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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1706.05348
Shankman et al. (2017)
OSSOS VI. Striking Biases in the detection of large semimajor axis Trans-Neptunian Objects
(OSSOS VI.大きな軌道長半径を持つ太陽系外縁天体の検出における著しいバイアス)
TNOs の偏った軌道分布は異なる独立のサーベイで検出されているため,この偏りの検出には観測バイアスの影響は存在しないという主張にも繋がっている.
この TNOs の軌道要素の偏りは,いわゆる “Planet 9” 仮説が提唱される元になった.この仮説は,太陽系内の遠方にスーパーアース天体が存在し,TNOs の軌道要素に影響を与えているため偏りが生じているというものである.
Outer Solar System Origins Survey (OSSOS) は,2013 年から 2017 年までの間に Canada-France-Hawaii Telescope を用いて行われていた大型の観測プログラムであり,800 個を超える TNOs を検出した.OSSOS の主要な目標の一つは,検出したサンプル中に現れる可能性のある観測バイアスを注意深く決定することである.
ここでは,大きな軌道長半径を持った TNOs の検出に存在する,著しく,直感的ではない観測バイアスの存在について立証する.OSSOS での観測による,8 個の大きな軌道長半径を持つ天体の検出は過去のその他の TNOs の検出とは独立したデータセットであり,また過去の研究で使われている複合したサンプルと同程度の個数サイズを持つ.
解析の結果,OSSOS で検出された大きな軌道長半径を持つ TNOs の軌道分布は,一様な角度分布を基調とする検出と整合的である,つまり TNOs の軌道要素には目立った偏りは存在しないと結論付けた.
TNOs を検出するためのサーベイの多くは黄道面付近を対象とした観測が行われている.その結果として TNOs は,黄道面付近に近日点を持つ天体が近日点付近に来た際に検出が多くなるという観測バイアスがかかることが知られている.このバイアスによって,検出される TNOs の近点引数 ω は 0°か 180° に集まることとなる.しかし,近点引数が 180°付近のものに対して 0°付近のものが発見されやすいということを再現できるようなバイアスは知られていないため,180°ではなく 0°周辺のみに偏っている理由は不明である.
Batygin & Brown (2016) では,MPC データベース中の TNOs のうち軌道長半径が 250 AU より大きいものは,昇交点経度 Ω と近日点経度 π = ω + Ω も偏っていることを指摘した.何らかの安定化の機構が存在しない場合,海王星からの重力的擾乱によってこれらの軌道の角度は比較的短いタイムスケールでランダム化されるはずである.もし観測されている軌道角度の偏りが本質的な TNO 分布を反映したものである場合,現在に至るまで軌道の角度要素を偏らせるための何らかの力学的機構が必要である.この原因として,遠方に未発見の巨大惑星が存在するという仮説が提案されている (Trujillo & Sheppard 2014, Batygin & Brown 2016など).
未発見の惑星が太陽系外縁の TNO 領域に影響を与えているというアイデア自体はは新しいものではなく,近日点が非常に大きい TNOs (q-detached TNOs),例えば 2000 CR105やセドナなどの形成を説明するために存在が提唱されたものもある (Gladman et al. 2002, Brown et al. 2004など).
OSSOS は完全に独立した,単一のサーベイによる,大きな軌道長半径を持つ TNOs のサンプルを提供する事ができる.OSSOS で発見された TNOs のサンプル数は,過去の研究に使われたものと同じ程度の規模を持つ,
OSSOS では,830 個を超える,軌道要素がよく決定された TNOs を発見している.OSSOS の高精度のアストロメトリ観測によって,検出した TNOs の軌道要素を素早く決定することが可能となっている.
OSSOS では,軌道長半径 a が 150 AU より大きく近日点距離 q が 30 AU より大きい TNOs を 8 個検出している.一方で Trujillo & Sheppard (2014) では,非公開のサーベイによって検出されている MPC のデータから 12 個の TNOs を解析に使用している.また,a が 250 AU より大きく q が 30 AU より大きい TNOs の検出数は 4 個であり,Batygin & Brown (2016) で使用されている MPC データの TNOs は 6 個である.
今回の解析では以下の疑問に取り組む.
OSSOS で検出された TNOs の軌道要素の分布は,遠方の TNOs は本来は一様な ω の分布を持つとした場合と整合的であった.この結果は,TNOs で a > 150 AU かつ q > 30 AU のものが本質的に ω が 0°周辺に偏っているという説に疑問を投げかけるものである.
OSSOS のサーベイでは,遠方 TNOs の軌道の角度要素 (ω など) の検出には,強力で著しいバイアスが存在することを示した.OSSOS のサンプル単独を考慮した場合では,軌道要素の分布が偏っていることを明確に示す証拠は見られなかった.また,MPC のサンプルも合わせて解析した場合,検出されている TNOs での軌道要素の偏りの存在は否定的である.従って,TNOs の軌道の角度が本質的に偏っているという仮説の証拠は,今回の初めての独立した大きなサンプルの中からは発見されなかった.
今回の結果より,q-detached TNOs の軌道要素を説明するための,太陽系外縁部における矮星スケールより大きな天体の存在という仮説は依然としてもっともらしいと思われるが,Planet 9 仮説のような,スーパーアースやそれより大きい程度の惑星が遠方 TNOs の軌道要素を制限しているという説については疑わしいと考えられる.
「太陽系の遠方に未発見の惑星が存在する」という仮説はこれまでにいくつも提唱されていますが,2016 年に Batygin & Brown (2016) によって提唱された "Planet 9" 仮説は大きなニュースになりました.太陽系外縁天体の軌道要素の分布には多かれ少なかれ偏りが見られていて,その一部の偏りは Planet 9 が存在すると仮定することで上手く説明できる,というのがその要旨でした.
しかし Planet 9 仮説の根拠となっている太陽系外縁天体の偏りは,参照している天体の個数が少ないため,偏りは観測バイアスもしくはサンプル数が少ないことによる見かけの偏り (あるいはその両方) によるものであって,本質的に偏っているわけではないという疑問も上がっていました.
このサーベイでは太陽系外縁天体の検出を行い,その結果から,観測バイアスや少数サンプルの効果以上の偏りは見られず,Planet 9 を含む未発見惑星仮説を提唱する根拠は疑わしい,という結論を出しています.
arXiv:1706.05348
Shankman et al. (2017)
OSSOS VI. Striking Biases in the detection of large semimajor axis Trans-Neptunian Objects
(OSSOS VI.大きな軌道長半径を持つ太陽系外縁天体の検出における著しいバイアス)
概要
近年発見数が増えている,小サイズで大きな軌道長半径を持つ太陽系外縁天体 (trans-Neptunian objects, TNOs) は,軌道配置が偏っているように見える.この偏りは,これらの TNOs の本質的な分布を反映したものであるかもしれないし,観測バイアスの結果および検出された天体が少数の場合に統計的に見られるものの影響であるかもしれない.TNOs の偏った軌道分布は異なる独立のサーベイで検出されているため,この偏りの検出には観測バイアスの影響は存在しないという主張にも繋がっている.
この TNOs の軌道要素の偏りは,いわゆる “Planet 9” 仮説が提唱される元になった.この仮説は,太陽系内の遠方にスーパーアース天体が存在し,TNOs の軌道要素に影響を与えているため偏りが生じているというものである.
Outer Solar System Origins Survey (OSSOS) は,2013 年から 2017 年までの間に Canada-France-Hawaii Telescope を用いて行われていた大型の観測プログラムであり,800 個を超える TNOs を検出した.OSSOS の主要な目標の一つは,検出したサンプル中に現れる可能性のある観測バイアスを注意深く決定することである.
ここでは,大きな軌道長半径を持った TNOs の検出に存在する,著しく,直感的ではない観測バイアスの存在について立証する.OSSOS での観測による,8 個の大きな軌道長半径を持つ天体の検出は過去のその他の TNOs の検出とは独立したデータセットであり,また過去の研究で使われている複合したサンプルと同程度の個数サイズを持つ.
解析の結果,OSSOS で検出された大きな軌道長半径を持つ TNOs の軌道分布は,一様な角度分布を基調とする検出と整合的である,つまり TNOs の軌道要素には目立った偏りは存在しないと結論付けた.
研究背景
太陽系外縁天体分布の偏りと未発見遠方惑星仮説
Trujillo & Sheppard (2014) は,Minor Planet Center (MPC) のデータベースにある太陽系外縁天体 (TNOs) のデータを元にして,既知の TNOs のうち,軌道長半径 150 AU より大きく近日点が 30 AU より遠いものは,近点引数 ω の値が 0°周辺に集まっていることを指摘した.TNOs を検出するためのサーベイの多くは黄道面付近を対象とした観測が行われている.その結果として TNOs は,黄道面付近に近日点を持つ天体が近日点付近に来た際に検出が多くなるという観測バイアスがかかることが知られている.このバイアスによって,検出される TNOs の近点引数 ω は 0°か 180° に集まることとなる.しかし,近点引数が 180°付近のものに対して 0°付近のものが発見されやすいということを再現できるようなバイアスは知られていないため,180°ではなく 0°周辺のみに偏っている理由は不明である.
Batygin & Brown (2016) では,MPC データベース中の TNOs のうち軌道長半径が 250 AU より大きいものは,昇交点経度 Ω と近日点経度 π = ω + Ω も偏っていることを指摘した.何らかの安定化の機構が存在しない場合,海王星からの重力的擾乱によってこれらの軌道の角度は比較的短いタイムスケールでランダム化されるはずである.もし観測されている軌道角度の偏りが本質的な TNO 分布を反映したものである場合,現在に至るまで軌道の角度要素を偏らせるための何らかの力学的機構が必要である.この原因として,遠方に未発見の巨大惑星が存在するという仮説が提案されている (Trujillo & Sheppard 2014, Batygin & Brown 2016など).
未発見の惑星が太陽系外縁の TNO 領域に影響を与えているというアイデア自体はは新しいものではなく,近日点が非常に大きい TNOs (q-detached TNOs),例えば 2000 CR105やセドナなどの形成を説明するために存在が提唱されたものもある (Gladman et al. 2002, Brown et al. 2004など).
OSSOS による観測
Planet 9 仮説 (Batygin & Brown 2016) などのような,最近提唱されている遠方の巨大惑星仮説における重要な前提は,現在見られている軌道の角度要素の偏りは観測バイアスによるものではないという点である.しかし,MPC にある TNOs は発見状況やサーベイの特徴が公表されていないサーベイによるものが多く,MPC の全サンプルについての観測バイアスを検証するのを困難にしている.OSSOS は完全に独立した,単一のサーベイによる,大きな軌道長半径を持つ TNOs のサンプルを提供する事ができる.OSSOS で発見された TNOs のサンプル数は,過去の研究に使われたものと同じ程度の規模を持つ,
OSSOS では,830 個を超える,軌道要素がよく決定された TNOs を発見している.OSSOS の高精度のアストロメトリ観測によって,検出した TNOs の軌道要素を素早く決定することが可能となっている.
OSSOS では,軌道長半径 a が 150 AU より大きく近日点距離 q が 30 AU より大きい TNOs を 8 個検出している.一方で Trujillo & Sheppard (2014) では,非公開のサーベイによって検出されている MPC のデータから 12 個の TNOs を解析に使用している.また,a が 250 AU より大きく q が 30 AU より大きい TNOs の検出数は 4 個であり,Batygin & Brown (2016) で使用されている MPC データの TNOs は 6 個である.
今回の解析では以下の疑問に取り組む.
- OSSOS での a > 150 AU, q > 30 AU の TNO 領域での観測バイアス,特にそれらの軌道角度 ω,Ω,π に関連するものは何か?
- OSSOS サンプルには,TNOs の MPC サンプルで議論されているような,ω (for a > 150 AU),Ω (a > 250 AU),π (a > 250 AU) の偏りの証拠はあるか?
- ω,Ω,π の本質的な分布は全て一様であるという帰無仮説を棄却できるか?
OSSOS サンプルの解析結果と議論
OSSOS サンプル中には,新たな惑星が存在するという仮説の動機になったような,近点引数 ω の偏りの証拠は見られなかった.OSSOS サーベイでの ω の分布は,観測バイアスを考慮に入れると,TNOs の軌道要素の分布がランダムであるという帰無仮説を棄却できない.従って,TNOs の軌道要素の偏りは,観測バイアスと少数のサンプルからの統計の両方によるものだということが示唆される.OSSOS で検出された TNOs の軌道要素の分布は,遠方の TNOs は本来は一様な ω の分布を持つとした場合と整合的であった.この結果は,TNOs で a > 150 AU かつ q > 30 AU のものが本質的に ω が 0°周辺に偏っているという説に疑問を投げかけるものである.
OSSOS のサーベイでは,遠方 TNOs の軌道の角度要素 (ω など) の検出には,強力で著しいバイアスが存在することを示した.OSSOS のサンプル単独を考慮した場合では,軌道要素の分布が偏っていることを明確に示す証拠は見られなかった.また,MPC のサンプルも合わせて解析した場合,検出されている TNOs での軌道要素の偏りの存在は否定的である.従って,TNOs の軌道の角度が本質的に偏っているという仮説の証拠は,今回の初めての独立した大きなサンプルの中からは発見されなかった.
今回の結果より,q-detached TNOs の軌道要素を説明するための,太陽系外縁部における矮星スケールより大きな天体の存在という仮説は依然としてもっともらしいと思われるが,Planet 9 仮説のような,スーパーアースやそれより大きい程度の惑星が遠方 TNOs の軌道要素を制限しているという説については疑わしいと考えられる.
「太陽系の遠方に未発見の惑星が存在する」という仮説はこれまでにいくつも提唱されていますが,2016 年に Batygin & Brown (2016) によって提唱された "Planet 9" 仮説は大きなニュースになりました.太陽系外縁天体の軌道要素の分布には多かれ少なかれ偏りが見られていて,その一部の偏りは Planet 9 が存在すると仮定することで上手く説明できる,というのがその要旨でした.
しかし Planet 9 仮説の根拠となっている太陽系外縁天体の偏りは,参照している天体の個数が少ないため,偏りは観測バイアスもしくはサンプル数が少ないことによる見かけの偏り (あるいはその両方) によるものであって,本質的に偏っているわけではないという疑問も上がっていました.
このサーベイでは太陽系外縁天体の検出を行い,その結果から,観測バイアスや少数サンプルの効果以上の偏りは見られず,Planet 9 を含む未発見惑星仮説を提唱する根拠は疑わしい,という結論を出しています.
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天文・宇宙物理関連メモ vol.192 Batygin & Brown (2016) 太陽系内の "第9惑星" の証拠について