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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1707.07634
Mroz et al. (2017)
No large population of unbound or wide-orbit Jupiter-mass planets
(束縛されていないか大きな軌道にある木星質量惑星の大きなポピュレーションは存在しない)

概要

惑星形成理論では,いくつかの惑星は力学的相互作用やその他の過程の結果として,元々いた惑星系から弾き出される場合があることを予言する.また,恒星に重力的に束縛されていない惑星は,恒星が形成するのと同様の方法によって,分子雲の重力崩壊を経由して形成される可能性もある.

これまでに,広視野のサーベイだけではなく,若い星団と星形成領域における赤外線サーベイ観測によって,少数の自由浮遊惑星質量天体 (free-floating planetary-mass objects,恒星の周りを公転しない惑星程度の質量の天体) が発見されているが,これらのサーベイは 5 木星質量を下回る天体に対しては不完全である.

重力マイクロレンズ法は,火星質量程度の小さな質量を持つ自由浮遊惑星までを検出することが出来る唯一の手法である.これは,マイクロレンズのシグナルはレンズ天体の明るさに依存しないことから来ている.

レンズ天体の質量が小さい場合,継続時間が短いマイクロレンズイベントとして検出される.
過去の 474 例のマイクロレンズイベントの解析からは,非常に短いイベント (タイムスケールが 1 - 2 日) のが多く存在する事が報告され,これは通常の恒星の個数から示唆されるイベント数よりも多かった.このことから,恒星に重力的に束縛されていないか,恒星から遠く離れた軌道にある木星質量の惑星が大量に存在している事が示唆された.この解析では,これらの天体は主系列星の 2 倍程度の個数存在すると推定されていた.

しかしこの結果は惑星形成理論からの予言とは一致せず,また若い星団での低質量天体のサーベイ結果とも対立するものであった.

ここでは,先行研究での解析よりも 6 倍多いマイクロレンズイベントの解析を行った.これらのイベントは,2010 - 2015 年の間に検出されたものである.このサーベイは,短いタイムスケール (1 - 2 日) のマイクロレンズイベントに対して高い感度 (検出効率) を持つ.

解析の結果,このタイムスケールの範囲におけるイベント数の超過は発見されなかった.95%の上限値として,木星質量の自由浮遊惑星もしくは遠方軌道の惑星の存在頻度は,主系列星の個数に対して 0.25倍程度という値を与えた.

また,いくつかの極めて短いタイムスケールのイベント (0.5 日より短い程度) シグナルと思われるものを検出.これは,惑星形成理論で予言されている,地球質量やスーパーアース質量の自由浮遊惑星の存在を示すものである可能性がある..

解析について

この解析では,2010 - 2015 年の間の Optical Gravitational Lensing Experiment の第 4 フェーズ (OGLE-IV) での 2617 例のマイクロレンズイベントを解析した.

その結果,過去に報告されていたような,タイムスケールが 1 - 2 日のマイクロレンズイベントの超過は見られなかった.
先行研究との違いの一部は,過去の研究では解析に用いたイベント数が比較的少なかったことで説明できる.また,イベントのタイムスケールの測定が系統的な影響を受けていた可能性もある.

また,検出されたマイクロレンズイベントのタイムスケールについて,回数分布のモデリングを行った.ベストフィットモデルでは,褐色矮星の質量範囲 (0.01 - 0.08 太陽質量) ではイベントの回数分布は -0.8 の冪,低質量星の質量範囲 (0.08 - 0.5 太陽質量) では -1.3 の冪,0.5 太陽質量以上では -2.0 の冪の冪乗則で,初期質量関数 (initial mass function, IMF) が近似できることが判明した.

ベストフィットモデルは,観測されたタイムスケールの回数分布をよく説明するが,タイムスケールが 0.5 - 1 日の範囲で小さな超過と思われる振る舞いがある.これを木星質量のレンズ天体からの寄与だと考えると,最大尤度モデルでは,木星質量の天体 (いわゆる自由浮遊惑星) の存在頻度は,主系列星 1 個あたり 0.05 個であることに対応する.また,95%信頼限界の上限値としては,主系列星 1 個に対して 0.25 個の木星質量惑星が存在するという結果になった.

この結果は,直接撮像サーベイから示唆されている木星質量惑星の個数分布の上限値と整合的なものであった.また,これは 0.5 - 1 日のタイムスケールのイベントと思われるもののほとんど全ては,(自由浮遊惑星ではなく) 大きな軌道にある惑星からの寄与であることを示唆する結果である.

より低質量の惑星質量天体の可能性

データの中には,マイクロレンズイベントとしての基準を満たしていて,かつタイムスケールが 0.5 日より短いものが 6 イベントあった.これらについては注意深く確認を行い,測光の技術的な影響や,小惑星によるシグナルである可能性を排除した.また,これらのシグナルが何らかのアウトバースト現象であることは確認されなかった.
しかし,これらのイベントは非常に短く,光度曲線はイベントの全てをカバーできていないため,これらのイベントのうちいくつかはフレア星によるものである可能性は排除できない.

これらのイベントのタイムスケールは 0.1 - 0.4 日である.これらの天体が,褐色矮星,恒星やその残骸 (白色矮星など) のレンズ天体と同様の運動をしているとみなした場合,レンズ天体の質量は地球やスーパーアース質量に相当する.これらは,どの恒星にも重力的に束縛されていないか,あるいは恒星から非常に離れた軌道にあると考えられる (少なくとも,中心星から数 AU 離れている).これは,これらのイベントの光度曲線中には連星 (中心星 + 惑星のペアになっている状態) である兆候が見当たらないためである.

これらの極めて短いタイムスケールのイベントは,非常に小さく性質も不明であるため,質量関数のフィッティングには含めていない.しかしこのわずかな検出は,地球質量のレンズ天体は銀河系内では非常にありふれたものであることを意味している可能性がある.

もし 5 地球質量の惑星が主系列星より 5 倍多く存在すると仮定した場合,非常に短いマイクロレンズイベントの期待される検出個数は 2.2 回になる.より現実的な質量関数として,地球質量の惑星が主系列星の 5 倍多いとした場合は,期待される検出個数はそれより 25%小さくなる.


惑星形成理論によると,多くの地球質量・スーパーアース質量の惑星は,比較的小さい軌道間隔 (< 10 AU) で形成される.地球質量を持ち,中心星から離れた軌道を持つ惑星,あるいは自由浮遊惑星のもっともらしい起源は,若い複数惑星系での力学的相互作用である.また,それ以外の機構 (多重連星系からの放出,恒星の近接遭遇,星団中の相互作用,主星の主系列段階後の進化を含む) も提案されている.これらのプロセスでは,木星質量の自由浮遊惑星の大きなポピュレーションは形成しそうにないが,地球質量の惑星の場合はより効率的に散乱され,放出され得る.







重力マイクロレンズを用いた,自由浮遊惑星の個数の推定に関する報告です.

過去の研究では,重力マイクロレンズの観測結果の解析から,木星質量の自由浮遊惑星は銀河系内に大量に存在し,主系列星の 2 倍は存在すると推定されていました.しかしここでは重力マイクロレンズのサンプル数を 6 倍に増やして同様の解析を行った結果,そのような傾向は見られず,木星質量の自由浮遊惑星の数は多くても主系列星の個数の 4 分の 1 程度に留まると結論付けています.

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