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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1708.09257
Lavvas & Koskinen (2017)
Aerosol properties in the atmospheres of extrasolar giant planets
(太陽系外巨大惑星の大気のエアロゾル特性)
中間大気・高層大気の温度分布の不定性は大きいながら,HD 189733b の最近の観測から示唆される温度構造に基づいたモデルは,観測された透過スペクトルに一致するエアロゾル分布を再現することが出来る.
また HD 209458b のより高温な大気は,高高度でのエアロゾル形成を阻害するため,HD 189733b よりも透明な大気になる可能性が考えられる.
惑星大気中でのエアロゾルの分布は,粒子の組成,光化学反応による生成と大気の混合にも依存する.これらの情報の縮退の影響で,現在のデータでは系外惑星大気中のエアロゾルの特性に対して詳細な制約を与えることが出来ない.ここではかわりに,異なる要素がエアロゾルの分布を左右する際の振る舞いに焦点を当てた.
General circulation models (GCMs,3 次元の大気循環モデル) から示唆されている大気混合効率からは,エアロゾルの粒子は ~ nm 程度のサイズと小さく,おそらく球状であることが示唆される.
複雑な炭化水素 (soots, すす) に基づいたエアロゾルの組成が,高い温度を持つホットジュピター大気の中で存在する事が可能な,最もあり得る組成の候補であると考えられる.このような粒子は HD 189733b の大気のエネルギーバランスに大きな影響を与えるだろう.この結果は,大気構造の将来の研究において考慮されるべき要素である.
また,光化学反応でのエアロゾル形成における外的要因の寄与についての評価を行った.その結果,外的要因を受けた場合のスペクトルの特徴は,観測結果とは整合的でないことが分かった.
ホットジュピターの軌道距離では,やってくる粒子の表面温度は高くなるため,流星物質の氷の外層は蒸発する.金属質の流星物質のみを考慮し,その組成がシリケイトが主要だと仮定すると,異なる軌道距離における流星物質の表面温度は,隕石が吸収する恒星のエネルギーと,熱放射として隕石が放射するエネルギー,蒸発の最中に失われる潜熱 (もし流星物質が蒸発するのに十分な温度に達し,蒸発が重要になる場合) の平衡状態から評価できる.
流星物質が球状であると仮定すると,HD 189733b の軌道に到達する粒子は半径が 40 µm より小さく,一方で HD 209458b では主星のより強いフラックスのため 20 µm になる.大きなサイズの流星物質は,恒星からの光子をより効率的に吸収できるため,速く蒸発することができる.
流入する粒子の速度の上限は,惑星の軌道長半径における恒星からの脱出速度とした.また,流星物質の惑星との相対速度は, 0 から上限値の範囲までが考えられるが,ここでは HD 189733b については 30 - 100 km s-1 の範囲とした.
また,流星物質の入射角は 45°を仮定した.
この条件で,流入してくる流星物質の溶発率を計算した.
流星物質の温度は大気分子との衝突で急速に上昇し,蒸発温度に達すると質量を失う.相対速度が 100 km s-1 のオーダーと速い場合は流星物質粒子の温度上昇は速く,相対速度が小さい (30 km s-1) 場合は遅い.
結果として,前者での溶発は圧力が 0.1 µbar よりも低い領域で発生し,後者の場合は蒸発が遅いため,流星物質の質量は 1 µbar の領域近辺にばら撒かれる.相対速度が同じであれば,大きい流星物質はより広い溶発プロファイルを持つ.これは断面積が大きいため温度が速く上昇することが原因である.
溶発された物質の運命は,背景大気の状況と流入する流星物質の組成に強く依存する.もし背景大気の温度が溶発された物質の再凝縮に十分なほど低ければ,シリケイト粒子が形成され,大気の局所的な減光に寄与する.
再凝縮しない場合,もし粒子の速度が完全に溶発される前に熱化される場合 (1 µm のオーダーより小さいサイズで起きる),これは大気の不透明度に直接寄与する.
そのため,外的要因の重要度を左右する 2 つの臨界パラメータが存在することが分かる.流入する流星物質のフラックスと,高層大気の熱的構造である.これらは残念ながら,どちらも現在は正確には制限されていない.
しかし,シリケイト物質の Si-O 結合による 10 µm 付近の吸収のため,粒子の吸収断面積は可視光での吸収断面積と同程度の大きさになり得る.そのため,このような粒子が存在した場合は 10 µm 付近での波長でのトランジット深さは,可視光でのトランジット深さと同程度になることが予想される.
しかしそのような特徴は,観測では検出されていない.そのため,スペクトルにおけるシリケイトの寄与について制約を与えることが出来る.
溶発される物質としては,他に Ti, Al, Fe などが考えられる,これらの元素は酸素との結合を形成し,同じく 10 µm 周辺で可視光と同程度の吸収を引き起こすはずである.しかし先述の通りそのような観測的特徴は検出されていない.そのため,流星物質の溶発は HD 189733b で観測されているトランジット深さには寄与していないだろうと結論付けることが出来る.ただし,流入量や大気の状況次第では,他の系外惑星では重要になるかもしれない.
arXiv:1708.09257
Lavvas & Koskinen (2017)
Aerosol properties in the atmospheres of extrasolar giant planets
(太陽系外巨大惑星の大気のエアロゾル特性)
概要
HD 209458b や HD 189733b のような中心星に近接した系外惑星の透過スペクトルと大気特性における,高高度の光化学エアロゾルの影響を調べるため,エアロゾル微細物理のモデルを使用した.その結果,エアロゾルの影響の大きさは,あまり理解が進んでいない中間大気と高層大気の温度分布に強く依存することが判明した.中間大気・高層大気の温度分布の不定性は大きいながら,HD 189733b の最近の観測から示唆される温度構造に基づいたモデルは,観測された透過スペクトルに一致するエアロゾル分布を再現することが出来る.
また HD 209458b のより高温な大気は,高高度でのエアロゾル形成を阻害するため,HD 189733b よりも透明な大気になる可能性が考えられる.
惑星大気中でのエアロゾルの分布は,粒子の組成,光化学反応による生成と大気の混合にも依存する.これらの情報の縮退の影響で,現在のデータでは系外惑星大気中のエアロゾルの特性に対して詳細な制約を与えることが出来ない.ここではかわりに,異なる要素がエアロゾルの分布を左右する際の振る舞いに焦点を当てた.
General circulation models (GCMs,3 次元の大気循環モデル) から示唆されている大気混合効率からは,エアロゾルの粒子は ~ nm 程度のサイズと小さく,おそらく球状であることが示唆される.
複雑な炭化水素 (soots, すす) に基づいたエアロゾルの組成が,高い温度を持つホットジュピター大気の中で存在する事が可能な,最もあり得る組成の候補であると考えられる.このような粒子は HD 189733b の大気のエネルギーバランスに大きな影響を与えるだろう.この結果は,大気構造の将来の研究において考慮されるべき要素である.
また,光化学反応でのエアロゾル形成における外的要因の寄与についての評価を行った.その結果,外的要因を受けた場合のスペクトルの特徴は,観測結果とは整合的でないことが分かった.
流星物質の流入によるエアロゾル特性の見積もり
ここで外的要因として考慮したのは流星物質である.ホットジュピターの軌道距離では,やってくる粒子の表面温度は高くなるため,流星物質の氷の外層は蒸発する.金属質の流星物質のみを考慮し,その組成がシリケイトが主要だと仮定すると,異なる軌道距離における流星物質の表面温度は,隕石が吸収する恒星のエネルギーと,熱放射として隕石が放射するエネルギー,蒸発の最中に失われる潜熱 (もし流星物質が蒸発するのに十分な温度に達し,蒸発が重要になる場合) の平衡状態から評価できる.
流星物質が球状であると仮定すると,HD 189733b の軌道に到達する粒子は半径が 40 µm より小さく,一方で HD 209458b では主星のより強いフラックスのため 20 µm になる.大きなサイズの流星物質は,恒星からの光子をより効率的に吸収できるため,速く蒸発することができる.
流入する粒子の速度の上限は,惑星の軌道長半径における恒星からの脱出速度とした.また,流星物質の惑星との相対速度は, 0 から上限値の範囲までが考えられるが,ここでは HD 189733b については 30 - 100 km s-1 の範囲とした.
また,流星物質の入射角は 45°を仮定した.
この条件で,流入してくる流星物質の溶発率を計算した.
流星物質の温度は大気分子との衝突で急速に上昇し,蒸発温度に達すると質量を失う.相対速度が 100 km s-1 のオーダーと速い場合は流星物質粒子の温度上昇は速く,相対速度が小さい (30 km s-1) 場合は遅い.
結果として,前者での溶発は圧力が 0.1 µbar よりも低い領域で発生し,後者の場合は蒸発が遅いため,流星物質の質量は 1 µbar の領域近辺にばら撒かれる.相対速度が同じであれば,大きい流星物質はより広い溶発プロファイルを持つ.これは断面積が大きいため温度が速く上昇することが原因である.
溶発された物質の運命は,背景大気の状況と流入する流星物質の組成に強く依存する.もし背景大気の温度が溶発された物質の再凝縮に十分なほど低ければ,シリケイト粒子が形成され,大気の局所的な減光に寄与する.
再凝縮しない場合,もし粒子の速度が完全に溶発される前に熱化される場合 (1 µm のオーダーより小さいサイズで起きる),これは大気の不透明度に直接寄与する.
そのため,外的要因の重要度を左右する 2 つの臨界パラメータが存在することが分かる.流入する流星物質のフラックスと,高層大気の熱的構造である.これらは残念ながら,どちらも現在は正確には制限されていない.
しかし,シリケイト物質の Si-O 結合による 10 µm 付近の吸収のため,粒子の吸収断面積は可視光での吸収断面積と同程度の大きさになり得る.そのため,このような粒子が存在した場合は 10 µm 付近での波長でのトランジット深さは,可視光でのトランジット深さと同程度になることが予想される.
しかしそのような特徴は,観測では検出されていない.そのため,スペクトルにおけるシリケイトの寄与について制約を与えることが出来る.
溶発される物質としては,他に Ti, Al, Fe などが考えられる,これらの元素は酸素との結合を形成し,同じく 10 µm 周辺で可視光と同程度の吸収を引き起こすはずである.しかし先述の通りそのような観測的特徴は検出されていない.そのため,流星物質の溶発は HD 189733b で観測されているトランジット深さには寄与していないだろうと結論付けることが出来る.ただし,流入量や大気の状況次第では,他の系外惑星では重要になるかもしれない.
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