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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。
arXiv:1804.07713
Trilling et al. (2018)
On the detectability of Planet X with LSST
(LSST での惑星 X の検出可能性について)
どちらの惑星も非常に暗いわけではないと考えられているが,これらの天体の天球での位置はあまりよく制限されていない.そのため,これらの惑星を検出するためには広範囲のサーベイが必要である.
現在計画が進んでいる,チリの Large Synoptic Survey Telescope (LSST) では,無バイアスの広範囲 (18000 平方度) の,深い (各フレームでの限界等級が 24.5) サーベイを行う予定があり,”wide-fast-deep” サーベイと呼ばれている.これは 2022 年に南天で開始される予定である.そのため,LSST でのサーベイは仮説上の天体を探査するための重要なツールとなる.
ここでは,仮説上の惑星の探査プラットフォームとしての LSST の有効性を検証する.
現在の LSST の baseline cadence を仮定すると (wide-fast-deep サーベイと追加の観測期間を含む),LSST は空全体の 61% の領域で,惑星 X の存在を確実に検出,もしくは否定することが期待される.
天体の軌道距離が ~ 75 au 以内の場合,惑星 X は通常の夜間移動天体処理で発見することが出来る.より大きな軌道距離だった場合は,別途データ処理が必要となる.
またここでは,LSST データにおいて惑星 X が非検出となった場合,その結果が意味するところについても議論する.
さらに,Batygin & Brown (2016) と Brown & Batygin (2016) は,遠方カイパーベルト天体の同じグループにおける,近日点軽度と軌道極の偏りの存在を指摘した.
Trujillo & Sheppard (2014) は,太陽中心距離が 250 au 程度以上のスーパーアース質量の天体の存在を提唱した.また, Brown & Batygin (2016) は軌道長半径が 380 - 980 au,質量が 5 - 20 地球質量,近日点距離が 150 - 350 au,軌道傾斜角はやや大きい (~ 30°) 天体が存在すると推定した,
Malhotra et al. (2016) は,~ 10 地球質量の惑星が ~ 665 au の軌道長半径で存在し,軌道離心率はやや大きく,軌道傾斜角は 18° か 48° の 2 つの可能性があると提唱した.
これらの解析に用いたカイパーベルト天体のサンプル数は,6 - 13 天体と比較的少ない.これとは別に,より大きいサンプル数 (~ 160 個) の,軌道長半径が ~ 50 - 80 au のカイパーベルト天体について,Volk & Malhotra (2017) は,太陽系の普遍平面からの強い偏位の存在を報告した.
この偏位に基づき,0.1 - 2.4 地球質量の小さい惑星質量天体が,軌道長半径が 60 - 100 au の範囲に,数度から数十度傾いた軌道で存在することを示唆した.
LSST は 2022 年に稼働を予定しており,観測感度はこれらの天体の予想光度の要件を満たす.また 10 年間に渡る LSST プログラムの 85% は “wide-fast-deep” (WFD) survey に割り当てられる予定である.そのため LSST は,南天での惑星 X 探査の強力なツールとなる.
従って,Trujillo-Sheppard/Batygin-Brown 天体は,十分に検出可能であると予想される.この天体は天球上をゆっくり動くため,検出のためには複数夜間の比較または直接の画像化が必要である.
また,Volk-Malhotra 天体は検出がさらに容易である.これは前者の予想より明るい (惑星がより重い) ためである.
このようなマップから,60 - 100 au における火星から地球サイズ天体の存在を否定する確率を計算可能である.同様に,150 - 1600 au における海王星サイズ天体の存在を否定する確率も計算可能である.
もしこの可能性が 1 に近ければ,近年提案されている遠方惑星仮説は支持を失うことになる.その場合は,遠方カイパーベルト天体の軌道特性における異常 (偏り) に対する,別の仮説を再評価する必要が生じる.
その場合,有り得る 2 つの代替選択肢は,軌道特性に見られる異常は統計的な偶然であるという仮説,あるいは軌道特性に見られる異常は比較的最近に発生した太陽系遠方への擾乱,例えば恒星の近接フライバイによるものだとする仮説である.
LSST が新たに発見するであろう遠方カイパーベルト天体の数は非常に多いため,遠方カイパーベルト天体の軌道特性の偏りは,統計的な偶然に起因するという可能性も検証可能である.これにより軌道特性の統計解析が大幅に改善され,惑星 X の証拠についても再評価されることが期待される.
arXiv:1804.07713
Trilling et al. (2018)
On the detectability of Planet X with LSST
(LSST での惑星 X の検出可能性について)
概要
遠方のカイパーベルト天体の軌道分布を説明するために,太陽系遠方に未発見の惑星質量天体が存在するという仮説が提案されており,それには大きく分けて 2 種類ある.ここでは両者をあわせて惑星 X (Planet X) と呼ぶ.どちらの惑星も非常に暗いわけではないと考えられているが,これらの天体の天球での位置はあまりよく制限されていない.そのため,これらの惑星を検出するためには広範囲のサーベイが必要である.
現在計画が進んでいる,チリの Large Synoptic Survey Telescope (LSST) では,無バイアスの広範囲 (18000 平方度) の,深い (各フレームでの限界等級が 24.5) サーベイを行う予定があり,”wide-fast-deep” サーベイと呼ばれている.これは 2022 年に南天で開始される予定である.そのため,LSST でのサーベイは仮説上の天体を探査するための重要なツールとなる.
ここでは,仮説上の惑星の探査プラットフォームとしての LSST の有効性を検証する.
現在の LSST の baseline cadence を仮定すると (wide-fast-deep サーベイと追加の観測期間を含む),LSST は空全体の 61% の領域で,惑星 X の存在を確実に検出,もしくは否定することが期待される.
天体の軌道距離が ~ 75 au 以内の場合,惑星 X は通常の夜間移動天体処理で発見することが出来る.より大きな軌道距離だった場合は,別途データ処理が必要となる.
またここでは,LSST データにおいて惑星 X が非検出となった場合,その結果が意味するところについても議論する.
惑星 X とは
非常に遠方のカイパーベルト天体の軌道分布の偏りから,未発見の惑星による重力的な影響の可能性が指摘されている.惑星 X 仮説
Trujillo & Sheppard および Batygin & Brown による仮説
Trujillo & Sheppard (2014) と Sheppard & Trujillo (2016) は,軌道長半径が 150 au を超えるカイパーベルト天体の近日点引数 (argument of perihelion) に偏りが見られることを報告している.近日点引数とは,天体軌道の昇交点 (ascending node) に対する,近日点の位置を表す角度である.さらに,Batygin & Brown (2016) と Brown & Batygin (2016) は,遠方カイパーベルト天体の同じグループにおける,近日点軽度と軌道極の偏りの存在を指摘した.
Trujillo & Sheppard (2014) は,太陽中心距離が 250 au 程度以上のスーパーアース質量の天体の存在を提唱した.また, Brown & Batygin (2016) は軌道長半径が 380 - 980 au,質量が 5 - 20 地球質量,近日点距離が 150 - 350 au,軌道傾斜角はやや大きい (~ 30°) 天体が存在すると推定した,
Malhotra et al. による仮説
Malhotra et al. (2016) は,最も遠方の部類のカイパーベルト天体は整数比に近い軌道周期比を持っていることを指摘し,これは重い擾乱天体との力学的共鳴である可能性を示唆した.Malhotra et al. (2016) は,~ 10 地球質量の惑星が ~ 665 au の軌道長半径で存在し,軌道離心率はやや大きく,軌道傾斜角は 18° か 48° の 2 つの可能性があると提唱した.
これらの解析に用いたカイパーベルト天体のサンプル数は,6 - 13 天体と比較的少ない.これとは別に,より大きいサンプル数 (~ 160 個) の,軌道長半径が ~ 50 - 80 au のカイパーベルト天体について,Volk & Malhotra (2017) は,太陽系の普遍平面からの強い偏位の存在を報告した.
この偏位に基づき,0.1 - 2.4 地球質量の小さい惑星質量天体が,軌道長半径が 60 - 100 au の範囲に,数度から数十度傾いた軌道で存在することを示唆した.
LSST による惑星 X 観測
これらの “Planet X” の位置や明るさは,これまでに制約されていない.Volk & Malhotra (2017) では V = 15,Brown & Batygin (2016) では V = 22 - 25 と予測している.LSST は 2022 年に稼働を予定しており,観測感度はこれらの天体の予想光度の要件を満たす.また 10 年間に渡る LSST プログラムの 85% は “wide-fast-deep” (WFD) survey に割り当てられる予定である.そのため LSST は,南天での惑星 X 探査の強力なツールとなる.
結果
惑星 X の観測可能性
Brown & Batygin (2016) で提案されている遠方軌道解 (5 - 20 地球質量,近日点距離 150 - 350 au,遠日点距離 600 - 1600 au) の場合,惑星 X が近日点にいる時は LSST によって容易に検出可能であると予想される,また遠日点にいる場合でも,ごく一部のパラメータ空間を除くと検出可能である.検出できないのは,距離がありうる範囲内で最も遠距離にあり,質量も有り得る範囲内で最も軽い質量だった場合である.従って,Trujillo-Sheppard/Batygin-Brown 天体は,十分に検出可能であると予想される.この天体は天球上をゆっくり動くため,検出のためには複数夜間の比較または直接の画像化が必要である.
また,Volk-Malhotra 天体は検出がさらに容易である.これは前者の予想より明るい (惑星がより重い) ためである.
LSST で検出されなかった場合
LSST によるサーベイで惑星 X が非検出だった場合,r = 24.5 より明るい惑星の可能性が排除されている空の領域のマップを生成することが出来る.このマップは LSST で調査される予定の天球の 63% の範囲のみに適用される.このようなマップから,60 - 100 au における火星から地球サイズ天体の存在を否定する確率を計算可能である.同様に,150 - 1600 au における海王星サイズ天体の存在を否定する確率も計算可能である.
もしこの可能性が 1 に近ければ,近年提案されている遠方惑星仮説は支持を失うことになる.その場合は,遠方カイパーベルト天体の軌道特性における異常 (偏り) に対する,別の仮説を再評価する必要が生じる.
その場合,有り得る 2 つの代替選択肢は,軌道特性に見られる異常は統計的な偶然であるという仮説,あるいは軌道特性に見られる異常は比較的最近に発生した太陽系遠方への擾乱,例えば恒星の近接フライバイによるものだとする仮説である.
LSST が新たに発見するであろう遠方カイパーベルト天体の数は非常に多いため,遠方カイパーベルト天体の軌道特性の偏りは,統計的な偶然に起因するという可能性も検証可能である.これにより軌道特性の統計解析が大幅に改善され,惑星 X の証拠についても再評価されることが期待される.
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