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日々の感想などどうでもよいことを書き連ねるためだけのブログ。
論文関連の(ほぼ)個人用メモ、プラス気になる情報について。



arXiv:1506.09072
Anglada-Escudé et al. (2015)
No evidence for activity correlations in the radial velocities of Kapteyn's star
(カプタイン星の視線速度と恒星活動との相関の証拠は無い)

概要

視線速度法を用いて、カプタイン星(Kapteyn's star)まわりに2つのスーパーアース質量の系外惑星を検出したという過去の報告(Anglada-Escudé et al. 2014)について、カプタイン星bの公転周期 48.6日は中心星の自転周期 143日の3分の1であり、恒星活動によって引き起こされた視線速度の変動を誤認したものであるとして、惑星(カプタイン星b)の存在を否定する論文が出された(Robertson et al. 2015)。
これへの反論である。

大きく分けると、
(1) 143日を中心星の自転周期として選ぶのは正当性が無い
(2) 線型相関の存在はデータによって支持されていない
という理由により、Robertson et al. (2015)での主張は誤りである。

議論

Robertson et al. (2015)ではいくつかの近似的な物理的仮定と、場当たり的(ad hoc)な手法を用いている。

143日周期の変動を自転周期と判断するのは早計であり、88, 135, 270日周期の変動も同様にあり得る値である。また、長期変動も排除できない。
さらに、143日を自転周期とした場合も、惑星の公転周期がこれの3分の1に近いとして恒星活動の誤認とするのは直接的ではない。なぜなら、143日の2分の1や3分の1に対応する活動シグナルは検出されていないからである。

視線速度のシグナルの統計的優位性と、惑星の物理的存在は明確に分けて考えられるべきである。
我々は、後者に関する早計で根拠のないステートメントに陥るよりも、前者に関する包括的な議論を行うことを推奨する。

我々が主張したいのは以下のことである。
この論文の目的は、カプタイン星bやその他の視線速度法の惑星のステータスを救おうとするものではなく、真剣な科学的議論における、客観的で包括的な分析手法の重要性を強調することである。







ざっと概要を書くと…
まず、カプタイン星の周りに2つの系外惑星を発見したという発見論文が2014年に公表されました。
Anglada-Escudé et al. (2014)
http://adsabs.harvard.edu/abs/2014MNRAS.443L..89A
http://arxiv.org/abs/1406.0818
Two planets around Kapteyn's star : a cold and a temperate super-Earth orbiting the nearest halo red-dwarf

ここでは、視線速度法を用いてカプタイン星の周りに、スーパーアース質量の惑星を2つ発見したということが述べられています。
この発見に伴って、系外惑星のカタログにもカプタイン星bとcが追加されました。

しかし今年に入って、カプタイン星bは恒星活動を誤認したものであるという論文が公表されました。
Robertson et al. (2015)
http://adsabs.harvard.edu/abs/2015ApJ...805L..22R
http://arxiv.org/abs/1505.02778
Stellar Activity Mimics a Habitable-zone Planet around Kapteyn's Star

ここでは、カプタイン星bによるとされていた視線速度の変動は中心星の自転周期の3分の1に非常に近く、恒星の活動周期を誤認したものだという主張が展開されています。
この論文に従って、一部の系外惑星のカタログからはカプタイン星bが削除されました。

この件に関しては、
カプタイン星bは恒星の変動に起因する誤認だったかもという話
としてここのブログにも書きました。


そして、そのRobertsonらの論文に対して、発見者グループであるAnglada-Escudéらが再反論をした、というのが今回の論文です。
果たしてカプタイン星bは本当に存在するのか、はたまた恒星活動の誤認だったのか、論争と追観測の行方が気になるところです。



…それにしても、論文の文章の、特に締めの部分が非常に強い言葉に感じます。
「早計で根拠がない主張に陥る」とか、「真剣な科学的な議論」とか、なかなか攻撃的ではないでしょうか。(和訳時の言葉のチョイスかも知れないけど…)


いろいろと背景を追ってみると、発見者側のAnglada-Escudéらと、否定側のRobertsonらのグループが惑星の実在を巡って論争になったのはこれが初めてではないようです。

Anglada-Escudéらは2013年に、視線速度法を用いてグリーゼ667C (GJ 667C)まわりに惑星を複数個発見したという報告をしています。
Anglada-Escudé et al. (2013)
http://adsabs.harvard.edu/abs/2013A%26A...556A.126A
http://arxiv.org/abs/1306.6074
A dynamically-packed planetary system around GJ 667C with three super-Earths in its habitable zone

この論文では、すでに発見されていたグリーゼ667Cb, cに加え、d, e, f, g, hのさらなる惑星を発見したとの報告がされています。

しかしその翌年に、Robertsonらによってグリーゼ667Cd以降の5つの惑星の検出は間違いであるとの論文が発表されています(b, cは検出されたと報告)。
Robertson & Mahadevan (2014)
http://adsabs.harvard.edu/abs/2014ApJ...793L..24R
http://arxiv.org/abs/1409.0021
Disentangling Planets and Stellar Activity for Gliese 667C

現在のところ、系外惑星カタログの一つであるExoplanet Encyclopediaでは、グリーゼ667Cb, c, d, e, f, gの6つが登録されており、グリーゼ667Chは"controversial"、つまり議論の余地あり、とされて登録はされていません。また、NASAのExoplanet Archiveでは、グリーゼ667Cb, c, e, f, gの5つが登録されており、グリーゼ667d, hは登録されていない状態になっています。


そのほかRobertsonらは、ハビタブルゾーン内にある地球型惑星候補として有名だったグリーゼ581gなどが、やはり恒星の活動に起因する誤認だったという論文も発表しています。
Robertson et al. (2014)
http://adsabs.harvard.edu/abs/2014Sci...345..440R
http://arxiv.org/abs/1407.1049
Stellar Activity Masquerading as Planets in the Habitable Zone of the M dwarf Gliese 581

こちらはグリーゼ581系が注目度が高かったことからか、Natureに投稿されて受理された論文となっています。
(現在はグリーゼ581b, c, eの3つがカタログに登録され、グリーゼ581d, f, gは削除あるいは"controversial"となっています)



カプタイン星まわりの系外惑星をめぐるやりとりの以前にも、グリーゼ667Cまわりの系外惑星の存在を巡っての論争があり、さらに様々な惑星発見報告に対して「この惑星検出は誤認である」と指摘してまわっているRobertsonらに対する、Anglada-Escudé側の反発のようなものがあるのかもしれません。

"惑星の有る無しの揚げ足取りに拘泥するような事ではなく、観測データの正しく公平な分析に基づいた科学的な議論を我々はしたいのである"ーーそんなAnglada-Escudé側の感情が、「早計で根拠がない主張に陥る」とか、「真剣な科学的な議論」などのような強く聞こえる言葉に現れているのではないか、なんて邪推しています。

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