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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1806.02259
Villarreal D’Angelo et al. (2018)
Magnetised winds and their influence in the escaping upper atmosphere of HD 209458b
(磁化された風と HD 209458b の散逸する高層大気への影響)

概要

系外惑星のトランジットをライマンアルファ (Lyα) 線で観測することは,恒星風と惑星大気との相互作用を研究する上で有用である.このような観測は,直接観測できない惑星系のパラメータ,例えば惑星の質量損失率を制約するのに広く使用されている

同様に,Lyα でのトランジット観測は,系外惑星の磁場の存在を示唆する強力な道具となりうる.これは,惑星の磁場は散逸していく惑星物質に影響を与えることが期待されるからである.

ここでは,HD 209458b の Lyα 吸収に惑星磁場が与える影響を探査するため,三次元磁気流体力学 (magnetohydrodynamics, MHD) 計算を行った.
惑星と恒星が両方ともに双極子磁場を持つと仮定し.惑星表面の極での表面磁場を 0 - 5 G,恒星の極での磁場強度を 1 - 5 G と変化させた.また,衝突と光電離,輻射再結合,輻射圧の影響の近似的な取扱いを含んでいる.

その結果,惑星と恒星の磁場は,Lyα でのトランジットの吸収分布の形状を変える事を見出した.これは,磁場によって惑星の磁気圏の広がりが変化し,その中での中性物質の量が変わるからである.

HD 209458b で観測されている Lyα の吸収を最もよく再現するのは,恒星風のパラメータとして一般的な値を採用した場合,惑星の双極子磁場が極域で 1 G 未満だった場合であった

系外惑星からの大気散逸

大気散逸の Lyα での観測

いくつかの系外惑星系で,紫外線の Lyα 波長での観測から,中心星からの紫外線の加熱によって中性大気物質が流出している証拠が検出されている.例えば HD 209458b (Vidal-Madjar et al. 2003),HD 189733b (Lecavelier Des Etangs et al. 2010など),WASP-12b (Fossati et al. 2010など),GJ 436b (Kulow et al. 2014,Ehrenreich et al. 2015) で検出報告があり,また 55 Cnc b (Ehrenreich et al. 2012) でも暫定的な検出報告がある.

Vidal-Madjar et al. (2003) では,Lyα のトランジット観測から,惑星から散逸する中性大気を検出した.この観測では,視線速度 -100 km/s の位置で 10% の吸収が検出されており,赤い側 (赤方偏移側) よりも青い側 (青方偏移側) での吸収が強いことが報告されている.全体の合計の吸収は,± 300 km/s の範囲で 15 ± 4% であった.

後に,原子のスペクトル線でのトランジット吸収観測も行われており,HI,OI,CII,SiIII,MgI が検出されている (Vidal-Madjar et al. 2003,2004,Ballester et al. 2007,Ehrenreich et al. 2008,Linsky et al. 2010,Jensen et al. 2012,Vidal-Madjar et al. 2013).これにより,流体力学的な惑星風の存在が確認されている.

大気散逸に関連する物理

HD 209458b の Lyα トランジット中の特徴は,いくつかの物理過程の組み合わせによって再現される.例えば,恒星風と惑星風の相互作用,恒星の輻射圧,惑星の中性原子と恒星風イオンとの電荷交換などである.

数値計算や理論計算では,これらの効果の一つや複数を含めたものが存在する.例えば入射する恒星の紫外線の結果としての惑星風の研究である (Murray-Clay et al. 2009など).
これらの研究では,惑星大気の低層領域はよく表されているが,恒星風との相互作用は考慮されていない.

恒星風と惑星風の相互作用は,流体力学シミュレーションを用いて Schneiter et al. (2007) などで研究されている.また,電荷交換過程を含めた粒子シミュレーションも行われている (Erkaev et al. 2007など).
これらの計算では,Lyα で観測された吸収の特徴を部分的に再現することが出来ているが,恒星磁場も惑星磁場も考慮されていない.

惑星磁場と大気散逸への影響

系外惑星の磁場について

惑星磁場は,恒星風との直接の相互作用から惑星の大気を遮蔽するはたらきを持つ.惑星磁場は恒星風を逸らし,大気の低層に恒星風が貫入するのを防ぐ.そのためもし惑星に磁場が存在した場合,惑星から失われる大気の量に大きな影響を与える可能性がある (Adams 2011など).

しかし,惑星磁場の存在は今のところ未解決の問題である.
理論計算では,ホットジュピター的な惑星の磁場は,木星の磁気モーメントよりも数倍低い程度の値を持つだろうという推測が存在する (Sa ́nchez-Lavega 2004,Durand-Manterola 2009).しかし Christensen et al. (2009) は,惑星内部熱流に依存する磁場の強度は,木星よりも一桁大きくなりうることを予測している.

最近では,Rogers & McElwaine (2017) が小さい惑星ダイナモがこれらのタイプの惑星に存在することを提案している.これは,強い非対称な恒星加熱に起因する電気伝導度の変動によるものである.

HD 209458b が持つ磁場の値は不明である.さらに,中心星 HD 209458 の磁場強度も,分光偏光観測からは検出されていない (Mengel et al. 2017).

解析的な計算では,木星の磁気モーメントの 1-8 倍になると推測されている (Sa ́nchez-Lavega 2004,Durand-Manterola 2009).
一方で,Kislyakova et al. (2014) は Lyα トランジット観測に基づいて,木星の磁気モーメントの 0.1 倍と推測している.

恒星・惑星磁場と大気散逸のシミュレーション

Trammell et al. (2014) も Lyα 観測から惑星の磁場を制約しており,そこでは大気物質は風の “dead zone” として知られる閉じた磁力線の中に保持され得ることを見出した.Lyα トランジット観測と比較すると,この磁力線に捕獲された物質は,惑星磁場が 10 G (木星磁場の 2.8 倍) かそれ以下の惑星磁場である場合,Ben-Jaffel (2008) による観測を再現できるとされている.

Erkaev et al. (2017) は三次元 MHD モデルで,磁化されていない惑星と恒星風の相互作用の計算を行った.これによると,観測を再現するためには,惑星内部の磁気モーメントは木星の 0.13-0.22 倍である必要があると結論付けている.

過去の計算では,Lyα の分布が流体力学的な恒星風と惑星風の相互作用にどう影響されるかが研究されている (Schneiter et al. 2007,Villarreal D’Angelo et al. 2014,Schneiter et al. 2016).
Schneiter et al. (2007) は,完全電離した恒星風と中性の惑星風を考慮し,惑星からの質量放出率の上限値を推定した.Villarreal D’Angelo et al. (2014) は異なる恒星風と惑星風の状態を考慮した計算を行っている.さらに Schneiter et al. (2016) では光電離過程を計算に陽に取り入れ,モデルを自己無撞着に近付けている.
観測と比較すると,Vidal-Madjar et al. (2003) で言及されている観測の特徴は,これら全てで再現可能である.しかし,波長が長い側での吸収の再現には失敗している.これは,惑星磁場の影響を含めることで今回の研究で再現可能である.

今回のシミュレーションについて

計算には,三次元流体力学/輻射コードである GUACHO を使用した.これは,理想磁気流体方程式をデカルト座標で解くものである.また,輻射輸送の項も含んでいる.輻射による加熱と冷却は,惑星風中の中性物質の冷却と加熱によって発生する.ここでは,光電離,衝突電離と中性水素の輻射再結合も含んでいる.

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