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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1802.05406
Dederick et al. (2018)
An Analysis of Stochastic Jovian Oscillation Excitation by Moist Convection
(湿潤対流による確率的な木星振動励起の解析)
ここでは,木星上層大気の湿潤対流が全球振動を駆動する原因となり得るかどうか,またこれらの理論的なモードエネルギーと表面振幅を実現するために必要な,湿潤対流のエネルギーについて調査を行った.
1 次元の木星の湿潤対流雲モデルを構築した結果,上昇する雲柱の利用可能な運動エネルギーが,振動エネルギーの理論的な推定値を下回ることを発見した.つまり,木星大気中の 1 回の嵐の発生では,モードの励起は発生しないことが分かった.
次に,湿潤対流嵐による振動の確率的励起シナリオについての検証を行った.その結果,モードに利用可能な嵐のエネルギーが単なる動力学的以上のものであれば,モードエネルギーと振幅は理論的な見積もりに達することを発見した.モードを励起するためには,エネルギーは 1 日あたり 5 × 1027 - 5 × 1028 erg 必要である.
しかし,毎日巨大な嵐が発生したとしても,嵐からの利用可能な運動エネルギーは振動を駆動するのに必要なエネルギーを 2 桁下回る.
このモデルは木星の嵐と全球振動の間の結びつきの真の複雑さを過度に単純化している可能性がある.しかし今回の発見は,湿潤対流の熱エネルギーがモードの励起に利用可能である場合,モードを駆動するための十分な熱エネルギーが湿潤対流に伴っていることを示すものである.
木星や土星の振動モードにおける固有の性質については,これまでに多くの理論研究が存在する (Vorontsov et al. 1976,Bercovici & Schubert 1987,Marley & Porco1993,Jackiewicz et al. 2012など).
また,観測的な研究も行われている.
Gaulme et al. (2011) と Hedman & Nicholson (2013) では,木星の全球振動の特徴を検出している,また,土星の基本モードによって引き起こされた土星リング中の渦状密度構造をそれぞれ検出している.
これらの振動の励起機構はまだ不明である.
振動を駆動するエネルギーについては,対流フラックスの速度と音速の比 (マッハ数) から議論を行うことができる.木星ではマッハ数は太陽よりずっと低い値となり,その結果として得られる振動表面速度振幅は太陽よりも少なくとも 3 桁は小さくなる (木星では ≦ 0.5 m s-1,太陽では ~ 500 m s-1) (Bercovici & Schubert 1987).
Bercovici & Schubert (1987) では,乱流運動が ~ 50 cm s-1 程度の振動表面速度に関与している可能性があると主張しているが,これらの乱流運動は従来の対流によるものではない可能性がある.
脈動変光星で観測されている,不透明度の効果として発生するメカニズムである κ-mechanism,放射抑制機構は,ホットジュピターでの振動の励起源となる可能性はある.しかし木星振動の駆動は出来ないことが指摘されている (Dederick & Jackiewicz 2017).
原子ヘリウムの液滴が非混和性の金属水素領域を通過して降雨する過程であるヘリウム雨 (Helium rain) は,現在のところ駆動機構として詳細に調査されていない.しかしここでは,ヘリウム雨が発生する領域の圧力では,振動を駆動するには慣性が大きすぎるため,モードを励起させる可能性は低いと考える.
水素のオルト-パラ転移も提案されているが,これは非常にゆっくりとした過程であり,振動運動と結合するには遅すぎるため可能性が低いとされている (Bercovici & Schubert 1987).
結果として,現在のところ木星振動の起源は未解明である.ここでは湿潤対流と,それが木星の全球的な振動を駆動するために供給できるエネルギーについて調査を行った.
arXiv:1802.05406
Dederick et al. (2018)
An Analysis of Stochastic Jovian Oscillation Excitation by Moist Convection
(湿潤対流による確率的な木星振動励起の解析)
概要
最近の木星の観測からは,ミリヘルツ程度の周波数での全球振動モードの存在が示唆されている.これらの振動モードを駆動する起源となる機構は不明であるが.観測可能な表面振動を生成するために必要なエネルギーについての予測は行われている.ここでは,木星上層大気の湿潤対流が全球振動を駆動する原因となり得るかどうか,またこれらの理論的なモードエネルギーと表面振幅を実現するために必要な,湿潤対流のエネルギーについて調査を行った.
1 次元の木星の湿潤対流雲モデルを構築した結果,上昇する雲柱の利用可能な運動エネルギーが,振動エネルギーの理論的な推定値を下回ることを発見した.つまり,木星大気中の 1 回の嵐の発生では,モードの励起は発生しないことが分かった.
次に,湿潤対流嵐による振動の確率的励起シナリオについての検証を行った.その結果,モードに利用可能な嵐のエネルギーが単なる動力学的以上のものであれば,モードエネルギーと振幅は理論的な見積もりに達することを発見した.モードを励起するためには,エネルギーは 1 日あたり 5 × 1027 - 5 × 1028 erg 必要である.
しかし,毎日巨大な嵐が発生したとしても,嵐からの利用可能な運動エネルギーは振動を駆動するのに必要なエネルギーを 2 桁下回る.
このモデルは木星の嵐と全球振動の間の結びつきの真の複雑さを過度に単純化している可能性がある.しかし今回の発見は,湿潤対流の熱エネルギーがモードの励起に利用可能である場合,モードを駆動するための十分な熱エネルギーが湿潤対流に伴っていることを示すものである.
木星の全球振動
全球振動の検出
日震学 (asteroseismology) の進歩と太陽の全球振動の検出以来,巨大ガス惑星も同様の振動を示す可能性が指摘されている.木星や土星の振動モードにおける固有の性質については,これまでに多くの理論研究が存在する (Vorontsov et al. 1976,Bercovici & Schubert 1987,Marley & Porco1993,Jackiewicz et al. 2012など).
また,観測的な研究も行われている.
Gaulme et al. (2011) と Hedman & Nicholson (2013) では,木星の全球振動の特徴を検出している,また,土星の基本モードによって引き起こされた土星リング中の渦状密度構造をそれぞれ検出している.
これらの振動の励起機構はまだ不明である.
全球振動の駆動源候補
対流起源説
太陽の場合は,乱流対流からのエネルギーによって,観測されている太陽振動を再現できる事が指摘されている (Goldreich & Keeley 1977).しかし,木星に対する同様の理論的アプローチでは,対流からの利用可能なエネルギーは木星の全球振動を担うには小さすぎるということが指摘されている (Gaulme et al. 2014).振動を駆動するエネルギーについては,対流フラックスの速度と音速の比 (マッハ数) から議論を行うことができる.木星ではマッハ数は太陽よりずっと低い値となり,その結果として得られる振動表面速度振幅は太陽よりも少なくとも 3 桁は小さくなる (木星では ≦ 0.5 m s-1,太陽では ~ 500 m s-1) (Bercovici & Schubert 1987).
Bercovici & Schubert (1987) では,乱流運動が ~ 50 cm s-1 程度の振動表面速度に関与している可能性があると主張しているが,これらの乱流運動は従来の対流によるものではない可能性がある.
その他の説
振動の駆動源としてこれまでに幾つかの起源が調査されてきたが,どれも不十分であることが分かっている.脈動変光星で観測されている,不透明度の効果として発生するメカニズムである κ-mechanism,放射抑制機構は,ホットジュピターでの振動の励起源となる可能性はある.しかし木星振動の駆動は出来ないことが指摘されている (Dederick & Jackiewicz 2017).
原子ヘリウムの液滴が非混和性の金属水素領域を通過して降雨する過程であるヘリウム雨 (Helium rain) は,現在のところ駆動機構として詳細に調査されていない.しかしここでは,ヘリウム雨が発生する領域の圧力では,振動を駆動するには慣性が大きすぎるため,モードを励起させる可能性は低いと考える.
水素のオルト-パラ転移も提案されているが,これは非常にゆっくりとした過程であり,振動運動と結合するには遅すぎるため可能性が低いとされている (Bercovici & Schubert 1987).
結果として,現在のところ木星振動の起源は未解明である.ここでは湿潤対流と,それが木星の全球的な振動を駆動するために供給できるエネルギーについて調査を行った.
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