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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1803.07106
Batygin (2018)
On the Terminal Rotation Rates of Giant Planets
(巨大惑星の最終自転速度について)
ここでは,若い巨大惑星が持つ大きな光度が,周惑星円盤を熱電離させると共に,強い惑星磁場の生成を引き起こすことを示す.
惑星内部と,準ケプラー回転をする周惑星円盤との磁気結合は,惑星の自転を効率的に減速させる.それと同時に,惑星のヒル圏内のガスの流体力学的循環は,星周円盤への自転角運動量の追い出しに関して重要な役割を果たす.
今回の結果は,形成初期の巨大惑星と恒星の自転を同じ進化の枠組みに置き,巨大ガス惑星形成の最終段階の文脈での磁気流体力学現象のさらなる探査を動機づけるものである.
この過程の最初のフェーズでは,まず氷・岩石組成の 10 - 20 地球質量の高金属量コアが形成される.二番目のフェーズでは,このコアがガスの静水圧平衡エンベロープを獲得する,このエンベロープは,冷却とケルビン・ヘルムホルツ収縮によってゆっくりと成長する.エンベロープの質量がコアの質量と同程度になった頃に,エンベロープは集積の三番目のフェーズに入り,円盤ガスの暴走降着が発生する.
このストーリーには 2 つの問題が残されている.(1) ガス惑星の最終質量は何が決めるのか? (2) 新しく形成された巨大惑星の最終自転状態は何が決めるのか? というものである.ここでは後者の問題点に注目する.
この見方とは対照的に,木星と土星の自転周期はそれぞれ 9.93 時間と 10.7 時間であり,この値はそれぞれのブレークアップ速度に対応する自転周期よりも大幅に低い.これらの自転周期は,それぞれブレークアップ速度の 28% と 37% に過ぎない.
木星と土星の自転が驚くべきほど遅いことは,系外惑星が多数検出される以前でも理論的な問題点として認識されていた (Takata & Stevenson 1996).さらに Bryan et al. (2017) によって示された,長周期の惑星質量伴星の自転周期に対する初めての制約は,ガス惑星の自転がブレークアップ速度よりもずっと遅いのは例外的な状態ではなく,実際には普遍的な法則である可能性を指摘している.
Bryan et al. (2017) によると,各天体の自転速度をブレークアップ速度に対応する周期で規格化すると,検出された 5 天体の自転速度はブレークアップ速度の ~ 0.5 倍よりも確実に遅く,0.05 - 0.3 倍の範囲となる.
さらにその研究では,測定された自転周期は年齢とは統計的に有意な依存性を示さないことを指摘している,このことは,巨大惑星の最終自転速度を決めるメカニズムは,ガス惑星の形成と進化の最初期段階に働くことを示唆している.
Szul ́agyi et al.(2016) が指摘する通り,この描像はガス惑星の最終自転問題をさらに悪化させるだけである.星周円盤と惑星の間の角運動量の交換は,一般に惑星の自転速度を増加させるからである.
巨大惑星形成における最終自転問題は,定性的には T Tauri 星 (おうし座T型星,Tタウリ星) の角運動量が小さいという問題と類似している.Tタウリ星の場合も,当初予想されていたよりもずっと遅く自転していることが観測で判明している (Bouvier 2013,レビュー論文).
Tタウリ星の自転速度問題に関しては,恒星と星周円盤の内側領域の間の磁気的結合が,恒星の自転速度を低下させるという機構で広く説明できることが示されている (Koenigl 1991;Matt & Pudritz 2005).木星形成でも,同じ過程による自転の減速が示唆されている (Takata & Stevenson 1996,Turner et al. 2014).
ここでは,若い巨大ガス惑星とその周りにある周惑星円盤の間の,磁気流体力学的相互作用について再検討を行った.特に,磁気流体力学的な惑星-円盤の結合の過程は,惑星の低速な自転を自然に説明出来ることを示す,このモデルでは,惑星のヒル球内の急速なガスの再循環 (リサイクリング) が重要な役割を果たす.
惑星の大スケールの磁場の生成は,惑星内部での対流エネルギー輸送の直接的な結果である.これに対応して,Christensen et al. (2009) では,惑星内部の熱フラックスと生成される磁場の規模を関係づける,均等分配的な関係式を提案している.
\[
\langle B^{2}\rangle/ 2 \mu_{0} = c f_{\rm ohm} \langle \rho \rangle^{1/3}\left( Fq\right)^{2/3} \sim \langle \rho \rangle v_{\rm conv}^{2}
\]
ここで,\(c\) は 1 程度の比例定数,\(f_{\rm ohm}\approx 1\) は全エネルギー散逸に対するオーム散逸の割合,\(\langle \rho \rangle\) は磁場生成領域の平均密度,\(q = \sigma_{\rm sb} T_{\rm eff}^{4}\) は放射ブラックス,\(F\) は温度スケールハイトに対する最も大きい対流長さスケールの比に対応する量である.
興味深いことに,この関係式は,地球ダイナモ,木星ダイナモから全対流の恒星までの磁場を連続して取り扱うことが出来る,
現在の木星に対して,Christensen et al. (2009) では \(F=0.35\) という値を主張している.これは \(c=1.18\) に対応している.この関係を採用すると,今回考える形成初期の惑星の表面磁場強度のモデルとして,500 G 程度の値を得る.これは現在の木星磁場より 2 桁大きい値である.
新しく形成された巨大惑星の磁場の直接測定は存在しない.しかし,この推定値が最近得られた有効温度 1000 K 程度・10 - 30 木星質量の褐色矮星の磁場よりもほぼ 1 桁小さいことは,注目する価値がある (Kao et al. 2016).つまり,キロガウス程度よりもやや小さい磁場の値は,非常に明るいガス惑星に対する推定値としては不合理ではないことを示唆している.
この半径の内側では,惑星へ降着する流れはフォースフリー,\({\bf v}\times{\bf B}\rightarrow0\) になる (Matt & Pudritz 2005,Mohanty & Shu 2008) の条件を満たす.すなわち,ガスは惑星へ自由落下をするのではなく,弱電離ガスは磁力線に閉じ込められるようになり,新しく形成された惑星の周りに “accretion curtain” (降着カーテン) を形成する.
これは円盤を持つ Tタウリ星の典型的な状態と定性的には同一であるように見えるが,ガスの流れの方向が逆であることには注意が必要である.
若い恒星の場合は,星周円盤内のガスは全て内向きの動径速度を持っており,ガスが円盤の切り取り半径に到達すると,ガスは臨界磁場を登り,恒星の極の近くに到達する (Batygin & Adams 2013).
周惑星円盤の場合は,降着流は高高度から惑星へと降着し,ほぼ垂直な動きをすることが示唆されている (Tanigawa et al. 2012; Szula ́gyi et al. 2016).従ってガスが臨界磁力線に衝突すると,ガスは惑星に降着するか,磁気カーテンを滑り落ちて周惑星円盤に加わるかのどちらかとなる.臨界磁力線の頂点より内側にガスが衝突した場合は前者となり,外側に落ちた場合は後者となる.
また後者の場合は,ガスは周惑星円盤の物質が原始惑星系円盤に再循環されるのに伴って,いずれ惑星のヒル球から排出される (Morbidelli et al. 2014).
惑星が双極磁場を持っている事を仮定すると,垂直方向からのガスの降着断面積は \(\pi R_{t}^{2} / 3^{3/4}\) になる (\(R_{t}\) は円盤の切り取り半径).そのためこの効果は,惑星への物質の降着率を抑えるのに重要な役割を果たし,巨大惑星形成の最終質量問題を解決できる機構となる可能性がある.
惑星の自転進化は大きく分けて二段階になる.
まずは,惑星への磁気トルクによって平衡状態になるタイムスケールで,円盤に固定された平衡状態へと進化する.この状態では,惑星の自転速度は切り取り半径での軌道周期よりやや低い程度になる.
その後の,ケルビン・ヘルムホルツタイムスケールで展開する進化の段階で,重力収縮が磁場双極子モーメントを減少させるように働くにつれて,惑星の自転は円盤の固定状態に断熱的に従い,自転速度を増加させる.惑星半径が現在の木星半径に到達した段階で,系の物理的進化は停止し,自転周期は 9 時間程度で固定される.
惑星質量が大きくなり,惑星のヒル半径が星周円盤のスケールハイトを超えるようになると,惑星は自らの軌道上の物質を一掃し,惑星の作用圏内部には周惑星円盤が発達する.この周惑星円盤の内側領域は,アルカリ金属の熱電離によってやや導電性を示す.
同時に,新しく形成された惑星内部の激しい対流によって強い磁場が生成される.この強い磁場は,周惑星円盤の内側を磁気的に切り取る,また,惑星内部と周惑星円盤の準ケプラー流を磁気的に結合させる.
その後,周惑星円盤が角運動量を惑星から急速に抜く一方で,惑星ヒル球内のガスの子午面循環は角運動量を持った周惑星円盤中のガスを星周円盤に再循環させる.その結果として,観測されているような巨大惑星の低速な自転が再現される.
ここで概説した自転の磁気制動機構の枠組みにおいては,惑星の最終的な自転状態は,基本的には惑星の物理半径だけではなく,散逸時の周惑星円盤の磁気圏切り取り半径の場所によっても決定される.
arXiv:1803.07106
Batygin (2018)
On the Terminal Rotation Rates of Giant Planets
(巨大惑星の最終自転速度について)
概要
巨大惑星形成のコア降着理論の一般的な枠組みでは,重いガスエンベロープの集積は,円盤物質の急速な集積によって促進される.これと同時に進行する惑星への角運動量の蓄積によって,新しく形成された惑星は breakup velocity (遠心力が重力を上回り破壊に至る速度) に近い自転のままになると予想される.しかし,木星と土星,ならびに長周期の木星より重い系外惑星は,この臨界自転速度よりも十分遅く回転していることが観測されている.ここでは,若い巨大惑星が持つ大きな光度が,周惑星円盤を熱電離させると共に,強い惑星磁場の生成を引き起こすことを示す.
惑星内部と,準ケプラー回転をする周惑星円盤との磁気結合は,惑星の自転を効率的に減速させる.それと同時に,惑星のヒル圏内のガスの流体力学的循環は,星周円盤への自転角運動量の追い出しに関して重要な役割を果たす.
今回の結果は,形成初期の巨大惑星と恒星の自転を同じ進化の枠組みに置き,巨大ガス惑星形成の最終段階の文脈での磁気流体力学現象のさらなる探査を動機づけるものである.
ガス惑星の自転速度問題
ガス惑星の形成過程と未解決問題
巨大ガス惑星の形成モデルとしては,コア降着モデルが広く受け入れられている (Bodenheimer & Pollack 1986,Pollack et al. 1996).この過程の最初のフェーズでは,まず氷・岩石組成の 10 - 20 地球質量の高金属量コアが形成される.二番目のフェーズでは,このコアがガスの静水圧平衡エンベロープを獲得する,このエンベロープは,冷却とケルビン・ヘルムホルツ収縮によってゆっくりと成長する.エンベロープの質量がコアの質量と同程度になった頃に,エンベロープは集積の三番目のフェーズに入り,円盤ガスの暴走降着が発生する.
このストーリーには 2 つの問題が残されている.(1) ガス惑星の最終質量は何が決めるのか? (2) 新しく形成された巨大惑星の最終自転状態は何が決めるのか? というものである.ここでは後者の問題点に注目する.
ガス惑星の自転は非常に遅い
単純に考えると,ガス惑星形成の最終段階では惑星は質量に伴って円盤ガスの角運動量を降着し,最終自転状態はブレークアップ速度に近くなる (表面層は基本的に軌道速度で回転している).その後は惑星重力によって半径は収縮していくが,収縮するに伴って回転速度は上昇するため問題を悪化させるだけである.この見方とは対照的に,木星と土星の自転周期はそれぞれ 9.93 時間と 10.7 時間であり,この値はそれぞれのブレークアップ速度に対応する自転周期よりも大幅に低い.これらの自転周期は,それぞれブレークアップ速度の 28% と 37% に過ぎない.
木星と土星の自転が驚くべきほど遅いことは,系外惑星が多数検出される以前でも理論的な問題点として認識されていた (Takata & Stevenson 1996).さらに Bryan et al. (2017) によって示された,長周期の惑星質量伴星の自転周期に対する初めての制約は,ガス惑星の自転がブレークアップ速度よりもずっと遅いのは例外的な状態ではなく,実際には普遍的な法則である可能性を指摘している.
Bryan et al. (2017) によると,各天体の自転速度をブレークアップ速度に対応する周期で規格化すると,検出された 5 天体の自転速度はブレークアップ速度の ~ 0.5 倍よりも確実に遅く,0.05 - 0.3 倍の範囲となる.
さらにその研究では,測定された自転周期は年齢とは統計的に有意な依存性を示さないことを指摘している,このことは,巨大惑星の最終自転速度を決めるメカニズムは,ガス惑星の形成と進化の最初期段階に働くことを示唆している.
最近の三次元計算からの示唆と星形成過程との比較
最近の三次元流体計算では,惑星が原始惑星系円盤にギャップを開けるほど重くなると,円盤ガスの惑星への流入は非球対称的になることが示されている (Crida et al. 2006,Fung et al. 2014).高分解能入れ子格子を用いた流体力学シミュレーションでは,惑星のヒル圏内での強い子午面循環が発達することが指摘されている,星周円盤の物質は高高度から惑星に向かって流入し,準ケプラー回転をする周惑星円盤を生成し,この円盤はガスを星周円盤の中心平面に戻すような流れを持つ (Tanigawa et al. 2012,Gressel et al. 2013,Szul ́agyi et al. 2016)Szul ́agyi et al.(2016) が指摘する通り,この描像はガス惑星の最終自転問題をさらに悪化させるだけである.星周円盤と惑星の間の角運動量の交換は,一般に惑星の自転速度を増加させるからである.
巨大惑星形成における最終自転問題は,定性的には T Tauri 星 (おうし座T型星,Tタウリ星) の角運動量が小さいという問題と類似している.Tタウリ星の場合も,当初予想されていたよりもずっと遅く自転していることが観測で判明している (Bouvier 2013,レビュー論文).
Tタウリ星の自転速度問題に関しては,恒星と星周円盤の内側領域の間の磁気的結合が,恒星の自転速度を低下させるという機構で広く説明できることが示されている (Koenigl 1991;Matt & Pudritz 2005).木星形成でも,同じ過程による自転の減速が示唆されている (Takata & Stevenson 1996,Turner et al. 2014).
ここでは,若い巨大ガス惑星とその周りにある周惑星円盤の間の,磁気流体力学的相互作用について再検討を行った.特に,磁気流体力学的な惑星-円盤の結合の過程は,惑星の低速な自転を自然に説明出来ることを示す,このモデルでは,惑星のヒル球内の急速なガスの再循環 (リサイクリング) が重要な役割を果たす.
形成過程の惑星磁場
ここでは,ガス惑星への質量降着率が 10-3 地球質量/年,惑星半径が 2 木星半径,惑星の有効温度が 1500 K という状態を仮定する.この条件は,Lissauer et al. (2009),Berardo & Cumming (2017) に基づくものである.また Szula ́gyi et al. (2016) のシミュレーションのエネルギー境界条件とも一致する.この条件は,原始木星の光度が 2 × 104 太陽光度となり,巨大惑星の形成・進化における “hot start” の初期条件 (※注釈:惑星が形成時に多くのエントロピーを持ち込み,高温の状態から進化が始まるというモデル) におおむね対応している.惑星の大スケールの磁場の生成は,惑星内部での対流エネルギー輸送の直接的な結果である.これに対応して,Christensen et al. (2009) では,惑星内部の熱フラックスと生成される磁場の規模を関係づける,均等分配的な関係式を提案している.
\[
\langle B^{2}\rangle/ 2 \mu_{0} = c f_{\rm ohm} \langle \rho \rangle^{1/3}\left( Fq\right)^{2/3} \sim \langle \rho \rangle v_{\rm conv}^{2}
\]
ここで,\(c\) は 1 程度の比例定数,\(f_{\rm ohm}\approx 1\) は全エネルギー散逸に対するオーム散逸の割合,\(\langle \rho \rangle\) は磁場生成領域の平均密度,\(q = \sigma_{\rm sb} T_{\rm eff}^{4}\) は放射ブラックス,\(F\) は温度スケールハイトに対する最も大きい対流長さスケールの比に対応する量である.
興味深いことに,この関係式は,地球ダイナモ,木星ダイナモから全対流の恒星までの磁場を連続して取り扱うことが出来る,
現在の木星に対して,Christensen et al. (2009) では \(F=0.35\) という値を主張している.これは \(c=1.18\) に対応している.この関係を採用すると,今回考える形成初期の惑星の表面磁場強度のモデルとして,500 G 程度の値を得る.これは現在の木星磁場より 2 桁大きい値である.
新しく形成された巨大惑星の磁場の直接測定は存在しない.しかし,この推定値が最近得られた有効温度 1000 K 程度・10 - 30 木星質量の褐色矮星の磁場よりもほぼ 1 桁小さいことは,注目する価値がある (Kao et al. 2016).つまり,キロガウス程度よりもやや小さい磁場の値は,非常に明るいガス惑星に対する推定値としては不合理ではないことを示唆している.
結果
周惑星円盤の磁気的切り取り
系のダイナミクスを磁場の効果が上回る典型的な長さスケールで,円盤の magnetic truncation (磁気的切り取り) が発生する.今回のモデルでは,4 - 5 木星半径の距離,惑星ヒル半径の 0.006 倍の位置が truncation radius (切り取り半径) になる.この半径の内側では,惑星へ降着する流れはフォースフリー,\({\bf v}\times{\bf B}\rightarrow0\) になる (Matt & Pudritz 2005,Mohanty & Shu 2008) の条件を満たす.すなわち,ガスは惑星へ自由落下をするのではなく,弱電離ガスは磁力線に閉じ込められるようになり,新しく形成された惑星の周りに “accretion curtain” (降着カーテン) を形成する.
これは円盤を持つ Tタウリ星の典型的な状態と定性的には同一であるように見えるが,ガスの流れの方向が逆であることには注意が必要である.
若い恒星の場合は,星周円盤内のガスは全て内向きの動径速度を持っており,ガスが円盤の切り取り半径に到達すると,ガスは臨界磁場を登り,恒星の極の近くに到達する (Batygin & Adams 2013).
周惑星円盤の場合は,降着流は高高度から惑星へと降着し,ほぼ垂直な動きをすることが示唆されている (Tanigawa et al. 2012; Szula ́gyi et al. 2016).従ってガスが臨界磁力線に衝突すると,ガスは惑星に降着するか,磁気カーテンを滑り落ちて周惑星円盤に加わるかのどちらかとなる.臨界磁力線の頂点より内側にガスが衝突した場合は前者となり,外側に落ちた場合は後者となる.
また後者の場合は,ガスは周惑星円盤の物質が原始惑星系円盤に再循環されるのに伴って,いずれ惑星のヒル球から排出される (Morbidelli et al. 2014).
惑星が双極磁場を持っている事を仮定すると,垂直方向からのガスの降着断面積は \(\pi R_{t}^{2} / 3^{3/4}\) になる (\(R_{t}\) は円盤の切り取り半径).そのためこの効果は,惑星への物質の降着率を抑えるのに重要な役割を果たし,巨大惑星形成の最終質量問題を解決できる機構となる可能性がある.
磁気トルク
切り取り半径の内側にはガスが存在しないことが想定されるが,切り取り半径の外側付近の周惑星円盤は,軌道タイムスケールでは磁気応力によって大きく擾乱を受けないと考えられる.そのため,惑星の磁気圏外部では過去の流体力学シミュレーションの結果が有効であると考えられる.従って,準ケプラー円盤と惑星の間の,磁気誘導による永年角運動量交換を計算することが出来る.惑星の自転進化は大きく分けて二段階になる.
まずは,惑星への磁気トルクによって平衡状態になるタイムスケールで,円盤に固定された平衡状態へと進化する.この状態では,惑星の自転速度は切り取り半径での軌道周期よりやや低い程度になる.
その後の,ケルビン・ヘルムホルツタイムスケールで展開する進化の段階で,重力収縮が磁場双極子モーメントを減少させるように働くにつれて,惑星の自転は円盤の固定状態に断熱的に従い,自転速度を増加させる.惑星半径が現在の木星半径に到達した段階で,系の物理的進化は停止し,自転周期は 9 時間程度で固定される.
結論
ここで想定しているシナリオは以下の通りである.惑星質量が大きくなり,惑星のヒル半径が星周円盤のスケールハイトを超えるようになると,惑星は自らの軌道上の物質を一掃し,惑星の作用圏内部には周惑星円盤が発達する.この周惑星円盤の内側領域は,アルカリ金属の熱電離によってやや導電性を示す.
同時に,新しく形成された惑星内部の激しい対流によって強い磁場が生成される.この強い磁場は,周惑星円盤の内側を磁気的に切り取る,また,惑星内部と周惑星円盤の準ケプラー流を磁気的に結合させる.
その後,周惑星円盤が角運動量を惑星から急速に抜く一方で,惑星ヒル球内のガスの子午面循環は角運動量を持った周惑星円盤中のガスを星周円盤に再循環させる.その結果として,観測されているような巨大惑星の低速な自転が再現される.
ここで概説した自転の磁気制動機構の枠組みにおいては,惑星の最終的な自転状態は,基本的には惑星の物理半径だけではなく,散逸時の周惑星円盤の磁気圏切り取り半径の場所によっても決定される.
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天文・宇宙物理関連メモ vol.671 Bryan et al. (2017) 若い惑星質量天体の自転の進化への制約