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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1705.05867
MacGregor et al. (2017)
A Complete ALMA Map of the Fomalhaut Debris Disk
(フォーマルハウトのデブリ円盤の完全な ALMA マップ)

概要

ALMA の Band 6 1.3 mm (223 GHz) のモザイク観測で,フォーマルハウト系の観測を行った.この観測の感度は 14 µJy/beam である.

この観測により,一様な感度での,外側円盤からのダスト連続放射の完全なミリ波マップを初めて作成した.この観測より,円盤遠点での増光 (apocenter glow) の初めての決定的な検出に成功した

データの解析には,円盤内での粒子の軌道離心率を持った軌道パラメータに適用できる MCMC モデリングを使用した.ダスト円盤の外側の帯は動径方向に集中した分布をしており,内縁が 136.3 ± 0.9 AU,幅が 13.5 ± 1.8 AU であった.また離心率は 0.12 ± 0.01 であった.

ダストのサイズ分布のべき乗指数を 3.46 ± 0.09 と仮定し,ダストの吸収係数の冪指数 β に対して 0.9 < β < 1.5 という観測的制限を与えた.

円盤の空間配置は,傾斜角が 65.6 ± 0.3 度,位置角 337.9 ± 0.3 度,近点引数は 22.5 ± 4.3 度と正確に制約することができた.

今回の観測では,過去の HST, SCUBA, ALMA の観測で発見されていた,方位角方向の円盤の構造は見られなかった.しかし,10 AU 以下のサイズの構造が存在することや,小さい粒子のみに影響を与える構造の存在は今回の観測では排除できない.

また,中心星フォーマルハウトはフラックス密度 0.75 ± 0.02 mJy で明確に検出された.これは現在の光球モデルで予測されていた値よりも有意に低い.

議論

Apocenter glow の観測的証拠

今回の ALMA の観測では,apocenter glow の初めての明確な検出に成功した.

離心率のある円盤では,遠点ではダストの軌道速度が近点よりも遅いため,遠点に物質が溜まって多くなる.
中間赤外の波長では,観測されるフラックスは粒子の温度に強く依存する.そのため近点付近での粒子は中心星からの光を多く受け,それにより近点付近の粒子はより明るく見える.これは遠点での密度過剰を隠してしまう.この効果は “pericenter glow” として知られているもの (Wyatt et al. 1999) であり,ハーシェルでの 70 µm 波長でのフォーマルハウト円盤画像で見られている現象である (Acke et al. 2012).

対照的に,フォーマルハウトのデブリ円盤の,遠赤外線からミリ波での撮像観測では,円盤の遠点付近での放射がわずかに強いことが示唆されてきた (Holland et al. 2003など).これを説明するため,Pan et al. (2016) では “apocenter glow” モデルを提案している.これは,円盤の遠点における面密度の増加によって,波長依存のある表面輝度の変化が起きているというものである.ミリ波では,大きい粒子からの放射が支配的となる.これらの粒子は黒体のピークで効果的に放射するため,近点と遠点での温度の違いは合計のフラックスには大きな影響を及ぼさない.結果として,遠点での大きな面密度が支配的になり,遠点が明るく見える.

フォーマルハウトb

フォーマルハウトb はハッブル宇宙望遠鏡を用いた直接撮像によって初めて発見された (Kalas et al. 2008).発見された場所は,離心率のあるデブリ円盤の内側に理論的に予測されていた重い惑星の軌道と整合的であった (Quillen 2006など).

しかしその後のフォローアップ観測では,フォーマルハウトb は高軌道離心率の軌道で,もしかしたら環と交差する軌道を持つ可能性が指摘されている (Kalas et al. 2013).さらにこの天体は赤外線よりも可視光で明るい.これは惑星大気のモデルでの予言と反対の傾向である.

Kennedy & Wyatt (2011) では,フォーマルハウトb の正体が 10 地球質量程度の惑星と,それを取り囲む衝突性の不規則衛星の群れである可能性について議論している.その他に,フォーマルハウトb は大きな微惑星同士の衝突によって生成されたダスト雲であるという可能性も指摘されている (Currie et al. 2012など).

現在のところフォーマルハウトb の真の性質は明らかになっていない.もしフォーマルハウトb がダスト雲だとすると,今回の ALMA 観測はそのダスト質量に制限を与えることが出来る.
フォーマルハウトb からのフラックス密度の上限値は 0.042 mJy (3 σ) であった.これは点源を仮定した場合のフラックス密度である.この上限値から,ダスト雲の質量に上限値を与える.

現在のフォーマルハウトb の中心星からの距離は ~ 125 AU である.放射平衡を考えた場合,ダスト温度は ~ 51 K となる.ここから,光学的に薄い放射を考えると,ダスト質量の上限値は < 0.0019 月質量 (1.40 × 1023 g 未満) となる.これは,観測されているサブミリ波での散乱光を説明するために必要なダスト質量 1018 - 1021 g (Kalas et al. 2008) と整合的である.その他,光学的に厚いダスト放射とした場合,ダスト雲の半径の上限値として < 0.021 AU を与えた.

結果

  1. フォーマルハウトの外側デブリ円盤は動径方向に集まっており,ベストフィットパラメータでは,内縁が 136.3 ± 0.9 AU.幅が 13.5 ± 1.8 AU であった.測定された総フラックス密度と光学的に薄いダスト放射の仮定より,円盤の合計のダスト質量は 0.015 ± 0.010 地球質量と推定される.これは過去の測定と整合的な値である.今回の観測の分解能からは,帯の縁部分の構造の鋭さへは強い制限をかけられなかった.
  2. 今回の ALMA の撮像で,apocenter glow の初めての明確な検出に成功した.これは遠点での面密度の増加に伴う輝度の非対称性に起因すると考えられる (Pan et al. 2016).円盤の離心率は 0.12 ± 0.01 であった.今回の ALMA での観測と過去のミリ波・サブミリ波の観測による近点と遠点のフラックス比と,サイズ分布の冪指数 3.46 ± 0.09 の仮定から,ダストの吸収係数の冪指数として 0.9 < β < 1.5 という制限を与えた.
  3. 円盤粒子の軌道要素のモデリングから,円盤の配置について正確な値を導出した.傾斜角が 65.6 ± 0.3 度,位置角 337.9 ± 0.3 度.また近点引数は 22.5 ± 4.3 度で,これは過去のハッブル宇宙望遠鏡での撮像観測による結果と整合的であった (Kalas et al. 2013).
  4. 観測データからベストフィットモデルを差し引いた後の残差には,明確な方位角方向の構造は見られなかった.唯一の明確な極大は,背景の銀河によるものであった.過去の HST, SCUBA, ALMA の観測で報告されていた 位置角 331度のギャップ構造を含むあらゆる方位角方向の特徴は検出されなかった.しかし 10 AU より小さいサイズの特徴が存在する可能性は排除できない.そのような構造は現在の撮像観測の解像度では分解できないためである.
  5. 中心星の 1.3 mm でのフラックス密度は 0.75 ± 0.02 mJy であった.これは現在の光球モデルで予測されるよりも明らかに低い.似たようなスペクトルは太陽型星の α Cen A と B (ケンタウルス座アルファ星A と B) でも見られる (Liseau et al. 2016).フォーマルハウトの場合,内側のダスト帯からの寄与をよりよく制限するためには,長波長での恒星のスペクトルを決定するのは非常に重要である.

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