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論文関連の(ほぼ)個人用メモ。



arXiv:1806.09085
Kawauchi et al. (2018)
Lowest Earth's atmosphere layers probed during a lunar eclipse
(月食中に探査された地球大気の最下層)

概要

2011 年 12 月 10 日の月食の最中の,地球の透過スペクトルの詳細な研究を行った.スペクトルはすばる 8.2 m 望遠鏡の High Dispersion Spectrograph (HDS) を用いて,過去に例のない時間分解能及び波長分解能 (本影で露光時間 300 秒,波長分解能 160000) で取得した.

半影と本影のデータから,酸素分子と水蒸気分子の独立した吸収線を透過スペクトル中に検出し,また食が深くなるにつれて吸収も深くなることも見出した.このことは,食の時間の期間中月のある点をモニターしたため,月に到達する太陽光は地球大気のより低層を通過したことを示唆している.

観測と理論的なスペクトルの比較から,太陽光が実際に通過した大気の最も低い高度は,地上からおよそ 10 km と推定される.これはこの高度以下には太陽光を阻害する雲が存在することを示唆している.

この結果は,惑星大気による屈折の効果を含んだ透過光分光観測を介した,地球類似系外惑星の大気構造の将来的な調査のためのテストケースとなる.

研究背景

地球型の系外惑星の生物由来の大気組成,いわゆる “バイオマーカー” の探査が重要となってきている.地球は現在のところ生命が存在していることが分かっている唯一の惑星であり,地球の透過スペクトルを得るのは,居住可能な地球型系外惑星の将来的な観測への第一歩となる.

地球大気の透過スペクトルは,月食の最中に月面で反射された太陽光の観測から得る事ができる.これは,この時の太陽光は月に到達する前に地球の大気を通過しているからである.

地球類似惑星の透過スペクトルの解析では,大気中での光の屈折を正しく取り扱う必要がある.
ホットジュピターのように中心星の近くを公転する惑星の場合,惑星の大気全体を通過した恒星の光を観測することが出来る.しかし太陽を公転する地球の様な遠方の惑星の場合,大気での屈折の影響により,ある臨界の高度よりも上を透過した恒星光のみを観測することになる.そのため,たとえ惑星大気中に雲が存在していない場合でも,屈折した透過スペクトルは広い波長領域に渡ってほとんど平坦になる (Be ́tre ́mieux & Kaltenegger 2014).

惑星大気を通過する恒星光は,大気中での屈折によって,トランジットが始まる前から観測者に到達できる (Sidis & Sari 2010).その後,時間の経過に伴って恒星光は惑星大気の異なる層を通過することになる.そのため,惑星大気の鉛直構造をスキャンすることができる (Garc ́ıa Mun ̃oz et al. 2012).
現段階では地球類似の系外惑星にこの手法を適用することは出来ないが,将来的な地上と宇宙望遠鏡では可能になると考えられる (Misra et al. 2014).

月食を利用した地球大気の透過スペクトル観測

過去の観測例

Palle et al. (2009) の観測
月食の最中の,月面の反射光を利用した地球大気の透過スペクトル観測は,Palle et al. (2009) によって行われた.この観測では,可視光から近赤外までの波長域 (3600 - 24000 Å) で,低分散分光観測を行っている.

この観測では地球大気の成分を定性的に同定することが出来たが,低スペクトル分解能 (R ~ 920 - 960) での観測であったため,吸収物質を詳細に同定することはできなかった.
Vidal-Madjar et al. (2010) の観測
Vidal-Madjar et al. (2010) は,同じ 2008 年の月食を SOPHIE の高分散分光 (~ 75000) で観測した.その結果,オゾンによる広帯域の特徴と,レイリー散乱の特徴,また Na I と酸素分子の狭帯域の特徴を高分解能で検出した.しかし水の狭帯域の特徴は検出されなかった.
Arnold et al. (2014) の観測
その後 2010 年に Arnold et al. (2014) によって,8.2 m Very Large Telescope の UVES (R ~ 120000) と,3.6 m La Silla 望遠鏡の HARPS (R ~ 115000) を用いた,高分散広帯域観測が実施され,広帯域の水と酸素分子の吸収線を検出している.

最近の観測例

2011 年 12 月 10 日の月食は,2 つのグループが独立して観測を報告している.

一つのグループは Ugolnikov et al. (2013) で,ロシアの Kourovka Astronomical Observatory 1.2 m 望遠鏡で,分解能 R ~ 30000 の 4100 - 7800 Å での観測を行っている.この観測では,酸素分子,オゾン分子,酸素分子同士の衝突誘起吸収 (collision induced absorption, CIA),NO2,水のスペクトルの特徴を検出している.

もう一つのグループは Yan et al. (2015) であり,中国の Xinglong Station の 2.16 m 望遠鏡で R ~ 45000 の分解能で,4300 - 10000 Å の波長域を観測している.この観測では,レイリー散乱,酸素分子,オゾン分子,酸素分子同士の CIA,NO2,水が検出されている.また,オゾン,水,NO2 の柱密度を計算している.さらに,異なる酸素同位体を初めて明確に検出している.

さらに最近では,2014 年 4 月15 日の月食が HARPS を用いて観測されている (Yan et al. 2015).この観測の波長分解能は R ~ 115000 である.この観測では,系外惑星大気の特徴付けに Rossiter-McLaughlin 効果 (ロシター・マクローリン効果) が有用であることが実証されている.


ここでは,2011 年 12 月 10 日の月食の,すばる望遠鏡での観測について報告する.分解能は R ~ 160000 で過去の観測よりも高く,シグナルノイズ比も良い観測である.

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