定義される。
従ってハビタブルな可能性のある系外衛星は、HEよりも外側で惑星を周回している軌道を持つ必要がある。

そのほか、ロッシュ限界半径は衛星が破壊されないための限界の距離を決め、またヒル安定性は恒星-惑星-衛星系での安定な衛星の軌道を決める。

また、系外惑星には2つのクラスがあるという議論がある。
一つは惑星と同時に形成される、いわゆる規則衛星(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリストなど)と、捕獲やジャイアントインパクトで形成されるいわゆる不規則衛星(トリトン、月など)がある。

これまでの研究について

これまでは、衛星軌道の安定性に関する議論は多数存在した。しかし衛星大気の恒星XUV輻射に対する安定性の議論は存在しない。
惑星と衛星は概ね同時期に形成されるため、XUV照射が強い時期がハビタビリティに与える効果は大きい。

例として、現在10 AU程度の距離にいるタイタンの場合、タイタンが1 AUまで来た場合、XUVは現在タイタンが受ける量の100倍、さらに過去はXUV放射自体が強かったため現在の10000倍にもなる。
窒素大気はXUVで散逸するため、タイタンは月のような乾燥した天体になってしまうだろう。

大きな系外衛星は、水素を主成分とした原始大気を持つだろう。原始大気の起源は、円盤起源か、もしくは水蒸気、二酸化炭素、メタンの脱ガスである。

この研究では、力学的に安定な軌道にある衛星を考える。また、ハビタブルゾーン内にあるガス惑星の周りを公転し、衛星の軌道はハビタブルエッジより外側とする。
もっとも環境が厳しい時期、つまり中心の恒星の高エネルギー放射が強い時期であるsaturation phaseに注目し、XUV saturation phase後の進化は追わない。
また、プラズマによって誘導される非熱的な大気散逸と、光化学的に生成された超熱的原子による散逸は扱わない。Lammer (2013)での議論では、初期大気に対しては恒星からのXUVによって駆動される大気散逸が最も影響が大きいため、この仮定は悪いものではない。

マグマオーシャンからの脱ガス

地球型惑星の形成と同様、系外衛星も形成初期は表面が溶けたマグマオーシャンの状態になっていた可能性がある。
表面の溶融は、短寿命の放射性同位体の崩壊による崩壊熱、降着していく物質の重力エネルギーの解放による加熱などによって引き起こされる。
このようなプロセスは天体の分化と関係しており、すべての惑星や準惑星は内部が分化している。また小惑星ベスタや月、ガリレオ衛星も分化をしているが、カリストは部分的にしか分化が起きていないと考えられている。

これらの天体形成の経緯から、系外惑星周りの衛星の初期段階では、マグマオーシャンが存在したと仮定することが出来る。

初期の水の量や炭素の量はうまく制限できないため、火星・地球の初期の組成を仮定した。

また、系外惑星のサイズに関しては、平均密度を地球と同じ 5.5 g cm-3とし、質量を0.1, 0.5, 1地球質量とした。これはそれぞれ、半径が0.46, 0.8, 1地球半径に対応している。

ハビタブルゾーン内の系外衛星からの揮発性物質の散逸

初期の揮発性物質の脱ガスの後は、恒星からの強い短波長放射の影響で、水や二酸化炭素分子は解離する。そのため、若い系外衛星の高層大気は水素主体になると考えられる。
このような大気は流体力学的に膨張し、効果的に散逸する(ハイドロダイナミックエスケープ)。

水素散逸率のモデルと境界条件

水素の散逸率を計算するため、時間に依存する1次元の流体力学モデルを用いる。このモデルでは、球対称座標系での質量、運動量、エネルギー保存の方程式を解いている。
また、惑星の重力によるポテンシャルへの影響も加味している。

計算における境界条件は、lower boundaryは熱圏の底での数密度と温度を仮定する。熱圏の底の温度は 250 Kである。
また数密度はXUV吸収の光学的深さで決まり、~ 5 × 1012 cm-3である。
XUV照射の影響で水素分子は水素原子へと解離しており、またその場所での圧力は 1 μbarのオーダーである。
系外衛星の環境下においては、熱圏の底は表面から 100-1000 km程度に位置すると考えられる。

計算結果と考察

計算の結果水素の散逸率は、0.1, 0.5, 1地球質量のモデルに対してそれぞれ 2.0 × 1033 s-1, 1.0 × 1032 s-1, 4.5 × 1031 s-1となった。

得られた数値について、

・衛星が惑星の陰に隠れている時間帯は散逸率は減ると考えられる。しかし、恒星のXUV強度の時間変動や衛星熱圏を加熱する粒子過程などのその他の不定性に比べると小さい変動である
・衛星が形成された場所によっては、衛星の平均密度は計算内で想定している地球の平均密度より小さくなることが考えられる(氷が主体となるため)。その場合は表面重力が小さくなり、大気散逸率も上昇するだろう
・また氷主体の低密度な天体は揮発性物質に富んでいるため大気の材料は多いが、その分だけ散逸の効率は上がる

という効果が考えられる。
そのため、得られた計算結果はファクター2程度の誤差がある、平均的な値だと期待される。

また、木星を公転しているカリストの軌道長半径は 25木星半径程度であるが、木星とカリストの間にあるラグランジュ点(L1)は 16.5-17木星半径の距離にある。
ラグランジュ点までの距離は小さいものだが、それでもsonic pointよりは十分外側であるため、ロッシュローブオーバーフロー(Roche lobe overflow, RLO)は大きく影響しないと考えられる。
ただし異なる距離や質量ではRLOが影響する可能性があり、これは今後の課題である。
RLOが起きた場合は、中心のガス惑星の大気に影響を与える可能性もある。

重い元素の散逸

水分子や二酸化炭素分子は、恒星からのUVやXUV照射によって解離していると考えられる。
散逸していく水素ガスの中には酸素原子や炭素原子が含まれ、水素ガスと一緒に散逸していく。

また、解離で生じた重い元素がどの程度水素と一緒に散逸していくのかに加えて、脱ガスした揮発性物質がどの程度の時間大気中に気体として存在しているかのタイムスケールも重要なファクターである。

例えば、Lebrun et al. (2013)のモデルでは、マグマオーシャンの熱進化と脱ガスした大気中の揮発性物質の進化を取り扱っている。
これによると、火星、地球、金星のそれぞれにおいて、大気中の水蒸気は1, 1.5, 10 Myr経過した後に凝縮し、湖あるいは海を形成するとされた。さらに、地球型惑星が0.66 AUより内側に存在した場合は、揮発性物質は永遠に気体の状態で存在する(海が形成されない)とした。

しかしこの結果はモデル依存性があり、他のモデルでは地球の位置にある地球型惑星に対して4 Myrという値、あるいはさらに長い時間を与えている(Hamano et al. 2013など)。
こちらでは初期100 Myrの間の大型の微惑星衝突の影響も加味しているが、Lebrun et al. (2013)ではそのような効果は入っていない。

さらには衛星では、単独で存在する惑星とは違って潮汐加熱も重要なエネルギー源となりうる。
衛星に働く潮汐加熱は、衛星の軌道離心率、サイズ、軌道長半径に依存する。
そのため、ハビタブルゾーン内に存在する惑星単体に対して計算した、1.5 - 4 Myrという値は、大型の系外衛星ではより長くなる可能性が高い。

このモデルでは、炭素と酸素原子の散逸については、炭素・酸素の混合比率(mixing ratio)と、散逸大気の分別係数(fractionation factor)を用いている。
計算には二成分拡散係数が必要であり、水素と酸素の二成分拡散係数についてはZahnle & Kasting (1986)の表式に従っている。
(4.8 × 1017 T0.75 cm -1 s-1)
水素と炭素の二成分拡散係数は、上記と同様のものを使用している。
酸素と炭素の二成分拡散係数はデータが不足しているため、2× 1017 T0.75 cm -1 s-1と仮定している。

全体の結果と考察

結果として、火星程度の質量をもつ系外衛星の場合、大気中の揮発性成分が凝結して海を形成する段階に入る前に、初期に保持していた大気を失ってしまう。
この環境下では、初期に120 barであった水蒸気の大気であっても 1 Myr以内に失われてしまい、大気中の水蒸気が凝結を始める段階である 1 - 4 Myrより早く大気を失ってしまう。

0.5地球質量の衛星の場合、恒星のsaturation phase(形成後 0.1 Gyr以内)に大気の大部分を失うが、表面重力が強く散逸が少なくなるため、湖や海を形成することが可能となる。
ただしこの計算では潮汐加熱を加味していないため、潮汐加熱が効率的である場合は"金星的"な衛星になる可能性がある。

1地球質量の衛星の場合、海が形成される可能性が高い。しかしこの結果も潮汐加熱によって変わる可能性はある。

ここでは議論されていないが重要である事項に以下のものが挙げられる。
Lichtenegger et al. (2010)とLammer et al. (2011)で議論されているような、強いXUV放射にさらされている窒素大気の安定性の問題は、系外衛星でも関係がある議論だと考えられる。
またここでは中心星に太陽型星を仮定しているが、中心星が活発なK型星やM型星であり、その周りを公転するハビタブルゾーンを考えた場合は結果が変わる。
M型星は太陽型星よりもXUVが強い時期が長く、また惑星-衛星系全体は濃い恒星風とコロナ質量放出に晒される。このような環境では大気散逸率はより大きくなり、系外惑星の大気と表層環境は異なる進化を経るだろう。

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