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日々の感想などどうでもよいことを書き連ねるためだけのブログ。
論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1806.08393
Stern et al. (2018)
The New Horizons Kuiper Belt Extended Mission
(ニューホライズンズのカイパーベルト延長ミッション)

概要

ニューホライズンズ (New Horizons) の主要任務の中心的な目的は,冥王星とその衛星系の初めての探査を行うことであった.

その後ニューホライズンズは,最初の拡張任務案が承認され,数多くのカイパーベルト天体 (Kuiper belt object, KBO) とケンタウルス天体を観測してカイパーベルトの環境を広く研究し,また KBO の一つ,(486958) 2014 MU69 への初の接近フライバイを行う.
ここでは,その承認された拡張ミッションの目標と計画についてまとめる.

2014 MU69 のフライバイ観測

延長ミッションの概要

ニューホライズンズは冥王星のフライバイに成功し,また機器も装置も共に健全な状態である.ニューホライズンズのプロジェクトは 6 年の延長ミッションである Kuiper Belt Extended Mission (カイパーベルト延長ミッション,KEM) を提案し,これはその後公式に承認された.

KEM では,“cold classical” KBO ("冷たい古典的な" カイパーベルト天体) である,(486958) 2014 MU69 (以下 MU69 と呼称) のフライバイを予定している.2019 年 1 月1 日 UT 5:33 に MU69 に最接近する予定である.

このフライバイでは,小さい KBO の地質学的および組成に関する,初めてかつ唯一の高分解能の研究が行われる予定であり,小さい KBO のまわりのコマ活動や衛星・環の初めての高感度の研究となる.

2014 MU69 について

MU69 はハッブル宇宙望遠鏡を用いて発見された KBO である.この天体の軌道は,ハッブル宇宙望遠鏡を用いた 3.5 年間に渡る観測で測定されており,軌道長半径 44.5 AU,軌道離心率 ~ 0.04,軌道傾斜角 ~ 2.5° と推定されている.

この天体については,
(i) 色は太陽よりも 0.36 mag だけ赤く,冥王星よりも ~ 0.3 mag 赤い (Benecchi et al. 2018)
(ii) 光度曲線の振幅が 20% 未満であり,大まかに等次元状の形状をしているか,極ベクトルがおおむね地球との視線方向を向いているか (自転軸が地球の方向を向いている),あるいはその両方であると推測される (Benecchi et al. 2018)
(iii) 2017 年の 3 回の恒星掩蔽から,大きさ,形状,アルベドについていくらかの情報が得られている (Buie et al. 2018)
という 3 点を除くと,ほとんどのことが分かっていない.

MU69 は絶対等級が H ~ 10.9 で,直径は ~ 30 km と推定される.またこの天体は,連星か接触連星である可能性がある (Buie et al. 2018).

MU69 の推定質量は,探査機が着陸した彗星 67P/Churyumov-Gerasimenko (チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星) よりも 1000 倍重い.また冥王星よりは 5 × 105 倍軽い.この質量は両者の中間的なサイズ領域に位置しており,惑星の降着過程に関する理解を促進することが期待される.

MU69 の軌道は,Cold Classical KB (低温な古典的なカイパーベルト) に位置している.そのためこの天体は 40 億年以上の間,44 AU 付近の軌道長半径で ~ 35 K の低温に保たれてきた.従ってこの天体は,いかなる探査機でもこれまで探査されたことのない,最も原始的な状態を保った天体だろうと考えられる

2014 MU69 フライバイ観測の経過予定

ニューホライズンズは 2015 年後半に,MU69 のフライバイに向けた推進マニューバを実施した.MU69 のフライバイでは ~ 3500 km にまで接近する.これは冥王星フライバイよりも ~ 3.5 倍近い.そのため,得られる画像や組成マッピング分光などの分解能は,冥王星のフライバイ観測時よりも 2 倍程度良くなる.なお,接近距離に比例して観測の分解能が改善されない理由は,フライバイ最中は並行して様々な観測が予定されているからである.

フライバイでは ~ 50 Gbits のデータが収集される予定である.冥王星のフライバイの際はは 55 GBits のデータが収集された.MU69 は冥王星よりも遠方なので,データの地球へのダウンリンクには 21 ヶ月程度,つまり 2020 年 9 月頃までかかる予定である.

観測データの解析と初期結果の出版,Planetary Data System へのアーカイブは,2021 年 9 月に完了する計画である.

ニューホライズンズによる外部太陽圏観測

これまでの外部太陽圏観測

KEM 太陽圏観測では,カイパーベルトを 33 - 59 AU まで横断しての観測を行う.この観測では,観測領域でのダスト,中性ガス,太陽風,エネルギー粒子環境についての調査を行う.50 AU という距離は,冥王星の遠日点に相当する.
この観測により,宇宙天気 (space weather) が冥王星や KBOs の表面にどう影響を与えるかについても情報も得られる.

30 AU 以遠の外部太陽圏を探査したのは,ニューホライズンズ以前ではパイオニア10号,11号,ボイジャー1号,2号のみである.
これらの探査機は 30 AU 以遠まで到達しているが,太陽風プラズマの観測データに関しては,これらのミッションでの探査機の航路プロットよりもまばらにしか測定されていない.これは,パイオニア10号と11号での観測はそれぞれ 63.0 AU と 35.6 AU までしか行われていないこと,ボイジャー1号の太陽風プラズマ観測装置は土星付近の ~ 9.74 AU で作動が止まってしまったことが原因である.

ボイジャー2号は,~ 83 AU にまで広がる外部太陽圏の最も豊富な観測を行っている.この位置で,ボイジャー2号は末端衝撃波面の前部を通過し,その後末端衝撃波面を ~ 84 AU の距離で通過した (Richardson & Stone 2009).

ニューホライズンズによる外部太陽圏観測

ニューホライズンズでは,過去の探査機の装置では直接観測できなかった重要な荷電粒子が検出可能である.keV 粒子分光計 SWAP や,MeV 粒子分光計 PEPSSI が搭載されており,ボイジャーでは測定できなかったエネルギーの範囲の粒子の,高精度な検出が可能である.

粒子測定のそれぞれの目的は以下の通りである.
1. 太陽風が星間物質との相互作用により,どの程度減速され加熱されるかを決定
2. 超熱的イオンと高エネルギー粒子のエネルギーの,太陽からの距離の依存性を測定
3. 外部太陽圏での太陽風の進化,Merged Interaction Regions (MIRs) の発達,超熱的イオンによる衝撃波の変形の探査
4. ピックアップイオン,高エネルギー粒子の超熱的テールの,外部太陽圏での衝撃波と MIRs への応答の特徴付け
5. 太陽風の周期性がどの様に進化するかの決定
6. 太陽圏のカイパーベルト領域での,太陽風,ピックアップイオンと超熱的テールの粒子圧力とエネルギーフラックスの測定
7. 外部太陽圏での宇宙線 (特に銀河宇宙線) の分布の測定
8. カイパーベルト領域を通じた電子の分布の決定
9. 太陽圏と相互作用する星間物質の中性水素原子のマッピングのための,カイパーベルト中の Ly α 分布の測定
10. カイパーベルト中のダスト分布の決定
11. カイパーベルトに広がったダストの起源が存在するかどううかの調査

ニューホライズンズによる太陽圏の研究についてその他の特筆すべき点は,広いエネルギー範囲に渡る粒子の分布の測定である.ボイジャー2号と同じ太陽圏の経度方向へ向かっているが,ニューホライズンズは黄道面方向に向かっているため,ボイジャー2号とは異なる領域を探査可能である.

遠方のカイパーベルト天体の観測

Distant KBOs (DKBOs,遠方のカイパーベルト天体) の探査も,ニューホライズンズ延長ミッションの目標の一つである.

ミッションの目標には,
(1) DKBOs の光度曲線を,地球からは得られない角度から観測し,転体の形状,自転周期,自転軸の方向を決定する
(2) 複数の位相角からの測光観測から,位相関数と測光特性・レゴリスの微細物理特性を決定する
(3) 地上からの補償光学系を用いた観測や,ハッブル宇宙望遠鏡・ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡からは得られない,衛星や接触連星の画像を取得する
(4) KBOs やケンタウルス天体まわりの,環やダスト物質の探査を行う
(5) アストロメトリ観測から天体の軌道要素の推定を改善し,2020 年代の超大型地上望遠鏡での成果と合わせた研究に向けた観測を行う
というものが挙げられている.

さらなる延長ミッションの計画

ニューホライズンズに搭載されている機器は,現在のところ正常に保たれている.
ニューホライズンズに搭載されている通信機器は,現在の Deep Space Network を用いて,地球からの距離が 200 AU を超えるところまで通信可能である.この距離には 2070 年ごろまでは到達しない.

電力は探査機の寿命を左右する重要な要素である.
ニューホライズンズはプルトニウムの原子力電池を搭載しており,プルトニウムの半減期による電力生成の減少率は 1 年あたり 3.3 W である.これを元にすると,電力供給によって決まる機器の限界は,2035 年頃かその数年後に訪れると予想される.これは探査機の位置で言うと 90 - 110 AU の距離に相当する.この限界距離は,探査機を運用する技術者が,探査機と搭載機器の最低電力モードをどう拡張できるかに依存している.

ボイジャー1号と2号は,それぞれ ~ 94 AU と 84 AU で末端衝撃波面を通過している.従ってニューホライズンズの現在の電力で末端衝撃波面には到達可能だろうと推測される

ニューホライズンズのさらなる延長ミッションの候補としては,例えば以下のものが挙げられている.

EM2 (2022-2024,50-60 AU):カイパーベルト・ケンタウルス・その他の対象の惑星科学.原始的な彗星核のフライバイ,また太陽圏のその場サーベイ観測の継続
EM3 (2025-2026,60-70 AU):1 年あたり 6 ヶ月の,地球から見えない位置の短期的現象のモニタリング,太陽圏のその場サーベイ観測の継続.
EM4 (2017-2035+,79-90+ AU):太陽圏の荷電粒子,ダストと中性ガスによる末端衝撃波面と,もしかしたら星間物質の観測

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