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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1610.00600
Brown et al. (2016)
Rossiter–McLaughlin models and their effect on estimates of stellar rotation, illustrated using six WASP systems
(ロシター・マクローリンモデルとその恒星の自転の推定における影響,6 個の WASP 系を例として)
観測結果の解釈について,ここでは 2 つの異なる手法を用いた 3 つの異なるモデルを使用した.
1 つは,ロシター・マクローリン効果 (Rossiter-McLaughlin effect, ロシター効果,RM 効果とも) の視線速度観測で,もう 1 つはドップラートモグラフィー (Doppler tomography) である.ロシター効果のモデルには,Hirano モデルと Boue モデルの 2 つを用いた.
異なるモデル間の比較より,射影された恒星の自転速度の測定はモデルによって互いに異なる値を導き出すことが判明した.またこの値はしばしばスペクトル線の広がり (line broadening) からの推定とも異なることが分かった.
ロシター効果の分析では,Boue モデルは一貫して Hirano モデルよりも恒星の (射影された) 自転速度を過小評価することが分かった.ただし今回の 6 つの系においては,恒星の自転速度の見積もりが異なっても,spin-orbit angle (恒星の自転軸と惑星の公転軸の傾き) の見積もりへの影響は小さく,3 つの手法 (Hirano モデルでのロシター効果,Boue モデルでのロシター効果,ドップラートモグラフィー) はともに整合的な spin-orbit angle となった.
各系での値は,WASP-61b は ~ 4°.0,WASP-71b は ~ -1°.4,WASP-78b は ~ 6°.4 となり,恒星の自転軸と惑星の公転軸は揃っている.また WASP-62b は ~ -19°.4 となり,やや傾いている.さらに WASP-79b は ~ -95°.2 となり,大きく傾き,逆行軌道であることが確認された.
WASP-76b は値の制限はできなかったものの,正の値に大きく傾いていると推測される.
地球から観測できるのは,天球面上に射影した角度 λ である.この値が初めて測定されたのは,HD 209458 系に対してである (Queloz et al. 2000).その後,spin-orbit angle が測定された系は 100 個程度となっており,そのほとんどはトランジットするホットジュピターにおいてである.
測定は主にロシター効果によって行われている (Holt 1983, Schlesinger 1910, 1916, Rossiter 1924, McLaughlin 1924).恒星は自転の効果によって,スペクトルが赤方偏移した半球と青方偏移した半球に分けられるが,惑星がこの上をトランジットして隠すことによって,分光学的なシグナルが現れる.このシグナルは spin-orbit angle の値によって現れ方が変わり,これをロシター・マクローリン効果と呼ぶ,この効果を測定することによって spin-orbit angle を測定する事ができる.
その他の手法としては,ドップラートモグラフィー (Collier Cameron et al. 2010),重力減光効果を用いるもの (Barnes et al. 2011など),photometric variability distribution の分析 (Mazeh et al. 2015) などが補完的な手法として知られている.
これまでに spin-orbit angle が測定された系は大部分がロシター効果によるが,そこで用いられるモデルは時によって変わる.例えば,より複雑に,詳細な物理を含むように改良される.
初期は Ohta et al. (2005, 2009) と Gimenez (2006) が用いられ,後に Hirano et al. (2011),Boue et al. (2013) が用いられている.この 2 つは異なるアプローチを用いている.また最近では,Baluev & Shaidulin (2015) のモデルも加わった.
Hirano モデルは,デファクトスタンダードとなっているモデルであり,よく使われるものである.
Boue et al. (2013),Hirano モデルはヨードセル法を用いた視線速度観測 (Keck 望遠鏡の HIRES など) の場合は良いが,HARPS による観測データの場合は Boue モデルの方が良いとされている.
高温で高速自転する中心星では,ロシター効果の測定が難しい.このような系では,惑星がトランジットしている最中に計測されたスペクトル線の形状と,トランジットしていない時の中心星のスペクトル線の形状の平均のモデルとを比較・分析を行うことによって spin-orbit angle を測定することが可能となる.
ドップラートモグラフィーでのスペクトル線のモデルは,周辺減光を考慮した恒星の自転プロファイルと,惑星が中心星をトランジットすることによってスペクトル中に現れる "影" (spectroscopic "shadow") の項を畳み込むことによって作られる.この "影" は時間経過につれ変動し,惑星がトランジットの始まりから終わりまで恒星面上を移動することで変化する.その幅からはスペクトル線の形状の幅 σ の情報を引き出すことが出来る.
この幅は独立に測定されるため,中心星の自転によるスペクトル線の広がり (rotational broadening) から,局所的なスペクトル線の形状の乱流速度分布を区別することができ,恒星の (射影された) 自転速度とマクロ乱流の速度を直接測定することが出来る.
スペクトルの "影" の経路は,トランジットのインパクトパラメータ b と spin-orbit angle λ によって決まる.
また,惑星がトランジットの始まりから終わりへと動くにつれ,惑星の陰は,恒星表面の異なる速度を持った領域を順番に隠していく.それにより,b, λ, 自転速度の間の関係を得ることが出来る.これらの未知変数は,スペクトル線の形状と自転によるスペクトル線への影響を畳み込めば観測された恒星のスペクトル線をフィットするはずのものであるため,2 つの道変数に対して 2 つの方程式が得られることになる.
λ と自転速度はこの手法で独立に決まるため,両者が縮退しやすい場合 (b が小さい系) に対して優位性を持つ.
ただしこの手法は,中心星の自転が遅い場合には適用できない.これは,自転速度の測定の不確かさが自転速度自体と同程度になってしまうためである.
その他の優位点としては,λ の測定精度の改善が期待できるという点であり,これは実際に高速自転星である KOI-12 系で実証されている (Bourrier et al. 2015).また,何らかの手法で存在が示唆された惑星の確認,もしくは偽陽性であることの立証にも用いることが出来る (Hartman et al. 2015, HATS-14b の確認に用いられた).
WASP-71 系は,過去の観測では 20°.1 という大きな値を持つと報告されていたが (Smith et al. 2013),その結果とは非整合的であった.
WASP-76b の spin-orbit angle は不確実であるが,中心星 WASP-76 は年齢やスペクトル型から期待されるよりも自転が遅いため,Schlaufman (2010) での指摘のように,恒星の赤道側を見ている (equator-on) ではなく極域を見ている (pole-on) 位置関係であることを示唆する.
これまでに示されていた,ロシター効果に対するドップラートモグラフィーの優位性,特にトランジットのインパクトパラメータ b が小さい系おいて自転速度と λ の縮退を解くという能力は,いつも満たされるわけではない.しかしドップラートモグラフィーは一貫して,ロシター効果のモデリングよりも恒星の自転速度の測定精度を向上する一助となる.
3 つのモデルは,同じ条件下では整合的な λ の値を与える.
恒星の自転速度については,Boue モデルは Hirano モデルよりも一貫して過小評価した値を与えることが判明した.また,ドップラートモグラフィーと比べても過小評価となる.
さらに,ロシター効果からの恒星の自転速度の推定は,しばしばスペクトル解析からの推定値と異なる.この値の違いは,恒星の自転速度の関数になっていると考えられる.
arXiv:1610.00600
Brown et al. (2016)
Rossiter–McLaughlin models and their effect on estimates of stellar rotation, illustrated using six WASP systems
(ロシター・マクローリンモデルとその恒星の自転の推定における影響,6 個の WASP 系を例として)
概要
6 個の WASP で発見された惑星系の,spin-orbit misalignment (恒星自転軸と惑星公転軸の不一致) の新しい測定を行った.このうち WASP-61, 62, 76, 78 の 4 つの系は今回が初測定であり,残り 2 つの WASP-71, 79 については過去に測定がされている系である.観測結果の解釈について,ここでは 2 つの異なる手法を用いた 3 つの異なるモデルを使用した.
1 つは,ロシター・マクローリン効果 (Rossiter-McLaughlin effect, ロシター効果,RM 効果とも) の視線速度観測で,もう 1 つはドップラートモグラフィー (Doppler tomography) である.ロシター効果のモデルには,Hirano モデルと Boue モデルの 2 つを用いた.
異なるモデル間の比較より,射影された恒星の自転速度の測定はモデルによって互いに異なる値を導き出すことが判明した.またこの値はしばしばスペクトル線の広がり (line broadening) からの推定とも異なることが分かった.
ロシター効果の分析では,Boue モデルは一貫して Hirano モデルよりも恒星の (射影された) 自転速度を過小評価することが分かった.ただし今回の 6 つの系においては,恒星の自転速度の見積もりが異なっても,spin-orbit angle (恒星の自転軸と惑星の公転軸の傾き) の見積もりへの影響は小さく,3 つの手法 (Hirano モデルでのロシター効果,Boue モデルでのロシター効果,ドップラートモグラフィー) はともに整合的な spin-orbit angle となった.
各系での値は,WASP-61b は ~ 4°.0,WASP-71b は ~ -1°.4,WASP-78b は ~ 6°.4 となり,恒星の自転軸と惑星の公転軸は揃っている.また WASP-62b は ~ -19°.4 となり,やや傾いている.さらに WASP-79b は ~ -95°.2 となり,大きく傾き,逆行軌道であることが確認された.
WASP-76b は値の制限はできなかったものの,正の値に大きく傾いていると推測される.
Spin-orbit angle について
太陽系の惑星の場合は,太陽の自転軸と惑星の公転軸がおおむね揃っている.しかし系外惑星系ではそのようになっているという保証はない.地球から観測できるのは,天球面上に射影した角度 λ である.この値が初めて測定されたのは,HD 209458 系に対してである (Queloz et al. 2000).その後,spin-orbit angle が測定された系は 100 個程度となっており,そのほとんどはトランジットするホットジュピターにおいてである.
測定は主にロシター効果によって行われている (Holt 1983, Schlesinger 1910, 1916, Rossiter 1924, McLaughlin 1924).恒星は自転の効果によって,スペクトルが赤方偏移した半球と青方偏移した半球に分けられるが,惑星がこの上をトランジットして隠すことによって,分光学的なシグナルが現れる.このシグナルは spin-orbit angle の値によって現れ方が変わり,これをロシター・マクローリン効果と呼ぶ,この効果を測定することによって spin-orbit angle を測定する事ができる.
その他の手法としては,ドップラートモグラフィー (Collier Cameron et al. 2010),重力減光効果を用いるもの (Barnes et al. 2011など),photometric variability distribution の分析 (Mazeh et al. 2015) などが補完的な手法として知られている.
これまでに spin-orbit angle が測定された系は大部分がロシター効果によるが,そこで用いられるモデルは時によって変わる.例えば,より複雑に,詳細な物理を含むように改良される.
初期は Ohta et al. (2005, 2009) と Gimenez (2006) が用いられ,後に Hirano et al. (2011),Boue et al. (2013) が用いられている.この 2 つは異なるアプローチを用いている.また最近では,Baluev & Shaidulin (2015) のモデルも加わった.
モデリング
ロシター効果のモデリング
今回は,ロシター効果のモデルは Hirano et al. (2011) と Boue et al. (2013) を用いた.Hirano モデルは,デファクトスタンダードとなっているモデルであり,よく使われるものである.
Boue et al. (2013),Hirano モデルはヨードセル法を用いた視線速度観測 (Keck 望遠鏡の HIRES など) の場合は良いが,HARPS による観測データの場合は Boue モデルの方が良いとされている.
ドップラートモグラフィーのモデリング
ドップラートモグラフィーは,Collier Cameron et al. (2010) で開発された手法である.高温で高速自転する中心星では,ロシター効果の測定が難しい.このような系では,惑星がトランジットしている最中に計測されたスペクトル線の形状と,トランジットしていない時の中心星のスペクトル線の形状の平均のモデルとを比較・分析を行うことによって spin-orbit angle を測定することが可能となる.
ドップラートモグラフィーでのスペクトル線のモデルは,周辺減光を考慮した恒星の自転プロファイルと,惑星が中心星をトランジットすることによってスペクトル中に現れる "影" (spectroscopic "shadow") の項を畳み込むことによって作られる.この "影" は時間経過につれ変動し,惑星がトランジットの始まりから終わりまで恒星面上を移動することで変化する.その幅からはスペクトル線の形状の幅 σ の情報を引き出すことが出来る.
この幅は独立に測定されるため,中心星の自転によるスペクトル線の広がり (rotational broadening) から,局所的なスペクトル線の形状の乱流速度分布を区別することができ,恒星の (射影された) 自転速度とマクロ乱流の速度を直接測定することが出来る.
スペクトルの "影" の経路は,トランジットのインパクトパラメータ b と spin-orbit angle λ によって決まる.
また,惑星がトランジットの始まりから終わりへと動くにつれ,惑星の陰は,恒星表面の異なる速度を持った領域を順番に隠していく.それにより,b, λ, 自転速度の間の関係を得ることが出来る.これらの未知変数は,スペクトル線の形状と自転によるスペクトル線への影響を畳み込めば観測された恒星のスペクトル線をフィットするはずのものであるため,2 つの道変数に対して 2 つの方程式が得られることになる.
λ と自転速度はこの手法で独立に決まるため,両者が縮退しやすい場合 (b が小さい系) に対して優位性を持つ.
ただしこの手法は,中心星の自転が遅い場合には適用できない.これは,自転速度の測定の不確かさが自転速度自体と同程度になってしまうためである.
その他の優位点としては,λ の測定精度の改善が期待できるという点であり,これは実際に高速自転星である KOI-12 系で実証されている (Bourrier et al. 2015).また,何らかの手法で存在が示唆された惑星の確認,もしくは偽陽性であることの立証にも用いることが出来る (Hartman et al. 2015, HATS-14b の確認に用いられた).
測定結果のまとめ
6 つの WASP 系での spin-orbit angle の測定を,異なるモデル (ロシター効果の Hirano モデルと Boue モデル,ドップラートモグラフィー) を用いて行った.その結果,WASP-61, 71, 78 系は spin-orbit angle は小さく,揃った系であることがわかった.また WASP-79b は大きく傾いた系で,逆行軌道である.WASP-62b はやや傾いた系である.WASP-76b については強い制限を付けることができず,λ は星の大きな値を持って傾いているということしか言えない.WASP-71 系は,過去の観測では 20°.1 という大きな値を持つと報告されていたが (Smith et al. 2013),その結果とは非整合的であった.
WASP-76b の spin-orbit angle は不確実であるが,中心星 WASP-76 は年齢やスペクトル型から期待されるよりも自転が遅いため,Schlaufman (2010) での指摘のように,恒星の赤道側を見ている (equator-on) ではなく極域を見ている (pole-on) 位置関係であることを示唆する.
これまでに示されていた,ロシター効果に対するドップラートモグラフィーの優位性,特にトランジットのインパクトパラメータ b が小さい系おいて自転速度と λ の縮退を解くという能力は,いつも満たされるわけではない.しかしドップラートモグラフィーは一貫して,ロシター効果のモデリングよりも恒星の自転速度の測定精度を向上する一助となる.
3 つのモデルは,同じ条件下では整合的な λ の値を与える.
恒星の自転速度については,Boue モデルは Hirano モデルよりも一貫して過小評価した値を与えることが判明した.また,ドップラートモグラフィーと比べても過小評価となる.
さらに,ロシター効果からの恒星の自転速度の推定は,しばしばスペクトル解析からの推定値と異なる.この値の違いは,恒星の自転速度の関数になっていると考えられる.
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