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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1708.05747
Daemgen et al. (2017)
High signal-to-noise spectral characterization of the planetary-mass object HD 106906 b
(惑星質量天体 HD 106906b の高シグナルノイズ比のスペクトル特徴付け)
ここでは,HD 106906b の大気を分光学的に特徴付けした.この天体は若い低質量の天体で,重水素燃焼の臨界質量に近い質量を持つ.中心星から 8.1” と離れた位置にあるため,高いシグナルノイズ比と高分散分光観測の対象に適している.
この観測から,HD 106906b のスペクトル型,有効温度と光度に新しく制限を与えることを目標とした.1.1 - 2.5 µm の波長帯での分光観測を,VLT/SINFONI を用いて行った.スペクトル分解能は 2000 - 4000 である.
観測の結果,HD 106906b のスペクトル中にはいくつかの吸収線が発見された.これは低質量の天体に見られるものである.観測からのスペクトル型の推定は L1.5 ± 1.0 で,これは過去の推定よりも 1 サブクラスだけ早期型の推定となった.
その他の若い低質量天体との比較より,光度は log(L/Lsun) = -3.65 で,有効温度は 1820 K であった.新しい質量の推定値は,形成の初期条件として hot start を仮定した場合は 11.9 木星質量,cold start を仮定した場合は 14.0 木星質量となった.
この質量推定には,有限の形成時間を考慮に入れている.つまり,HD 106906b は 中心星より 0 - 3 Myr 遅く形成された可能性を考慮している.
HD 106906b への質量降着については,4.8 × 10-10 木星質量/年 より大きい降着は無いと結論付けた.これは,水素輝線 (Paschen β,Brackerr-γ) が検出されなかったことに基づく推定である.この事は,周惑星ガスは存在しないか,あっても僅かである事を示唆する.
今回の観測で,HD 106906b は最も高いシグナルノイズ比のスペクトルが得られている惑星質量天体の一つとなった.
この恒星は 500 AU 以上の距離まで広がった星周円盤を持ち,その円盤の内側には大きな穴が開いている.また,固有運動を共有する低質量の伴星が,投影距離 7”.1 の距離 (~ 730 AU) に存在している (Chen et al. 2005など).
過去に行われた,低分解能の 1 - 2.5 µm での分光観測と 0.6 - 3.5 µm での測光観測では,この伴星は有効温度が 1800 K,質量は 11 ± 2 木星質量であり,惑星質量の範囲に入っている.
過去の観測では,H バンドの分光観測を用いてスペクトル型を L2,K バンドの分光観測では L3 と推定していたが (Bailey et al. 2014),今回の結果は L1.5 ± 1.0 であった.
天体の進化モデルと,測定された有効温度と光度を比較することでこの天体の質量を推定した.形成が hot start (初期に多くのエントロピーを持ち込む形成過程) である場合,質量は 12.3 (+0.8, -0.7) 木星質量であり,cold start (初期に持ち込むエントロピーが少ない形成過程) である場合は 14.0 (+0.2, -0.5) 木星質量となった.ただしこれは天体の形成時間をゼロとした場合の推定である.
この天体の形成のタイムスケールが 3 Myr (300 万年) と仮定すると質量の推定値はやや低くなり,それぞれ 11.9 (+2.5, -0.9) 木星質量,14.0 (+0.2, -0.4) 木星質量となる.
中心の連星 HD 106906A, B の質量はそれぞれ 1.37 太陽質量と 1.34 太陽質量であり (Lagrange et al. 2017),中心星 (HD 106906A + HD 106906B)と惑星 (HD 106906b) の質量比は 0.004 である.これは,この惑星は原始惑星系円盤の中での ”惑星的” な形成過程によって形成されたことを示唆する質量比である (Pepe et al. 2014など).
しかし,コア降着を介した形成では,軌道長半径は現在の > 700 AU よりももっと中心星に近い必要がある.例えば Dodson-Robinson et al. (2009) のシミュレーションでは,中心星から 35 AU 程度より近い範囲にいる必要があるとされる.
そのため,形成後の惑星移動が必要である.しかし,内側の惑星や中心の連星による散乱が起きた証拠は見つかっていない.恒星のフライバイによる惑星の放出もありそうにない (Rodet et al. 2017).
厳密には可能性は排除されないものの,円盤不安定を介した遠方でのその場形成も起きにくいと思われる.これは,700 AU を越える大きな円盤は,形成途中の恒星の周りで見つかることは稀だからである.
HD 106906b の形成は恒星的な過程を介したものであった,つまり母体となる分子雲コアの直接崩壊から HD 106906AB+b の三重星系が形成されたというシナリオは,可能性としては残る.
arXiv:1708.05747
Daemgen et al. (2017)
High signal-to-noise spectral characterization of the planetary-mass object HD 106906 b
(惑星質量天体 HD 106906b の高シグナルノイズ比のスペクトル特徴付け)
概要
直接撮像された惑星は,惑星大気の分光学的特徴付けに適した観測候補である.しかし,これらの惑星は中心星との角距離が小さいことが多く,観測される光度比やシグナルノイズ比を下げてしまう.ここでは,HD 106906b の大気を分光学的に特徴付けした.この天体は若い低質量の天体で,重水素燃焼の臨界質量に近い質量を持つ.中心星から 8.1” と離れた位置にあるため,高いシグナルノイズ比と高分散分光観測の対象に適している.
この観測から,HD 106906b のスペクトル型,有効温度と光度に新しく制限を与えることを目標とした.1.1 - 2.5 µm の波長帯での分光観測を,VLT/SINFONI を用いて行った.スペクトル分解能は 2000 - 4000 である.
観測の結果,HD 106906b のスペクトル中にはいくつかの吸収線が発見された.これは低質量の天体に見られるものである.観測からのスペクトル型の推定は L1.5 ± 1.0 で,これは過去の推定よりも 1 サブクラスだけ早期型の推定となった.
その他の若い低質量天体との比較より,光度は log(L/Lsun) = -3.65 で,有効温度は 1820 K であった.新しい質量の推定値は,形成の初期条件として hot start を仮定した場合は 11.9 木星質量,cold start を仮定した場合は 14.0 木星質量となった.
この質量推定には,有限の形成時間を考慮に入れている.つまり,HD 106906b は 中心星より 0 - 3 Myr 遅く形成された可能性を考慮している.
HD 106906b への質量降着については,4.8 × 10-10 木星質量/年 より大きい降着は無いと結論付けた.これは,水素輝線 (Paschen β,Brackerr-γ) が検出されなかったことに基づく推定である.この事は,周惑星ガスは存在しないか,あっても僅かである事を示唆する.
今回の観測で,HD 106906b は最も高いシグナルノイズ比のスペクトルが得られている惑星質量天体の一つとなった.
HD 106906 系について
HD 106906 系 の過去の観測
HD 106906 は,102.8 pc (Gaia Collaboration et al. 2016) の距離にある,近接連星である (Lagrange et al. 2017).この系は,Lower Centaurus Crux アソシエーションの一員であり.このアソシエーションの年齡は 13 ± 2 Myr (~ 1300 万年) である (Pecaut et al. 2012).この恒星は 500 AU 以上の距離まで広がった星周円盤を持ち,その円盤の内側には大きな穴が開いている.また,固有運動を共有する低質量の伴星が,投影距離 7”.1 の距離 (~ 730 AU) に存在している (Chen et al. 2005など).
過去に行われた,低分解能の 1 - 2.5 µm での分光観測と 0.6 - 3.5 µm での測光観測では,この伴星は有効温度が 1800 K,質量は 11 ± 2 木星質量であり,惑星質量の範囲に入っている.
過去の観測では,H バンドの分光観測を用いてスペクトル型を L2,K バンドの分光観測では L3 と推定していたが (Bailey et al. 2014),今回の結果は L1.5 ± 1.0 であった.
質量の推定
距離の推定は新しい Gaia での測定に基づいており,102.8 ± 2.5 pc である.これは過去のヒッパルコス衛星での測定値よりも ~10%大きい.距離の情報が更新されたことにより,この天体の光度と有効温度の値も更新された.天体の進化モデルと,測定された有効温度と光度を比較することでこの天体の質量を推定した.形成が hot start (初期に多くのエントロピーを持ち込む形成過程) である場合,質量は 12.3 (+0.8, -0.7) 木星質量であり,cold start (初期に持ち込むエントロピーが少ない形成過程) である場合は 14.0 (+0.2, -0.5) 木星質量となった.ただしこれは天体の形成時間をゼロとした場合の推定である.
この天体の形成のタイムスケールが 3 Myr (300 万年) と仮定すると質量の推定値はやや低くなり,それぞれ 11.9 (+2.5, -0.9) 木星質量,14.0 (+0.2, -0.4) 木星質量となる.
HD 106906 系 の形成過程
HD 106906b の形成と初期進化は不明確である.中心の連星 HD 106906A, B の質量はそれぞれ 1.37 太陽質量と 1.34 太陽質量であり (Lagrange et al. 2017),中心星 (HD 106906A + HD 106906B)と惑星 (HD 106906b) の質量比は 0.004 である.これは,この惑星は原始惑星系円盤の中での ”惑星的” な形成過程によって形成されたことを示唆する質量比である (Pepe et al. 2014など).
しかし,コア降着を介した形成では,軌道長半径は現在の > 700 AU よりももっと中心星に近い必要がある.例えば Dodson-Robinson et al. (2009) のシミュレーションでは,中心星から 35 AU 程度より近い範囲にいる必要があるとされる.
そのため,形成後の惑星移動が必要である.しかし,内側の惑星や中心の連星による散乱が起きた証拠は見つかっていない.恒星のフライバイによる惑星の放出もありそうにない (Rodet et al. 2017).
厳密には可能性は排除されないものの,円盤不安定を介した遠方でのその場形成も起きにくいと思われる.これは,700 AU を越える大きな円盤は,形成途中の恒星の周りで見つかることは稀だからである.
HD 106906b の形成は恒星的な過程を介したものであった,つまり母体となる分子雲コアの直接崩壊から HD 106906AB+b の三重星系が形成されたというシナリオは,可能性としては残る.
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