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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1802.06794
Buchhave et al. (2018)
Jupiter Analogues Orbit Stars with an Average Metallicity Close to that of the Sun
(木星類似惑星は太陽に近い平均金属量をもった恒星を公転する)

概要

木星は,太陽系の構造と軌道配置の決定に関して重要な役割を果たしている.
ホットジュピタータイプの系外惑星は金属量が高い恒星の周りで形成されやすい一方で,木星と似た質量,軌道,離心率を持つ惑星 (Jupiter analogues,以下ジュピターアナログ) の形成に必要な条件は未知である.

ここでは,分光学的に推定された恒星の金属量を用いて,ジュピターアナログを持っている恒星は,平均金属量が太陽に近いことを示す.これは,ホットジュピターや高軌道離心率の低温な木星型惑星は金属量が高い恒星の周りに多く存在するという傾向とは対照的である

さらに,ジュピターアナログの軌道離心率は,中心星の金属量が大きいほど高くなる傾向があることも判明した.このことは,惑星-惑星散乱による高軌道離心率の低温木星型惑星 (eccentric cool Jupiters) の形成が,金属量が豊富な環境ではより一般的な過程であることを示唆している.

これらの金属量に関する傾向を説明する仮説について調査するため,観測結果を数値シミュレーションと比較した.
シミュレーションでは,金属量豊富な恒星は典型的には複数の木星型惑星を形成可能であり,それにより惑星-惑星相互作用を起こして軌道が不安定化し,高軌道離心率軌道にある低温な木星型惑星か,円軌道化された軌道を持つホットジュピターのどちらかが形成される.

今回分析に用いたサンプル数は小さく,中心星の金属量にはばらつきがある.しかし金属量以外の多くの過程が惑星系の形成に影響をおよぼすことを示唆する.
現在我々の手元にあるデータ中には,ジュピターアナログと地球サイズの惑星は,平均の金属量が太陽に近い恒星の周りで形成されやすく,一方で高金属量の系では高軌道離心率の低温な木星型惑星かホットジュピターを持つという傾向が見られる.
そのため金属量が多い系は,太陽系に類似した惑星系の形成には適さない可能性を示唆している.

惑星の存在頻度と中心星の金属量

惑星とその中心星の金属量の相関についての研究は,まずホットジュピター型の巨大ガス惑星に対して行われた (Santos et al. 2004,Fischer & Valenti 2005).その後同様の研究が,サブネプチューンサイズの惑星に対しても行われた (Sousa et al. 2011,Buchhave et al. 2012, 2014).

しかし巨大ガス惑星についての研究は,これまでは短周期の惑星に限られていた,例えば周期 4 年未満の巨大惑星と中心星の金属量の相関についての研究である (Fischer & Valenti 2005).そのため,より長周期のジュピターアナログの形成環境については,今のところあまり理解が進んでいない.

サンプル選定と観測

ここでは,惑星質量が 0.3 - 3.0 木星質量の範囲にあり,軌道離心率が 0.25 より小さく,地球の 4 分の 1 未満の日射を受けている惑星をジュピターアナログと定義する.日射量については
\[
S_{\rm eff}=\frac{T_{\rm eff}}{5778\,{\rm K}}\left(\frac{R_{*}}{R_{\odot}}\right)^{2}\left(\frac{a}{1\,{\rm AU}}\right)^{-2}\frac{1}{\sqrt{1-e^{2}}} < 0.25 S_{\bigoplus}\]
で評価する.

惑星の軌道離心率が小さい値であることは,その惑星系が強い力学的不安定の時期を経験している可能性が低いことを示唆している.また日射量についての制約は,太陽系の場合は軌道長半径が 2 AU より大きいことに対応している.これは,数百万年進化した原始惑星系円盤のスノーラインよりも遠方に相当する (Bitsch et al. 2015).

系外惑星のデータは exoplanet.org (http://exoplanets.org) から取得した.上記の条件から,合計で 20 個のジュピターアナログを同定した.また比較対象として,軌道離心率が 0.25 より大きく,低温な高軌道離心率の木星型惑星をさらに 17 個同定した.

これらの抽出したサンプルに対して,1889 セットの高分散スペクトルデータを収集した.これらは,新しく観測を行って得られたものと,過去の観測のアーカイブデータとして入手可能なものの両方を使用した.

また,集めたサンプルから 4 つの惑星系を除外した.
一つ目は,中心星が太陽型の主系列星 (> 4500 K,log g > 4.0) であるという条件での選別を行った.これにより 2 個の系を,中心星の表面重力が小さいとして除外した.これは,恒星のパラメータを決定するためのツール Stellar Parameter Classification (SPC,Buchhave et al. 2012, 2014) は,太陽型星に適用するためのものである事が理由である.
二つ目は,観測可能な時間内に十分なデータが得られなかった 2 つの系を除外した.

結果

金属量との相関

ジュピターアナログを持つ中心星の金属量は [m/H] = -0.07 ± 0.05 (± 0.21),ホットジュピターを持つ中心星の金属量は 0.25 ± 0.03 (± 0.16),高軌道離心率の低温木星型惑星を持つ中心星の金属量は 0.23 ± 0.04 (±0.14) であった.誤差は一つ目が標準誤差で,括弧内は標準偏差を意味する.

ホットジュピターとジュピターアナログについてコルモゴロフ・スミルノフ検定を行い,同一のグループである可能性を 99.996% で棄却した

ここでのホットジュピターを持つ恒星の金属量の平均値は,視線速度法で検出されたホットジュピターの中心星の金属量の平均値である 0.23 ± 0.03 と近い値である (Fischer & Valenti 2005),また,ケプラーで発見された巨大ガス惑星を持つ中心星の金属量の平均値 0.18 ± 0.02 とも近い (Buchhave et al. 2014).

軌道離心率と金属量の関係

低温で高軌道離心率の木星型惑星を持つ中心星は,金属量が豊富な傾向を示す.

ジュピターアナログのうち軌道離心率が円に近いものの中で,その惑星系の中でただひとつの惑星のみが発見されている場合は,中心星の金属量は太陽の値に近いものが多い.複数の惑星が見つかっている惑星系も含め,さらにそれらのそれぞれの軌道離心率を全て比較した場合,中心星の金属量の範囲は広くなる.

結果の解釈と惑星移動機構への示唆

結果として,ジュピターアナログは平均的には太陽金属量の恒星の周りに発見される傾向があり,金属量豊富な恒星周りに多く存在するホットジュピターとは対照的な結果となった.そのため,ホットジュピターに対しては広く受け入れられている金属量との相関は,長周期で軌道離心率が小さい惑星を持つ系に対しては延長して適用出来ないと考えられる.

ホットジュピターはスノーラインよりも遠方で形成され,その後内側の中心星近傍に移動してくると考えられている.しかし,その移動が惑星と円盤の相互作用による disk migration なのか (Baruteau et al. 2014),あるいは力学的な惑星-惑星散乱の結果まず高軌道離心率の軌道になり,その後円軌道化されたか (Chatterjee et al. 2008) については決着が付いていない.

金属量との相関に関する今回の結果は,惑星の移動を担うメカニズムは,太陽的な金属量の環境よりも高金属量の環境の方がより効果的であることを示唆している.また,軌道離心率と金属量の関係からは,ジュピターアナログの軌道離心率は中心星の金属量と相関,つまり原始惑星系円盤の初期の金属量と相関しており,惑星惑星散乱による高軌道離心率のジュピターアナログは,金属量豊富な環境ではより一般的な存在であることを示唆している.

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