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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1708.00016
Crossfield & Kreidberg (2017)
Trends in Atmospheric Properties of Neptune-Size Exoplanets
(海王星サイズ系外惑星の大気特性における傾向)
これらの相関は,低い平衡温度における,より光学的に厚い光化学的に生成されるヘイズが存在することか,半径が小さく低い fHHe を持つ惑星大気の金属量が高いことのどちらか,あるいはその両方を示唆する.
また,将来的にジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (James Webb Space Telescope, JWST) の NIRISS を用いた観測で,確実に傾向を見分けるために必要な観測時間の推定を行うため,解析的な関係式を導出した.これを用いると,TESS を用いて将来発見される系外惑星のうちの 8 分の 1 程度が,JWST での大気分光観測に適していると予想される.
大気特性におけるこれらの傾向を惑星または惑星系の関数として確認するためには,多くのサンプル数の惑星の追加観測が必要である.もしこれらの傾向が確認されれば,惑星科学コミュニティは大気研究の新しい対象の優先順位付けを行い,最終的には大気化学,組成,雲の特性における複雑な縮退を解くことが出来る.
ここで言うウォームネプチューンには,比較的小さいスーパーアースと,豊富なガスを持つものの双方を含んでいる.
中間サイズの惑星の存在には多くの疑問点が存在する.
何がその成長を阻害し,木星のような巨大ガス惑星になるのを防いだのか?それぞれの惑星系のどこで形成したのか?なぜ太陽系はそのようなサイズ領域の惑星が存在しないのか?
これらの疑問に答えるためのアプローチの一つが,惑星の全体の組成 (bulk composition,バルク組成) を知ることである.
惑星形成モデルでは,ウォームネプチューンの大気組成について 2 つの大きな傾向が存在することを予言する.
一つは組成の多様性で,水に富んだ組成を持つ “super-Ganymedes” から,ふわふわした H/He エンベロープを持つ惑星まで,多様な組成の惑星が存在する (Elkins-Tanton & Seager 2008など).
この多様性の特徴は,惑星質量-半径ダイアグラムに現れる.海王星質量の惑星は,密度にしてファクター 3 のバラ付きがあることが分かっている (Weiss & Marcy 2014).
ウォームネプチューンは大気中にいくらかの水素を持つだろう.しかしコア質量とエンベロープの金属量 (M/H) の間には強い縮退があり,このことが,質量と半径の測定のみからウォームネプチューンのバルク構成を正確に決定することを難しくしている.
もう一つの定性的な予言は,小さい惑星の大気は木星サイズの惑星よりも金属量が多いというものである (Fortney et al. 2013など).
惑星に落下する微惑星は溶発されて大気を汚染する.低質量の惑星の場合,エンベロープ中の重元素量の増加は明白に現れると考えられる.これは,巨大ガス惑星に比べて重元素を希釈するガスが少ない事が原因である.
実際に太陽系のガス惑星では,惑星質量が少ない方が金属量 M/H が大きいという著しい傾向があり,これはホットジュピターにも適用される (Kreidberg et al. 2014).
低質量の系外惑星でもこれらの傾向はおおむね整合的だが,観測の不定性が大きい (Moses et al. 2013など).
幾つかの惑星は水に由来するスペクトルの特徴を持つ (Fraine et al. 2014など).一方で他の惑星は,平坦で特徴に欠けたスペクトルを示す (Kreidberg et al. 2014など).
惑星の大気組成の平均分子量が高い場合か,大気の高高度に雲かヘイズが存在する場合に,惑星大気のスペクトルは特徴に欠けたものになり得る.また,スペクトルに特が検出された場合においても,雲無しの太陽組成の大気に期待される強度よりも特長が弱いこことも分かっている (Fraine et al. 2014).
これまでにも系外惑星の透過スペクトル中の傾向を調べた研究はある (Stevenson 2016, Heng 2016).しかしこれらは主にホットジュピターに関するもので,これらの大気はウォームネプチューンの大気とは大きく異なると思われる.
上記の選定条件では 55 Cnc e (かに座55番星e) は除外される.この惑星のバルク構成は,揮発性の元素を持たないか,持っていても僅かであるとする場合と整合的であり (Demory et al. 2016),もしこの惑星が大気を持っていたとしても (Ridden-Harper et al. 2016など),中心星から強く輻射を受けているため,我々の最終的なサンプルとは大きく異なる特徴を持っているだろうと予想される.
条件を満たしているものの中から更に制限をかけ,最終的に 6 惑星を選定した.ここでの制限は,例えば恒星の変動によって異なる時期での観測に影響が及んでいる可能性を考慮したものなどである.また,主星の非一様な表面輝度によって特に短波長側でスペクトルにスロープが生じる可能性についても考慮した.
解析の結果,惑星質量に占める水素・ヘリウムの割合が大きくなるほど,水の特徴も大きくなる傾向が見られた.
この傾向の解釈として有り得るものは,小さな H/He エンベロープの大気は高い金属量を持ち,従って実際のスケールハイト H はここで予想しているスケールハイト HHHe より小さいというものである.
この HHHe は,惑星大気の平均分子量を 2.3 とした,水素・ヘリウム主体の大気の場合のスケールハイトである.
この解釈は,惑星形成モデルの予言,すなわち小さいエンベロープは降着する微惑星でより汚染されているという予測 (Fortney et al. 2013, Venturini et al. 2016) と合う.
もしスペクトル中の水の特徴の大きさが大気の金属量のみに依存するのであれば,観測されたスペクトルから大気の平均分子質量の下限値を与えるのに使うことが出来る.
水の特徴の振幅が平均分子量に線形依存すると仮定すれば,選定したサンプル中で最も大きい惑星である HAT-P-11b と HAT-P-26b の平均分子量は 2.3 と推定される,また,GJ 3470b,GJ 436b,GJ 1214b はそれぞれ 8 ± 2,10 (+9, -4),61 (+63, -24) と推定される.
GJ 3470b,GJ 436b のケースは信頼できそうだが,GJ 1214b の透過スペクトルは非常に平坦であり,どの揮発性化学種のものよりも大きな金属量の組成が必要である.さらに GJ 1214b のデータは,水の特徴を含んだスペクトルとみなすよりも,統計的に完全に平坦だとみなせることを確認した.
以上より,これらの観測データの説明としては,大気の高高度に存在する凝縮物 (雲かヘイズ) が恒星のフラックスの透過をブロックしているというのが唯一考えられる可能性である.そのためこの結果は,平均分子量との相関と言うより,透過光スペクトルの強度と惑星の平衡温度の相関を示しているものだと考えられる (後述).
惑星大気中の高高度でのエアロゾルを形成するもっともらしい経路は,炭化水素との光化学反応である.タイタン大気中で見られるようなヘイズと似たものが形成される.
Morley et al. (2015) は,高次の炭化水素を “すすの前駆体” とみなして大気中での相互作用をモデル化した.その結果,惑星の平衡温度が 1100 K から 800 K の狭い範囲で下がる間に,これらの化合物の高高度での存在度は強く上昇することを発見した.
このことから,惑星の平衡温度が 800 - 1100 K の間で,ヘイズ無し大気からヘイズに富んだ大気への遷移が起きることが予測される.この予測は,今回得られた平衡温度-水の特徴の強度の図とよく一致した.
このシナリオによると,HAT-P-11b と HAT-P-26b の大気は,スペクトルの特徴を隠すようなヘイズを形成するには温度が高すぎるため,透過スペクトル中に水の強い特徴が現れる.その他のウォームネプチューンはヘイズ形成の閾値より低いため,透過スペクトルを隠してしまうために十分な量のヘイズが生成されている.
今回示されたこの傾向は,同じ平衡温度領域のウォームネプチューンを更に観測することで検証できる.
arXiv:1708.00016
Crossfield & Kreidberg (2017)
Trends in Atmospheric Properties of Neptune-Size Exoplanets
(海王星サイズ系外惑星の大気特性における傾向)
概要
ウォームネプチューン (warm Neptune) の大気観測から,観測と惑星系のパラメータの間の相関について調査した.その結果,95%の信頼度で,ウォームネプチューンの透過光スペクトルの特徴の強度と,惑星の平衡温度,および惑星の質量における水素・ヘリウムの割合 (fHHe) の両方に相関がある事を発見した.これらの相関は,低い平衡温度における,より光学的に厚い光化学的に生成されるヘイズが存在することか,半径が小さく低い fHHe を持つ惑星大気の金属量が高いことのどちらか,あるいはその両方を示唆する.
また,将来的にジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (James Webb Space Telescope, JWST) の NIRISS を用いた観測で,確実に傾向を見分けるために必要な観測時間の推定を行うため,解析的な関係式を導出した.これを用いると,TESS を用いて将来発見される系外惑星のうちの 8 分の 1 程度が,JWST での大気分光観測に適していると予想される.
大気特性におけるこれらの傾向を惑星または惑星系の関数として確認するためには,多くのサンプル数の惑星の追加観測が必要である.もしこれらの傾向が確認されれば,惑星科学コミュニティは大気研究の新しい対象の優先順位付けを行い,最終的には大気化学,組成,雲の特性における複雑な縮退を解くことが出来る.
研究背景
海王星サイズ惑星の特性について
2 - 6 地球半径の短周期惑星 (以降 “warm Neptunes” とする) は,惑星形成の過程で普遍的に形成されると考えられる.ウォームネプチューンは,全恒星に > 25% の頻度で存在している.ここで言うウォームネプチューンには,比較的小さいスーパーアースと,豊富なガスを持つものの双方を含んでいる.
中間サイズの惑星の存在には多くの疑問点が存在する.
何がその成長を阻害し,木星のような巨大ガス惑星になるのを防いだのか?それぞれの惑星系のどこで形成したのか?なぜ太陽系はそのようなサイズ領域の惑星が存在しないのか?
これらの疑問に答えるためのアプローチの一つが,惑星の全体の組成 (bulk composition,バルク組成) を知ることである.
惑星形成モデルでは,ウォームネプチューンの大気組成について 2 つの大きな傾向が存在することを予言する.
一つは組成の多様性で,水に富んだ組成を持つ “super-Ganymedes” から,ふわふわした H/He エンベロープを持つ惑星まで,多様な組成の惑星が存在する (Elkins-Tanton & Seager 2008など).
この多様性の特徴は,惑星質量-半径ダイアグラムに現れる.海王星質量の惑星は,密度にしてファクター 3 のバラ付きがあることが分かっている (Weiss & Marcy 2014).
ウォームネプチューンは大気中にいくらかの水素を持つだろう.しかしコア質量とエンベロープの金属量 (M/H) の間には強い縮退があり,このことが,質量と半径の測定のみからウォームネプチューンのバルク構成を正確に決定することを難しくしている.
もう一つの定性的な予言は,小さい惑星の大気は木星サイズの惑星よりも金属量が多いというものである (Fortney et al. 2013など).
惑星に落下する微惑星は溶発されて大気を汚染する.低質量の惑星の場合,エンベロープ中の重元素量の増加は明白に現れると考えられる.これは,巨大ガス惑星に比べて重元素を希釈するガスが少ない事が原因である.
実際に太陽系のガス惑星では,惑星質量が少ない方が金属量 M/H が大きいという著しい傾向があり,これはホットジュピターにも適用される (Kreidberg et al. 2014).
低質量の系外惑星でもこれらの傾向はおおむね整合的だが,観測の不定性が大きい (Moses et al. 2013など).
これまでのウォームネプチューンの観測と解釈
これまでにいくつかのウォームネプチューンが観測されているが,その結果についての簡単な説明は存在しない.幾つかの惑星は水に由来するスペクトルの特徴を持つ (Fraine et al. 2014など).一方で他の惑星は,平坦で特徴に欠けたスペクトルを示す (Kreidberg et al. 2014など).
惑星の大気組成の平均分子量が高い場合か,大気の高高度に雲かヘイズが存在する場合に,惑星大気のスペクトルは特徴に欠けたものになり得る.また,スペクトルに特が検出された場合においても,雲無しの太陽組成の大気に期待される強度よりも特長が弱いこことも分かっている (Fraine et al. 2014).
これまでにも系外惑星の透過スペクトル中の傾向を調べた研究はある (Stevenson 2016, Heng 2016).しかしこれらは主にホットジュピターに関するもので,これらの大気はウォームネプチューンの大気とは大きく異なると思われる.
分析サンプル
ここでは,惑星半径が 2 - 6 地球半径のものを選定した.また,惑星の平衡温度が 2000 K 未満のものを選定した.上記の選定条件では 55 Cnc e (かに座55番星e) は除外される.この惑星のバルク構成は,揮発性の元素を持たないか,持っていても僅かであるとする場合と整合的であり (Demory et al. 2016),もしこの惑星が大気を持っていたとしても (Ridden-Harper et al. 2016など),中心星から強く輻射を受けているため,我々の最終的なサンプルとは大きく異なる特徴を持っているだろうと予想される.
条件を満たしているものの中から更に制限をかけ,最終的に 6 惑星を選定した.ここでの制限は,例えば恒星の変動によって異なる時期での観測に影響が及んでいる可能性を考慮したものなどである.また,主星の非一様な表面輝度によって特に短波長側でスペクトルにスロープが生じる可能性についても考慮した.
結果
H/He 質量比との相関
惑星大気スペクトル中の,水の特徴のスケールハイトと fHHe の相関について考察する.解析の結果,惑星質量に占める水素・ヘリウムの割合が大きくなるほど,水の特徴も大きくなる傾向が見られた.
この傾向の解釈として有り得るものは,小さな H/He エンベロープの大気は高い金属量を持ち,従って実際のスケールハイト H はここで予想しているスケールハイト HHHe より小さいというものである.
この HHHe は,惑星大気の平均分子量を 2.3 とした,水素・ヘリウム主体の大気の場合のスケールハイトである.
この解釈は,惑星形成モデルの予言,すなわち小さいエンベロープは降着する微惑星でより汚染されているという予測 (Fortney et al. 2013, Venturini et al. 2016) と合う.
もしスペクトル中の水の特徴の大きさが大気の金属量のみに依存するのであれば,観測されたスペクトルから大気の平均分子質量の下限値を与えるのに使うことが出来る.
水の特徴の振幅が平均分子量に線形依存すると仮定すれば,選定したサンプル中で最も大きい惑星である HAT-P-11b と HAT-P-26b の平均分子量は 2.3 と推定される,また,GJ 3470b,GJ 436b,GJ 1214b はそれぞれ 8 ± 2,10 (+9, -4),61 (+63, -24) と推定される.
GJ 3470b,GJ 436b のケースは信頼できそうだが,GJ 1214b の透過スペクトルは非常に平坦であり,どの揮発性化学種のものよりも大きな金属量の組成が必要である.さらに GJ 1214b のデータは,水の特徴を含んだスペクトルとみなすよりも,統計的に完全に平坦だとみなせることを確認した.
以上より,これらの観測データの説明としては,大気の高高度に存在する凝縮物 (雲かヘイズ) が恒星のフラックスの透過をブロックしているというのが唯一考えられる可能性である.そのためこの結果は,平均分子量との相関と言うより,透過光スペクトルの強度と惑星の平衡温度の相関を示しているものだと考えられる (後述).
平衡温度との相関
スペクトル中における水の特徴の強度と平衡温度の相関について考察する.惑星大気中の高高度でのエアロゾルを形成するもっともらしい経路は,炭化水素との光化学反応である.タイタン大気中で見られるようなヘイズと似たものが形成される.
Morley et al. (2015) は,高次の炭化水素を “すすの前駆体” とみなして大気中での相互作用をモデル化した.その結果,惑星の平衡温度が 1100 K から 800 K の狭い範囲で下がる間に,これらの化合物の高高度での存在度は強く上昇することを発見した.
このことから,惑星の平衡温度が 800 - 1100 K の間で,ヘイズ無し大気からヘイズに富んだ大気への遷移が起きることが予測される.この予測は,今回得られた平衡温度-水の特徴の強度の図とよく一致した.
このシナリオによると,HAT-P-11b と HAT-P-26b の大気は,スペクトルの特徴を隠すようなヘイズを形成するには温度が高すぎるため,透過スペクトル中に水の強い特徴が現れる.その他のウォームネプチューンはヘイズ形成の閾値より低いため,透過スペクトルを隠してしまうために十分な量のヘイズが生成されている.
今回示されたこの傾向は,同じ平衡温度領域のウォームネプチューンを更に観測することで検証できる.
PR
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