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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



論文の元サイト
Kruijer et al. (2017)
Age of Jupiter inferred from the distinct genetics and formation times of meteorites
(隕石の異なる起源と形成時期から示唆される木星の年齢)

概要

太陽系で最も大きい惑星である木星の年齢は,未だにはっきりとは判明していない.

巨大ガス惑星形成は,大きな固体コアの成長と,それに引き続くコアへのガスの降着を伴うと考えられる.そのため,ガス惑星のコアは原始太陽系円盤のガスが散逸する前に形成されていなければならない.円盤のガスの散逸は,太陽系形成後 10 Myr (1000 万年) 以内に起きると考えられている.ガス惑星の固体コアの急速な降着はよくモデル化されているが,ガス惑星自体の形成は未だに説明できていない.


ここでは,鉄隕石中のモリブデンとタングステンの同位体の測定を用いて,太陽系形成後 ~ 1 Myr から ~ 3 - 4 Myr までの同じ時期に円盤内に共存し,なおかつ空間的に隔てられていた,異なる 2 つの領域に由来する隕石があることを示す.
隕石の起源が空間的に隔絶していた原因としてもっともらしいと考えられるのは,木星コアの形成による円盤へのギャップ形成である.ギャップの存在により,2 つの領域間の物質の交換が妨げられた.このことから,木星のコアは太陽系形成後 1 Myr 以内に ~ 20 地球質量まで成長しており,その後さらに少なくとも ~ 3 - 4 Myr の間に ~ 50 地球質量まで成長したことが示唆される

そのため,木星は太陽系の中で最も古い惑星であり,木星の固体コアは円盤のガスが散逸するより十分前に形成されたと考えられる.これは巨大惑星形成のコア降着モデルと整合する結果である.

隕石の起源について

多くの隕石は,火星と木星の間にある小惑星帯のメインベルトにある小天体が起源である.これらの天体は,元々は恐らく現在のメインベルトよりも広い範囲で形成されたと考えられる.隕石の母天体の起源がより広い範囲にあるということは,様々な隕石の異なる化学組成と同位体組成から示唆されている.また,ガス惑星による小天体への重力的な影響の存在を示唆している力学的モデルなども提案されている.

太陽系にあった降着円盤における,隕石母天体の初期形成場所に関する情報は,隕石中の元素合成同位体異常から得られる.このような異常は,同位体異常を持った物質組成の不均一な分布に起因しており,またこの分布は太陽からの距離の関数として変動を示す.例えば,Cr, Ti, Mo の同位体異常からは,隕石の起源には根本的な二分性があり,炭素質 (carbonaceous) のものと非炭素質 (noncarbonaceous) の起源があることが明らかになっている.

このような隕石の起源の差異は,円盤の組成が時間的変化を起こしたことによるものか,あるいは集積した領域の違い,すなわち木星軌道の内側で集積したもの (noncarbonaceous (NC) 隕石) か木星軌道の外側で集積したもの (carbonaceous (CC) 隕石) かのどちらかに原因があると考えられる.または,この両方を反映している可能性もある.

もし後者の,隕石の母天体が集積した場所の違いが原因であるという説が正しければ,NC 隕石と CC 隕石のリザバー (reservoir,隕石を形成する元になった物質) の形成時期と寿命を評価することによって,木星の年齢を決定できる可能性がある.しかし,NC と CC それぞれのリザバーがいつ形成され,これらがお互いに孤立していたかどうか,孤立していた場合はどの程度の期間孤立していたかは分かっていなかった.

この問題に取り組むために,鉄隕石中の W (タングステン) と Mo (モリブデン) の同位体のデータを使った.この鉄隕石は,太陽系で最も初期に形成された微惑星の金属コアの破片が由来である.過去の鉄隕石中の W 同位体における研究では,これらの天体中でのコア形成のタイムスケールと形成過程を解明することにフォーカスしていた.ここではそれをさらに拡張し,木星のコア形成年代の推定に用いる.

ここでは,182Hf - 182W (半減期 8.9 My) を年代の測定に用いて,木星のコア形成時期を推定した.また Mo 同位体特性を用いて,これらの鉄隕石と,NC および CC 隕石の関係を結びつける.

CC 鉄隕石と NC 鉄隕石

Mo の同位体比の測定として,ε95Mo と ε94Mo 空間での比較を行う.これは,95Mo/96Mo と 94Mo/96Mo の同位体比の,地球での標準的な値からのズレ (の 10000 倍) を比較した図である.

この平面上では,エンスタタイトコンドライトや普通コンドライト,IAB iron, IIE iron, IC iron などは NC グループの線上に乗り,炭素質コンドライト,IIC iron, IID iron などは CC グループの線上に乗る.

同様の隕石中の同位体比の二分性は,W 同位体でも見られる.W 同位体では,ε182W と ε183W での二分性が見られる.これは 182W/184W と 183W/184W の同位体比の地球の標準値との比較 (の 10000 倍) である.

この平面上で,NC 鉄隕石は ε182W ~ -3.4 - -3.3 程度の範囲であり,ε183W ~ 0 に集まっている.一方で CC 鉄隕石は ε182W ~ -3.2 に集まっている.また ε183W は 0.1 - 0.5 の範囲の値をとり,原子核合成の超過が見られる.(注意点として,ε182W の値は,宇宙線曝露の影響を補正したあとの値である.)

鉄隕石での ε182W の値の変動は,隕石の母天体での金属とシリケイトの分離が起きた際の Hf/W 分別の起きた時期を反映している.CC 鉄隕石の大きな ε182W 値は,隕石母天体のコア形成時期が遅いことを意味しており,時期は ~ 2.2 - 2.8 Myr である.それに対して,NC 隕石母天体のコア形成時期は ~ 0.3 - 1.8 Myr である.ここでの経過年数の基準は太陽系が形成された時であり,太陽系の「形成時」の基準として,ここでは Ca-Al-rich inclusions (CAI) が形成された時と定義している.

先行研究では,鉄隕石の異なるグループ間における ε182W の違いは,コア形成時の異なる溶融温度に起因するとしている,コアの溶融温度の違いは硫黄の含有量の違いに対応しており,つまり母天体のコアの液相温度の違いに対応しているとされていた.

しかし NC と CC 隕石のリザバーは,どちらも似た揮発性物質の濃集を示すことが分かっている.すなわち,どちらも似た硫黄含有量であったことが推定される.そのため,NC と CC 隕石の母天体での溶融温度の違いは,測定されている ε182W の二分性の原因にはなれない.

これに代わるアイデアとして,母天体のコア形成時期の違いは,CC と NC 鉄隕石の母天体の異なる集積時期によって最も簡単に説明される.26Al の崩壊による内部加熱がある天体の熱的モデルでは,NC 鉄隕石の母天体は,おそらく CAI 形成の < 0.4 Myr 以内に集積したと考えられる.一方で,CC 鉄隕石の母天体は NC 鉄隕石よりも少し後の 0.9 (+0.4, -0.2) Myr 経過後に集積したと考えられる.

これらをまとめると,Mo と W の同位体データからは,CC と NC 鉄隕石の母天体の降着は円盤の異なる場所で起きたというだけではなく,異なる時間に発生したことも示唆される.

CC および NC リザバーの円盤内での共存と分離

CAI 形成の ~ 1 Myr 後に CC 鉄隕石が集積したことは,この段階で NC リザバーと CC リザバーは既に分離されていたことを示唆する.

Mo の同位体の平面図において,全ての CC 隕石は,NC 隕石の線に比べて一定のオフセットを持って単一の s 過程 mixing line に乗る.そのため,CC 隕石は NC 隕石と比べて一定の大きさの r 過程元素の超過を示す.つまり,この r 過程元素組成は,最初の CC 天体が形成されるよりも前に CC リザバーに加えられ,一様に分布していなければならない.つまり,物質の供給と CC リザバーの形成は太陽系形成から ~ 1 Myr 以内に起きたと考えられる.

今回の結果での重要な制約は,NC リザバー内での普通コンドライトの母天体の集積 (~ 2 Myr) は,CC リザバーでの鉄隕石母天体の集積 (~ 1 Myr) よりも後に起きたという点である.そのため NC と CC リザバーの存在は,円盤内の組成の時間変化を単純に反映しているわけではない.かわりに,CC と NC リザバーは円盤内に同時期に存在しており,かつ円盤の中で空間的に分離された状態にあったはずである.

このリザバーの分離が続いた期間は,最も若い隕石の母天体の集積時期を考慮することで示唆できる.Mo の同位体のダイアグラム上で,NC と CC リザバーの線の間にはプロットが存在しない.これは,両リザバーは混合せず,それぞれ分離した状態を,母天体の集積が終わるまで保っていたことを示す.

NC リザバー内のコンドライト母天体の集積が CAI 形成から ~ 2 Myr 後,CC コンドライトの集積が ~ 3 - 4 Myr 後であり,これは NC と CC リザバーは CAI 形成後 < 1 Myr から少なくとも ~ 3 - 4 Myr までは独立していたことを意味する.これは,両リザバーの領域が単に空間的に離れていたということだけでは説明できない.なぜなら,円盤内での粒子の速い移動により,短いタイムスケールで物質の混合が起きてしまうからである.

物質の内側への移動を防ぐ一つの方法は,これらの粒子が微惑星へ急速に集積してしまうことである.しかし,これも NC と CC リザバーの分離を説明できない.これは,どちらのリザバーにおいても,微惑星集積は数百万年の間同時に発生するからである.

円盤内の二つのリザバーを長い期間に渡って効果的に分離しておくためのもっともらしいメカニズムは,巨大ガス惑星による円盤へのギャップ形成である.これはおそらく,最も近い巨大ガス惑星である木星によって行われたと考えられる.

地球は NC リザバーの一部であることから,CC リザバーは始めは木星軌道の外側に分布していたと考えられる.つまり,CC 天体は元々は太陽系の外部に由来を持っている.CC 隕石の中には鉄の多い鉄隕石も存在するため,分化した微惑星の早期の急速な形成は,円盤の最も内側の地球型惑星領域だけではなく,円盤外部でも可能だったことを示唆する.

全体的な流れとしては,まず CAI 形成から < 0.4 Myr までの間,NC 鉄隕石の母天体が連続的に繋がったガス円盤の中で集積する.CAI 形成後 ~ 1 Myr まで,CC リザバーでの鉄隕石母天体が,木星軌道の外側で集積する.この段階で木星は ~ 20 地球質量程度まで成長しており,固体成分が木星軌道より内側へ移動するのを阻害する.その後 CAI 形成から ~ 2 - 4 Myr 後までで,木星は固体コアへの物質の降着によってさらに成長する.さらに,普通コンドライトの母天体が NC リザバー内で集積する (これは木星軌道より内側の円盤),また CC コンドライトの母天体が CC リザバー内で集積する (こちらは木星軌道より外側の円盤).CAI 形成の ~ 3 - 4 Myr 後,木星は ~ 50 地球質量程度まで成長し,円盤内にギャップを形成する.また,おそらくこの時期に木星の内側への軌道移動が起きる.

木星の成長史

NC と CC リザバーが長期間にわたって空間的に分離されていたのは,2 つリザバーの間に木星が存在したことが原因であるという仮定をしている.理論的研究では,円盤内の粒子の内側移動は,木星コアが 20 地球質量程度まで成長していれば止まる事が示唆されている.一方で,円盤にギャップが空けられるのは ~ 50 地球質量に到達する程度である.そのため,CC リザバーに供給された r 過程元素物質は,円盤内に共存しているが空間的に分離された NC リザバーには浸透しなかったと考えられる.つまり,r 過程元素が供給された段階では,木星は既に 20 地球質量を超えていたことを示唆する.

さらに,CAI 形成後 ~ 1 Myr での CC リザバーでの最初の微惑星形成が起きる前は,物質は供給され均質化している必要があるため,木星は太陽系形成から ~ 1 Myr 以内に 20 地球質量にまで急速に成長している必要がある.この (原始) 木星の急速な形成は,いくつかの理論モデルで予言されている木星コアの急速な成長と整合的である.これは固体コアの成長が,ペブル降着モデルか階層的成長モデルかに関わらず整合的である.

木星が 50 地球質量に到達すれば,円盤にギャップを形成する.その後,木星軌道以遠にある天体 (CC 天体) を太陽系内側へ散乱する.今回の結果は,この CC 天体の散乱と,木星の外側への移動あるいは暴走的成長は,CAI 形成後 3 - 4 Myr より前には開始しなかったことを示唆する.これは,CC コンドライト母天体は少なくとも CAI 形成から ~ 3 - 4 Myr 後までは継続して形成されたと考えられるからである.

木星が ~ 50 地球質量に到達したのは, CAI 形成から ~ 3 - 4 Myr 経過した後である.これは,木星コアが 20 地球質量前後まで急速成長した後に,木星が暴走的なガス降着によって最終的な質量 (~ 318 地球質量) に成長する段階に移行する前に,数十地球質量のガスと固体がより長い期間かけて降着する段階があるという理論的な予測と整合する.そのため,今回の結果は木星形成のコア降着モデルと合う.

今回の結果から得られる重要な示唆は,木星は円盤内を内側へ移動する固体成分に対する障壁としてはたらくため,内部太陽系は比較的質量が少ない状態が保たれる点である.太陽系内部で質量が少ないことは,太陽系にスーパーアースが形成されなかった事の説明になる可能性がある.

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