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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1706.06837
Farkas-Takács et al. (2017)
Properties of the irregular satellite system around Uranus inferred from K2, Herschel and Spitzer observations
(K2,ハーシェルとスピッツァーの観測から示唆される天王星まわりの不規則衛星系の特性)

概要

ケプラーの K2 ミッションの最中に取得された,天王星の不規則衛星シコラクス (Sycorax)キャリバン (Caliban)プロスペロー (Prospero)ファーディナンド (Ferdinand)セティボス (Setebos) の可視光の範囲での光度曲線とその解析について報告する.

また,赤外線宇宙望遠鏡であるハーシェル宇宙望遠鏡 (Herschel Space Observatory) の PACS (Photodetecting Array Camera and Spectrometer) と スピッツァー宇宙望遠鏡の MIPS (Multiband Imaging Photometer for Spitzer) の装置を用いて,シコラクスとキャリバンの熱放射を測定した.ここから,これらの衛星のサイズ,アルベド,表面の特性を解析した.

観測から得られたこれらの衛星の特性を,他の巨大惑星系の不規則衛星の自転特性および表面特性と比較した.また,メインベルト天体 (小惑星帯の天体),トロヤ小惑星,太陽系外縁天体の特性とも比較した.その結果,天王星の不規則衛星系は木星や土星の不規則衛星よりも激しい衝突進化を経験したことが示唆される.

天王星の不規則衛星の表面特性は,他の巨大惑星の不規則衛星の表面特性よりも,ケンタウルス族天体や太陽系外縁天体の表面特性に類似していることが分かった.このことから,若い太陽系では天王星軌道内側では組成の不連続が存在したことが示唆される.

パラメータ

シコラクス

この天体の光度曲線の詳細な観測は Maris et al. (2001) が初である.ここでは新たに La Silla の 3.5 m ESO NTT 望遠鏡を用いて観測し,シコラクスの自転周期を 4.12 ± 0.04 時間と測定した.また 2005 年に超大型望遠鏡 (Very Large Telescope, VLT) を用いた観測では,自転周期は 3.6 ± 0.02 時間と推定されている.

今回の K2 の測定では,光度曲線の周期は 3.458 ± 0.001 時間と測定された.ここでは,シコラクスの光度曲線は二重のピークを持つと仮定している.この仮定は,光度曲線を半分の周波数 (自転周期の二倍) で折りたたんだ際に,光度曲線にわずかな非対称性が現れることからも支持される.

これより,この二重ピークの自転周期は 6.9190 ± 0.0082 時間と測定される.単一ピークとした場合の周期は Maris et al. (2007) の VLT での測定での値と非常に近い.

この他に,二番目の明瞭な極大が,1 日あたり 0.35 回の周期で見られた.このような二番目の周期は,tumbling rotation か伴星の存在によってしばしば説明される.シコラクスの周りの伴星 (衛星の衛星) は面白い可能性ではあるが,今回検出された二番目のピークは,観測サンプリングによる人為的な影響であると考えられる.

その他の測定からの結果と合わせて,この衛星の自転周期として 6.9162 ± 0.0013 時間という値を与えた.

その他の小さい衛星

キャリバン
Maris et al. (2001) ではキャリバンの光度曲線に 2.66 時間周期の変動を見出したが,これは今回の観測では確認されなかった.

代わりに,4.8249 ± 0.0092 サイクル/日の周波数を得た.周期で折り畳んだ光度曲線の非対称性から,実際の自転周期はこの周波数の半分に対応すると結論付け,4.9742 ± 0.0095 時間とした.
プロスペロー
この天体の光度曲線は,今回の解析の中では最も不明瞭な周期となった.

もっともらしい周期は 3.359 ± 0.044 サイクル/日 (7.145 ± 0.092 時間) であった.しかし強い二番目のピークが 4.415 ± 0.045 サイクル/日で検出された.これは単一ピークの周期とすると 5.346 ± 0.055 時間に対応し,Maris et al. (2007) が得た光度曲線周期と非常に近い.
セティボス
Maris et al. (2007) では 4.38 ± 0.05 時間という光度曲線の周期が得られている

今回の結果は 4.255 ± 0.017 時間となり,過去に言及されている値に非常に近い.また二重ピークの光度曲線であることを示唆する兆候は見当たらなかった.
ファーディナンド
この天体の光度曲線はこれまでに得られていなかった.

解析の結果,もっともらしい周波数は 2.027 ± 0.039 サイクル/日であり,これは幾分か長い自転周期である 11.84 ± 0.22 時間に対応している.これは今回のサンプルの中では最も長い周期である (単一ピークの周期を仮定した場合).

しかし,このような長い自転周期は珍しいわけではない.例えば土星の衛星では,10 - 16 個の不規則衛星がファーディナンドよりも長い自転周期を示す (Denk & Mottola 2013).

不規則衛星の自転特性の比較

太陽系内の小天体の自転はしばしば,いわゆるスピンバリア (spin barrier) によって特徴づけられる.これは,ラブルパイル天体が遠心力によって破壊されないための限界の自転周期である.このスピンバリアを超えると,天体がラブルパイル天体である場合は破壊される.

このスピンバリアは,メインベルトの小惑星でよく分かっており,臨界自転周期は ~ 2.2 時間であり,臨界密度の推定は ~ 2.0 g cm-3 である.

今回得られた天王星の不規則衛星での自転周波数の中央値は 3.4 サイクル/日であり,これは木星・土星・海王星での値である 2 サイクル/日より長い.また,シコラクスとキャリバンの二重ピーク自転周期を仮定すると,臨界密度は ≦ 0.76 g cm-3 と推定される.二重ピークではなく,単一ピークの自転周期を仮定した場合でも臨界密度は 1 g cm-3 より小さくなる.

これらの値はメインベルト天体の ~ 2 g cm-3 より小さいが,木星のトロヤ群小惑星や,典型的な彗星核,太陽系外縁天体の密度 ~ 0.5 g cm-3 よりは大きい.また,他の巨大惑星系の不規則衛星において推定されている値よりも大きい.

今回のサンプル数は小さく,またバイアスの除去も確実ではない.しかし,ここで得られた大きな自転周波数の中央値は,今回観測した天王星の不規則衛星系は木星と土星周りの系とは異なり,多数回の衝突もしくはより高エネルギーの衝突,あるいはその両方に晒された可能性を示唆する.

自転周期の中央値である 7.1 時間は,ケンタウルス族での中央値 7.35 時間 (Duffard et al. 2009) に近く,また太陽系外縁天体の 8.6 時間 (Thirouin et al. 2014) より幾分か小さい.しかし,これらの小天体は,天王星の不規則衛星系とは異なる衝突進化を経験したはずである.

不規則衛星の表面特性の比較

木星・土星・海王星の衛星

不規則衛星のスペクトルのスロープから得た,表面の "色" と幾何学的アルベドをプロットした図で比較を行った.

木星の不規則衛星は典型的には,暗い中間色の表面を持ったケンタウルス族天体および太陽系外縁天体と類似したアルベド・色領域に位置している.これは,彗星の核や木星のトロヤ群小惑星にも見られる特長である.
木星の不規則衛星のうち 2 つだけが赤い表面を持ち,どちらも非常に暗い.

土星の不規則衛星は,暗く中間色のグループの中に明確に存在する.なお比較には土星の衛星ヒュペリオンも含めているが,これは不規則衛星ではない.しかし他の土星の規則衛星とは異なる特徴を持ち,形状が細長く,クレーターが非常に多く,内部は低密度である.

海王星の不規則衛星ネレイドも,おそらく暗く中間色の天体である.
しかしトリトンは他のすべての不規則衛星とは明確に異なっており,その大きなサイズから期待されるように,不規則衛星のグループというよりも,大きな準惑星のグループにより類似している.このことは,天体の内部過程 (氷火山) が元々持っていた表面を大きく変化させたことを示唆する.トリトンの表面は,最も大きな準惑星により類似しており,またハウメアの衝突族天体が持つ表面とも類似している.

天王星の衛星

天王星の不規則衛星シコラクスとキャリバンは,いくつかの天王星の規則衛星 (パック,ミランダ,アリエル,ウンブリエル,チタニア,オベロン) と同じく,明るい赤色のグループに属している.現在のところ,他の巨大惑星系の不規則衛星でこのアルベド-色領域に属しているものは存在しない.

サンプル数は少ないものの,天王星の不規則衛星の表面は,明るく赤い太陽系外縁天体に似ている.

木星系と土星系の不規則衛星およびネレイドは,一般により暗く,色もより中間色を示す.もし天王星の不規則衛星の表面と他の巨大惑星系のそれが本質的に異なり,また表面の進化の経緯が大きく異なったので無ければ,これはかつての太陽系における組成の不連続があったことを示唆する.この組成の不連続は,天王星の日心距離に近い位置にあったはずであり,ケンタウルス族と太陽系外縁天体における分布の二峰性を引き起こしたものと同じ過程によって引き起こされた可能性がある.

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