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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1708.08595
Bailer-Jones (2017)
The completeness-corrected rate of stellar encounters with the Sun from the first Gaia data release
(最初の Gaia データリリースに基づく完全性補完をした太陽との恒星遭遇の頻度)
ここでは,Gaia によって得られた位置天文データを,様々なカタログから引用してきたおよそ 320000 個の恒星の視線速度と合わせ,銀河ポテンシャル中での軌道を時間積分した.その中から,太陽から数パーセク以内の近距離を通過する恒星を同定した.数パーセク以内の近接遭遇は,例えばオールトの雲天体の重力的擾乱を通じて,太陽系に影響を与えうる.
解析の結果,16 個の恒星が 2 パーセク程度まで接近することが分かった.しかし,これらの幾つかのデータは疑わしいものである.この個数は,ヒッパルコスによる観測データを元にした類似の研究での予測よりも少ない.これは部分的には,大きな視線速度の不定性 (> 10 km s-1) を持つ天体を解析対象から取り除いていること,また GDR1 中に存在しない恒星 (特に明るい恒星で) があることが原因であると考えられる.
太陽と最も近距離で近接をする恒星は K 型矮星 Gl 710 (グリーゼ710) である.この天体が今後 130 万年の間に太陽に非常に接近することは昔から知られている.
しかし今回の Gaia の位置天文学データを元にした解析では,Gaia 以前の推定よりもより近い位置での通過を予測する.太陽から 16000 AU の距離 (90%信頼区間は 10000 - 21000 AU) を通過すると予想され,これはオールトの雲の十分に内部である.
観測の選択関数の近似と共に,恒星の空間・速度・光度分布に関するシンプルなモデルを用いて,Gaia よる探査の不完全性を,時間および最接近時の距離の関数としてモデル化した.このモデルを,観測された遭遇のサブセットに適用すると (ただしカタログ間の重複やありえないほど大きい速度を持つものは除く),過去と未来の 500 万年の間で平均した 5 パーセク以内での恒星の遭遇率は,545 ± 59 Myr-1 と推定された (※注釈:5 パーセク以内の距離の恒星遭遇は平均で 100 万年に 545 ± 59 回発生する).
ある遭遇距離以内における恒星遭遇率に関する二次スケーリング則 (ここで使用したモデルが予言する関係性) を仮定すると,これは 2 パーセクより近距離の遭遇が発生する頻度はが 87 ± 9 Myr-1 (100 万年に 87 ± 9 回) であることに対応している.将来の Gaia のさらなるデータリリースから,さらに正確な解析と評価が可能になるだろう.
グリーゼ710 は,太陽と非常に近い遭遇をすることが過去の研究でも知られている.例えば,Bailer-Jones (2015) では,遭遇時の最接近距離の中央値として 0.26 パーセクという値を導出している.
Gaia のデータを使って再計算を行ったところ,グリーゼ710 の近日点距離の中間値は 0.08 パーセクであり,これは 16000 AU に相当する.この値は,将来的な恒星の近接遭遇として分かっているものとしては最も近いものになる.
なお,これだけ近距離であっても,グリーゼ710 と太陽との重力相互作用の影響は無視できる.この近接遭遇の前後で,グリーゼ710 の通過するルートは 0.05°しか屈折せず,グリーゼ 710 を 7 AU 近くするだけである.
この違いは,RAVE での測定の信頼性が低いことを示唆している.
過去の解析では,Tycho-2 か Hipparcos-2 のどちらの固有運動データを使うかによって最接近時の距離が異なり,それぞれ 0.59 - 3.30 パーセクか 0.58 - 4.60 パーセクと推定されていた.ここでは,近日点の距離に対してより狭い制約を与えることが出来た.
遭遇時期の中央値は 338 万 6000 年後,最接近時の距離の中央値は 1.26 パーセク (90%信頼区間は 1.07 - 1.50 パーセク) である.
この天体はヒッパルコスのデータに存在しなかったため過去の研究にも無く,近接遭遇を起こす (あるいは起こした) 天体として,過去に報告されていなかった.ただし,この天体の視線速度の観測はおそらく疑わしいため注意が必要である.
Tyc 709-63-1 (HIP 26335) は,最接近時の距離の中央値が 1.56 パーセク,遭遇時期の中央値は 49 万 7000 年前である,
この距離は過去の結果と非常に近く,また推定の精度は高くなった.
Bobylev & Bajkova (2017) でのグリーゼ710 についてのデータは,接近距離が 0.063 ± 0.044 パーセクとしており,今回の結果と概ね一致するものであった.
しかし他の 2 つの天体については非常に異なる値となり,おそらく誤りである.
1 つ目は Tyc 6528-980-1 で,Bobylev & Bajkova (2017) では接近距離を 0.86 ± 5.6 パーセクとしている.この不確かさがどのように計算されているかは Bobylev & Bajkova (2017) の短い記述からは不明確だが,このような大きく対称的な不確実性は許容されない.0.15 σ の偏差が,あり得ない値である負の近日点距離に対応してしまっている.
最も良い推定値としている 0.86 パーセクという値も同様に疑わしいものである.ここでは同じデータを用いた解析から,Bobylev & Bajkova (2017) とは大きく異なる 7.18パーセクという結果を導出した.
Tyc 8088-631-1 の推定も同様の問題をはらんでいる.Bobylev & Bajkova (2017) は 0.37 ± 1.18 パーセクとしているが,ここでの結果は 1.2 パーセクであった.
arXiv:1708.08595
Bailer-Jones (2017)
The completeness-corrected rate of stellar encounters with the Sun from the first Gaia data release
(最初の Gaia データリリースに基づく完全性補完をした太陽との恒星遭遇の頻度)
概要
Gaia の first data release (GDR1) (※Gaia の観測データの 1 回目の公開) のデータを元にした,太陽への恒星の近接遭遇について報告する.ここでは,Gaia によって得られた位置天文データを,様々なカタログから引用してきたおよそ 320000 個の恒星の視線速度と合わせ,銀河ポテンシャル中での軌道を時間積分した.その中から,太陽から数パーセク以内の近距離を通過する恒星を同定した.数パーセク以内の近接遭遇は,例えばオールトの雲天体の重力的擾乱を通じて,太陽系に影響を与えうる.
解析の結果,16 個の恒星が 2 パーセク程度まで接近することが分かった.しかし,これらの幾つかのデータは疑わしいものである.この個数は,ヒッパルコスによる観測データを元にした類似の研究での予測よりも少ない.これは部分的には,大きな視線速度の不定性 (> 10 km s-1) を持つ天体を解析対象から取り除いていること,また GDR1 中に存在しない恒星 (特に明るい恒星で) があることが原因であると考えられる.
太陽と最も近距離で近接をする恒星は K 型矮星 Gl 710 (グリーゼ710) である.この天体が今後 130 万年の間に太陽に非常に接近することは昔から知られている.
しかし今回の Gaia の位置天文学データを元にした解析では,Gaia 以前の推定よりもより近い位置での通過を予測する.太陽から 16000 AU の距離 (90%信頼区間は 10000 - 21000 AU) を通過すると予想され,これはオールトの雲の十分に内部である.
観測の選択関数の近似と共に,恒星の空間・速度・光度分布に関するシンプルなモデルを用いて,Gaia よる探査の不完全性を,時間および最接近時の距離の関数としてモデル化した.このモデルを,観測された遭遇のサブセットに適用すると (ただしカタログ間の重複やありえないほど大きい速度を持つものは除く),過去と未来の 500 万年の間で平均した 5 パーセク以内での恒星の遭遇率は,545 ± 59 Myr-1 と推定された (※注釈:5 パーセク以内の距離の恒星遭遇は平均で 100 万年に 545 ± 59 回発生する).
ある遭遇距離以内における恒星遭遇率に関する二次スケーリング則 (ここで使用したモデルが予言する関係性) を仮定すると,これは 2 パーセクより近距離の遭遇が発生する頻度はが 87 ± 9 Myr-1 (100 万年に 87 ± 9 回) であることに対応している.将来の Gaia のさらなるデータリリースから,さらに正確な解析と評価が可能になるだろう.
過去と未来における太陽への恒星の近接遭遇
グリーゼ710
130 万年後 (中央値は 135 万 4000 年) に,K7 矮星 グリーゼ 710 が,太陽と非常に近い遭遇を起こす.この天体は別名 Tyc 5102-100-1,HIP 89825 としても知られている.グリーゼ710 は,太陽と非常に近い遭遇をすることが過去の研究でも知られている.例えば,Bailer-Jones (2015) では,遭遇時の最接近距離の中央値として 0.26 パーセクという値を導出している.
Gaia のデータを使って再計算を行ったところ,グリーゼ710 の近日点距離の中間値は 0.08 パーセクであり,これは 16000 AU に相当する.この値は,将来的な恒星の近接遭遇として分かっているものとしては最も近いものになる.
なお,これだけ近距離であっても,グリーゼ710 と太陽との重力相互作用の影響は無視できる.この近接遭遇の前後で,グリーゼ710 の通過するルートは 0.05°しか屈折せず,グリーゼ 710 を 7 AU 近くするだけである.
Tyc 4744-1394-1
2 番目に近い遭遇は Tyc 4744-1394-1 で,最接近距離は 0.87 パーセクと予想される,近接遭遇は 200 万年前 (182 万 1000 年前) に発生した.これは RAVE での視線速度の値 120.7 km s-1 に基づく結果である.2 番目の RAVE の測定では視線速度は 15.3 km s-1 となっており,これを用いた場合は遭遇はより遠く 36.6 パーセクとなり,1290 万年過去の出来事となる.この違いは,RAVE での測定の信頼性が低いことを示唆している.
Tyc 1041-996-1
3 番目に近い遭遇は Tyc 1041-996-1 (HIP 94512) によるものである.過去の解析では,Tycho-2 か Hipparcos-2 のどちらの固有運動データを使うかによって最接近時の距離が異なり,それぞれ 0.59 - 3.30 パーセクか 0.58 - 4.60 パーセクと推定されていた.ここでは,近日点の距離に対してより狭い制約を与えることが出来た.
遭遇時期の中央値は 338 万 6000 年後,最接近時の距離の中央値は 1.26 パーセク (90%信頼区間は 1.07 - 1.50 パーセク) である.
その他の近接遭遇候補
Tyc 5033-879-1 は,最接近時の距離の中央値が 1.28 パーセク,遭遇時期の中央値は 70 万 4000 年前と推定された.この天体はヒッパルコスのデータに存在しなかったため過去の研究にも無く,近接遭遇を起こす (あるいは起こした) 天体として,過去に報告されていなかった.ただし,この天体の視線速度の観測はおそらく疑わしいため注意が必要である.
Tyc 709-63-1 (HIP 26335) は,最接近時の距離の中央値が 1.56 パーセク,遭遇時期の中央値は 49 万 7000 年前である,
この距離は過去の結果と非常に近く,また推定の精度は高くなった.
類似の研究との比較
この論文の投稿の段階で Bobylev & Bajkova (2017) が類似の研究を行っていた.その研究では 3 つの近接遭遇が信頼できるデータとみなされており,そのうち一つはグリーゼ 710 のものであった.Bobylev & Bajkova (2017) でのグリーゼ710 についてのデータは,接近距離が 0.063 ± 0.044 パーセクとしており,今回の結果と概ね一致するものであった.
しかし他の 2 つの天体については非常に異なる値となり,おそらく誤りである.
1 つ目は Tyc 6528-980-1 で,Bobylev & Bajkova (2017) では接近距離を 0.86 ± 5.6 パーセクとしている.この不確かさがどのように計算されているかは Bobylev & Bajkova (2017) の短い記述からは不明確だが,このような大きく対称的な不確実性は許容されない.0.15 σ の偏差が,あり得ない値である負の近日点距離に対応してしまっている.
最も良い推定値としている 0.86 パーセクという値も同様に疑わしいものである.ここでは同じデータを用いた解析から,Bobylev & Bajkova (2017) とは大きく異なる 7.18パーセクという結果を導出した.
Tyc 8088-631-1 の推定も同様の問題をはらんでいる.Bobylev & Bajkova (2017) は 0.37 ± 1.18 パーセクとしているが,ここでの結果は 1.2 パーセクであった.
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